御相伴衆~Escorts 第一章 第七十九話暗澹たる日々⑨「西のお城へ2」
車は動き出し、スヴェル湖に向かって、走り出した。
・・・、あ、暁が向こうに、代わりに、王子がきちゃった・・・
お腹痛いの、少し、収まってきた・・・
あれ、王子、背を屈めてないかな?
・・・とても、窮屈なのではないかしら?
「スメラギの車は、小さいですか?ランサムのお車、大きかったですものね」
「ははは、僕が乗ると、狭そうに見えますか?・・・それにしても、どうして、下りてこられなかったんですか」
「あ・・・」
渦が、あのシャッターを降ろし始めた。頼んでないのに。
「どうしました?」
「シャッター・・・」
「ああ、景色が見えませんね。でも、横の窓から見れますよ」
「・・・そうですね」
アーギュ王子は、女美架姫の気持を、まず、推し量っていた。
恐らく、ごねて、下りてこられなかったに違いない。暁の困っている姿を見て、想像がついていた。
「いいですよ。貴女が来られない時は、僕が傍に行けば良いのです」
あ、お電話の声と、やっぱり、ちょっと違う。少し、また、・・・お腹痛い。
「お加減が悪いとか?」
「大丈夫です。緊張して、お腹痛くなるのに、なってしまって」
「・・・そうですか。緊張するんですね。・・・でも、お話してたら、楽になりませんか?」
「あ、少し、・・・大丈夫になってきたかも・・・です」
本当は、もう少し、なんだけど・・・
「まだ、今日、お会いして、私の顔、見て頂けてないようですが」
「・・・えっと」
「怖いですか?」
姫は、首を横に振る。
「ならば、良かったです」
「・・・」
「お話しづらいようでしたら、私の話を聞いて頂けますか?」
「はい、ごめんなさい」
「謝ることは、ないですよ」
「・・・」
「・・・はあ、全部、私の所為ですね。申し訳なかったです。気にされてるのは、あの時のことでしょう?」
「えっと・・・」
「いいですよ。貴女のような、純粋なお姫様にはね、驚かれても、無理はないですからね。悪いのは、全部、私の方ですから・・・」
「・・・なんか、本当に起こってることなのか、解らなくなってしまって。『恋物』のことが、本当に起こると、大変なことになるって」
「capacity over だったのですね?」
「あ、ランサム語」
「ああ、初めて、目を見てくださいましたね。これで、安心しました。ふふふ、そうですよ。私は、ランサム人ですからね」
「・・・どんな意味ですか?」
「そうですね。許容量を超えてしまった、ということでしょうか?」
「・・・あの、お電話とかも、お声だけなので、・・・ちょっと、違う風に聞こえるでしょう?あれって」
「そうですね、そうかもしれませんね」
「お芝居みたいで」
「・・・成程、そういう風にお感じにね。本当に、お姫様なんですね。貴女は」
「・・・なんか、こんな風なの、全部、初めてだったから・・・」
「良かった。嫌われてしまったのではないのですね・・・はあ」
「王子は、心配してたのですか?」
「もう、それは、それは、心配で、大変でしたよ。顔では、笑っていましたが。今のようにね。一応、大人ですからね。まあ、これでも、一国の王子ですしね。でもね、心の中は、もう、どうしようかとね。もしも、貴女に嫌われたら、お腹痛い、どころの話じゃありませんよ」
「戦争、起きますか?」
「クスクス・・・、戦争は起きませんが、そうですねえ。瀕死の重症で、何か月も入院します。もし、フラれてしまったら、回復できなくなるかもしれません」
「・・・嘘ぉ・・・」
姫は、両手で口元を隠して、驚いている。
「はあ、大丈夫です。今となっては、そんな心配は要りません。やはり、貴女は、貴女なのですね。良かったです。あ、先導の車が、停まりましたね。ああ、綺麗な湖ですね」
「スヴェル湖です。小さな湖ですが、水鳥が来たり、蓮の花が咲いたり・・・」
「そうですか。蓮は、初夏の頃でしょうかね・・・」
車はゆっくり停まり、渦が降りて、ドアを開けにきた。
「どうぞ、姫、王子様、お降りください。着きました」
「渦、ありがと」
「おやおや、ご機嫌、直られましたか。さすが、王子様ですね」
「いえいえ、そんなことはございません」
「・・・まあ、多少、我儘ございますが、王子様ご自身が、どうやら、良いお薬のようですね。ああ、独り言でございます。失礼致しました。私は、こちらで待機致しますので」
「渦も、サンドイッチ」
「それは、別の設えがされてますから、ご心配ありませんよ。姫様」
「お優しいですね。姫は」
「え?」
「仕えてくれているものに、気遣いをされるのは、とても、ご立派なことですよ」
「・・・ううん、多分、そんなに、偉いことじゃないの」
「そうなんですか?」
「でも、渦とは、ピクニックランチ、ご一緒したら、きっと、楽しいと思うから」
