リントヴルムの王の花嫁 北欧民話より
この話をみとぎや風に書いてくださいと、リクエストを頂きましたので、舞台を、伽世界の中の、ランサムという国の、東にある島の、伝説のノアール王国という国にして、お話にしようと思います。今回、初めて、このような形でお話を書くことになりました。
リンドヴルムというのは、いわゆる、西洋の龍様なのです。調べてみたら、翼が無くて、飛べないみたいなんですね。日本の龍様は、翼が無くても、飛んでいます。お空でも、部屋の中でもフワフワ飛んでいます。そんな感じなのですけど。それでは、お話に入っていきましょう。
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ランサム大陸の北東、スラギ海峡の小島に、ノアール王国という国があった。この国は、とても強い女王が治めていた。女王は、戦争が続き、国を守る為に、女だてらに、先頭に立ち、戦ってきた。
やっと、戦争が終わったので、国の側近たちは、この国の先々のことを鑑み、宰相のラヴェルは、思い切って、その旨を、女王に伝えた。
「陛下、戦が終わった今が、その時でございます」
「・・・なんだ?どういうことだ?」
「お世継ぎを、お産みくださいませ。長い間の戦争で、この国を守ることで手一杯でございましたが、今が、そのチャンスでございます」
「・・・子か、私が?戦ばかりの私に子を産ませようと・・・アンドラ、どう思う?」
女王は、その勝ち続けた戦いの作戦を占ってきた、占い師アンドラを呼びつけた。
「そうでございますね。・・・玉葱が見えます、玉葱を召し上がってください」
「玉葱?・・・ん、まあ、いつも食べているが」
「ではなく、生を」
「生?」
「そうです。生を二つ」
「生の玉ねぎを、二つも?この私に?」
アンドラは、女王の激しい気質を熟知していた。まさに龍の逆鱗の直前に、ぴったりと言い放った。
「さすれば、お二人の王子、つまり、双子の王子が授かります」
「なんと・・・!!」
「おおっ、これはアンドラ殿が言うなれば、必ずや、授かりますぞ」
「王子か・・・しかも、二人と。・・・わかった」
「これ、玉葱をここへ、陛下の所へ、生を2つだ」
占い師アンドラは、恭しく一礼すると、いつものように、その場を下がった。
宰相ラヴェルが、侍従に言いつけると、女官が恭しく、玉葱を二つ、金の皿に乗せてきた。よりによって、大きな玉の・・・。
女王は、それを目の前にすると、大きなため息を一つ吐いた。
「ああ、あれは、敵と戦う前になさる、ため息・・・」
すると、女王は、玉葱を1つ手に掴み、皮も向かずに、リンゴをかじるように、ガツガツと、あっという間に平らげた。
「ふぅ・・・なんて、味だ・・・」
「お、お水を・・・」
女官が、水を入れたグラスを渡そうとしたのを遮り、女王は、次のもう1つを手に取ると、流石に、今度は、皮を剥き、1枚ずつはがして食べた。
「こ、これで、・・・良いな」
「御意」
宰相と女官は、丁寧に女王に頭を下げた。
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そして、9か月後、いよいよ、その二人の王子が生まれようとしていた。
女王の寝室の外には、宰相ラヴェルや廷臣たち、女官たちが固唾を飲んで、王子の誕生を待ちわびていた。
「きゃあぁぁぁ・・・」
突然の大きな声が、ドア越しに響き渡った。
「何?・・・何があったのだ?」
ドアが開けられ、部屋の中には、怯える産婆と、震える助手の娘たちの様子が見て取れた。
「御子は?・・・王子は?」
「そ、そこに・・・」
産婆が指をさしたのは、大理石の床だった。そこには、蛇のような姿、翼のない龍、リントヴルムが、鱗をぎらつかせながらのたくっていた。肩から、鉤爪のある力強い足が生えていた。
「なんと、何故に、私にこのような・・・」
「ああっ、女王様、まだ、もう御一方がお腹に・・・」
「ええいっ、忌々しい、このようなものがっ!!」
女王は、そのリントヴルムを両手で掴んだ。
「窓を開けよ」
「は、はいっ」
産婆の助手の娘が、慌てて窓をあけると、女王は、宮殿の森の奥へ力一杯、朴り投げた。
「ふーっ・・・次か・・・」
「はいっ、女王様、・・・ああ、皆様、廊下でもう一度、お待ちくださいませ」
女王が、ベッドに入り、廊下に出ると、5分も経たない内に、産声がした。
「おおっ、今度は、赤ん坊の声だ・・・」
宰相は許可もなく、ドアを開け、部屋に入った。
「まあ、なんて、美しい・・・」
「おお、これは、素晴らしい、御父上のアーギュ殿に似ておられる」
