萩くんのお仕事 第一話
みとぎやの小説・ひとまず投稿⑩
・・・実は、ドラマの脚本が決まっている。劇団の方は、なんとか、メンバーに任せて、公演を回していたが、その他のこともあり、その仕事がずれ込んでいた。もう、手がいっぱいだぁ・・・。
諸島部から、故郷の中央部に戻ってきていた萩。拠点はいくつかある。はっきり言うと、その実、いざという時、テレビ局や、その他、関係者から、逃げる為にそうしている。
自転車で、食糧を買い出しに、コンビニに行こうとしたまでは良かったが、睡眠不足で、アパートの大家の家の門扉にぶつかり、倒れてしまった。
「あ、どうしたんですか?ちょっと、大変、救急車・・・」
「あ、ああ、大丈夫です・・・。あの、少し、休ませて貰えれば、ありがたいんですが・・・」
表札は「卯月」・・・、ここで、周りが真っ白になってきた・・・
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えっと、ここは・・・、あああ、そうだった。コンビニに行こうとして、自転車に跨ったとこまでは、覚えてるんだけど・・・
「はい、どうぞ」
ペットボトルの、冷えた水が、傍のテーブルに置かれたのが見えた。
そうだった。あの後、ここの奥さんに、肩、貸してもらって・・・
ああ、それにしても、いいなあぁ、こんな感じ、超久々だぁ・・・
胃に沁みる、万民受けな、この匂い・・・家庭の、いい感じの、懐かしいヤツ。
「あああ、カレーですか?いい匂いですね・・・」
「ひょっとして、ご飯も、食べてないんですか?」
「ああ、飲まず食わずで、数日間、引っ越ししながら、作品の案を練ってたんで、・・・買い出しに出たのはいいんですけど、・・・すみません」
身体を起こして、まずは、そのペットボトルの蓋を開け、水を飲み干した。
「はあ・・・水だぁ・・・」
こんなに、水って、上手かったっけ?
「・・・まずは、生き返りました。ああ、ありがとうございます」
「まあ、・・・じゃあ、いいですか。カレー山盛り、いきますよ」
「いいんですか・・・、い、いただきます、」
ガツガツと、カレーを掻きこむ萩。
ああっ、美味い・・・、旨い・・・、家カレーは神だ。
今回、こんなに飢えるなんて・・・、これまでの人生で、一番、がっついた食事じゃねえかな・・・。
そうそう、どちらかというと、世間的には、スタイリッシュで決めてる、萩さんだからね。なんて、まあ・・・自分で言って、どうなのか・・・って感じだけど・・・。
なのに、月城先生も、数馬もいなくなりやがって、俺が、こんなになって、飲まず食わずで、全部やらなきゃならなくなったじゃないか・・・、
あああ、スマホが鳴ってる・・・
「鳴ってますよ、大丈夫ですか?」
「ああ、いいんです。今、無理。もう、案を送ったから、それで許してほしいんだけど・・・」
「大変ですね。お代わり、どうぞ。ああ、遅くなって、これ、福神漬けと、ラッキョウね。卵、入れますか?」
「え、美味いんですか?卵って?」
卵、入れるんだ。・・・習慣が違うってやつか。美味そうだな。
あ、スマホ、切れた。よしよし。
「人に拠りますよ。生でも、茹でたのでも」
二杯目だし、トッピングしようかな、お勧めしてもらってるし、
「じゃあ、茹でたのください、・・あ、二個・・・」
「ありますよ、大丈夫、落ち着いて、召し上がって・・・」
親切な人だ。涙が出そうだ。なんて、ありがたいんだ。
そして、俺、初対面で、なんて、ずうずうしいんだ。すみません。
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「ただいまー、ねえ、お母さん、自転車あるよー、これ高いやつ、ランサム製だね。お客さん?あれー、大きな靴―、業者さん?」
カレーにパクついている大男が、リビングにいる。
「あ、ああ、・・・お母さん、この人、なんで?」
「あ、どうも、お邪魔してます」
萩は帰宅した、高校生の娘に会釈する。
「・・・?!・・・ん?芸能人?・・・なんか、知ってる。この声。歌手の人?」
「・・あら、そうなの?」