「好々爺然として、温かい人物ですね。解りますよ。そのうち、側近の者たちを含めての労いの会もいいですね」
「ちょっと、違うの。でも、近いです」
「ああ、なんか、解りますよ。公式でないという感じかな?」
「そうです」
「それは、尚のこと、開かれた感じで、いいですね」
車を降りながら、王子と姫が話しているのが見えた、ジェイスと暁は、その少し後ろから、ついていく。
湖のほとり、絶景ポイントでもある丘の上で、給仕係たちが、ランチの準備をしている。女美架姫は、月の姿見つけて、嬉しくなった。
「わあ、月も来たの?」
「はい、今日はまた、とても、可愛らしいドレスで、あ、失礼致しました」
月が、王子と目が合い、恭しく、頭を下げる。続いて、一同が、同じ挨拶をした。王子は、頷き、軽く会釈し、微笑んだ。
「・・・」
「どうしました?女美架様」
「アーギュ王子が、早く、皆と話すようになれればいいのに」
すると、アーギュ王子は、女美架姫の耳元で、囁くように言った。
「そうですね。・・・それならば、もっと、お会いしないとなりませんね」「あ、こそこそ・・・」
「なんですか?こそこそ、って?」
「内緒ですか?」
「でもないですが、・・・まあ、いいでしょう」
パラソルのついた、テーブル席には、ティーセットと、サンドイッチが用意されている。
「ここがいいです。一番、湖の景色が、よく見えるお席です」
「ここ、私が座ってもいいんですか?では、お言葉に甘えて」
姫が上手く、王子を案内しているのを確認すると、暁はホッとしていた。
ジェイスが、そんな暁の様子を察したのか、声をかけた。
「無邪気で、お優しい姫様なのですね。女美架姫様は」
「・・・幼いのが、ちょっとね、心配になりますが」
「恐らく、その辺りは、王子の気に留める所ではないようですよ」
ジェイスの言葉に、暁は、ますます、安心した面持ちになった。
「あの、何か、王子は、姫様のこと、何か、仰ってたりすることは・・・?」
「ご心配ですよね?よくわかります。まずは、お気に入られてるご様子ですよ」
「ああ、良かったです・・・」
「ですが、ここだけの話にしてください。正式には、その時になりましょうから」
「そうですね・・・」
話しながら、ジェイスは、暁の後ろのテーブルにあるサンドイッチに目を止めた。
「サンドイッチ、彩良く、美味しそうですね」
「実は、皆様の分もございますから、後程、お二人がお部屋に入られたら、召し上がって頂こうと思いましてね」
「ああ、そうなのですか。楽しみです」
暁は、ふと、ジェイスの顔を見つめる。
「朝、お食事、取られてきてないのではないですか?」
「は、・・・なんで、それを?実は、・・・取り急ぎ、国内での仕事を済ませてまいりましたので」
「これね、この小さいの、飴包みの一口サイズです。姫のおやつなのですよ。お分けしましょうか」
「今ですか?」
「大丈夫です。持ってきていると、伝えておりませんから、後ろを向いて、お口に一つ、二つ入れたら、ばれませんよ、背がお高いから、パラソルの影でどうぞ、ばれませんよ」
暁は、そう言って、そっと、飴包みのサンドイッチを2つばかり、ジェイスに手渡した。
「え、ああ、嬉しいです。フルーツですね、これは、貴女が?」
「お口に合えば、嬉しいのですが」
「遠慮なく、頂きます・・・菓子舗のような、優しい味ですね。懐かしい感じです」
「さて、そろそろ、あちらにもお出ししなければ、お毒味も済みましたしね」
「毒だなんて・・・」
「もし、聞き咎められたら、そう仰ればいい、と思いまして」
「ああ、お気遣いありがとうございます」
その時、少し、心許なかった女美架姫は、そんな、暁たちの動きを見ていた。そして、何かに気づき、王子に伝えていた。
「なんか、・・・ジェイスさん、暁と話してるみたい。あ、食べてる」
「えっ?ジェイスがですか、何、やってるんでしょう?私からは、見えませんが」
「暁、あげたのかな・・・あーんして、みたい」
「え?」
「あ、ねえ、王子、怒らないであげてくださいね。実は仲良しになったのかも?」
「・・・それは、ないでしょうね」
「どうして?」
「それは、うん、・・・ないと思いますよ」
少し経つと、サンドイッチを設えて、暁がワゴンを押して、王子と姫のテーブルにやってきた。
「はい、お待たせしました。フルーツサンドです。甘いものが苦手ならば、こちらにも、普通のものも、ございますから。どうぞ、お召し上がりください」
姫は、興味津々で、暁に尋ねた。
「ねえ、暁、さっき、ジェイスさん、あーんして、してたの?」
「何のことですか?」
「食べてたでしょ?」
「ああ、アーギュ王子様、申し訳ございません。実は、お毒味をお願いしたのですよ」
「そんな、それは、毒味などと、そんなことを、ジェイスが・・・それでは、却って、暁殿に、気を遣わせてしまったのでは?」
三の姫は、アーギュ王子に、すかさず、言った。
