御相伴衆~Escorts 第一章 第六十三話隣国の王子編 次世代会議③
「すみません。お酒とデザートが、先にできましたので」
数馬が、苺を使ったデザートと、酒のボトルなどの乗ったワゴンを推しながら、部屋に戻ってきた。柚葉が、シャンパングラスを置いて、ドアを引き、それを迎え入れた。
数馬は、丁寧に頭を下げて、王子の前に、ワゴンを運んだ。
「イチゴのプレートです。アーギュ王子への歓待を示しております。三の姫様からということです。お召し上がりください」
アーギュ王子は、そのプレートを見るなり、穏やかに微笑んだ。
「これは、随分、可愛らしい設えですね。女美架様、ありがとうございます」
アーギュ王子は、三の姫の前に大きな身体を畳むように、跪き、挨拶をした。これには、柚葉を上回る紳士的な感じがして、一の姫は、小さく拍手をした。
三の姫は、身に覚えがないらしかったが、ここで、違うというわけにもいかない雰囲気に、困惑しながらも、ぎこちなく微笑んだ。
厨房に、策略を持ちかけたのは、第二皇妃だったらしい。
奇しくも、個人的感情に囚われることなく振る舞う、そのプレゼンを見た、桐藤は、数馬に大きな信頼と感謝を憶えた。
嘘つきにならないとね、ここでは生きていけないんだ。皆が順当とは限らない・・・
柚葉は、そう思いながら、その様子を、褪めた目で見つめた。
「ちょっと、失礼。数馬」
桐藤は席を立ち、数馬の側に行く。
「慈朗はどうした?」
「少し、絵を選ぶのに難航していて」
「洗面に立つついでに、見てくるので」
「あ・・・」
「少し、席を外しますが、」
桐藤が部屋を出ていった。
それに伴って、柚葉が、王子との話を引き継いだ。
数馬は、一の姫の隣の席に戻った。
一の姫は、すかさず、数馬に声を掛けた。
「数馬、色々と動いてくれて、助かります。本当に、ありがとうございます」
「いいえ、お役に立てて、光栄です。こんなすごい席に、俺なんかが、同席できるなんて、勿体ないですよ」
その時、ゆっくりと、柚葉が立ち上がった。
「少し、暑くありませんか?僕は、愉しくて、飲み過ぎた感じで。そこのバルコニーに出て、風に当たると気持ちいいですが・・・、王子、少し、いいですか?」
あ、柚葉が、何か、個人的に話すんだな、直感で、数馬は感じた。
「数馬、悪いですが、お姫様、お二人のお相手をお願いします」
三の姫の顔が、今日一、綻んだ。ニコニコが、止まらなくなってしまった。
「可愛い笑顔ですね。数馬殿という東国の従者は、女美架様のお気に入りみたいですね」
一同が動きを留める。
一の姫は、すんでの所で、声を上げそうになったのを抑えた。
「アーギュ、少し話したい、懐かしくて」
「わかった。旧友ですので、お姫様方、お待たせしますが。ここからは、少し、柚葉との時間に」
「5分で済みますから、お姫様方、すみません」
「ジェイス、悪いが、そこで待機していてくれ」
「はい、・・・」
柚葉が、アーギュ王子を伴って、バルコニー出た。
桐藤のいない隙に話すことって・・・。
それに、呼びつけだった。
呼びつけなんて、同格じゃなきゃできないことだよね・・・。
数馬には、それが、気になっていた。
すると、いつもの感じで、三の姫が、安心した顔つきで、数馬に駆け寄ってきた。それを、咎めるかのように、姉の一の姫も近寄ってきた。
「はあっ・・・数馬・・・緊張する、王子の側って」
「偉いよ。粗相もせずに、頑張ってるじゃないか」
「見ない振りして、見ててくれてた。嬉しい、数馬」
明らかに、困った顔で、一の姫が言った。
「お願いがあります。お姉様の言うことを聞いて、女美架。いいですか。今度、王子が戻ってからは、数馬のことは、見ちゃいけません」
「え?お姉さま、どうして?」
「王子様が主役だから、今夜は、三の姫様は、王子様を見てなきゃいけないんだ」
「そう、その通りです。数馬の言う通りですよ」
「わかりました・・・数馬、終わったら、数馬を見るからね」
「・・・え、ああ」
一の姫は、ホッと胸を撫で下ろすと、数馬に小さく目配せをした。
少し、心が痛むのが否めない・・・
でも、これが、女美架の為になるのだから・・・。
🦚🔑
「なんで、君、未だに、ここにいるんだ?」
「色々と面倒なことがあってね。なかなか、帰るタイミング逃してて・・・」
ベランダに出た、アーギュ王子は、年下の旧友の顔色を見た。
「・・・くれぐれも、スメラギを護る立場として、振る舞っていることを。これが、我が国ランサムのスタンスだ」
「勿論、そのように、考えているが・・・」
「本当か?」
「ああ」
「じゃあ、なんで、長きに渡り、源氏名のような、『柚葉』のままでいる?紫颯」
「祖国の事情も、色々とございますが故」
「もう、そろそろ、素国の王位継承権第4位は、そんなのんびりした位置づけではない筈だが」
「・・・流石、アーギュだな」
「・・・見る所に拠ると、桐藤殿は、才覚、器共に、次期皇帝とするには、相応しい力を持たれていると思われるが・・・」
「ありがたきお言葉ですよ。桐藤本人が聞いたら、死ぬ程、喜びます」
「あの金の瞳は、ランサムのものだ」
