御相伴衆~Escorts 第二章 第119話 青天の霹靂4~「月城歌劇団①」
慈朗が回復し、皇宮へ戻ってから間もなく、皇宮には、東国から、ゲストが迎えられた。素国の高官たちに対する、一つの余興として、東国の旅回りの劇団を呼んでいたのだ。
この件に関しては、珍しく、皇后が、強く意志を示して、希望を出した。
シギノ派の狙いとしては、スメラギ政府として、東国の者を、正式に招聘するのは、国際社会へのアピールということでもあった。
東国との国交を進めるということではないが、要は、まだ、素国への機嫌取りに過ぎなかったのだが・・・。皇宮に隣接する、貴賓館の中に、小さなホールがある。そこを利用しての公演となった。
東国の劇団「月城歌劇団(ルナキャッスル)」は、月城紫京を座長とする、規模の大きな旅一座であった。丁寧な、ほぼネイティブと思われる、スメラギ語で、月城は挨拶をした。題目は、以前、ランサムでも公演した、「国産物語第一章」だった。
これは、第三皇女 女美架が、ランサムに行った時、アーギュ王子と一緒に観た、演目であった。全て、スメラギ語で、演じられている。(ちなみに、その時のランサム公演は、ランサム語で演じられていた)
「数馬、嬉しいでしょう?」
「あ、ああ、スメラギで、東国の他の劇団の芝居を観られると思わなかったから・・・」
皇后と耀皇子は、貴賓席で、そのすぐ、傍に控えながら、数馬と慈朗は、その後ろで、共に、芝居を観劇した。久しぶりに、心が躍り、それぞれが、楽しい時間を過ごすことができた。
「お母様が、とても、お喜びで良かった」
耀皇子が、数馬と慈朗に言った。
確かに、皇后の、こんなに愉しそうな姿を、初めて見た。
「数馬も、あのぐらいの舞台、すぐに、立てそうなのではないですか?」
「それには、まだ、研鑽が必要です」
皇后にお声掛けをされ、数馬も嬉しく思った。
アプローチは、現代風なのだろう。確かに、数馬の芸は、古式から伝わる、大道芸を中心にした演目だが、同様に、舞台の生の芝居だ。とても、触発されて、数馬は、心が躍った。
・・・あああ、でも、この後、俺、この人達に、観て貰うのが、あれだなんて・・・。
数馬は、例の演目をしなければならないことに、気が重かった。
皇后が、強く望んだことにより、劇団の演者たちの謁見が、翌日に、設定されていた。その為、皇后と耀皇子は、早めに、その場を退席した。これは、当然、当局側にも、都合が良かった。何せ、これから、定例の、素国高官への接待ということになるからだ。
体調の戻った慈朗は、スーツでお酌して回らせて貰いたい、と申し出た。
人手のこともあり、それは快諾され、慈朗は、数馬に伴って、劇団の人達の接待を許された。
「はあ、緊張する・・・まあ、演目がこれだから、観て貰えなくてもね。じゃあ、行くから、席の方、よろしく、慈朗」
「うん、任せて」
慈朗は、にこやかに、演者たちに、水割りなどを、振る舞い始めた。すると、間もなく、志芸乃が、月城の隣のテーブル席にやってきて、掛けた。
月城は、この一連の動きを、静観していた。
「本日は、このような席まで頂き、ありがとうございます」
「素晴らしいお芝居でした。スメラギには、このような、演劇などの文化に乏しく、皇宮の者が、皆、珍しく、愉しく、拝見することができました。ご苦労様でございました」
「いえ、おや、何やら、鳴りものが・・・」
「お恥ずかしいですが、こちらのお抱え芸人がおります。東国の少年ですが、お目汚しにしかならないと思いますが・・・」
「ほお、そうですか。東国の・・・?・・・では、拝見させて頂きます」
慈朗は、何気なく、この会話を聞いていた。
拍手と共に、数馬が、小さなステージに現れた。
数馬は、結い髪に華をあしらい、綺麗に化粧じて、女舞を披露した。
既に、素国の高官たちには、人気があったので、舞台に登場するや否や、声援や、指笛が鳴った。
劇団の一行は、ステージから、少し離れた場所に、座らされていた。
一番のお客は、当然、素国の高官たちだったからだ。
扇を投げ、舞いながら、受け止める。
女舞とは言え、大道芸のアクロバティックな技は、そこかしこに取り入れられており、その緩急で、観る者を惹きつける。
合い間にみせる視線には、艶やかな媚態が付加される。
後半になると、纏っていた衣装の片袖を脱ぐ。