「だから、王子、怒らないでください。きっと、食べたかったのよ」
「クスクス・・・、実はですね。朝御飯、ご多忙でとれなかったそうで、私が差し上げました」
「ほらね。そうでしょう?」
「へえ・・・急ぎの用事を抱えていたから、そうだったのでしょう。暁殿、ジェイスにまで、お気づかい、ありがとうございます」
暁は、王子の言葉を受け、丁寧に跪いて、頭を下げた。
「僭越ですが、どうか、ジェイス様にも、お咎め無き用に」
「解りました。大丈夫です。暁殿、お立ち下さい。もしよければ、皆も、同様に食事にしてもらうように伝えてもらえますか?」
「王子・・・♡・・・わあ、いいのですか?」
「女美架姫様からのお心遣いということで、お願いします」
「王子のです」
暁は、二人が口々に言う様子に、微笑んだ。
「はいはい、わかりました。では、皆様にランチボックスをお配りしますので」
暁は、元に戻り、ジェイスに、事の顛末を伝えた。
そして、ジェイスが、周囲の警備の者たちに、大きな声で伝えた。
「アーギュ王子、女美架姫様より、皆も同様に昼食をとるようにと、ご許可が出ました。配置の場所のままですが、ランチボックスをお渡しに参ります」
護衛を含めて、総員から、声が上がった。暁が月を伴って、ランチボックスを配って歩いた。給仕係が、急ぎ、携帯コンロで、追加でお湯を沸かし、紙コップではあるが、紅茶を配って回った。
「やられましたね。公式ではない、皆でランチ、実現しましたね」
「うふー。嬉しいです」
「貴女は、本当に、お優しい方だ。もう少し、何度かお会いして、世界のお話、貴女のこのスメラギという国と、私のランサムという国のことも含めて、お話ししたいと思いますが、いかがですか?」
「えーと・・・難しそうですね・・・あ、イチゴサンド、姫の差し上げますから、包みを剥きますね」
「イチゴの世界有数の産地はどこか、ご存知ですか?」
「東国?」
「正解です。品種改良が上手な、器用な国ですね。小さい島国ですが、頭の良い国で、国土が小さく、原資は少ないですが、知恵で勝負している国です」
「これ、その東国産のハニーベリーです。最近の甘くて大きい新種、取り寄せてもらいました」
ふーん、『東国』に、反応しなかったな・・・。
王子は、女美架姫の顔色を見る。サンドイッチの飴包みを半分解いて、渡してきた。
随分、リラックスされて来られて、良かった・・・。
「ああ、ありがとうございます」
「王子、難しいお話は、後でも、いいですか?」
「いいですよ。あ、美味しいです。クリームとイチゴが、絶妙ですね」
「でしょ?暁の味付けを、厨房の人が作ったの」
「それは、暁殿は、優秀なシェフですね」
「・・・ジェイスさん」
「ジェイスでいいですよ。その方が、本人も気楽です。ジェイスが、どうしました?」
「暁のことが、好きなんじゃないかしら?」
「は?」
「だって、ずっと、ご一緒だし」
「・・・それは、短絡的ですね。違うと思いますよ。それと、人の事は、人に任せるのが一番ですよ。それより・・・」
「うーん、これは、姫の勘なの。皇宮の人達のこういうの、わかっちゃって、後で結婚した人たちがいて、皆にびっくりされるけど、姫には感じるから」
「ほお、じゃあ、もし、そうだとしたら、温かく、見守っていかねばなりませんね」
王子は、流石に、これは、夢見がちな姫の思い込みだと思った。
あの堅物で、これまで、浮いた話の一つもない、ジェイスに、そんなことはないだろうなと思った。
でも、悪くないな。暁殿ぐらいの気配りと、仕事ぶりの器量があれば、働き者のカップルになるかもしれないが、・・・ないだろうな。組み合わせは、いいかもしれないけど。姫は、人を見る目はお有りだと、王子は思った。
~暗澹たる日々⓾につづく~
みとぎやのメンバーシップ特典 第七十九話 暗澹たる日々⑨
「西のお城へ2」 御相伴衆~Escorts 第一章
女美架姫は、アーギュ王子のことを考えるよりも、周りのお付きの者に意識が行ってますね。これは楽だからなのでしょうけど、・・・しかも、あることに気づいてしまった✨✨
アーギュ王子から見ると、浮いた噂が今まで一つもない、女性と並んで歩くなど、想像のつかないジェイスが?・・・という感じのようですね。
ジェイスの空腹も手伝って、皇子と姫は、結局、お付きの者たちと一緒に、ランチを取ることにしました。
これは女美架姫らしく、基本、鷹揚なアーギュ王子も意見を受け入れるという、私の大好きな件です。
この女美架姫の感覚は、実は、父、不羅仁皇帝の優しい性格から来ているものでしょう。
姫の心は、皇帝一族として、民を思う気持ちに溢れています。
今回も、お読み頂きまして、ありがとうございます。
次回をお楽しみになさってくださいね。
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