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御相伴衆~Escorts 第二章 第127話 北からの救出2 I'll come and get you ~三枚の絵

「大丈夫?女美架メミカ、身体を冷やしたら、だめだからね」
「うん・・・」

 女美架は、妊娠していた。ランサムを離れて、三か月後に、女美架は、その事に気づいた。アーギュの子を宿していたのだ。お腹の子は、五カ月に入ろうとしていた。

 赤ちゃんがお腹に・・・、嬉しい。
 でも、女美架は、本当に、こんな時に、お母様になれるのかな・・・?

 一番上の姉姫の柳羅リュウラが亡くなったばかりで、女美架は精神的にも、不安定になっていた。
 二番目の姉の美加璃と、傍付きのアカツキは心配する。

「姫様・・・」

 ・・・『奥許し』の日に、大好きな蜜餅を召し上がって、「次は、赤ちゃんができた時ね」と仰ってましたのに・・・材料もありませんから、お作りして差し上げられずに・・・。でも、せめて・・・そうだ、あれを・・・。

 暁は、女美架に、大切なものの入った箱を渡す。
 女美架は、箱の蓋を開けた。

「あ、これは・・・!」
「そうですよ。ランサム行きの日、数馬様と、慈朗シロウ様から、渡されたものです」
「・・・懐かしい・・・お父様、お母様、一のお姉様・・・」

 美加璃は、その写真に見入りながら、女美架を抱き締めた。

 それは、父の不羅仁フラジン皇帝と、母の第二皇妃、そして、先立って亡くなった、姉の一の姫柳羅が、ここに遺された、美加璃と、女美架と共に映っている、家族写真だった。

 一度、ここに来た時、暁が飾ろうと思ったが、恐らく、阿目玖アメクに見つかったら、取り上げられるに違いないと思い、大切にしまっておいたものだ。

 もう一枚は、お庭遊びをした時のもの、女美架が、御相伴衆の四人と、亡き姉姫の柳羅、暁とルナと、一緒に撮ったものもあった。当時、慈朗が、皇宮に来てから、祖父のカメラで撮った、唯一の写真だった。

「いい写真だね。私、いなくて、残念だったわ」
「皆・・・、バラバラになっちゃったね・・・」
「女美架様・・・慈朗様の、これ・・・」
「あ、・・・」

「あー、これ、なんか、もしもね、寂しくなった時に開けて」
「・・・何の絵?」
「書きかけのやつ、昨日、完成したんだ」
「・・・まあ、そういうことだから、何があっても、泣いたらダメだからな」

「見て、いいのかな?・・・暁」
「ええ」

 暁は、今がその時だと思った。
 護ってくれる後ろ盾も失い、この極寒の地、姉姫も亡くなり、心許ない、その最中に、女美架は、アーギュ王子の落胤を宿している。
 不安と緊張でいっぱいになった、三の姫を、少しでも癒し、励ませるかもしれない・・・と。

 しっかりして頂かなくてはなりません。姫様。今も、お辛い時ですが、半年後には、お世継ぎを産み、そして、育てていかなければなりませんから。

 暁は、慈朗が描いた絵の筒を、女美架に渡した。
 絵の描かれた紙は、三枚、重ねられていた。

「あ・・・数馬・・・」

 一番上の絵は、数馬が女美架を、後ろから抱いた姿の水彩画だった。写真のように再現された絵は、当時の二人を思う、慈朗の気持ちの込められたものだった。

 きっと、これは、女美架が、数馬と・・・、その時の絵だ。
 ・・・数馬と慈朗は、無事なのかな?
 消息については、全然、解らないのだけれども・・・。

「あー、お絵かき君の作かあ。数馬、動き出しそう。良い笑顔だね」
「女美架姫様も、お幸せそうなお顔ですよ」
「あの頃は、こんなことになるとは知らなかった。皆と、お喋りしたり、とても、愉しかったものね・・・」
「次、見たいなあ・・・ああ、やったわ、写真の上を行ってるじゃない?だって、私もいるもん」