一人舞なのに、相手がいるかのように、視線を固定し、空を見つめる。
扇と、衣装を使い、さも、恋しい相手がいるかのように・・・。
クライマックスで、ライティングと音楽が留まった瞬間、恍惚の表情で、媚態の極まりを表現した。声援と拍手が轟く。
(後に、慈朗が数馬に訪ねると、第二皇妃をテーマにしたという。これは、当局側には、言えないことだったが・・・)
慈朗も、本格的な数馬の演目を初めて見た。これは、皆に見せてあげたかった。皇妃様、桐藤、柚葉とも見たかったな。数馬は、ひょっとしたら、嫌がるかもしれないけど、三人の姫にも勿論・・・。慈朗は、そう思っていた。
「綺麗な子ね、上手いし」
「すごい、上手い、色気ありすぎだな」
「そういう要求だろ?恐らく、ここでは・・・」
劇団員の声に、月城が、咳払いをしつつも、呟く。
「よく仕込まれた、お人形さんだ」
「は?」
隣にいた、志芸乃が聞き直した。東国語だから、何を言っているのか、解らなかったようだ。
「いえ、随分、達者な少年が、こんな」
「皆様の実力には及びません。ほんの座興で」
「彼を、ここへ、呼べますか?」
「解りました。・・・後程、私室の方へ、お呼び致しましょうか?」
「あ、成程、そういうことも、可能なんですね?」
「左様ですが、気に入って頂ければ、その後は、ご随意に」
「じゃあ、お願いします」
慈朗は、これを、聞き逃さなかった。
・・・あああ、東国の劇団の人もそうなんだ、大人って・・・。
でも、素国の人より、話もしやすいかもしれないし・・・月城の独特の役者のオーラは、慈朗の知っている人間の中では、紫統に似ているような気がした。この人も、そっちなのかな・・・?
「あの、スメラギのバーボンです。いかがですか?」
どんな人かな?・・・良い人だといいな。慈朗は、月城に、グラスを差し出した。
「ありがとう」
「可愛らしいお給仕さんね。お芝居の経験はないの?」
・・・わ、綺麗な女の人だ。
この劇団で、主演女優を張る、艶肌という女優が、慈朗に声をかけた。すかさず、志芸乃が、彼女の側に行き、後ろから、耳打ちするように、声を掛けた。
「ちょっと、なんか、斡旋でしょ。これ。未成年よ、この子、あ、結構ですわ。私、婚約者がいますから」
「それは、失礼致しました」
その後、志芸乃が、慈朗の側に来て、耳元で囁いた。
「残念だったな」
あ、そういうこと?
でも、僕、できないから、誘われても、ガッカリさせちゃう。
すごい、綺麗な人だな。東国にも、ああいう人がいるんだ。
女優さんだから、そうなんだね。
「そのままでいい、着替えずに・・・」
給仕係に、数馬が連れられてやってきた。劇団のメンバーに歓迎されて、拍手で迎えられた。
「すごかったねえ。相当、練習したんじゃないの?」
「これだけできれば、他にも何か、できるでしょう?歌とか」
「ああ、ありがとうございます・・・」
数馬、嬉しそう。そうだよね、出身国の人と会うの、どれぐらいぶりだろう?わあ、東国語で喋るのも、初めて見た。
慈朗は、微笑ましく、数馬の歓待されている様子を見た。
「所詮、同族の見世物集団だな。黒目集団め」
「あの綺麗な女の子は指名できないのか?」
「ゲストだから、ダメらしい・・・おくびにも出すな。皇后の側近が、監視してるらしいぞ、今夜は」
「へえ、そんなお役がいたとはね・・・」
下世話なんだよ。恥ずかしいんだけど。
素国も、スメラギも、なんか、ダメな感じがする。
慈朗は、心から、そう思った。
🏹🎨
貴賓館での接待が終わり、数馬と慈朗は、私室に戻ってきた。
「はあ、緊張したあ」
「やり切った感があったよ、数馬、すごい、良かった。カッコ良かった!!」
「さあねえ・・・まあ、なんとか、やれた感じかな・・・」
慈朗は、大舞台を果たした数馬を労った。
そして、酒席での、志芸乃と月城のやり取りを思い出した。
「あ、聞いたと思うけど、あの、座長の月城っていう人に・・・」
「あ、解ってる。まあ、いいや。少し、東国の話とか聞けたらいいから、まあ、甘えてみるよ」
「・・・そんなこと、言うようになっちゃったんだ、数馬が」
「え?別に、口に出さないだけで、皆、そうだったろう?」
「そうかあ、でも、素国の高官より、いい気がする、・・・って、ごめん」
「いや、俺もマジ、そう、思ってるけどね。あの人と話がしたいのは、事実だから。若い時に、東国のテレビドラマに、バンバン、出てた人なんだ」