「ん、いや、ああ、えっとぉ・・・、頂いたら、帰りますから、これ以上、ご迷惑おかけしませんので・・・」
「あー・・・ねえ、もう一回、喋って、ねえ、声出して・・・」
「ん・・・んー、ご馳走様でした」
「すごい、生活感のある台詞、初めて聞いた・・・」
「なんなの?失礼じゃないの?芽実ちゃん。・・・ああ、まだ、ありますけど、いいですか?」
萩は、大きな両手を顔の前に合わせて、頭を下げる仕草で、挨拶した。声は出さない。
「んー、昨日、こっちに帰って来てる的なこと、言ってた・・・顔出しだあ・・・ヤバいっ」
「何?芽実ちゃん、やめて頂戴。失礼じゃないの」
「頼む・・・スマホは、やめてくれないかな・・・」
つい、萩は立ち上がった。
「あああ、あああ、萩さんだよね?昨日、聞いてたもん、ネットラジオ。声、一緒、喋って、喋って、やあん、顔出し、・・・わわわ、イケメンだあ、やっぱり、噂通り、ちょっと、背高いし・・・わあ、どうしよ、どうしよ・・・」
「ごめん、頼むから、スマホで撮影とか、やめてくれないかな、ああ、えっと・・・」
「ああん、萩さーん♡」
「知ってる方なのね?」
・・・ヤバい。もう、バレてる。
「そうよ、脚本家で、ラジオパーソナリティ。月城歌劇団の羽奈賀萩さん。役者さんじゃないから、顔は出てなくて、声だけの出演なんだよね。舞台も行ってるよ。間違えないよね」
「はあ・・・そんなあ、もう、足がつくのか。昨日、ここの隣、借りたばかりなのに・・・」
「え?ママ、うちのアパートに?」
「ああ、昨日、違う方が、契約に来て、いきなり、入居したいっていうから、まだ、宣伝もそこそこだったのに、良いって言うのに、三か月分、お家賃、現金で置いていって、角部屋と、その隣ね・・・ああ、雲居さんって、違う方のお名前で、契約されてたから、解らなかったんですけど・・・」
「あ、大家さんなんですか?」
「そういうこと、みたいですね。まあ、そこから、ここまで、自転車でって、乗った途端に倒れられたみたいね」
「はあ、本当に、ご迷惑おかけしました」
クスクスと、笑っておられるが・・・いやぁ・・・大家さんだったとは。
「そうそう、芽実。いい?家を借りる人の守秘義務っていうのを、大家は守らなきゃならないの。だから、こちらの方のことも、黙っていてあげなくちゃダメなのよ。法律違反になるの」
「あ、そうなの?」
「そう、だから、お友達にも、ご近所にも、誰にも教えてはダメ」
「・・・はあ、そういう、のがありましたね。助かります。護ってもらえますか?えっと、芽実ちゃんだっけ?」
「はい、芽実ですー♡ そのまんまで、チャット、行ってるよ」
「あ、うん、なんか、聞いたことあるなと思ったら、よく来てる子だね。ライブチャットにも」
「嬉しいっ、やっぱ、名前、覚えてくれてるー、そうだよーん。うふふ」
なんか、恋愛相談コーナーに来てた子だよね?
「確か、・・・君の相談も受けていたような気がするんだけど・・・」「あ、ああ、だめ、だめ、ママは知らないから」
「ああ、本当だ、知られたら大変だ。じゃあ、俺のことも黙っといて、いいね?」
「うん・・・♡」
そうそう。チャットはね、まあ、あまりね、お母さんとかにはね・・・
「じゃ、着替えてくる―。っていうか、ママ、今日も出掛けるんだけど。この後」
「はいはい、また、夕夏ちゃんたちと?」
「そうそう、ダンスの練習、何、着てこうかな・・・」
「あんまり・・・あ」
奥さん、食器洗いで、テーブルを離れたぞ。
「何?萩さん」
「お母さんを心配させるようなこと、泣くようなことにならないようにね」
「うん、大丈夫、そこはバッチリ」
よし、これで、この子は抑えた。まずは、口止め成功か。
確か、芽実ちゃんって、高校二年生だったか・・。嘘じゃなくて、そのままのスペックで、来てたんだ。まあ、とにかく、この子は抑えられたし・・・。あ、二階に上がったね。よしよし。
今の話、お母さんは聞いてないね。俺の使った、食器洗ったり、色々としていて、気づいてない。こちらも、よし。
「はい、コーヒー、ブラックかしら?」
「あ、ありがとうございます。ブラックって、よく解りましたね・・・」
「んー、まず、ブラックを勧められれば、後で、ミルクとお砂糖を出せばね」