「髪の金色は、女王様、目の色は青くて、お父様似でございますね」
「・・・そうか、よかった。名は、クォーレとする」
女王は、そういって、精根尽き果て、眠りについた。
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月日は流れ、クォーレは、17歳となり、いよいよ、花嫁候補を探す頃となった。ある時、宮殿の奥の森を、馬で回っている時、不可思議な生き物と出くわした。大きな頭が、目の前の茨の茂みが現れると、ぬーっとそれが空高く伸びて、その姿が見て取れた。緑の鱗の身体のリントヴルム・・・つまりは、クォーレの前に生まれた兄だった。
「お前は・・・?」
そういうと、リントヴルムは、心の奥底まで見透かすような琥珀色の瞳で、瞬きもせず、クォーレを見降ろした。クォーレは、不思議とこのリントヴルムに、何か親しみのような感覚を覚え、魅入られたように、しかし、警戒は解かずに睨むように見つめ返した。
しかし、その途端、リントブルムは冷たく、突き放すように、空を駆け巡り、再び、クォーレの傍に降り立った。
「お前の兄である、この俺が、自ら進んで望み、花嫁となる女を手に入れるまでは、お前の妻など、決して、見つからぬ・・・」
クォーレは、驚いたが、白日夢か何かを見たのかと思った。
「僕に、兄が?・・・しかも、リントヴルムだなんて・・・」
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まさか、そんなことはあるまいとは思いながら、このことを、クォーレは、宰相ラヴェルに相談した。
「あの、リントヴルムが・・・そのようなことならば、致し方ございません。国中の娘で、行ってもらえる者を使わすことに致しましょう」
王室からの命令ということで、指名された家の娘は、一度は森のリントヴルムの所へ出向いてはみるものの、誰一人と、本意で喜んで行くことは無かった為、リントヴルムは、どの娘のことも受け入れることはなかった。
「次の候補の娘を、怪物の前に行く前に、こちらに寄せてください」
占い師のアンドラは、宰相ラヴェルに言付けた。
町娘のルチェルナが、次の番だった。
「噂は聞いているわ。行っても、嫌と言えば、何もされずに帰ってこれるそうだけど・・・」
「王宮の占い師のアンドラ様の所に寄りなさいと聞いているんだが」
「わかったわ、大丈夫よ、お父さん、行って、断って帰ってくるから」
ルチェルナは、王宮に行き、占い師のアンドラに会った。アンドラは、この一連のことに、思い当たる節もあったのだ。
「実は・・・」
アンドラは、これまでのいきさつを話し、このままではクォーレ王子の花嫁探しができないことを苦慮している旨をつたえた。そして、その後、彼女に耳打ちをした。
「え?・・・あ、そう、なのですか?・・・本当に?」
「そうなのですよ」
「・・・はい、わかりました」
すると、ルチェルナは、にこにことご機嫌に、出かける準備をした。アンドラは、彼女を、森の奥へと送り出した。
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「ここよね?こんにちわ、お城から、頼まれて来たものなのですが・・・」
「入れ」
「はい」
普通の小屋のような所に、そのリントヴルムがいた。ルチェルナが噂で聞いてきた通りの姿だった。
(あの占い師さんの言ったとおりにすれば、よいのよね・・・)
「服を脱げ」
(あ、きた・・・、だから、沢山の服を着てきたのよ。そしたら、なんていうんだっけ?ああ、そう)
「私が一枚脱ぐ毎に、貴方も皮を一枚脱ぐと約束してくださるのなら、その通りに致しますから」
すると、リントヴルムは、この条件を受け入れた。そして、最後の1枚の皮となった。ルチェルナも、下着姿となっていた。
「いいですか。全部、脱いだら、臆せず、彼を受け入れてくださいね。大丈夫です。全て、上手くいきますから」
アンドラに言われた言葉を思い出しながら、ルチェルナは、最後の一枚を脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿で、リントヴルムの前に立った。
(どうしよう、怖い・・・)
そのように思っているうちに、大きな体に、その身は巻き付かれる形で包まれていった。
(大丈夫、これでいいのよね・・・これで、全て上手く行くんだから・・・)
決して、きつく締め付けられるとかではなく、とても優しく、彼はルチェルナを包んでいた。
(あれ?ぬるぬるしてない?)