「・・・」
「見る者が見れば、判る」
柚葉は、心の中で、ランサムの王太子の指摘に、心の中で頷いた。そして、呟くように応えた。
「そうですか、・・・そうですよね」
「それより、お前の方の・・・、第二皇女様だが。素晴らしい成績で、今回の世界選手権では、各種目で、好成績を収めている。妃となった暁には、名実共に、優れたる資質にて、世界が褒め称えることだろう。万事、上手く進んでいるのではないか?」
「ご協力を頂き、誠に恐悦至極に存じます」
「完璧すぎるな」
「完璧な事など、この世には一つもありませんよ。アーギュ、僕のこと、解ってるでしょ」
「・・・さて、何の事でしょうか?」
「君だって、博愛主義者の癖して」
「ふふふ、・・・悪い癖の話ですね」
⚔🎨
相変わらず、私室で、どの絵にしようかと、悩んでいる慈朗。業を煮やした桐藤が、迎えに来た。
「慈朗」
「あ、ごめんなさい、桐藤。・・・また、ぐずぐずしてて、本当に、ごめんなさい」
「・・・また、弱虫風を吹かして。仕方ない、僕が、一緒に選ぼうか」
ああ、良かった。三の姫の絵は、片づけてきておいて。
慈朗は、すんでの所で、良い絵は隠すことが出来て、ホッとしていた。
「お前、ランサム王立に、本気で行きたいのか?」
「え、なんか、急に言われたので、驚くばかりで・・・」
「本気で行きたいなら、勝負をかけて、自分の自信のある作品を持っていけ」
「え・・・?・・・桐藤」
慈朗は、桐藤が、なかなか戻らない自分を迎えに来たにしても、怒られるに違いない、と踏んでいたので、拍子抜けしたが、更に、桐藤の、この優しい感じにも驚いた。
「と言っても、俺は、柚葉や、一の姫様のように、絵のことはよく解らないが、お前が行きたいなら、第二皇妃様に掛け合ってもいい。スメラギとランサムからの鳴りもの入りで留学すれば、特別待遇だからな。どうなんだ?」
「えー、そんなこと・・・」
「即答できないのは、当たり前だ。で、もしも、お前が、ここに残りたいなら、駄作を選べ。その時は、お前は、僕が皇帝になった時の側近だ。柚葉と数馬と慈朗、お前で、御相伴衆が、皇宮と、国の政を仕切る。これが、俺の考えだが、どちらを選ぶかは、お前の考えだ」
「うん・・・」
なんか、桐藤が大事なことを言っているのは解る。でも、僕がどこにいたいか、というのなら、ランサムではなくて、スメラギしかないと思う。桐藤の話はさておき。
・・・慈朗は、そう思いながら、1枚の絵を選んだ。
「じゃあ、これでいいかな? スケッチなんだけど、イチゴとバナナの絵」
桐藤が、笑った。珍しく、声を立てて。絵の単純さも手伝ってか。
そして、慈朗が、ランサムよりもスメラギ、そして、アーギュ王子よりも、次期皇帝の自分を選んだことが、誇らしかったのだ。
「それが、お前の答えなんだな。・・・あんなに、苛んでしまったこと、今更だが、許してくれ。・・・そうだな。絵の勉強は、スメラギでもできる。俺にできることがあったら、相談してくれ。お前にランサムに行かれたら、お妃様が狂い哭きされるだろうからな。そうなったら、叶わないので、懸命な選択だ。お前も、離れがたいだろうしな・・・」
「うん、桐藤、ありがとう・・・」
「これを見せるとなると、お前も、勇気があるな、見直したぞ」
桐藤は、慈朗の肩を叩いた。
🌟🏰🌟
桐藤が、慈朗を連れて戻った時には、それぞれが席につき、王子が、ランサムの芸能について、話を始めていた所だった。数馬の一番得意の分野で、まさに、その芸を見せたい所だが、その出自は知らせるべきではないことは、一同が判っていた。数馬の弁えの良さも、皆が周知している所なので、それぞれが、同じ熱量で、その話に対している。
「話が及ばなければ、これを見せる必要はない」
「そうなってくれた方がいいです」
「解った。このままの話で進んでいれば、問題はない」
「片づけをしています」
「その方が良さそうだな」
数馬が、二人がコソコソしてるので、察したが、内容の想像はできなかった。桐藤と慈朗が、近づいて話す姿など、見たことがなかったのだ。なんか、桐藤の指示で、ああやっているんだな、と思って、なんとなく、役割を譲り、席についていた。柚葉も、チラチラと見ていたが、桐藤と慈朗、それぞれの様子で、絵のことには触れないで行くのだ、と見抜いていた。
・・・俺だって、今、慈朗に行かれたら困る。そうしたら、二の姫に付き添う振りして、俺もランサムに行こうかな・・・
柚葉は、軽く、そんなことを考えながら、シャンパンを傾けていた。
~つづく~
みとぎやのメンバーシップ特典 第六十三話
「次世代会議③」~隣国の王子編 御相伴衆~Escorts 第一章
次回も、隣国の王子編が続きます。
いくつか、気になるポイントが出てきています。
もしも、気になったら、こちらとか、併せてご覧になっておくと、良いかもしれません。
お読み頂きまして、ありがとうございます。
次回もお楽しみになさってくださいね。
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