見出し画像

御相伴衆~Escorts 第二章 第130話 新天地ランサムへ1~皇帝候補の父と母

 皇統の危機ということを、国の人間として、初めて悟り、かえりみた、志芸乃シギノは、一時的に、耀アカル皇子をランサム大学に留学させることにした。他国にいれば、まだ、皇子の立場を守ることができると思ったのだ。

 志芸乃は、気づくのが遅すぎた。既に、皇宮は、支援という名の下に、素国の支配下に置かれていた。素国にとっては、耀が国外にいることで、スメラギの皇統を司る者が、完全に、その領土からいなくなる好都合、ということになる。志芸乃は、もはや、国を護れないことには、気づいていた。それでも、せめて、対外的に、第一皇子の対面を保った状態で、国外で学ばせる名目で、耀を護ろうと考えたのだ。

 この時、スメラギ皇国としては、ランサム王国の王太子の出奔の経緯もあり、正式な形での皇子の留学の後ろ盾を、ランサム王宮側に頼むことはできなかった。


 ランサムの踊り子、美亜凛ミアリンは、かつて、皇統を望みながらも亡くなった、桐藤キリトの母である。(そのことは、美亜凛本人には、未だ、明かされてはいない)彼女は、現在は、ランサムのラウラタウンにて、芸能プロダクションを経営する、遣り手の女社長となっている。志芸乃は、その美亜凛に、耀がランサム大学に通う時の足掛かりとなる協力者として、この件を依頼した。アーギュ王太子の出奔の件で、王室を頼ることができなかったこともあり、民間の協力者として、美亜凛に白羽の矢が立ったのである。

 この件を推し進める命令を受け、窓口になったのは、他ならぬ、揮埜キリヤ中佐だった。当局側は、昔の関係性から、この二人が、物事を表沙汰にせず、任務を遂行しやすいと踏んだのである。

 その美亜凛と、揮埜中佐が、桐藤の両親であったこと―――この桐藤の出自こそ、第二皇妃から、直接、その尋問により、志芸乃が掴んだ、最後の情報だった。かねてから、スメラギ皇国では、民間人の国際結婚が禁止されている。殊に、スメラギ民族の血が、他国に流出することを嫌っていたとする、第二皇妃は、当時の陸軍大尉であった通訳官の揮埜から、美亜凛との間にできたその子を譲り受ける代わりに、二度と会わないことを約束させ、二人を許した。第二皇妃は、美亜凛には、多額の手切れ金を渡した。通例に則れば、揮埜は、軍人でありながら、他国の女と通じるという禁忌を犯したことになるが、このことで、死刑になる所を免れている。その当時、皇妃は、その容姿を気に入り、揮埜に、妃付きとなるように勧めていた矢先だった。その揮埜に、ランサムに、美亜凛という恋人がいて、更に、妊娠していることが解り、その子を自分の子として、引き渡すことで、この罪を許したのである。その赤子は、第二皇妃の信じる『美しい子』として、『桐藤』と名付けられ、その手元で育てられたのである。

 息子が、どんな風に育ち、どんなことをしてきたのか。美亜凛は、これまで、かつて、知る由もなかった。20年近く経って、夫となる筈だった、その男と再会するその時、彼が連れてきたその子が、我が子なのではないかと、一瞬、美亜凛は錯覚する。しかしながら、その容貌の記憶からして、違うことが、すぐ、見て取れた。美亜凛は、その生後間もなく、引き離された、その子が、父親の髪色を引き継いでいたことを記憶していたからである。互いに、再会を喜ぶべきなのだろうか・・・複雑な思いが、揮埜と、美亜凛の間に生じる。

 揮埜は、美亜凛に、桐藤の最期を伝えることはできなかった。美亜凛は、その当時、子どもは、引き取られて、すぐ亡くなったのだ、と、そのように、皇国から聞かされていたことを告げた。そのことを聞き、揮埜は、その通りだったと、同様の嘘を突き通すしか、できなかった。

「なんか、噂では、こちらの王太子の出奔まで、関係してるって、大騒ぎしてるみたいだけど・・・」
「勿論、相応のお礼と、皇子にかかる生活費は、こちらから出す予定だ」
「・・・ロクなことがないわね、スメラギって・・・」
「・・・」

 耀は、私室を与えられたので、早々に部屋に引っ込み、荷物の整理をすることにした。

 この二人の関係性は、耀にはよく解っていなかったが、会話を聞き、知りあいなのだ、ということが解り、更に、その会話や、目線等のやり取りで、男女の間柄であることは、容易に推察することができた。

「とんでもない話だわ。自分たちの子どもは、殺されたようなものなのに・・・」

 揮埜は、まさに、その通りだと、心の中で呟く。

「今度は、皇子の御守り?そりゃあ、国王に、頼めたもんじゃないわね。王太子が、あの件で出奔したんだからね。まあ、そんな所のお姫様なんて、貰わない方が、国民としても、ありがたい話だけど・・・国を放り出す程、血道を上げて、王太子も気が狂わされたのね。あの女の娘だものね・・・」
「・・・すまない。上からの命令で、君に白羽の矢が立った。ある程度、立場のある方で、ランサムで、しっかりと立ち回れる地位を持っている方、ということなので」
「まあ、当時頂いたお金でね、今の地位を買ったようなものだから、私も、もう、色々と言えた義理でもないんだけど・・・でも、貴方は、よく言えるわね?・・・貴方、本当に、何も変わっていないのね。あの時だって、あちらに帰らないで、ランサムにいてくれれば・・・あの子だって、こんなことになっていなかった筈だわ・・・」
「美亜凛、・・・君は、相変わらず、・・・強いのだな」

