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御相伴衆~Escorts 第一章 第九十二話 特別編 隣国の王女~白百合を摘みに④

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 中庭から戻った、数馬と慈朗シロウは、二人で一の姫の私室へ向かった。一の姫は、ドレスに着替えて、準備を整えて、迎えを待っていた所だ。

「失礼します」
「一の姫様」
「まあ、数馬、ご無沙汰していますね。足、治られたのね。本当に、良かったわ。・・・それに、慈朗、お二人でお迎えですか・・・お庭に、皆様、お揃いの頃ですね」
「あ・・・それがですね、一の姫様、実は、事情ができてしまって・・・」
「数馬、正直にお話した方がいいと思うよ」
「・・・そうか、話せるとこまで、かな・・・」

 準備に余念がない一の姫に、申し訳なさそうに、慈朗が切り出した。

「うん。あの、一の姫様、怒らないで、聞いてください。できましたら、この素国の紫杏シアン姫様のご滞在中、一の姫様は、お出ましにならない方がいいんじゃないか、と、桐藤キリトが考えたんです」
「・・・そうなのですか?」

 頭を掻きながら、数馬が続ける。

「なんというか、ちょっと、紫杏姫様がリクエストの多い方で・・・」
「どういうことですか?」
「怒らないで、くださいね。あ、あの、紫杏姫様のご案内を桐藤が担当することになってしまって、というのは、紫杏姫様は、こちらでは、藍語でお話しされていて、対応できるのが、桐藤ということになってしまって、多分、時間がとられてしまうのでは、ということで・・・」
「わかりました。つまりは、桐藤の御手をわずらわせないようにとのことですね」
「大変、恐縮ですが、お仕事ということで・・・」
「その間は、僕を使ってください。僕が、代わりまではできませんが・・・すみません」

 慈朗が丁寧に、頭を下げた。

「まあ、そういうことなのですね」
「つまりは、言葉が喋れる人間が対応しようということに・・・ですので、俺と慈朗もそんなではないので・・・。俺は、芸事を明日、お見せするのが、役割となりました」
「そんなわけで、僕は、一の姫様付きの見習いということで」
「ああ、そういうことなのですね。承知致しました。でも、紫杏姫様に、ご挨拶をしなくてもいいのかしらね?」
「まずは、お話ができる方を中心に、ということで、進めるみたいです」
「様子を見て、ということみたいです」
「では、ご指示の通りに致しますと、桐藤に、安心して進めてください、とお伝えくださいね」
「じゃあ、俺は行くから、慈朗、頼んだよ」
「わかったよ。あの、僕、絵のセット取ってきて、絵をお描きしましょうか?」
「まあ、いつか、慈朗が、お部屋で、絵を描いてくださらないかって、思っていたことがあったのですよ。嬉しいです」
「良かったです・・・」

 一の姫様が、素直で、協力的で、お優しい方で、本当に良かった。
 数馬と慈朗は、ホッと胸を撫で下ろした。
 数馬は、後程、この件は、慈朗から、桐藤達に伝えてもらうようにし、今日の役目を終え、奥殿に戻ることにした。

「お茶会、始まったようですね」
「そうみたいですね」

 一の姫の部屋から、丁度、中庭の様子が見えた。

🎀⛸🍓🔑⚔

 そのようなことで、結局、お茶の席には、ゲストの紫杏姫と、二の姫と三の姫、そして、桐藤と柚葉、そして、女官のアカツキがついた。

「いいですか?三の姫の通訳は、僕が引き受けますので、何かあったら、紫杏姫に話しかけて構いませんから、あと、皆さんの会話を訳しますからね」
「ありがとう。柚葉」
「では、お茶会を始めます。この度は、紫杏姫、遠く、素国プライムシティから、お越しいただき、ありがとうございます」

