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御相伴衆~Escorts 第二章 第129話 北からの救出4 I'll come and get you ~家族
「あ・・・ジェイス、起きて、もう、7時を回ってしまいました」
「・・ん、あ、暁・・・ダメです、離れては・・・」
「寝ぼけてるのね・・・」
暁は、素早く、身支度をし、髪をいつものように、結い上げた。すると、ジェイスが飛び起きた。
「ああっ、すみません。暁、今、何時でしょうか?」
「7時過ぎました。朝食の設えをしないと・・・」
「え・・・?何か、臭いが・・・」
「嫌な予感がします・・・」
ジェイスも慌てて、服を着る。
バタバタと、食堂に、二人が駆け付けた時には、既に、遅かった。
美加璃と女美架の、姫姉妹が、台所で苦戦していた。
「・・・やっぱし、ダメだわ」
「ごめんなさい、暁、お台所を、こんなにしちゃって・・・」
そこに、アーギュがやってきた。
「女美架、クォーレが、卵だらけになって、こちらに走ってきたのだか・・・」
嬉しそうなクォーレが、ボールを差し出して、見せた。
「たまご、たまご・・・いっぱいわったよ。みて、みて、お父様」
ジェイスと暁は、顔を見合わせて、台所の惨状に、微笑んだ。
「私達がいないと、皆様、お食事もままならないようですね」
「本当ですね。ここは、お任せください」
「何を作ろうとなさったのですか?姫様方?」
暁の問いに、二人の姫は申し訳なさそうに・・・。
「あー、クォーレが、卵を食べたいと言ったので、オムレツを、と思って」
「大変、失礼ながら、こちらは・・・卵の色では、ございませんね」
「焦がしちゃいました、女美架、クッキーはできるのに、卵は焼いたことないです」
ジェイスがフライパンの中の黒いものを見つけた。
「えーと、どう、致しましょうか?」
「そうですね」
ジェイスと暁は、一巡り、周囲を見回し、お互いに目配せして、頷いた。
「私が、こちらで、お料理を設えますから、ジェイスは、床の方の片づけを」
「わかりました。若王子、卵の殻を、このボールに集めてくださいますか?」
「はあい・・・ここに入れるの?」
「そうですよ、お上手です。若王子」
アーギュが、背後から、女美架と美加璃に合図をし、呼びよせる。
「どうやら、やはり、餅は餅屋に任せた方がいいな」
「ゆっくり、二人で過ごさせてあげたいな、って思ってたんだけど・・・結局」
「まあ、もう、たっぷり、過ごしたんじゃないのかしら?」
「お姉様、ダメです」
王族の三人は、有能な二人の召使の働きを、背後で見つめることになった。
「女美架様、クォーレ様のお着替えをさせてあげてください」
「あ、はあい。クォーレ、お洋服を変えましょう。お着替え上手なの、お父様にお見せして」
女美架は、暁の指示通りにクォーレの着替えを促す。
「美加璃様、恐れ入りますが、パントリーから、小麦粉を取って来て頂けますか?」
「あ、はーい、わかりましたー」
美加璃は、ジェイスの指示通りに、パントリーへ走った。
「小麦粉ということは、ジェイス、あれでしょうか?」
「簡単にできて、皆様にすぐ召し上がって頂ける、あれですよ」
「やっぱり?・・・同じ事を考えていました」
「卵をこれだけ、若王子が割ってくださったので、使わせて頂きましょう」
アーギュと女美架は、クォーレを着替えさせながら、二人の御付を見ている。
「ねえ、あれ、って、何かしら?」
「どうやら、二人には、通じているようだな。ふふふ」
「暁、これを、使いましょう」
「ああ、それ、いいですね。そちらを、ジェイス、お任せしてもいいかしら?」
「香辛料は?」
「そちらです。そこ」
「ああ、いいです。暁、僕が取りますから、君はそちらを・・・」
小麦粉を持って、戻ってきた美加璃は、そっと調理台に置いて、
「へえ・・・一晩で、ひと山も、ふた山も、越えたみたーい♡」
「そのようですね」
「名前、そのまま、呼び合ってるー、様って言ってないね」
「あまり、揶揄ってはいけないよ。こういう時は、知らんぷりをするに限る」
30分も立たない内に、卵たっぷりのパンケーキと、トマトの缶詰をベースにした、ベーコンとコーンのスープ、グリーンサラダ、リンゴを輪切りにしたバターソテーの朝食が完成した。
「ごはん、できたの、あかつき?」
「はい、クォーレ様が、沢山、卵を割ってくださったので、沢山、美味しいパンケーキができました」
