御相伴衆~Escorts 第一章 第八十二話 暗澹たる日々⑫「西のお城にて3(アーギュ・女美架side)3」
女美架姫は、ゆっくり、アーギュ王子の頭に手を置いた。
「え?・・・あ・・・」
「心配しないで、女美架、嫌いにならないですから」
「ふふふ、それで、頭、撫でてくださるのですか?」
「おかしいですか?」
「お優しいのですね・・・つくづく、自分が情けなくなります」
「?・・・王子でも、そんなことあるんですか?」
「ありますよ。最近は、特にね」
「・・・そうなんですか」
「随分、気弱になりましたね・・・はあ」
そういうと、アーギュは、女美架の隣に、並んで、仰臥する。
重なるその記憶は、嫌が応にも浮かび上がる。それは、仕方ないけど、・・・
囚われちゃ、だめなんだ・・・
「正直に、愚かな私の気持を、口にしておこうかと思います。それで、貴女に嫌われるなら、それだけのお出会いだったのだと思います」
「アーギュ王子・・・?」
「ああ、そうだ。天井のライト、動かしてみましょうか。このまま、横になったまま、お話ししましょう。起き上がらなくていいですよ」
王子がリモコンのスイッチを入れると、綺麗な絵柄が、天井を駆け巡る。
よく見ると、スメラギの建国時の出来事が、お伽噺の形で、スライド状に移り変わっていく様を示している。
女美架は、昔、父皇帝と、これを、ここで見たことを思い出した。
「ぼかしてもね、仕方ないので。東国の彼が、貴女の中で、強く楔を打っているのがね、あの会で、解ってからね・・・そのことに気づいてからは、貴女を見ているのと同じぐらい、彼の動きをマークしている、自分に気づきました」
数馬のこと?
「ええ、早くから、知ってましたよ。彼が貴女の恋人なのは、貴女が彼に駆け寄ってきた時に、もう解りました。確信をしたのは、彼が、あの時、私と貴女との間から、身を引くように離れた時でした」
「・・・」
「いいですよ。泣いて下さい。困ることを申し上げていますからね。私も困るんです。貴女に戻られてしまったら、・・・でも、今夜、これを抱えたまま、また、貴女と・・・というのは、あの東屋での戯れの域を超えなくなります。そしたら、本当に、私は愚かな男になり下がってしまう・・・」
「なんか、お気に入り、とか、仰ってたから、ちょっと、バレてたのかなって」
「バレてましたよ。皆さんの顔色も変わりましたよね」
「・・・そうだったんですね」
「一番、上手いのは彼でした。というか、上手すぎて、とても、カッコよくて、二枚目でした。勝てないな、と思いましたよ。堂に行っていて・・・そうですね。彼は、本業は、役者だそうですね。流石です」
「あの、ごめんなさい。王子が話してくれたから、数馬のこと、姫が言ってもいいですか?」
「・・・どうぞ」
「数馬は、姫付きで、『ご指南役』でした。王子と、今みたいにお会いして、びっくりしないで、お相手できるようにする為に、教えてくれた人です」
「はい」
「だから、感謝しています。もう、今は、姫はそれだけです」
「女美架様」
「王子が、言ってくださったから、女美架も言いますけど、この間の東屋のことは、数馬とのことがなかったら、女美架はびっくりして泣いて、大騒ぎして、今頃、スメラギとランサムは、・・・ほら、あの、槍持ってる兵士の絵の所、ああいう風に戦争になってたかもしれないから」
「・・・まあ、それは大袈裟に言ったまでなんですけどね・・・」
「スメラギは、ランサムと、国交がなくなってしまうかも」
「・・・それも、言い過ぎかなあ・・・クスクス」
女美架は、起き上がって、アーギュを見降ろした。アーギュも、女美架の頭を撫でながら、その身を起こした。
「それです。猛省しました」
「東屋のことですか?」
「酷い男でしょう?・・・本当に、貴女の方で、ご準備頂いてなかったら、というのもありましたが、というか、これは今後の為、言わない方がいいのかな?」