 紫杏姫は、素国式の挨拶をした。それに合わせて、女美架メミカ美加璃ミカリが、挨拶を返した。二の姫は、シンプルな青いワンピース姿といういで立ちだった。桐藤と柚葉も挨拶をする。その後に、暁が、ハイティースタンドのクッキーを勧め、紅茶を配った。

 ここからは、三人の姫と、ランサム語に堪能な御相伴衆の二人の会話となった。

美加璃「随分、可愛らしい、古式のドレスですね。年代ものなのではないですか?とても、お似合いですわ。私なんか、そんな昔のものなんて、・・・おほほほ」
女美架「本当に、可愛らしいです。髪飾りとか、頭、重くはありませんか?」
紫杏「・・・馬鹿にしてるのかしら?」
美加璃「まあ、なんてことを、とんでもない」
女美架「え?なんて、仰ったの?」
柚葉「あ、いえ、重くはないと、熟れていると」
桐藤「自己紹介をされてはいかがでしょうか?是非、紫杏姫様のことを、教えて頂きたいのですが・・・」
紫杏「わかりました。私は、素国紫族 第五王女 紫杏と申します。国に還りましたら、縁談がございまして、準備が今、忙しいのです」
美加璃「あら、そうですか。お忙しいならば、わざわざ、お起こしにならなくても、良かったのにね」
柚葉「美加璃姫様・・・」
紫杏「そうなのよね。私も、そう思いますわ。意見が合いますわね。美加璃様。貴方の恋人は、どなたですか?ここにいらっしゃるの・・・?」
美加璃「まあ、そんなこと、お身内なのに、何を、仰ってるのかしら?決まってますでしょう?」
紫杏「通称『柚葉』殿・・・私の従兄弟のお兄様ですわよね?」
美加璃「そうですわね。将来は、私も、貴女の従姉になりますのね。以後お見知りおきを」
紫杏「こちらこそ・・・」

 針の筵だと、柚葉は思っていた。

 しかし、まだ、この話の方がいいかもしれない。
 アーギュ王子の話が出たら、不味い。
 桐藤も、密かにそう思っていた。

 アーギュ王子が、社交界の席で、この紫杏姫と、どのような話をしているのか、何か、約束とか、取り交わしはあるのか、問題は、彼女のスペックでもあるが・・・。

 聞いてないし、まさか、そんなこと、聴くわけにもいかず・・・。

(先日、柚葉が、身を切って、二の姫に聴いたが、結局は、挨拶を交わしているのを見ただけとのことで、その実は不明で・・・)

 そして、その実、『奥許し』をしていないお姫様、という情報は、柚葉以外で既知なのは、数馬だけで、それは、数馬の頭の中で停まっている。
 しかも、情報ソースが維羅ということだから、数馬は、皆に、その情報を漏らさないということになりそうだ。つまり、その情報は、桐藤にはシェアされていないのだ。

 そんなわけで、柚葉と桐藤は、三の姫に聴かせられない、この地雷を踏まないようにするしかないと、それぞれが覚悟をしていた。

女美架「えーと、何のお話なのかしら?」
柚葉「ああ、僕が、美加璃姫様付きだという話です」
女美架「ご紹介のお話しだったのですね、女美架、杏のケーキをお勧めしたいのですが」
柚葉「あ、承知しました。そうですね」