「ああ、成程・・・」
普通の家だな。広くもなく、狭くもなく、あ・・・。ご主人かな?仏壇がある。ふーん。
ひょっとしたら、自宅の隣にアパート立てて、収入を得ながら、娘さんと暮しているって口かな。ふむ・・・こういうの、観察するのが癖で、ちょっと、無遠慮だけど、見させて貰おう。今回のドラマは、珍しく、ホームコメディを指定されていて。上手いこと、プロット仕上げたら、役者さんこっちが、指定できるらしいんだよね。俺は、最近、評判の江川露魅を、主演に使いたいんだ。うちの舞台「Escorts」で、客演してくれてて、第二皇妃役をやった、新劇出身の名女優だ。彼女に、コメディエンヌの新境地を切り開いてもらいたい。可能性は感じる。前の役からのギャップもいいよね。相手役は・・・何らかの、ラブロマンス要素は、絶対だから、中年で、こちらもCMとかで露出のベテラン、志芸野咲哉がいいと思う。渋い芝居も、コメディ要素もなんなく熟す。2.5枚目が、彼の骨頂だからな。
成程ね。ご主人を志芸野さんというわけにはいかないな。仮に、この設定だったら、奥さんを露魅さんにやって貰って、娘は、うちの劇団の子か、オーディションかけようかな・・・。
「あの、お子さんは、他に、いらしゃるんですか?」
「ああ、社会人三年目の娘がおります」
「お務め先は?」
「銀行に、なんとか、就職できて、主人がとても喜んでました。まあ、主人も行員だったので、その系列なのですが・・・」
「成程ね・・・」
ご主人は、ここ三年以内に、亡くなったってことか・・・。
「コーヒー、お代わりしますか?」
「あ、すみません。美味しいんで、お願いします」
「はい、解りました。お腹は満たされましたか?」
「ああ、恐れ入ります、久しぶりに、手作りのご飯、食べたなあと思って」
「こちらへ帰ってらしたって、娘が。すみませんね。訳知りに、得意気に」
「まあ、そうなんですけど、仕事が仕事なんで、色んな関係者が、チョクチョク、訪ねてくるんで、実家に迷惑がかけられなくて」
「大変ですねえ。でも、脚本家さんだって、伺ってるのですけど・・・有名になられて、お仕事上手く行ってらっしゃれば、ご両親様もお喜びでしょうねえ」
「ああ、まあ、・・・」
いいなあ、露魅さんで行けそう。普通の主婦で、年の頃は・・・?えーと、聞くのは悪いかな?娘さんが、高校二年生と、社会人三年目ならば、
二十歳の結婚でも、四十代・・・。
「何か?ああ、食後のデザート、ありますよ。あ、そうそう、プリン蒸したんです」
「プリン、むした?・・・ああ、プリン、プリンって、蒸すんですか?」
「ああ、結構、ご存知ない方、多いみたいね。そうなんですよ。ごめんなさい、試作品なのだけど、召し上がって頂こうかな?娘たちは、太るとか言って、食べてくれなくて・・・」
あああ、露魅さんー、浮かび過ぎるう。すごい、いい。よし、趣味は、洋菓子作りで、
「これ、お店のやつじゃないんですか?」
綺麗な設えだ。シンプルだけど、カラメルも、かかってるんだけど・・・
「いただきます。・・・ん、すごいっ、やっぱり、お店のみたいですね」
「お世辞が上手ですね。・・はあ、でも、良かった。主人がね、甘いものが好きだったから、その名残もあって、ああ、そうそう、貴方にもあげないと、ごめんなさいね」
「あああ、ご主人の先を越してしまったようで、すみません」
「ううん、実際に、召し上がってくださる方が、優先ですから」
そう言いながら、奥さんは、ご主人の仏壇に、手を合わせた。
髪、アップなんだな。第二皇妃の露魅さん、思い出す。・・・んー、いいのかも。未亡人か・・・。そのまま使えば、その設定だよな。うん。無遠慮に見過ぎた。
「ねえ、ねえ、萩さん、いる?まだいるの?」
階段から、芽実ちゃんが下りてきた。
「どう、どうかな?この恰好?」
俺は、頷く。コメントは控えようかな。お母さんの手前。男の評価は聞かせない方がいいんだ。こういう時は。
「じゃあ、行ってくるね。ご飯、食べてくる」
「遅くなりすぎないで頂戴ね」
「ん、大丈夫、じゃあねえ、萩さん、行ってきまーす」