「おなか、ペコペコ」
「若王子、お待たせして、申し訳ございませんが・・・お皿を、テーブルに、並べて頂けますか?あ、落とさないように、気を付けてください」
アーギュは頷きながら、女美架に言った。
「・・・女美架、想像していた通りなんだが、クォーレの教育係に、ジェイスは、ピッタシだと思いませんか?」
「本当、クォーレ、素直に、お手伝いしてる」
「もう、クォーレ、可愛すぎ♡・・・」
「お姉様、クォーレに甘いから、・・・トレーニングの時は、厳しいんだけど」
「・・・子どもがいるということは、こんなに、皆が和み、好いものなのですね。出産に立ち合えずに、ここまでの成長を見られずに来たのが、とても、惜しくなってきました」
「でも、これからは、ずっと、親子一緒ですから、全部、見られます」
「若王子、大変、お上手です。今度は、これ、フォークを配ってください。そうです。お皿の隣に。よくできました」
クォーレは、ジェイスに褒められたのが、嬉しかったのか、照れ臭そうに、母の所に走ってきて、しがみ付いた。
「さあ、皆様、お待たせしました。ご朝食、頂きましょうか」
暁の呼びかけに、全員が、テーブルに着席する。
「スープをお注ぎします。熱いので、若王子の分を先に、あ、まだ、手を出してはいけませんよ」
「こちらのお席にお行儀良く、掛けてくださいね、クォーレ様」
「素晴らしいです。そのように、お出来になるのですね。さすがです。若王子」
「喋りすぎるぐらいのジェイスの感じは、子どもに解り易いのかもしれないな」
「できた事、すぐ褒めてくれてる・・・暁と同じだわ。ありがたいです」
「うわあ、クォーレ、得意気なお顔してー、もう・・・♡」
「これで、お姉様が甘やかしたら、ダメですからね」
「はいはい」
「では、『いただきます』のご挨拶は、クォーレに言って貰いましょうか?」
大人の優しい視線を、集中的に受けるクォーレが、母である女美架の目を見る。
「クォーレ、どうぞ、いただきます、して」
「いただきまーす」
「はい、いただきまーす」
女美架は、自らが、幼い時から、父皇帝や、母である第二皇妃、そして、姉姫や、女官たちに囲まれて、愛情を受けて、育てられてきた事を思い出した。クォーレも、このように、優しい大人に囲まれて、同様の愛情を、受けることができる。これ程、嬉しいことはない、と感じた。
「やっぱり、暁の料理は、最高よね。毎日、頂いても飽きないし」
「トマトスープは、ランサム風ですよ、美加璃様」
「あら、では、これは、ジェイスのお手製なのね。美味しいわ。料理できる男性って、いいわよねえ」
「懐かしいな。このスープ、ジェイス」
「若王子もお好きかと思いまして・・・、若王子は、好き嫌いは、ございませんか?」
女美架が、嬉しそうに頷いた。
「ありがたいことに、何でも、良く食べてくれます」
「物資が予定通り届かない時の事を考えて、色々な形で、ご準備させて頂くのですが、何でも、召し上がって頂けるので、助かります」
「パンケーキ、イチゴジャム」
「はいはい、ジャムね・・・」
「お待ちください。美加璃様。今ので、お渡ししてはいけません。この時期には、きちんと、やり取りの力を付けさせなければなりませんから。もう、お話が、きちんとできる時期です」
「クォーレ、イチゴジャムをどうしたいのか、美加璃様に、きちんと、お伝えできますか?」
母の女美架は、頑張れと、息子を見つめる。
「イチゴジャム、パンケーキにつけるの、お母様」
「そうなのね。じゃあ、ジャムをとって頂けるように、美加璃おばさまにお願いして」
「イチゴジャム、ください」
「いいわよね?渡しても・・・はい、よくできました」
美加璃は、少し、不服そうにした。
暁は、少し、小首を傾げた。
「・・・ちょっと、厳しすぎませんか?ジェイス」
「ああ、いや、そうでしたか、王子、女美架様、申し訳ございません」
「いいえ、ありがたいことです。ついつい、甘やかしてしまいます。単語だけで、要求が通るというのは、そろそろね・・・」
「やはり、父親役、母親役という、大人がいた方が、バランスよく成長するのかもしれませんね。ああ、そうです。今、女美架と話していたのだが、ランサムに戻ったら、クォーレの教育係を、ジェイスに務めて貰いたいと思うのだが・・・」
「・・・いいと思います。ありがたいお役目ではありませんか、ジェイス」