 桐藤が様子に気づき、暁に合図をする。暁が、紫杏姫にケーキを見せる。

「紫杏姫様、こちらの女美架姫様より、手作りのクッキーと、杏のケーキです。どうぞ、お取り分けしますから、お召し上がりください」

 つんとすました表情で、サーブされていく様子を見入っている。

「紅茶には、黒苺のジャムを入れますか?紫杏姫?」

 甲斐甲斐しく、桐藤と柚葉が立ち上がって、世話を焼き始めた。

「お願いがあるの。桐藤、食べさせて」

 
これに、二の姫美加璃は驚いたが、流石に場を荒らさないようにと、口を開くのを抑えた。呆れて、鼻で笑ってしまった。

 
三の姫女美架が、なんとなく、意味を察したのか、目を丸くして、紫杏姫を見つめた。そして、柚葉にこっそりと尋ねた。

「何?」
「ああ、あーんして、の要求です」
「えー、桐藤って、聞こえた」
「・・・のようですね」
「だから、一のお姉様の同席が、だめなのね・・・」

 柚葉は、三の姫の察しの好さに、胸を撫で下ろした。

「予測しておりましたので・・・」
「女美架も我儘だけど、よその国に行ったら、こんなこと、しません・・・」
「申し訳ございません💦」
「ほんとよね・・・」
「・・・美加璃様💦」

 すかさず、その様子を見た、紫杏姫は、わざと大きな声で、三人の会話に入ってきた。

「お兄様、何を話しているの?ああ、その子は、どなたでしたっけ?私、美加璃様は、ランサムの社交界で、ご面識があるのだけど」
「そうでしたね。自己紹介の途中でした。こちらは、第三皇女 女美架姫様です。女美架姫、ご紹介しています。今」

 少し、ぎこちない笑顔で、三の姫女美架は、紫杏姫に頭を下げた。

「よろしくお願いします。短い間ですが、楽しんでいってくださいね」
「・・・貴女、水面下で、アーギュ王子と、お付き合いしてるのよね?」
「・・・えーと、CLOWN PRINCE ARGUEと聞こえたのだけど・・・?なんて、お返事したら、いいのかしら?」

 来たか・・・!!
    桐藤が、すかさず、二人の姫の間に入った。

「大丈夫です。ここは、お任せください」

 桐藤が、女美架に、首を横に振ってみせる。
 柚葉は頷き、目配せして、今度は、紫杏姫に説明する。

「違いますよ。まだ、女美架姫は、貴女と同じ齢の16歳で、しかも、社交界にもデビューしてませんからね」

 
そこまで、静観を決め込んでいた、美加璃が話し出した。

「そうよ。根も葉もない噂、どこから、そんな話を?まあ、うちの女美架は、見ての通り、可愛くて、各国の王子から引く手数多なんですのよ。南洋諸島の方からも、一通り、お声が掛かっていますもの、まあ、当たり前の事なんですけどね・・・」
「美加璃姫様、ちょっと、大事なお話ですから、ここでは・・・」
「ああ、そうねぇ、ごめんなさい。口が滑ってしまったわ」
「私、アーギュ王子から、お声掛けして頂きましたの」

 桐藤がまた、首を横に振る。柚葉は、それに目配せをする。
 三の姫女美架は、また、アーギュの名前を聴きとってしまっていた。

「?・・・柚葉?何のお話になってるの?」

 差し込むように、紫杏姫は、誇らしげに言った。

「『なんて美しい方だ』って言われたんだから・・・」

 アーギュの常套句だ。擦れ違って、多少の会話が生じた姫君に対する、社交辞令である。褒めたからと言って、個人的感情を持ったとも言えないレベルのものだ。それは、柚葉がよく理解していた。美加璃も、つい、クスクスと笑い出した。手で合図して、美加璃を留める柚葉。

「あの・・・それより、お紅茶が覚めてしまいます、頂きませんか?」

 何かを察して、女美架は、お茶を勧めた。それに合わせて、柚葉と美加璃が、更に、紫杏姫の気をテーブルに引き付けようとした。

「女美架姫が、是非、紅茶を進めておられますが」
「そうね、いただきましょう。女美架の御菓子も、美味しいのよ、どうぞ、召し上がって」

🍓🔑

「さっき、なんて、言ってたの?」
「アーギュ王子と、少し、ご面識がある、と仰られてます」
「・・・」
「心配する間柄の方では、ございません」
「うん・・・でも、きっと、紫杏姫様、女美架のこと嫌いかも・・・」
「ちょっと、勝気で、ライバル意識はあるみたいです」
「きっと、王子のことが、・・・お好きなのね」
「解りますか?次のご縁談が、一応、掛けられているそうですが、心配しないで。王子は、女美架様に決められているし、側室も持つ心算はない、と仰ってますから」
「・・・」
「ちょっと、癖のあるご性格をお持ちで・・・、我が従妹ながら、すみません」
「いえ、わかりました。仲良くする努力をします」
「申し訳ございません。ありがとうございます」

