御相伴衆~Escorts 第一章 第六回 慈朗編② 天国と地獄①~僕は『大人』になった
部屋に戻ると、やはり、三人の女の人が待っていた。
「多分、こちらで見る限り、合格だから、綺麗にしてやってね。髪も整えて、爪を切ってあげて、後、足元が、まだ汚れがね、それは、後程、手入れに行きますから。よろしくね。月」
「解りました。維羅先生、」
「維羅先生、・・・どうだったの?」
「どうもしないわ、お務めを、しっかりしてね」
維羅は、そういうと、その月という女の人に、耳打ちをしてから、僕に微笑んで、ドアを閉めた。もう、会えないのかな・・・。
「あらあ、良かったねえ、先生に好くして貰ったんだね、その感じだと」
「ちょっと、感じ変わったかな?っていうか、やっぱり、お前、綺麗な子ねえ」
「やめなさい、お前たち。私は、月(ルナ)といいます。今後、お前が、お妃様に認められたら、私達で、大切な席の時の、設えもさせてもらいますからね。さて、どうしようかな?」
「髪をまず、切ったら、イメージが湧くと思う。この子、綺麗な褐色だね。瞳の色と同じね。任せて」
一人の女が、僕を鏡の前に座らせる。もう、構われるのは、仕方ない。僕の仕事。僕の仕事って、あれ、ああいうの・・・。それが、頭の中を、ずっと、過っている。あっと言う間に、伸び放題の髪が切られて、櫛で梳かされている。女の人がするみたいなことだ。髪の毛は、ぐしゃぐしゃに絡んでいたのが、自分でも、嘘みたいに、切り揃えられて、サラサラという感じになった。本当に、女の人の髪の毛みたいになった。
「いいでしょ。可愛い。皇子様みたいだよ」
「これは、西の感じね。白いブラウス、前に、ヒラヒラついたの、ほら、胸のカットの深いやつね」
「これかな?」
「はい、着てご覧」
ブラウスを着せられると、女たちの目の色が変わる。その後に、いい匂いの何かを、身体に着けられた。香水ってやつかな。白い長いズボンを履かされた。半ズボンしか履いたことがなかったから、不思議な感じがした。
「香水は、カサブランカ、似合うね。シャンプー類も一緒だから、在庫を、上のお風呂に上げて置かないとね」
「足元ね、ちょっと、ね、爪は切らないとね、はい、ここに脚上げて」
「本当だね、裸足で過ごしてた時間が、長かったんだろうね」
「ここで、ベッドで過ごして、手入れし続けて、あんまり歩かなきゃ、赤ちゃんみたいな足裏になれるよ」
「知ってる?柚葉様の足裏、綺麗なんですって」
「誰情報?」
「上の子たちが言ってたよ。プールがどうのって」
「いいなあ、上の子たち・・・」
「また、余計なお喋りして。次は手の爪ね。あああ、この子、指が長くて、綺麗だから、爪は調えて、磨いてやって」
「いいわね、大変身だよ、お前。じゃあ、ここからは、私の担当」
「慈朗、っていうのよね」
「いい名前だから、それも変えられないんじゃない」
「さあ、できたよ。鏡で、自分を見てご覧」
自分が、自分じゃない感じになっていた。クスクスと、女たちは笑っている。色々と言われてるが、褒められているのは、少しわかった。最初に裸にされた時よりも、皆、優しくなってる。
「お化粧なしで、ここまで行けるの、すごくない?」
「本当、綺麗な子・・・桐藤様、柚葉様に負けてないかも・・・」
「やったわ、ご褒美、ご褒美」