 美亜凛は、揮埜を、なじるような目で見る。

「・・・まあ、どうして、生真面目な貴方が、私なんかの誘いに乗ったのかしら?あれは、一夜の過ちよねえ、駐在軍人と場末の酒場の踊り子の・・・じゃなければ、今頃、陸軍中佐止まりじゃなかったんじゃないかしら?上層部の軍族のお嬢様と結婚すればよかったのよ。話が決まってらしたのでしょう?」
「・・・」
「また、黙りこくって。馬鹿真面目で、国にだって、何もない、と、シラを切れば、良かったのに、本当に、要領の悪い男ね。殺されてたのかもしれないのに」
「そうかもしれないな・・・」

 揮埜は、その実、美亜凛が妊娠したことすら、当時は、聞かされてはいなかった。息子の存在は、第二皇妃から、初めて、知らされる形となった。
 話が行き違っていたことに、揮埜は気づく。手紙を送っても、返事はなかった。全て、海を渡ることなく、それらは、軍当局によって、処分されていたのだ。しかし、今、それを、言い訳として、美亜凛に話した所で、意味のないことだと思っていた。

「あの子のお蔭で、私は、ここでの栄誉ある仕事と立場、優雅な生活が手に入ったわ。でも、あの子がいなかったら、どうなってたのかしら?男の子じゃなかったら?あの、皇妃とかいう女も、今回の件で、罰を受けて、もう、この世にいないのでしょう?なのに、貴方はまだ、こんな過去の因習みたいなこと、わざわざ、私に頼みに来て・・・!!」
「・・・」
「上からの命令だから?・・・そうよね?結局は、あの時だってそう。抗えずに、全部、あの国の言いなりになって。悔しくて、未だに、忘れたくても、忘れられない。あの子、貴方にそっくりのブラウンブラックの髪で、私の金の瞳。誰が見ても、西と東のMixで、ランサムでは、肌や髪や、瞳の色での差別は、当の昔になくなってるけど、他国蔑視のスメラギだったら、まず、容貌で虐められるのは、明らかだったと思うわ・・・」
「しかし、残念ながら、あの子は・・・」
「どっちにしても、ってことよね・・・はぁ・・・あの子が生きていたら?21歳。・・・で、あの皇子は?」
「18歳になられたばかりだ」

 美亜凛は、大きく一つため息をついてから、言った。

「そう・・・じゃあ、こちらに任せたからには、口出ししないで貰っても、いいかしら?」
「じゃあ、・・・ああ、美亜凛、感謝する。今、スメラギは・・・」
「止めて、どうでもいい、その国の名前を口にするのは・・・」
「すまない・・・」
「皇子だからって、何もかもやって貰えるのではなくて、一般の子どもたちと同様に扱いますから。うちのプロダクションの若手俳優は、同じ年頃の子が、沢山いるの。生活のことが一通り、自分でできるのが、当然としているので、その方針に乗れないようじゃ、話にならないから・・・」
「美亜凛・・・本当に、感謝に尽きない・・・」

 揮埜は、美亜凛に、深々と頭を下げた。

「もう、馬鹿な人。狡いわよね。ご本人、連れてきて、貴方自身でこうやって、頭を下げに来たら、・・・私が断れないこと、解ってるのでしょう?」
「いや、それは・・・」
「それも、国の命令の所為にするの?」
「・・・」

「どうして、もっと、早く、会いに来てくれなかったの?・・・トーゴ」


 第二皇妃様は、何故、あんな解り易い名前を、この子につけたのだろうか?あの子がジュニアハイスクール(中学)に入る頃、通訳の仕事の後、そんなお話をされていらした。
 
「私の好きな花なのよ。そうそう、『柚葉』もね、彼のイメージからね。素国のイメージを払拭するような、私の好きなものを付けたのよ。この子にはね、『桐』と『藤』で「キリト」と読ませました・・・口元と、手が似てますね。それに、声も似てきましたね。お前が、私の言う事を聞いてくれれば、こんなに面倒臭いことにはならなかったのにねえ・・・『桐藤』は真面目で、賢い子ですよ。貴方に似たのね。でも、時折、皇帝批判には、手が付けられないぐらい、荒っぽい感情を示して、つい、弱い者に力が、向かってしまうのね。・・・お母様の、あの綺麗なダンサーに似たのかしらね。ダンスが大胆で、情熱的な方でしたものね・・・うふふ」


新天地ランサムへ~人より誇れるもの へ続く



    御相伴衆~Escorts 第二章 第130話 
                                                     新天地ランサムへ1~皇帝候補の父と母

 お読み頂きまして、ありがとうございます。
 今回から、前回までと打って変わって、現在の耀皇子の話になりました。

 耀は、皮肉にも、前の皇帝候補であった、ランサムにいる、桐藤の母の元に預けられることになりました。

 ひとまず、混乱の皇宮を離れることはできた耀。
 耀自身がどうなっていくのか・・・。
 そして、また、あるじ不在ともいうべき、スメラギ皇国は、大国素国に飲み込まれつつあります。

 次回をお楽しみになさってください。

 

ここから先は

0字

高官接待アルバムプラン

¥666 / 月
初月無料
このメンバーシップの詳細

更に、創作の幅を広げていく為に、ご支援いただけましたら、嬉しいです😊✨ 頂いたお金は、スキルアップの勉強の為に使わせて頂きます。 よろしくお願い致します😊✨