御相伴衆~Escorts 第二章 第132話 新天地ランサムへ3~皇帝になるためのノート①
大学生活が、無事に送れているか、進捗を伺いに、半年に一度程、揮埜中佐が訪れた。
その日は、ここに連れて来られて以来、初めて、中佐が来る日だった。何となく、美亜凛は、そわそわしていた。何よりも違うのは、台所に立っていたことだ。お抱えの消えもののスタッフがいて、テレビドラマなどで活躍している裏方の人達に、手伝って貰ってるみたいだけど・・・。
なんとなく、見に来たら、邪魔になっちゃったかな?テーブルクロスを敷いて、センターには、赤い薔薇の花が、一輪挿し。テーブルセッティングがなされた。懐かしい。昔、北の古宮で、こんな風にして、母上と、いつも、食事をしていた。
「あー、坊ちゃん、やりますからね、大丈夫ですよ」
「いいですか?・・・これ、多分、こっち向きで、順番はこれだと思いますよ」
「わあ、そうだったわ。よくご存知なのね?」
「王族の方みたいね、・・・ランサム王太子とは、お友達とか?」
「いえ、ご面識はございません」
「ねえ、すごい品がいいよね。この子、綺麗だし・・・」
「社長の遠縁の子、預かってるっていうけど・・・」
「言葉、少し訛りがあるよね」
「ランサム人じゃないよね、タレントって感じでもないしね・・・」
なんか、言われ始めたので、引っ込むことにした。スタッフは準備が終わると、帰っていった。
揮埜中佐がやってきた。少し恥ずかしそうに、これまた、赤い薔薇の花束を抱えていた。なんだ、俺を出汁にしてるんじゃないのか?だったら、様子を見て、私室へ引っ込むことにしよう。
「あ、皇子、ご無沙汰しております」
「中佐、・・・綺麗な薔薇ですね」
「お元気そうで何よりです。美亜凛は?」
「いらっしゃいますよ。お入りください」
「まぁ・・・こんなの、恥ずかしいのですが」
「いいではないですか。美亜凛、喜ばれると思いますよ」
美亜凛は、いつもブランドのスーツや、ツーピースなど、華やかではあるが、社長らしいカッチリとした服装をしている。今日は、少しだけ、ドレスダウンしているが、胸元の空いたワンピースを着ていた。あああ、やっぱり、そういうことだ。じゃ、俺は、食事が終わったら、早々に、部屋に籠るとします・・・。
「久しぶり。トーゴ、元気そうで、嬉しいわ」
「皇子の件では、感謝しています。順調そうで、何よりです。あの、これ・・・」
「あら、何かしら?」
「今日、貴女のお誕生日ですよね?おめでとう、美亜凛」
美亜凛は、本当に忘れていたのか、大袈裟ともいう程に喜んでいる様子で。
「あら、まあ、憶えてくれてたの?もう、齢なんかとらないことに、決めてるから・・・あ、でも、やっぱり、嬉しいわ、ありがとう」
「君の十八番の歌、思い出してね・・・」
「ああ、『IRON ROSE』ね・・・」
なんか、西っぽいやり取りだな。うーん、両親の仲が健在、みたいな感じなのだろうか?でも、俺ぐらいの子どもがいるご夫婦だとしたら、若いカップルの方だと思う。すごい、現役感があるなあ。関係性が、色っぽい、っていうやつだ。
料理は、コースで設えられているんだな。よし、解った。
「お給仕しますから、美亜凛は、中佐と座って、お話されてください」
「え?耀、いいの?」
「テーブルマナーと、セッティングは、皇帝一族は、熟知が必須ですから」
「まあ、じゃあ、甘えます」
「申し訳ございません。皇子」
「お任せください、お誕生日、おめでとうございます。美亜凛」
その後、三人で、ランサム料理のコースを頂いた。時折、立って、俺がサーブしながら、久しぶりに、時間を掛けた、家族水入らずの食事のようになった。
「じゃ、俺は、部屋に戻りますので・・・」
「あ、皇子、ちょっと」
「え?」
「ああ、なんか、トーゴね、大事な話があるみたいよ。耀に」
「そうなんですか?」
「皇子のお部屋で、お話させて頂いて、よろしいでしょうか?」
揮埜中佐は、持ってきたアタッシュケースを、俺の部屋で拡げた。
「これ、皇子に、お受け取り頂こう、と思いまして・・・」
「え・・・?・・・あ、ノートですね。普通の・・・、記名がありますね・・・桐藤?」
「ああ、『キリトウ』と皆、読みがちですね。この名前。ノートの持ち主なのですが、『キリト』です。この話をしている間は、美亜凛は、部屋に入ってこないように、お願いしています」
「聞かれたら、不味い事ですか?」
「まあ、そうですね」
その後、揮埜中佐は、このノートについて、語り始めた。
「スメラギの厨房の方たちは、とても、気が良い方です。ご存知ですか?」
「ああ、あまり、接触しないうちに、こちらへ、来たものですから・・・」
「とても、信頼できる方たちですので、皇子、覚えておいてくださいね。その中のお一人の方が、このノートを持っていて、先日、私に渡してくださいました」
「はい・・・」
「その方が、どうして、このノートを持っていたか、そこから、お話させて頂きますね。実は、これからのお話は、皇子には伏せられてきた事ばかりになると思います。でも、これが皇宮の真実であり、知って頂くことにより、今後のスメラギ皇国の為になると思い、今日は、思いきって、お話させて頂くつもりで参りました」
「その方は、次世代の皇帝候補だ、ということですか?」
「だった、というのが、正確な所です」
「だった、って・・・まさか・・・」
「お察し頂けたらと思います。私が、今、この話をしようと思った、一つの理由としまして、今、皇子がスメラギを、お出になっているからです。皇宮の中では、一切、お話できない内容になります・・・つまり、このノートが、貴方の手に渡っているということですから・・・」
「この桐藤という方は・・・」
「既に、・・・亡くなられておられます」
これは・・・、いつか、聞かなければならなかった話なのだろうな。
・・・俺が、北の古宮に行く事になったのは、本当の父親が、東国人だったからだ。それが原因で、皇帝陛下は、母上と、俺の存在が許せなかったから。それは、先日、実の父に会ったから、事実として、捉えることができた。
では、その、俺が、北の古宮に、母上といた間、皇宮では、何が起こっていたのか・・・。
父上が亡くなり、母上と俺が、皇宮に戻され、その後、俺を庇った、数馬や慈朗が酷いことをさせられて・・・、ついには、俺も同じ道を辿った・・・。俺と入れ違いに、北の古宮に幽閉された、三人の腹違いの姉と妹、噂には聞かさせていたが、顔を見たこともない。きっと、彼女たちは、俺の存在も知らないままなのかもしれない。・・・彼女たちは、無事なのだろうか?
そして、桐藤という、次世代の皇帝候補だった人の・・・。彼は、もう、この世にいない。考えるに、俺が、皇宮に戻ったから、なのではないのか?
「恐らく、命を狙われると思います」
俺は、ノートを見つめた。それは、使い込まれたものだった。
~次回、「皇帝になるためのノート②」につづく
御相伴衆~Escorts 第二章 第132話
新天地ランサムへ3~皇帝になるためのノート①
お読み頂きまして、ありがとうございます。
亡くなった桐藤の存在が、耀の中に、立ち上がってくる形に・・・。
この日を境に、皇宮に居る時よりも、耀にとっては、スメラギ皇国を思う日々が始まったのかもしれません。
次回は、この話の続きとなります。お楽しみになさってください。
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