「今、厳しい、と言われたではありませんか?暁」
一同に笑いがこぼれる。
大人の様子を見て、クォーレも、一緒に笑い出した。
「面白いの?クォーレも。そうよねえ」
「うん」
「本当に、私で、よろしいのでしょうか?でしたら、本当に、嬉しくも、光栄です」
「そのうちにね、クライスト家にも、お世継ぎができるから、そしたら、クォーレの遊び相手もね」
「え・・・」
「そうですね。素敵です。子どもたち同志が、仲良く過ごせたら、と思います」
「・・・」
「何よ?普通の、当たり前の事を、言っただけでしょう?変な事、言ったかしら?」
ジェイスは、その役目を告げられ、烏滸がましくも嬉しく、暁は、顔を赤くしている。
アーギュは、声を上げて、笑い出した。
「美加璃様、そのくらいにしてやってください」
そうなったら、王宮も賑やかになるだろう。父上も母上も、大層、お喜びになるに違いない。
アーギュは、この賑やかな食卓に、心からそのように思った。
「おかわり」
「あ、えーと、何のおかわりが、欲しいのですか?クォーレ様」
「んーと、スープ」
「・・・」
ジェイスが、クォーレを見つめている。クォーレはハッとした。
「ジェイス、スープ、ください」
「まあ、すごいっ、さっきの事、覚えたのね、いい子だわあ」
美加璃は、クォーレに向けて、小さく拍手をしてみせた。
「はい、解りました。若王子、ここに置きますからね」
「ありがと、ジェイス」
「・・・どうやら、名前も覚えましたしね」
「私達、呼んでないのにねえ、クォーレ、よく、聞いてるのねえ」
「暁の声を、クォーレは、とても、受け入れているから・・・ああ、暁とジェイスで見て貰えれば良いのではないかしら?」
「そうねえ・・・ふふふ」
「何でしょうか・・・。皆様、先程から、何か、当て擦られているような気が、致しますが・・・」
「暁、私も、今後は、家族と思い、貴女の敬称も外させて頂くが、よろしいでしょうか?」
アーギュは、暁に、まさに、そのように、申し出た。
「・・・勿体ない事でございます。とても、光栄です。家族だなんて・・・」
「やだ、暁、泣かないでよ」
「・・・これまで、女性三人と若王子だけで、この寂れた所で、三年余り、頑張って来られたのですよね。暁から、昨日、伺いました。暁が、怖い思いをした事も。王子、お待たせし過ぎました。天候などを見て、次の潮のタイミングが整ったら、早く、脱出を致しましょう」
「話したんだね、暁・・・」
美加璃が、暁を観ると、彼女は涙ながらに頷いた。
女美架は、アーギュを見つめた。
「王子・・・」
アーギュは頷いた。
「解った。船の調整など、いつでも、出発できるようにしておこう。ジェイス、準備にとりかかろう」
「承知しました・・・暁、もう、泣かないでください。王子と、それに、私もおりますから」
「おふねにのるの?」
「クォーレ、今のお話、わかったの?」
「すごいわ、クォーレ」
「若王子は、察しがよく、とても賢いです。王子に似てらっしゃる気がします」
「心強いな。クォーレがいるというだけで、励まされる。一番、しっかりしなければならないのは、この私だ・・・」
「ごちそうさま」
クォーレは、椅子を下りると、暁の側に行った。
「どうしましたか?」
「あかつき、おいすからおりて」
「はい、何ですか・・・え?・・・ああ、クォーレ様」
「まあ、女美架そっくり」
「貴女に、出会った頃を想い出しますね」
「え?」
「忘れてしまったのですか?」
クォーレは、泣いている暁の頭を撫で始めた。
アーギュは、出会った頃に、女美架が自分に同様にしてくれた事を思い出していたのだ。
「心配しないで、女美架、嫌いにならないですから」
「ふふふ、それで、頭、撫でてくださるのですか?」
「おかしいですか?」
「お優しいのですね・・・つくづく、自分が情けなくなります」
「?・・・王子でも、そんなことあるんですか?」
「ありますよ。最近は、特にね」
「・・・そうなんですか」
「お優しいのですね・・・実に、ご両親様の良い所を、受け継いでおられますね」
ジェイスは、にこやかに、その様子を見つめた。
「クォーレ様、ありがとうございます。もう、大丈夫ですよ」
クォーレは、にっこりと、暁に微笑んだ。
その内に、国際的には、援助という形での介入であった、素国の侵略の影響で、スメラギのシギノ派の軍族は、力を失っていく。
志芸乃は、ここまで来て、初めて、素国の目論見に気づく。