「その、ちょっと、寂しそうに下向いたり、怯えた感じが、この服装と合ってるから」
「まあ・・・、本当に、変身したのね。じゃあ、足先の事は、今後も、私たちが、面倒見に行くとして、ではね、お待ちかねなので、おいで」
月は、僕の手を引いて、また、その奥の扉を開けた。すると、そこにエレベーターがあり、月にまた、手を引かれて、それに乗り込んだ。上に上がっていく。止まった所で降りると、そこは、更に、明るい場所、―――皇宮だった。
「あ、あの、・・・」
「どうしたの?何か?」
「・・・何でも・・・ないです」
「そう・・・、さて、この先のお部屋に、スメラギ第二皇妃美蘭様がいらっしゃいます。お前を見て頂くのですよ。お妃様の言うことを聞いて、受け答え、必要なことを為すこと、わかった?・・・できなかったら、どんな目に遭うか。お前は、周りの子たちよりも、少し、幼くて、可愛い。それがいい所だから、教えて頂きながら、言う通りにすれば、大丈夫。だから、頑張るんだよ・・・お返事は?まず、それで黙っていては、ダメよ」
「・・・はい」
大きな扉を月が開けると、僕は、背を押されて、中に入れられた。
「振り向いてはダメ。行きなさい。じゃあね」
扉の締まる音の後に、鍵のかかる音がした。顔を上げると、大きな部屋の奥に、大きな椅子があった。ベッドみたいな、大きな椅子だ。そこの真ん中に、一人の女性が座っている。目に入ったのは、・・・つい、維羅のことを思い出してしまった。
「おやおや、人を見る時は、まず、顔を見なきゃね・・・でもね、ここでは、それでも、構わない。そんなのも、大歓迎だよ・・・私も、お前の顔が見たいわ。こっちにおいで」
その時、横から、また、先程の月が現れ、その女性に、耳打ちした。
「大丈夫よ、そんなことは。こんなに、綺麗にして貰ってるならね・・・、それも一興」
脚のことかな?改めて、自分の手足を見た。足の爪と、手の爪は切られて、何か擦られて、ピカピカになっている。確かに、綺麗だけど、女の人みたいだ。
「ふふん、ぐずぐずしないで、来なさい。名前は?」
「あ・・・はい・・・慈朗です」
『・・・これが、貴方のお仕事です。慈朗』
維羅の言った言葉が、頭の中でグルグルと回った。
「私の顔を見て」
「はい・・・」
綺麗な人だ。お母さんより、若い女の人。さっきの維羅や、連れてきてくれた月よりは、齢が上の感じ。身体が大きくて、つい、その人の薄布の間から見える、胸元に目が行ってしまう・・・
「立ったままで、礼儀知らずねえ、まあいいでしょう。何も知らないようだね。お前は・・・さあ、私の隣に座りなさい」
「はい」
言われた通りにしなきゃ、と、思って、慌てて、その人の隣に座る。
聞いたことのない声、なんだろう、猫の鳴き声に似ている気がした。
「先程、維羅に教えてもらったんだね。聞いたね。お前のお役目については」
「あ・・・はい・・・」
「きっと、維羅は賢いから、最低限度のことしか、お前に施してない筈だからね。私の為に。じゃあ、ここからは、維羅との続き。私は、スメラギ第二皇妃美蘭。お妃様とか、美蘭様とか、下の者は呼んでいる。そこからね。さあ、私を呼んでご覧」
「はい、・・・お妃様」
「いい子ね。抱っこしましょうか。おいで」
抱っこ、って、あの抱っこ?小さい時にしてもらったやつ?
