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御相伴衆~Escorts 第二章 第136話 忠臣は二君に仕えず

 耀アカル皇子の留学中の数年で、素国そこくの侵略は進み、その影響で、シギノ派のスメラギの軍族たちは、力を失っていく。志芸乃シギノは、ここまで来て、初めて、素国の目論見に気づく。皇宮は、その主を失った形となり、実権は、既に、素国に移り、石油の掘削や、輸出の権限も奪われていった。スメラギ皇国は、崩壊寸前となっていった。

 素国におもねり、パパラッチの役目を果たしながら、自暴自棄になっていた、慈朗シロウだったが、皇子がランサムに行ったことは、良かったと思っていた。また、数馬が自分の道に戻っていったことにも。

 結局、援ける力なんて、そもそもの自分にあるわけがない。結局、耀皇子を裏切って、その秘密まで、証拠として、素国に渡してしまった。僕は、悪魔に魂を売った。僕が一番、ダメなんだ・・・。

 そんな、失望の中、慈朗を援けたのは、空軍大尉の英辛ハナブサカノトだった。柚葉は、その国内での立場により、慈朗とは会うことができなくなってきていた頃だった。

 その頃、少ないながら、スメラギの力を保持しようとする、抵抗勢力が生まれ始めていた。その若い部隊の筆頭が、その英辛だった。体裁だけのスメラギ軍部となり下がっていたが、対外的に戦争状態に陥っているわけではない。そのことが希望となっていたのだ。

・・・このままじゃあ、済まされない・・・!!

 辛は、桐藤キリトとは違う意味での、国粋主義者だった。
 彼は、慈朗を助けの手を伸ばした。
 こんなことをしているのは、昔の様子を伺い知る限り、本心ではない筈。
 辛は、慈朗を、レジスタンスの仲間に引き込もうと考えていた。

「慈朗、一緒に、皇子を援けよう、力を貸してくれ」


 その頃、地下で働いていたルナが、月鬼症候群に罹り、皇宮を辞すことになった。ずっと、陰ながら、慈朗を支えてきた。

 そもそも、月は、慈朗が皇宮に来た時からのファンだった。
 この所の慈朗の凋落しゅうらくした様子に心配し、そのこともあって、皇宮を去り難い。たとえ、慈朗が以前の美しい容貌を捨て、その能力を失ったとしても、月は、慈朗に対して、接し方を変えなかった。

 誰もがいなくなる中、月が陰ながら、自分を支えてくれたことに、この時、慈朗は初めて、気づく。

「ずっと、綺麗で、優しい慈朗様が好きでした。この病気になってしまうと、そんなことも言えなくなってしまうから・・・」
「月、僕もきっと、同じかもしれない・・・。もう、できないんだ・・・知ってると思うけど・・・」

 月鬼げっき症候群の身体の痣は、次に生殖障害をもたらす。女性として生きることはもうできない。女性たちは、結婚を諦め、恋人と別れる。国からの非道な法律で、脳障碍が出た場合は、混乱を防ぐ為に、軍の管理下抹殺されることになっていた。

 月は、ここに自分が来た経緯を、慈朗に話し始めた。実は、兄と二人でここに来たのだ。兄は少し、慈朗に似ていたという。月の兄もスラムの出身で、慈朗と同様の理由で皇宮に上がったのだという。仕事ができ、身体が丈夫だった月も、地下の責任者に気に入られて、下働きとして仕えることになった。

「お兄さんは、どうしたの?」
「診察の時に、病気が見つかって、上に上がることができなくて、一緒に地下で働いていました。人足の仕事、地下牢の看守など、・・・兄は、私には言いませんでしたけど、人には言えないような、裏の仕事もさせられていたようです。その病が原因で、ここに来て、一年目で亡くなりました。それで、私だけ、ここに残されました」
「・・・そうだったんだ、月も大変だったんだね」
「だから、スラム出身なのに、数馬様と慈朗様付の女官として、上に上がることができたことが嬉しくて」

 その実、月を女官に押したのは、柚葉だった。
 柚葉は、かつて、月にかばってもらった経緯もあり、同胞の面倒を見るなら、優しい月がいいだろうと思ったのだろう。第二皇妃に掛け合ったのだ。その時、柚葉から直接、昇進が、月には伝えられた。異例のことだった。