「へえ・・・」
「すげえ、人気があった。カッコ好かった。うーん、柚葉の手の感じとか、と似てたよ」
「へえ・・・♡」
「慈朗・・・一緒に行く?」
「だ、ダメだよ、もし行っても、できないから」
「あはは、嘘だよ」
「話ができるといいね」
「うん、行ってくる」
そして、数馬は、月城の宿泊している部屋を訪ねた。
「あの、先程の数馬と申します」
「あ、どうぞ」
「失礼します。あれ?髪の毛が・・・」
「ああ、あれ、鬘ね。芝居の時、あれで、普段はこれ」
ロングヘアを、昔の東国の武士の様に、後ろに一纏めにしているのは、月城のトレードマークだった。昔のテレビドラマでの時代劇のスタイルで、東国人なら、一目見て、月城だと解る姿だ。
それを解いた、今流のヘアスタイルの姿は、まさに、月城のオフの、楽屋での普段の姿なのだと、数馬は、それすらも、尊敬の眼差しで、見つめてしまった。
「今の感じも、昔のドラマの時・・・みたいですね」
「ああ、若いのに、見たことあるの?」
「えっと、子どもの頃に、再放送だったのかな?」
「あはは、ハッキリ言うな、今日は、お疲れ様でした。まあ、座って。君は、お酒は?」
「飲みません。・・・っていうか、この後もあるし」
「え?まだ、どこかに、呼ばれてるの?」
「あ、いえ、あ、すみません」
「何、赤くなってるの?可愛いね」
あ、やっぱり、そうなるのか・・・だよね。じゃなかったら、俺なんか、呼ばないよ。
「えっと、数馬君だっけ、苗字は?いくつ?」
「あ、菰です。菰 数馬です。18になりました」
「諸島部の出身だよね?」
「あ、そう、そうなんです」
「そっちの苗字だからね。・・・なんで、スメラギにいるの?東国人は、入国できなかったよね。ずっと」
「あ、それは・・・」
月城は、数馬が口籠るのを見て、察して、続けた。
「・・・言えないかな?・・・成程ね、オッケー、じゃ、聞かない、今は」
「今は?」
「うん。違うこと、聞いてもいい?あ、ちょっと、これ、スメラギのバーボン、美味いね」
「あ、お作りします」
「上手いねえ、慣れてるねえ・・・で、ここに、何年いるの?」
「・・・三年になります」
「ふーん、というか、大変だったろう?クーデターとかもあったしね」
「はい・・・」
「うん、これもいいや。喋りにくそうだから。今日の感想、言ってもいい?」
「あ、はい、是非、お願いします」
「よくできたお人形さんだね」
「あ、・・・はい・・・」
ああ、やっぱり、そんなもんなんだろうな、俺の芸なんて・・・。ベテランのこの方から見たら、きっと・・・。ちょっと、期待しちゃったんだけどさ・・・。
「操り人形みたいに、俺には見えたな。懸命に、操り側の要求に、精一杯、応えてる。応えられる、というのは、それなりの実力があるから、できることだ。だがな、残念ながら、君の実力は、このままだと頭打ちになる」
「あ、・・・ありがとうございます。評価を頂けただけで、幸せです」
頭打ち・・・。そりゃそうかもしれない。やらせて貰えるものが、今日のレベルから、更に、露出の上がったやつになるぐらいだから、・・・そういう、見世物の領域を超えないんだよな・・・。
「あの演目は、元々あるものを、教えて貰ったの?」
「あ、はい、親爺と兄者から、型を教わったものに、俺なりにアレンジを加えました」
「独特だね。魅力的だと思った。古式の舞から来てると見たが」
「そうです。一応、代々相伝されてきた要素があるようです」
「で、彼女は、君の思い人なの?」
「え?」
「君の演じた女性は、現実にいた女性に見えたんだけど」
「あ、はい、モデルはいますが、それも・・・」
「言えないんだね」
「・・・はい」
「盗聴器でもあるの?」
「・・・あ、」
「それも、言えないんだね。よし、わかった、そういう国ね。聞きしに勝る」
月城先生、とお呼びしたい・・・。
数馬がそう思った瞬間、月城は、腕組みをして、立ち上がった。
「端的に言う。ここを出て、俺たちの劇団で演らないか?」
「え?」
「まあ、言われて、すぐに、返事もできないだろうし、この国では・・・、君の立場を慮ると・・・ああ、言わなくてもいい・・・ふん、君を買い上げる。このスメラギから」
「えーっ?そんな、急に、・・・」