「遠慮しなくていいんだよ。お前は、ここが、大好きらしいから、顔を埋めてご覧。あったかくしてあげようね」
お妃様、は、僕の頭を軽く撫でて、もう片方の手で、身体を抱き寄せた。さっきの維羅との事を、また、思い出す。袷から見える、白い肌の大きな胸元が、頬に当たる。
「膝に座って、腕を私の手に回して、そう、上手ね。身体にすっと馴染んで。・・・お前、筋がいいわね。・・ちょっと・・・」
最後の「ちょっと」という、少し強めの、お妃様の声が、僕の頭越しに響いた。すると、また、先程の月が来た。
「この子の家に男爵の爵位を。家を一等地の端に設え、毎月の給金は契約の倍。それと、この子を見つけ、連れてきたものから、ここまでの設えをした者に、規定の倍の褒美を」
「わかりました」
月が去るとすぐ、部屋の外の方から、ざわざわと、沢山の人の声がした。来た時には、誰もいなかったのに。
「ようこそ、慈朗。これで、お前も、お前の家族も安泰だよ。でもね、お前が、少しでも、私の言うことが聞けなかった時には、その時には、同様に、罰というものもあるのだからね。よく、心得ておくように、お返事は?」「・・・はい・・・」
「そう、いい子ね」
何か、すごいことを言っていた。家が何とか・・・って。給金が倍、っていうのは、解ったけど。・・・つまり、僕は、認められて、お父さんや、お母さんが助かるってこと?なんとなく、ギュッと、この人・・・お妃様に、しがみ付いてしまった。
「うふふ、そう、いい子ね。私を求めて頂戴。上手だわ。そんなにしがみついて。嬉しいこと。軽いのね。まだ、私でも、抱き上げられる程ね。よいしょ、こちらに参りましょうか」
お妃様が立ち上がると、やっぱり、大きい体つきの女の人だと改めて思った。お母さんに、そんな風にして貰ったのは、うんと小さい時しかない。落ちないようにしがみ付いたまま、僕は、偉いお妃様という人に抱っこされて、運ばれている。いいのかな、こんなので。
「まあね、言うことを聞いていてくれさえすれば、お前を、可愛がってあげられるから」
「抱っこしなくても、歩けます。ごめんなさい・・・」
「・・・うふ、・・・お前、そんなこと、・・・天使みたいな子ね♡ 着いたわよ。ああ、力抜いて、下りてご覧、ん?・・・そんなに、お妃様のこと、気に入ってくれたのかしら?」
優しい、でも、猫みたいな声。甘い匂い。さっき、僕につけられたのより、強い匂い。
「横におなり。疲れただろう?添い寝してあげるから。はい、私の横に」
スッと言われるままに、懐に入る。目の前に、維羅のより、大きな胸があった。
「・・・さあ、維羅にしたように、してご覧」
「・・・いいんですか?」
「いいのよ」
何か、解らないけど、目が熱くなってきた。涙が溢れてきた。あったかい。お妃様は、優しい顔で、微笑んでくれた。頭を撫でてくれた。そうしながら、綺麗な水色の上着の袷を開いた。
「はい、どうぞ、お好きに」
頭の中が真っ白になった。柔らかい膨らみを掴んで、気づいたら、維羅にしたように・・・
「そう、寂しかったんだね、お前。いいから、これからは、私がいっぱい、愛してあげるからね。いい子・・・もう、何も心配しないでいいからね・・・」
これで、僕は、お妃様付きというのになった。
その夜の内に、お妃様の元で、僕は「大人」になった。
~慈朗編③に続く~
みとぎやの小説・メンバーシップ特典 御相伴衆~Escorts 第一章 第六回
慈朗編② 天国と地獄①~僕は『大人』になった
タイトルがやたら、長いですね。すみません。
慈朗は、その実、天性の天使の質があるのですよね。
それは「スラムの灯」の中に描かれている、素敵な祖父母の質を引き継いでおり、そして、恐らく、若かりし頃のミツルギの容姿や、雰囲気を生き写しにしているようなのですね。皮肉にも、その時に、祖父ミツルギがつぶやいていたこと、「子どもが皇宮に・・・」ということが、孫の慈朗に起こってしまいました。
慈朗の、愛情に飢えたその全てを、皇妃は埋めていくことになります。
慈朗にとって、この立場が、必ずしも、不幸と言い切れないかもしれませんね。次回も、慈朗編が続きます。
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