まじ、大丈夫で行ってほしいんだけど…。娘の心配、というのも、ホームコメディにはよくある設定だけどね・・・
でもね、へえ・・・。やりすぎてない、可愛いじゃん。上手いんだな。要は、母子の感じからして、センスがいいんだ。これは、長女さんも楽しみ・・・って、ああ、誤解されるようなことを考えないように。あくまでも、脚本の色付けの為だ・・・。
うん、東国中央部の新興住宅地、敷地内には、自宅とアパートが建っている。大家は、母と娘二人。ここに、誰が絡んでくるかな・・・、家族は、これで限界か。あとは、妄想でいくしかないのかな?志芸野さん、使いたい。露魅さんの未亡人となら、ちょっと、大胆な展開、大丈夫なんじゃないか?奥さんが40代、志芸野さんは、50代の渋い役者さんだからな。
「あのう・・・奥様は、お勤めとか、されてるんですか?」
「え・・・ええ、まあ、今日はね、たまたま、お休みなんですけど、この近くで、経理の事務仕事をさせて貰ってます。小さなイベント会社なんですけどね」
「へえ・・・」
「パートです」
「ふーん、お近くって、どの辺りですか?」
「この通り出ると、バス通りあるでしょ?ああ、そこにコンビニがありますよ。ハニプラっていう系列の」
「ああ、ハニプラがあったのか・・・、なんだあ、あ、今度から、そこに行きます」
「そのね、ハニプラに行く途中の、小さなとこ。可愛い看板のね、普通のお家なんだけどね」
「超近いんですね。職住接近だ」
「そうですね。もう、すぐ行けるとこがいいの。昼休みに、洗濯物、取り込んだり、少し、家のこともできるしね」
んー、リアルだあ。露魅さんが、洗濯物を干したり、取り込んだりって、良くねえ?うん、いい、いい。で、その会社の人のスペックが、気になるんだけど・・・
「イベント会社って、忙しいんですか?」
「うん、といっても、何でも屋さんみたいね。地域の方のお手伝いから始まったみたいで、ご自宅兼事務所だから。暇な時は、私も自動的にお休みぐらいで」
「じゃあ、社長さんのお宅で、ってことですか?」
「まあ、流石、よくお解りね。脚本家さんだからかしら・・・」
「あ、まあ、偶然です・・・当たっちゃったかな・・・あははは・・・」
っていうか、ビンゴじゃん。地元の名士かつ、社長。で、志芸野さん。これで、毒男か、バツがついてれば、完璧。なんで、この未亡人、雇ってるかな・・・みたいな・・・
「ご家族で経営されてるとか、じゃないんですか?」
「うーん、お一人みたいね」
うわああ、ビンゴだあ・・・。取材続行。これで、主役は露魅さん、未亡人。独り身の社長さんが、志芸野さんだあ・・・。ふふふふ。一寝入りしたら、プロットを書けそうだなあ・・・。そして、二人の娘が絡んでくる。
「お母さん、お父さんのことは、もう、いいの?」
「私、お父さんの為に、頑張って、銀行に入ったのに・・・」
とかとか・・・いいぞ。娘二人は、うちの子か、オーディションね。下の子には、彼氏ができた。もうそろそろ、いい感じになってきてるので、・・・これは煽ってはいけない。あくまでも、大人として、見守ろう。銀行務めの長女さん、注目ですね。夜なら、お会いできるのかな?真面目キャラでもいいし、更に、美形モテモテ、高嶺の花でもいいし・・・。
放映予定は、2クール先の、木曜日の10時とかいう、かなり良い枠なんだよな。新進気鋭の作家大抜擢とか言われて、オファー貰って来てくれたのはいいよ。月城先生。いなくなるなんてな・・・。数馬なんて、彼女の彼氏役、ピッタシなのにな・・・。運動神経のいい、サッカー部とかね。やらせたかったな。ディレクションなしで、そのまま、俺の意図汲んで、やってくれるからなあ。・・・あああ、惜しい人材を・・・って、まだ、解らないけどさ。二人とも、ひょっこり、帰ってくるかもしれないし・・・。ランサムエンタメフェスの時、随分な人数の数馬ファンが、楽屋に押しかけてた。国賓クラスの人達がこぞって、会いたがっていたのが、すごい、不思議だったけどなあ。ああ、数馬、スメラギ皇宮にね、出入りしてたから、だから、俺、本のヒント貰って、書いたんだけどね。あれが当たって、今に至るんだけどね・・・。
ピンポーン
あ、誰か来た。誰かな?