「なんですか?もう、大丈夫ですから」
「悪い癖なのですよ。それにね、妬きもちのスパイスが加わっていたのでね、あの場所で、あそこまでするつもりはなかったのに、随分、追い詰めてしまったなと」
「・・・?」
「あ、解りにくいですよね?」
「・・・ん、半分ぐらい、解ります。あの日、王子は妬きもちを焼いたの?」
「彼は『ご指南役』ですからね、それに、貴女はあの日、騙し討ちにあってるでしょ。お身内から。だから、貴女には『隠す』という演技を要求できなかったのですよ。皆様も」
「あああ」
「ちょっと、下手ですね。桐藤殿は。せめて、数馬殿をあの場に出さなければ、よかったのに・・・」
女美架は思い出したように、小さな声で、王子に言った。
「ああ・・・多分、女美架がごねるからだと思います」
「はあ・・・言いますね」
「あ、・・・王子、怒らないで」
「また、悪い癖が出ますよ」
「・・・それって?」
「聞くんですか?・・・わざと、そういう振りをなさってませんか?また」
「あああ、子どもっぽいこと、また・・・」
「それが、確信犯に見えるんですよ。貴女は、ご自分がどれだけ、女性として、魅力的で優秀か、それすらも相俟っていて。貴女に恋をした男なら、すぐ、そのことに気づきますから。・・・貴女の女性としての感覚の鋭さは、ご自分でもお解りになられていたのではないですか?」
「・・・女美架はおかしくなったのだと、あの日、思いましたもの。それのことですか?」
「大人は、それを、それぞれ秘めて、逢瀬を重ねます。時折、御互いのそれに含みを入れて、愛の言葉として伝えあいます。次のデートに繋げる為にね」
「えーと、・・・やっぱり、女美架はまだ・・・」
「そうでないと困ります。もしも、貴女が確信犯で、随分な煽り上手だったとしたら。今日も混乱していましたよ。その可愛らしいナイトウエアのことや、脚を絡めて身体に飛びついて来られた事もね。貴女は、どちらなのかと。・・・東屋での、可愛らしすぎる、悩ましい貴女のことと重ね合わせると、解らなくなりました。私の意地悪に、想像以上の反応で、惹き上がって、上手く行きすぎて。勘ぐってしまったんですよ。未だに、数馬殿とも・・・」
女美架の視界のアーギュが、たちまち、ぼやけてきた。
ぽろぽろと、頬に涙が伝った。
「酷い、・・・そんな風に見ていたのですか?女美架のこと・・・あ・・・」
「・・・!」
「ごめんなさい・・・」
「本当ですか?・・・今の、お気持ちは」
「だって、姫はもう、一生懸命、メールにもお答えしようとして、こんなに、王子の為に考えて、お勉強嫌いなのに、ランサム語できたら、悦んでくださるかと思っていたのに、会ったら、緊張して、お腹痛くなるぐらいなのに、・・・、そんなこと思われていたとしたら、今度は、姫が入院します」
アーギュは、安堵に満ちた微笑みで、女美架の肩を抱いた。
「・・・杞憂だったのですね、東屋で、私は強引だったと思い直してたのですけど、・・・」
「・・・ダメだと思ってたの、そんなになっちゃ。でも、とまらなかった。女美架ね、あの時、王子の方に引っ張られて行ったの。狡いことされてるの、解ってたんだけど、王子、入院しないでください。女美架は、ちゃんと・・・好くなってたから。後でそれが解ったの」
・・・すみません。
仕掛け通り、嵌まられていたと。
お薬が効いていたのだと。
身体に心が追いついていたのだと。
やっぱり、私は悪いことをしたんですね。
また、無邪気な唇から、そんなことまで、言わせてしまった。
「ちゃんと、女美架、王子のこと、好きになっていますから」
「・・・ありがとうございます」
「『恋物』より、難しいですね・・・本当にするのって」
「そうですよ。どんなお話より、先が読めない、大変なものです。ルールブックもありませんからね。・・・ああ、姫」
