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御相伴衆~Escorts 第一章 第112話番外編②「天使の戯れ」

🌟今回の番外編のお話は、慈朗が、この皇宮に来て、間もなくのお話です。



「うふふ、よく頑張ったわね」
「・・・すみません。僕の、お腹の音が・・・」
「いいのよ。準備させましたからね。好きなだけ、召し上がれ」

 さっきから、とても、良いにおいがしていたと思っていたんだけど、・・・

「何が、好きなの?慈朗シロウは?」
「えーと・・・市場の屋台の揚げパンと、雑穀スープです」
「そう、ここのお膳は、それとは、ちょっと、違うとは思うけど・・・」

 すると、何人かの白衣を来たコックのような男の人たちが、ワゴンを何台も押してきた。
 その上には、見たことのない、色々な食べ物が並んでいた。
 大きなお皿に、とても、いっぱいの種類の・・・。

「わあ・・・これ、こんなに?」
「そう、どうぞ、召し上がれ」
「あ、あの、皆さんと一緒、ですか?」

 給仕係という、その人たちは、苦笑いをして、僕を見降ろしながら、首を横に振った。

「皇妃様と、君の分ですよ」

 嘘、嘘だよね・・・こんなにあったら、何日分、スラムの何家族かの人たちが、食べる量だよね。
 色々なにおいがしてる・・・料理がいくつもあるんだ。
 肉のにおい、魚の・・・あれは、なんだろう?
 ・・・ケーキがある?!
 ・・・お砂糖が手に入らないって、お母さんが嘆いていたよね・・・。

「さあ、遠慮せずに・・・手をここで清めてね」

 ガウン姿のままの皇妃様の横に、僕もガウンを着て、座っていた。
 最初に皇妃様が横たわっていた、大きな椅子、ソファーというやつに。
 テーブルの傍にある、陶器の洗面器のぬるま湯で、手を洗うと、皇妃様が、タオルで拭いてくれた。

「すみません。僕、できますから」
「いいのよ、ここでは、これで・・・さあ、いただきましょう。いつもならね、食事が先なのだけれども、今日はね」

 僕は、ちょっと、待っていた。
 偉い人から、食べ始めるのは、何となく、知っていた。

 偉い人から、食べる。
 だから、足りなくなった場合、一番、身分の遠い、下の者まで、行き渡らない。
 優先は、偉い人だって、大人たちは、皆、笑いながら、言ってたから。

「どうしたの?いいのよ、食べなさい」
「皇妃・・・様から、どうぞ。僕は、その後で」
「まあ、そんなわきまえの良いことを?あの最下層でも、そんな躾がねえ・・・」

 皇妃様は、そう仰りながら、グラスを差し出した。

「そのピッチャー、・・・そう、それね。それに果実酒が入っているから、ゆっくり注いで頂戴。できるかしら?」
「はい」

 そうだ。僕は、いくら、お腹が空いてても、こういうことをしっかりやって、皇妃様が、食べてからなんだ。そう思った。

 ゆっくり、綺麗な硝子細工のグラスに赤いワインを注いだ。少し、オレンジのような匂いがした。
 にっこりと微笑んで、僕を見ると、皇妃様は、それをこくんと、喉を鳴らすようにして、飲み込んだ。そして、小さな、何かおかずの乗ったパンを齧った。

「はい、どうぞ、召し上がれ」

 ああ、いいのかな・・・本当に、食べても。
 これは、全部、夢で、たくさんの料理は、幻灯なんじゃないのかな?

「沢山あって、どうしたら・・・」
「とってあげましょうか・・・」

 すると、僕が動く前に、皇妃様は、僕の前に置かれていた、小さな皿に、先程のパンを載せてくれた。

「いただきます・・・」

 一口、口に入れると、複雑な味がした。
 トマトと、何か魚と、強い油の感じ。
 揚げパンとは似ても似つかない、その感じを、僕は、夢中で噛み締めた。

「どう?美味しい?」

 僕が、「うん」と頷くと、皇妃様は、いくつもの皿を並べ始めた。
 僕は、それに応えるように、食べ続けた。
 パンは手づかみで良いのだけれども、他のものは、どうなんだろう?
 スープは、スプーンを見つけたので、それですくったが、雑穀スープではなかった。あまりに、美味しかったので、皿に口をつけて、ゴクゴクと飲み干した。

 ・・・そしたら、もう、止まらなくなった。夢中になった。

 皇妃様が、とってくださったのだもの・・・とにかく、お皿の上のものを、全部、食べなくちゃ・・・

「うふふふ・・・あはは・・・そう、美味しいのね・・・いいのよ、それで」

 息もつかさず、僕はむさぼった。
 肉の塊は、初めて食べた。びっくりした。
 これは、何の肉だろう?・・・いいや、聞かないでおこう。
 夢中に、大きな皿にも、直接、手を出していった。
 皇妃様は、何も仰らずにいたけど、僕のことを、この時、きっと、ずっと、見ていたのだと思う。