「慈朗様は、兄に似てました。その優しい感じとか・・・」
「だから、来たばかりの頃から、御菓子とか、僕にくれてたんだね」
「慈朗様の方が、私より年下でしたけど、小さい頃の兄を思い出して・・・」

 御相伴衆として、本殿に上がり、きちんと務めあげられる子は、まだ、幸せだったのだと、慈朗は思った。御相伴衆としての、同胞の四人が、あの四人でなかった可能性があるという事だ。

 まず、市井から見つけられ、確実に、皇妃の目にかない、気に入られるだろうと踏んだ、役の者が、家族に話をつける。譲り受けた後は、地下の女たちの品定めの後、御殿医の診察で、健康状態をパスしなければならない。親に金を渡した手前、子どもたちは皇宮で、何からの働きをさせられる。二度と、親には会えないというルールは、慈朗も聞いていた。皇妃の側に仕えることが、一番のここでの出世だったのだ。

(ちなみに、下働きには、黒髪の子が多い。数馬の枠で、選外とされてしまった子たちだ。その殆どが、スメラギの貧しい家の少年だった。その中で、数馬の容姿と濡烏は理想的で、更に、その大道芸で鍛えられた丈夫さ、人付き合いの慣れた所、雰囲気を読む力など、皇妃の求める以上のものを備えていたのだ。更に、三の姫が、初日から、数馬を気に入ったことが、一番の決定打となった。それ以来、皇宮すめらみやに、子どもが連れて来られる事はなくなった)

「ダメなんだけど・・・」

 慈朗は、月を抱き締める。月にとって、最初で、最後の時を迎える。

「ごめんね、本当に・・・」

 一番果たしてやりたいことこそ、今の僕にはできない・・・

「いいんです。慈朗様」

 それでも、慈朗は、月を満たした。この時、慈朗は、自らに驚く。完全ではないにせよ、身体の反応が兆したのだ。もう少しなのに・・・。月は慈朗を慰める。

「きっと、時間をかければ、治ると思います」
「ごめんね、月、もっと早く、気づいてあげられればよかった・・・」

 不完全な結びつきに、後顧の憂いを残す慈朗。別れ際、月城から、数馬の代金として受け取っていた金の中からいくらか、慈朗は月に、治療の為と渡す。月は遠慮をし、断ろうとするが、慈朗は受け取ってほしいと懇願する。この金が、数馬自身だという風に、月に伝えた。きっと、月が使ってくれれば、数馬も喜ぶだろうと。月は頷いた。そして、月は、エプロンのポケットから、あるものを取り出す。

「これ、お守りです。ある時から、ずっと、私を護ってくれた、素国のお守り、ブルーレースという天然石です。柚葉様から頂いたものです」
「柚葉が、月に・・・これを?」
「はい。柚葉様の優しいお気持がこもった、私のお守りでした。私は、恐らく、1年は生きられないでしょう。これを、慈朗様に引き継いで頂けたら、私も嬉しいです。それに、これは、慈朗様の大好きな、柚葉様のものです。私としては、やはり、慈朗様に持っていて頂くのが、一番だと思います。柚葉様も、喜ばれるに違いありません」

 慈朗は、泪ながらにそれを受け取る。月を見送りながら、ここ数年の落ちた自分を、心から反省した。そして、今更だが、耀皇子を助けて行こうと心に誓う。慈朗は、かねてから、声を掛けられていた、辛の元に行き、レジスタンスの一員になることに決める。


 一方、素国では、国内の王位継承の争いで、内乱が勃発していた。このことで、素国国内において、現国王である紫鋼シコウ王派と、軍部のトップの紫統シトウ派に分かれ争っていた。

 結果は、新王として、第四王子の紫颯シサツ王子を擁立していた、紫統の派閥が勝利を得た。しかし、紫統は紫颯王子が、戴冠する姿を見る前に、戦闘の傷により、亡くなった。

 内乱の煽りを受け、紫鋼王派の軍部の残党らが、スメラギを専横するように、皇宮に乗り込んできた。

 レジスタンスを中心としたスメラギ軍部は、遺された力を遣い、素国の兵士に抵抗し、戦う。その中で、狂乱した紫鋼王の残党たちは、志芸乃シギノを捉え、国を荒らした張本人という名目で、処刑する。もう、後がない。徹底抗戦の中、辛の父親である、英中将も、戦闘で命を落とした。