それは次第に、温かくも、不思議な心地良さを与えてくれている。ルチェルナは、酔いながらも、ふと我に返り、身体が震える。見ると、彼の最後の皮が脱げて落ちていくのが解った。すると、緑色の霧が周囲に立ち込め、一瞬、その姿が見えなくなったが、確かに抱きかかえられているのは感じられた。少しずつ、霧が晴れ、視界が広がってくると、後ろから抱きすくめられていることに、ルチェルナは気づいた。とぐろではない、逞しい男の腕が、彼女を捉えていたのだ。振り返ると、そこには、美しい王子である彼の顔があった。
(ああっ、アンドラ様の仰った通り・・・なんてこと、王配のアーギュ様によく似ているわ・・・)
アンドラの指示通りに、ルチェルナは、双子の兄にかけられた、リントヴルムの魔法を解いたのである。兄が無事、人に戻ったという事は、このノアール王国の王位継承者であり、ルチェルナはその妃になることとなった。
無事に、二人は結ばれ、結婚式を迎えることとなった。
レリア女王は、これにて王位を、長男ロンサーに譲った。
「王母になられましたね。おめでとうございます」
「アンドラ・・・何か、言いだけだが」
「いえね、まさか、皮のついたままで、玉葱をお召し上がりになるとは、よもや、思いませず・・・」
「・・・どういうことだ?」
「いえね、二つとも、皮を剥いて、お召し上がりになられるようにと、申し添えなかった、私の咎でございますかね」
ふふんと、王母レリアは、ため息をついたが、腹心の占い師を咎めることはしなかった。
「めでたい席だ」
「御意。ありがたき幸せ」
~おしまい~
みとぎやの小説・短編 「リントヴルムの王の花嫁」北欧民話より
原作のお話があるものを、みとぎやのキャラクターを落とし込んで、アレンジして書いてみました。昔、書いていたランサム王国に纏わるお話があったので、そのキャラクターたちです。後に、オリジナルで、同じ名前の登場人物が出てくる可能性がありますが・・・。
ちょっとした理由で、こんな運命が変わってしまうような出来事が起こる。北欧民話の一つのお話です。簡単に読めるおとぎ話で、不思議な世界観が展開する感じ。ハッピーエンドで、書いていても、ホッとしました。
女王の性格づけを好戦的な女傑にしてみました。占い師は、王宮付きにして、男性にしました。読ませて頂いたお話は、特に名前も何もない世界ですが、みとぎやの場合、キャラクターありき、の方がお話が展開しやすいので、このやり方になるのですね。端々に余計な演出が加わりました。いかがだったでしょうか?
たまに、こんなのも、面白いかなと思いました。
お読み頂きまして、ありがとうございました。
参考文献:「龍のファンタジー」東洋書林
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