 次の絵は、それこそ、写真と同様な、御庭遊びの時のイメージの絵だった。

 柚葉と二の姫、そして、数馬が、風船遊びに興じている。
 桐藤と一の姫は、ベンチに腰掛けている所に、手作りのクッキーを勧める女美架。
 お茶を用意する暁に月。
 慈朗は、どこにいるのだろうか?
 鉛筆を持った手が、手前に描かれている。
 この絵を描いている風で、アッシュブロンドの髪と、スカーフが見切れている、という構図だった。

「これ、慈朗が見て、描いてる絵、を描いてるって、感じなんだ。すごーい、やっぱ、慈朗は、お絵描き君だわ。こんなの、思いつかないよね」
「ちょっと、残念、慈朗のお顔が見えなくて」
「でも、お写真がありますから」
「なんとなく、慈朗らしいかも・・・いつも、皆を優先にする、優しい子だから」
「そうですね」

 三人は、その絵を見て、気持ちが互いに、ほのいでくるのを感じた。

「もう一枚あるね・・・何かな?・・・あっ・・・」
「綺麗、すごーい、女美架、素敵じゃない・・・」

 女美架は、思わず、泣き出した。
 暁の瞳にも、たちまち、涙が溢れてきた。

 慈朗の描いた、最後の一枚は、アーギュ王子と女美架の絵だった。

「これね、アーギュ王子の姿は、ランサム王室の正装なの。まあ、リアルだわ。慈朗、良く調べたわね。女美架のは、慈朗デザインね。素敵なウェディングドレス・・・」

 二人の結婚式を描いた絵だった。背の高さも見たまま、美加璃の言う通り、表情も幸せそうな、二人の様子が、本当の出来事のように、描かれていた。

「本当に、見てきたように描くのね」
「素晴らしい作品です。女美架姫様、これを、これから生まれてくる、お子様にお見せしなくてはなりませんよ」
「・・・はい。頑張らないと。・・・でも、とても、不安で、女美架はお母様になれるか、解らないけど・・・」
「慈朗、すごいね。アーギュ王子の写真は、ここにはないけど、生まれてきた子に、これを見せれば、お父様だとわかるから」

 女美架は、ハッとして、涙を拭い、暁に尋ねた。

「暁、・・・このこと、知っていたの?」
「いいえ、女美架様に、お元気になって頂かないと、と思って。今が、数馬様と、慈朗様の仰ったタイミングなのかも、と、思ったものですから」
「さすが、暁だわ・・・そうよ。これを、現実にしなきゃ、女美架」

 美加璃は、女美架に、励ますように微笑んだ。
 女美架は、頷いた。

「うん・・・きっと、王子はお迎えに来てくださる。その時までに、赤ちゃんを無事に産んで、育てるのが、私のお役目なのね」
「そうですよ。女美架姫様」
「頑張ろう、女美架」
「はい・・・本当に、慈朗、ありがとう。一緒に準備してくれた、数馬も・・・どうか、二人も、無事でいますように・・・」


北の救出3~クォーレ へつづく


 御相伴衆~Escorts 第二章 第127話 
          北からの救出2 I'll come and get you ~三枚の絵

 お読み頂きまして、ありがとうございます。

 お話を考えている時、あるいは、書き進めている時に、キーになるのが、「アイテム」です。お話の展開に詰まった時に、それがあることで、丸っと解決、スーッとお話を進めてくれるものだったりします。

 このお話の大切なアイテム、「三枚の絵」が今回の件、複線の回収・・・となりました。
 後半では、もう一つ、大切なアイテムが登場します。
 物は、人を、物事の流れを、紡いでいくものなんですね。

 この三枚の絵は、第一章の第100話で、ランサムに旅立つ女美架に、慈朗が渡しています。

 慈朗は、今の現状から、過去の復元や、そのもののあるべき姿を、その想像力で、絵として描きます。幼い頃、食べてしまったリンゴの芯から、元のリンゴを描き、いつも怒ってばかりの継母の笑顔を描きました。

 こうあってほしい、という幸せを願う絵を描きます。
 素白皇后の喜びに満ちた笑顔も、見るまでもない、会って間もなくに描き、耀皇子が喜びました。

 今回のこの絵が、次回、思わぬ未来の手助けをします。
 慈朗の絵は、このお話の中では、ある意味、人の心を動かす、ミラクルアイテムに当たると思います。

 是非、次回のお話も、お楽しみになさってください。

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