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 一方、一の姫の私室では、慈朗が、絵の具とイーゼルを持ってきていた。

「なんか、中庭では、和やかにやっているみたいですね」
「そのようですね。良かったです」
「僕、これから、紫杏姫様の絵を描きます。来皇の記念にお帰りにお渡ししようかなと思って」
「いいアイデアですね。慈朗」
「描いてみますね」

 慈朗は、鉛筆で、下書きを始めた。

「まあ、なんて、速く描けるの?それに、笑ったお顔だわ。・・・なんて、可愛らしいお姫様なのかしら。こうやって、皆様が、各国行き来して、特に御用がなくても、仲良くお忍びで、遊びに来られれば、よろしいのですよね」
「はい、本当に、そう思います」
「慈朗は、本当に優しくて、お母様が、いつも、助けて頂いています。ありがとうございます」
「いえ、そんなこと・・・、僕も、皇妃様には、お世話になっています」

🎨

 今の挨拶、おかしくなかったかな・・・?・・・って、一の姫様は、僕と皇妃様のこと、どこまで、ご存知なのかな?まあ、それは、黙っとこう。もしかしたら、大人だから、ご存知だけど、仰る必要がないから、言わないのかもしれないし。でも、会議の時に、柚葉と二の姫様のこと、あんな風に解釈したのも、なんか、ちょっと、可愛いとも思ったし・・・。桐藤が大好きで、桐藤も一の姫様が大好きで、良い感じなんだよな。

 ちょっと、気になるのが、紫杏姫様が、三の姫様に対して、ライバル意識が、確実にある感じなんだよね。三の姫様、優しいから、遣り込められないといいんだけど・・・まあ、僕の身の上に起こるようなことが起こりませんように・・・。慈朗は、色々と思い巡らしながら、絵を仕上げていく。

📚🎨

「お茶会の最後辺りに、お持ちできそうね」
「そうしようかな・・・その辺りで仕上がるように、色つけしますね」
「愉しいわ、慈朗。素晴らしい能力ですよ」
「ありがとうございます」
「ねえ、今度、桐藤と私の絵を、描いて頂けませんか?」
「勿論、いいですよ。どんなのがいいですか?」
「・・・そうですね・・・」

 あれ?真っ赤になってる。

「結婚式とも思ったのですが、赤ちゃんを抱っこした絵がいいです」

 そうだ。
 一の姫様は、桐藤との赤ちゃんを、心待ちにしてるんだったよね。

「わかりました。近い内に、きっと、描きますからね」

 慈朗には、そんな一の姫が微笑ましくも、幸せそうに見えた。


~隣国の王女⑤につづく


御相伴衆~Escorts 第一章 第九十二話 隣国の王女~白百合を摘みに⑤

 
今回も、お読み頂きまして、ありがとうございます。

 ついに、紫杏姫が、皇宮に訪れました。
 なかなかの我儘ぶりの自信家のようです。
 歳は三の姫と同じで、性格は二の姫に似ている。

 柚葉と桐藤は、この我儘な二人が揉めることなく、無事に、ここを乗り切りたいと思っている所です。


 一方、一の姫の部屋の、一の姫と慈朗。
 この部屋には、優しくて穏やかな空気が流れています。
 慈朗は、紫杏姫の絵を描くと共に、一の姫に絵を描く約束をしました。
 この話は、後に繋がってきます。
 次回以降、どんな展開になるか、お楽しみになさってください。


 
 

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