「志芸乃元帥から・・・」
「父上」

 その父の忌の際、辛は、一つの鍵を受け取った。
 その場に居合わせた慈朗は、それに見覚えがあった。金庫の鍵だった。
 その中には、沢山の写真がしまわれていた。
 あらゆる証拠となるものであった。手を汚し、自分が撮影したものだけでなく、自らが、被写体となっている写真まで、遺されていることも、慈朗は解っていた。

 一度だけ、観る機会があったのだ、映っていない者はいなかった。
 御相伴衆はとにかく、三人の姫達までもが・・・これが世の中に出たら・・・、恐らく、この鍵が素国に渡らないようにだけは、志芸乃は守っていたのだろう。

 自分のしたことが、どれだけ、酷いことだったのか、慈朗は思い知らされた。柚葉の手伝いと思っていたことは、人の所業ではないこと、皇宮と素国の闇に、慈朗は毒されてしまっていた自分に気づき、猛省する。

「ごめんなさい。皆、皇妃様、僕は、なんてことを・・・」


 父親を失ったが、辛は、噂で、ランサム王太子の助けで、姫達と姉の暁が無事、ランサム王国に戻った旨を聞いた。辛としては、もう、思い遺すことはなくなった。

 最終的には、スメラギを奪われることになるのならと、耀を助け出し、慈朗と共に、皇宮に火を放ち、戦機である、皇輝号で、三人で出奔することに決めた。とにかく、ここでなくてもいい。まずは、命を存えて生きる。そして、いつしか、皇子の復権を、スメラギの復権を願って。

 皇輝号を最期、整備していたのは、その実・・・
 最後の仕掛けは、スメラギ皇国の皇統を消滅させることだった。

「坊ちゃん方、早くしてください。火の手が回っています」

「この機に乗じて、情報は破棄することができる。皇宮は、もうすぐ、燃え尽きる・・・」
「証拠を全て、焼き払ったからな。金庫の中も全部だ・・・それができれば、充分だ」
「これで、姫たちを護ることもできる・・・」
「しかし、このままにさせません。いつか、スメラギを再興させましょう。生きていれば、いつか、できますから・・・」
「今は、急いで、もう、火の手が・・・逃げるしかない・・・」

「ああ、坊ちゃん方、もう、火がそこまで・・・」
「わかった、渦。・・・急ごう、早く格納庫へ、逃げるぞ。戦機は何人乗りなんだ?」
「三人乗りだ、渦、他の飛行機は・・・?」
「私の事は、お気になさらないで、坊ちゃん方、早く行かれてください。後から、参ります・・・」

 急ぎ、辛は、耀皇子と、慈朗を乗せて、皇輝号で飛び立った。
 焼け落ちていく、皇宮を後にした。

「近くに浮遊する島のようなものが見える。レーダーには写っていないが、そこが一番近い」

「・・・亡命か?」
「もう、そんなレベルじゃないね・・・」
「渦、ついてきてるかな?・・・」
「レーダーにはついてくる、飛行機は映ってこないが・・・」
「無事、逃げてくれてるといいんだが・・・」
「渦・・・」


~次回、につづきます


御相伴衆~Escorts 第二章 第136話 忠臣は二君に仕えず

 急展開で、スメラギの城ともいうべき、皇宮は、皇太子自らの手で焼け落とされる形となりました。

 破壊と再生。

 どこかで、現実でも聞いたような話です。
 大火事で、証拠隠滅・・・これも、どこかで聞いたような話です。

 このお話は、5年以上前に書かれています。
 たまたま、このタイミングに・・・
 ・・・怖いなあと思いますが、恐らく、施されることは、現実もお話も同じなんでしょうね。(現実では、悪い者が証拠隠滅しておりますが・・・)

 このただれた皇国を一度焼き尽くす。
 そして、乗っ取られる形になるとしても・・・。

 耀は、皇帝一族や、大事な人々の誇りを護る為に、敵国に踏みにじらせない為に、皇宮を焼いたのです。

 場合によっては、彼も同じ道を選んだかもしれない。
 次回からは、そんな彼の追悼記念編になります。
 その後に、第三章 エンディング編に続きます。
 このお話も、最後の章に近づいてきました。
 続きを、お楽しみになさってください。

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