「まあ、そうだよな。でも、このまま、この国で、こんな、ストリップ紛いのことをしていたら、せっかくの君の実力が、埋もれてしまう。まだ、若いのだし。東国に戻りたくはないか?」
ストリップ紛い・・・そうだよね。
誰も言わないだけで、そうなんだよ。
あれは、寝所での巫女舞なんだから。
古式の舞って、そういうことだから。
プロだもんね、ご存知だよね、やっぱり。
「うちの劇団は、今回、約一週間、滞在をさせて貰うことになっている。明日には、皇后陛下と皇子にも、謁見の予定がある。その時にも、お話をさせて頂くが」
「あ、それは、ちょっと、待ってください」
「ダイレクトすぎるか?」
「えっと・・・窓口があると思うので・・・」
「でも、皇后陛下の一声で、オッケーにならないのか?」
「・・・」
「成程・・・複雑な国のようだな、ここは・・・」
数馬は、深々と頭を下げた。
「なんか、すみません・・・」
「わかった。オッケー。なので、よく考えておくように。ああ、あと、滞在中に、もう一公演打つ予定だ。客演を依頼したい」
「え・・・えー?! 俺で、いいんですか?」
数馬は、月城の意外な申し出に、驚いた。
「まだ、何をして貰うかは、わからないが、・・・フライングをしたことはあるか?」
「あ、テレビで見たことはあります」
「君程の身体能力がないと、空中での芝居は難しいと思う。できる者が、まだ、少ないので、もし、できるなら、お願いしたいのだが、これは、許可がいるのか?」
チャンスだ。こんな話、ここに居たら、絶対に得られないはず・・・!!
「はい、僕から、聞いてみます。なので、是非、演らせてください。上を頷かせるので」
「・・・わかった。オッケー。いいね、数馬、うちにいなかったタイプだ。是非、来て貰いたい。あと、明日の謁見の後でも、他の大道芸とか、見せて貰う事は、できるか?」
「あ、はい、それも、許可とりますので」
必死に、賢明に答える数馬に、月城は、穏やかに微笑んだ。
「よしよし、東国人そのもの、というか、昔気質の東国人だね、君は。外国で、こんなネイティブ東国人に出会うとは、思わなかったな。面白いね、本当に興味深い。今の東国の若者とは、一線を画してるな・・・」「あ、ありがとうございます・・・えっと、あの、」
「何?ああ、お酒、君も一杯、付き合えば?ここは東国じゃないから、嗜んでるだろ?」
「ああ、はい、是非」
「俺が作ろうか、薄目にしとくか?」
「あ、はい、でも、後に、差し支えると、困るので・・・」
「後、後って、何?さっきから・・・」
「え、だって、部屋に、呼ばれましたんで、その・・・」
「あ、ああ、何?・・・あははは・・・」
月城先生、大爆笑なんだけど、どうしちゃったのかな?
数馬は、月城の大きく笑う姿に、頼もしさと、何か、温かさを感じた。
「俺だったら、女の子の方が好い、に、決まってるじゃん。数馬を呼んだのは、他ならぬ、引き抜きの話の為だから、参ったな。本気?」
「あ・・・はい、すみません」
東国の常識的な発言を聞いた。これが、普通の環境の筈なんだ・・・。
「その心算で来たんだ?大層な覚悟なもんだな」
「はい、すみません」
「やっぱり、ここを出よう。・・・要するに、君、そういう、ポジションなんだね。さっきのお酌の子も、ヤケに色っぽくて、居るだけで、煽られてるみたいでね。昔だったらとにかく、今の東国にはないね、これは」
「・・・はあ」
お酌の子って、慈朗のことだ、きっと・・・。
「拍子抜けしたみたいだね?それとも、芝居の練習兼ねて、やってみる?フェイクになるが・・・」
「えー、やっぱ、そうなんですか?」
「いやいや、だから、どっちなの?俺が、お前に、聞いてるんだよ」
「あ、違います。いつもは呼ばれれば、当たり前だけど、今夜は、違います」
「いいねえ、その台詞・・・ふふふ。数馬、お前、面白い。うちの座付き脚本家が多分、当て書きしたくなるタイプだな。『今夜は』って、言ったのがいいね。『今は』じゃなくて・・・あははは」
「はい・・・」
月城と会話をするほど、数馬は、ますます、温かさに包まれる感じがした。
「まあ、落ち着いて、飲みなよ」
「はい、いただきます」
🏹
俺は、先生から、グラスを受け取ると、つい、一気に煽ってしまった。喉がカラカラだった。
月城先生、凄い、器の有る、大きい人だ。度量があるというか。
この人の下で、芝居ができたら、どんなに、楽しいだろうか?