「はい」
「これからも、不安になったら、このように、話し合いをしましょう。疑って、すみませんでした」
「ううん、大丈夫です。ああ、そうだった、姫もね、図鑑のお写真見た時」
「あ、メールのですか?」
「お洋服がはだけてたんで、女の人に写真撮って貰ったのかなって」
「え?ああ、あれは、朝、出掛けに、急いでいた時に、思い出して、ジェイスに撮って貰ったものです。着替えていたら、ジェイスが、それを持ってきてくれたのでね。ちょっと、見せて貰っていいですか?確認もせずに、送信ボタンを押してしまって・・・」
「えっと、この写真・・・」
「あああ、これはいけませんね。勘違いもしますね。ジェイスはセンスがないですね。すみません」
「わざと、意地悪してるのか、と思いました・・・」
「あああ、そんな可愛い顔して、妬いてくれたんですね。嬉しいですよ」
「お相子でしたから、もう、大丈夫です」
「あああ、イメージがあるようです。なんというか、女の方に手が早いみたいな・・・」
女美架は、少し、不貞腐れた顔つきをしてみせた。
「モテるのは、解ります。カッコいいから」
「カッコいいですか?」
「えー、誰が見ても、アーギュ王子は、カッコいいので、有名な人ですよ」
「え?」
「ああ、思い出しました。テレビで見た事がありました」
「ははは・・・また、そんなことを。でも、そのこと、忘れてたのですか?」
「ああ、そうですね、ごめんなさい。あ、女美架は、テレビには出ません」
「そうですね。スメラギの方針ですよね。その方が助かります」
「なんで?」
「貴女が可愛いからです」
「・・・可愛いのも、色々あるの、最近、解ってきました」
「そうですか?」
少し、話の趣旨がずれ始めたが、リラックスしてきた証拠だな・・・。
「女美架は、あのランサムの礼拝堂の天使が、とても可愛いと思います。今まで、あれが、女美架の『可愛い』の代表でした」
「ああ、誰かも、天使の話をしてたかな・・・?」
「柚葉かもしれませんね」
「あああ、その件は、全部、柚葉から聞いてるので、知ってるような気がします」
「えっと」
「あんまり、関係ないので、パスしましょう」
「?・・・はい、わかりました」
「最近は、どんな『可愛い』に気づきましたか?
柚葉のことは、嫌だったのかな?
お話が変わっちゃったのだけど・・・。
「・・・王子が、そうやって、女美架に可愛いというのは、天使のとは違うような気がします」
「なるほど、今夜もこれから、たくさん言うつもりです」
「あ・・・」
「困らせたくなりました。本当に、いいですか?」
「えっと、はい・・・」
「言われるのは、嫌ですか?」
「嫌じゃないけど、なんで、こんなになってる女美架が、なんで、可愛いのかが、解らない時もあります」
「ああ、じゃあ、解らない時は、説明しましょう。どんな貴女が、どれだけ可愛いか。ご説明する自信はありますから・・・ね」
「ランサム語で、ですか?」
「それは手続きがかかりそうですね。貴女の解り易いようにお伝えしたいと思います・・・」
~暗澹たる日々⑬につづく~
みとぎやのメンバーシップ特典 第八十二話 暗澹たる日々⑫
「西のお城にて(アーギュ・女美架side)3」 御相伴衆~Escorts 第一章
二人の心の中、真意が吐露されましたね。
結局は、惹き合っていたことを、確認し合う形になりました。
これにて、スメラギとランサムが、更に良い形の国交が進んでいくのでは・・・第二皇妃の思惑通りに・・・
まずは、おめでとうございます😊✨
今回はそのような件とあいなりました。
お読み頂きまして、ありがとうございます。
次回をお楽しみに💗✨
更に、創作の幅を広げていく為に、ご支援いただけましたら、嬉しいです😊✨ 頂いたお金は、スキルアップの勉強の為に使わせて頂きます。 よろしくお願い致します😊✨