 気づくと、僕は、ガウンを汚していた。
 それどころから、両手も、食べ物の汁や油で・・・、傍らにある、食事の為の道具は、スプーンしか使わなかったことに気づいた。
 すると、皇妃様は、僕の口元を、綺麗なハンカチで、拭いてくれた。

「どう?良い子にしてたら、これが毎日、お前には、与えられますよ」

 はっとして、僕は、皇妃様に頭を下げかけた、その時、皇妃様が、僕の顔を覗き込んだ。

「いいのよ。謝らないで。これがお前なのでしょう?可愛い慈朗。改める必要はありません。私は、今のままのお前がいいのだから。欲しいものは、欲しい。それで、いいの、そのままでね。・・・一目見て、すぐわかったわ。足りないものを、私が全部、与えてあげますからね。お前の飢えは、食事だけではなくてね。・・・それについても、先程、よく解りましたから・・・、そして、お前が、天賦の天使である、ということもね・・・」

 そう言うと、僕はこんなにベタベタなのに、皇妃様は、いっぱい、抱き締めてくれた。

 その後、富貴という世話をする女の人が来て、僕をまた、今度は、豪華な風呂場に連れて行き、手と顔をしっかり洗って、歯を磨くように伝えてきた。

 綺麗な白い花の大きなボトルから、とろけた石鹸を出した。
 維羅の所で使っていたものと同じだった。

 顔を洗い終わると、いつの間にか、その富貴がいなくなり、代わりに皇妃様が、服を脱いで入ってきた。

 皇妃様は、綺麗だ。
 さっきも、そんな感じだったけど、遠くから、見たのは初めてだった。
 維羅より、胸が大きい・・・何となく、見てしまう。

「綺麗にしたのね、いい子ね。もう、食事はいいかしらね?満ち足りたかしら?」
「あ、はい、ご馳走様でした」
「・・・慈朗は、本当に、いい子。食事の前のこと、憶えてるかしら?」

 あ・・・、あれ・・・僕のお仕事。

「はい・・・」
「続きをしましょうね」
「・・・はい」
「この後は、少し長くなるから・・・お腹がすいたら、御菓子を準備しますからね」
「はい、ありがとうございます・・・」

 手を引かれて、湯船に入った。

「こっちを向いて、赤ちゃんみたいに、抱っこしましょう」

 皇妃様は、優しく、僕の頭を撫でて、抱き締めてくれた。

 これが、とにかく、安心する。
 僕は、本当に、赤ん坊に戻った気分になった。
 また、涙が出た。
 でも、湯の中なので、それは、皇妃様には気づかれてなかったと思う。

「いいのよ・・・」

 もう、何が、とか、思わなかった。

「ああ・・・、本当に、慈朗は、いい子だわ・・・、よく来てくれたわね。私の所に」

 この夜、僕は、皇妃様から、フワフワの布の女の人がするやつをもらった。スカーフというやつだ。
 これを、これから、ずっと、首に巻くようにと。
 それが、僕の印だと。

「天使と御揃いのやつね。・・・というか、慈朗、これから、お前は、私だけの天使ですからね」

「天使の戯れ」
王立礼拝堂の天井画(案)



御相伴衆~Escorts 第一章 第112話番外編②「天使の戯れ」

 お読み頂きまして、ありがとうございます。
 今回は、「慈朗が大食いになったわけ」でした。

 慈朗が、皇宮に連れてこられて、初めての食事のエピソードでした。

 第二皇妃が、沢山のお皿に取り分けてくれたものを、まずは賢明に食べないという使命感でしたが、空腹も手伝って、また、美味しい宮廷料理を、次々とあてがわれた感じになったようで・・・。

 慈朗は、その実、産みの母とのことを覚えていなかったようです。
 父の後添えの継母に、愛されるどころか、虐められ、写真家の祖父に護られていた子供時代でした。

 そんな慈朗にとって、第二皇妃は、得られなかった母親への愛慕の対象となりました。
 同時に、やはり、皇子を得られなかった第二皇妃にとっても、『御相伴衆』の一人である慈朗は、姫付にはせず、唯一の自分だけの可愛い子と、傍に置いたのでした。

 普通であるならば、酷い話となる所が、互いの求めが一致したということで、ある意味、慈朗も、皇妃によって、補完されていたということになります。

 作中、何度も出てくる王立礼拝堂の「天使の戯れ」という天井画があります。拙いですが、イメージ画を載せました。
 慈朗は、この絵にそっくりだと、柚葉や、三の姫女美架に言われたりしてきました。

 次回から、三編、柚葉が皇宮に来るまでの紫統とのエピソードになります。お楽しみになさってください。

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