芝居の後に、夜伽なんてないんだ。
お客が正当な金を払って、観てくれる芝居なのだから。
「まあ、そういうことだな。数馬。もう、こんなことしなくていいんだ。お前なら、その芝居の実力そのもので、人を惹くことができる。それで、正統な収入も得ることができる。こんな所で、埋もれたまま、戦争でも起きたら、取り返しがつかない。とにかく、一緒に、ここを出よう」
ここを出る・・・?そんなこと、できるのかな?
皆と、流れつく前と同じように・・・?
数馬の頭の中には、旅の一座の仲間の顔が浮かんできた。
「・・・俺、親がいなくて」
「ああ、それで、旅芸人の仲間と、ってことか?」
「まあ、そんな感じです。だから、帰るなんてこと、考えたことなかった。東国に、って言われても、帰るとこがないんで」
「じゃあ、この月城歌劇団が、お前の新しい所属だ。家族みたいなもんだ」
「・・・」
「どうだ?」
「はい、・・・そうできたら、嬉しいです」
「・・・何?お前、泣いてんのか?」
あ、ヤバい。そんな心算ないのに・・・、
月城の言葉に、数馬の目は、たちまち、潤んで来てしまった。
「あ、すみません。大丈夫です・・・でも、今、事情があって、俺がここを出たら、困る人がいて」
「・・・」
「護らなきゃいけない人がいて」
「・・・おい、カッコいいな、それ」
「あ、あの、冗談で言ってないですよ・・・」
「わかった。明日、外で会おう。大道芸を見せて貰いながら、話を聞く。その時は、ある程度、話せることは、明らかにしてくれ。午後なら、大丈夫だ。いつも、外でするのだろう?どこで、芸事の練習をしている?」
「あの、中庭で・・・」
月城は、大きく頷いた。
「わかった。明日、午前中に、皇后様の謁見がある。終わり次第、行くので、練習しとけ。ああ、できるだけ、色んなの、見せろ。わかったか?準備しといてくれよ、楽しみにしてるから」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」
「はい、お疲れさん」
「・・・」
「いいんだよ。帰って。やっぱ、そういうことないと、物足りないの?」
「あ、なんか、変な感じで・・・」
「朝まで、話しててもいいけど、俺もいい年なんで、そろそろ、横になる。明日は、謁見だからね。明日会おう、数馬、・・・送ってこうか?」
「あ、いえ、いえ、すみません。ありがとうございました。失礼します」
「はい、お休み、また、明日な、気を付けて」
「おやすみなさいませ」
数馬は、頭を下げて、ドアを閉めた。
・・・そうなんだ。東国の世間一般の、普通の大人はこうなんだ。
東国っぽかった。懐かしかった。
良識ある、優しい大人は、未成年の子どもに優しいんだ。
食い物なんかにしないんだ。忘れてたよ。こういうの。
以前に、柚葉が、素国に来ないか、と言った意味が、解ったような気がする。
俺も、今、慈朗と耀皇子を、東国に誘いたくなった。
皆、優しいんだぞ。基本。
でも、耀皇子は、無理だよな。国を治める立場だから。
・・・どうしたら、いいんだろう?
青天の霹靂5~月城歌劇団②へ続く
御相伴衆~Escorts 第二章 第119話 青天の霹靂4~「月城歌劇団①」
お読み頂きまして、ありがとうございます。
降って湧いたような、数馬にとっては、良い話が出てきました。
シギノ派の支配となった皇宮は、数馬や慈朗、そして、皇太子の耀にとっても、生きていくには、今後も、かなり、厳しい場所になりそうです。
数馬の性格ですから、皆を置いていくなんて、とてもできない。
数馬の中に、役者としての情熱と野望が溢れてきました。
さて、次回はどうなるのか?お楽しみになさってくださいね。
更に、創作の幅を広げていく為に、ご支援いただけましたら、嬉しいです😊✨ 頂いたお金は、スキルアップの勉強の為に使わせて頂きます。 よろしくお願い致します😊✨