「ああ、ごめんね、ヒメちゃん」
え?ヒメちゃん?・・・って、誰のこと?
「はいはい、どうしたんですか?」
「出かけだから、これ、いつもありがとう」
「あ、いいのに、お弁当箱なんて、いつでも」
「でも、ついでだからさ。・・・」
え・・・覗いてしまおうかな、玄関先。お・・・あれ、ひょっとして・・・
「本当に、明日頂ければいいんです。こんなの」
「ああ、昨日の難しいやつね、よく設えてくれて、助かったよ。あれなら、皆が、納得して当日できそうだから」
「プログラムですね。文字の数を減らして、大きくて、太い文字がいいみたいですよ。お年寄りが多く、参加されるんで」
「いやあ、よく、気づいてくれて、民生委員さんもオッケーだって」
「よかったです。あ、プリン召し上がりますか?」
「え?あるの?嬉しいな・・・」
「あ、あの・・・」
つい顔を出してしまった。
「・・・お客、さん?」
いいぞ、今のリアクション。男が、なんで、この家にいるんだ?って感じかな?
「僕がいるから、上がって頂けないのかなと。だったら、申し訳なくて・・・」
「ああ、もうね、出掛けるとこだから、いいんですよ。ヒメちゃん、朱莉ちゃんの彼氏?」
「やだあ、違いますって?昨日、アパートに引っ越して来られた方なんです。ごめんなさいね、あ、えっと・・・雲居さんです」
「ああ、いえ、隣のアパートに越してきました、雲居です」
「ああ、初めまして、・・・」
「時間の融通が利くなら、プリンぐらい、いいんじゃないですか?」
「じゃあ、遠慮なく、ちょっと、失礼しますよ」
残念。奥さん、旦那さんより、落ちるね。って、まあ、ドラマでは、志芸野さんだから、展開することにしといて。名前の件、早速、気を遣ってくださって。
やっぱり、定番だけど、やっぱり、露魅さんを、志芸野さんと、若い男が取り合うのがいいんじゃないかな?すると、さっきのキーワードも悪くない「朱莉ちゃんの彼氏」。
予測でいけば、朱莉ちゃんだって、そこそこ、可愛いはずだから、真面目な行員の先輩とか、結婚前提でお付き合いしたいんだとか言って、挨拶に連れてくる。・・・うーん、なんか、どっかで最近見た気がする。1クール前に、坂戸先輩が書いてた。あれは、都会的で暗かった。ああいう、ちょっと、暗い感じも憧れるけど、今回のニーズはコメディだからね。このプロットで、メインの役者さん抑えないと、間に合わないかもしれないぞ。
朱莉ちゃんには、近々、お休みの日でもお会いできるのではないかな?って、朱莉ちゃんもその実、俺のラジオのリスナー、って可能性もあるか、妹の芽実ちゃんとシェアして。うーん。
「あの、俺、今日は、失礼します。ご馳走様でした」
「あ、あのね、・・・雲居さん、困ったことがあったら、今日みたいに、尋ねて来てくださいね」
「ああ、もう、大丈夫だとは思うんですが・・・もしもの時には、甘えます。助かります。今後とも、よろしくお願いします。じゃ、失礼します」
「おう、兄ちゃんさ、なんか、見たことあったかな?CMとか出てる?」
声だけですが。結構、印象あるんだな。馬鹿にできないね。声の仕事も頑張らねばな。
~つづくかな?~
みとぎやの小説・ひとまず投稿 「萩くんのお仕事①」
読んで頂き、ありがとうございます。新年の新連載スタートです。
これまでと打って変わっての、コメディー仕立てです。
そこそこ二枚目の、良い声の男、ラジオパーソナリティーで、
脚本家 羽奈賀萩くんのお仕事を巡るお話です。
条件が整い次第、連載スタートとなります。宜しくお願いします。
どうやら、ドラマ脚本のプロットを、急いで仕上げないとならないみたいですね。さて、次回は、どのようなことになるか。お楽しみにしてくださいね。ちなみに、彼は「君の声」の主人公です。時系列的には、恋人の死から立ち直り、数年経った頃のようです。元気になって、戻ってこられて、良かったです。特別対談で、先出しになってしまいましたが、流布のバトンを継いで、今年の一発目の連載第一話です。対談でのことが、実際に、本文中に出てくるかは、お楽しみにです。