半ば、皇子を護ろうと、ランサムに留学させると、スメラギ皇宮は、その主を失った形となり、実権は、いよいよ、素国に移り、石油の掘削や、輸出の権限も奪われていった。スメラギ皇国は、崩壊寸前となっていく。
素国の最終的な狙いは、全ての皇統をスメラギから奪うことだった。
ある日、揮埜中佐に、一つの命令が下る。
北の古宮に幽閉中の、第二皇女 美加璃と、第三皇女 女美架の素国への輿入れの計画の為、北の古宮から、素国王宮まで、移送することだった。
(揮埜中佐は、女美架の子、クォーレのことは、ひた隠しにしていた。ランサムの王統・スメラギの皇統を持つクォーレの存在を知ったら、きっと、素国は、この幼い若王子の命をも狙うだろう・・・)
この数日後、揮埜中佐は、急ぎ、北の古宮に赴き、アーギュ王子たちに、ここを出る時期を、できるだけ、早めることを勧め、協力を申し出た。
一方で、その素国の王族、柚葉こと紫颯は、この件に、複雑な思いに、駆られていた。
今となっては、姫たちを自分の手元に置くのは、どうなのだろうか・・・、輿入れという形になるのなら、他の王族の元ではなく、自分の所にと思った。やはり、美加璃を正室として迎え、形の上で、女美架は、側室としてでも・・・、その後、アーギュを探し出し、女美架と引き合わせるように。もし、そのようにするならば、同時に、お付として、慈朗をも引き取れる。
個人的な策略というよりは、もはや、柚葉は、姫たちと慈朗をただ、援けたいと思い始めていた。世論や国は、この際、度返しとして・・・。
その実、この時、素国の内政も、乱れてきた頃だった。第14代王の執政に対して、不満分子が立ち上がった。内乱の影響で、当時、紫颯王子の王位継承権は、第二位となっていた。柚葉も、それどころの話ではなくなっていたのだ。
この年の天候悪化の為、主軸産業の農業が奮わずにいた中、租税を増したことにより、多数の国民が、これに不満を抱いていた。それ以外にも、王の悪政が露呈し、スメラギ侵攻を、軍部のトップとして進めていた、紫統と反目する形となった。第一位の王嗣であった、紫颯の兄も、第14代王の息がかかっている。
紫統は、国民の世論を味方にし、第15代国王に紫颯王子を擁立した。そして、ついに、紫統は、内乱で勝ちを修め、収束させたが、その時の負傷が原因で、その後、間もなく、命を落とす事となった。最期に、紫颯王子に、素国を、より良い国にするようにと言い残した。
この北の古宮にも、暴走した、先代王の派閥の素国軍が、姫たちを確保しようと強行した。しかし、すんでの所で、姫たちとクォーレと暁は、アーギュ王子とジェイスに助け出され、北の古宮から、脱出した後だった。
次回は、「新天地ランサムへ」につづく
御相伴衆~Escorts 第二章 第129話
北からの救出4 I'll come and get you ~家族
お読み頂きまして、ありがとうございます。
この回は、大好きな回です。
ずっと、この古宮では、女性だけで、本殿から離された、寂れた所で過ごし、しかも、女美架は出産を経て、クォーレを無事得て、三年近く過ごしてきました。
そして、一方のアーギュとジェイスも、何度も失敗をして、メイル側を遡って、ここに辿り着きました。何度も、船が大破し、その都度用意した、ロイヤルベリーは、海に投げ出され、消えていきました。このチャレンジに協力した船乗りに、気が狂っている、という反対を受けながら。
お互いに、それぞれが、ここに来て、今までの苦労が、大いに報われる。
温かい再会の回です。お話は、こうでなくちゃ、と思います。
実は、最後のトライがあります。
来た時と同じだけ、川を下っていくことは、とても危険なのです。
無事にこれが、大海までたどり着きますように・・・これが無事に辿り着き、成功するには、家族の協力、愛の力が味方してくれると信じています。
それは、スピンオフでありますが、発表するかは、検討中です。
今のままだと、1月中に全話が終わらないので💦
でも、メンバーシップは、今月中で終了します。
したがって、その後の話も、鍵は外してまいります。
既に、一般用マガジンを作り、1話からの鍵なしの御相伴衆をご提供する形になりました。
では、次回もお楽しみになさってください。
一方の耀皇子の、今の話に戻ります。
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