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御相伴衆~Escorts 第一章 第十九話 忍んでおいで~柚葉と慈朗①「いい匂い」(慈朗視点)

 二の姫様が、ランサムに戻られた、その日、柚葉から、話したいことがある、と呼ばれた。

 前にも、声はかけられていたんだけど、その時は、二の姫がいらして、お相手になってしまったらしくて、・・・あの夜は、たまたま、二の妃様の御渡りで、数馬の初の夜伽だったんだけど、結局、僕も、一緒に侍ることになってしまったから・・・。

 そうか。二の姫様のお見送りにも、行ってきたそうだから、これで柚葉の時間は空くんだよね。でも、学校の後も、僕らの補習してくれる予定だし、柚葉には、これから、お世話になる形なんだよな。

 夕食の後、柚葉の部屋に行くことになってるんだけど、なんだろう、話って。

「数馬、柚葉の部屋に、呼ばれてるんだ」
「そうなんだ」
「何か、話したいことがあるらしいんだけど」
「そうか・・・、あ、なんか、持っていくか?果物とか、酒とか」
「ううん、そういう感じじゃないと思うよ。あと、そういうものは、きっと、柚葉の部屋にも、好みのものがあると思うから。・・・どうしようかな?遅くなるから、お風呂に入ってから、行こうかな・・・」
「そうすれば?」
「数馬、何してるの?」
「ドリルだよ。エレメンタル(小学校)の」
「偉いなあ」
「お前も、勉強、見てもらったら、いいじゃん。話ついでに」
「うん、そうだね。文字は、読めるようにはなってきたんだけど、書くのがねえ。教えて貰おうかな・・・じゃあ、お風呂入ってくるよ」
「はい、いってらっしゃい。・・・えっと、これは・・・」

 マイペースな数馬は、手が空くと、ドリルをやってる。エレメンタルの6年分だから、主要科目分で、30冊ぐらいあるんだよね。

「字が読めるようになったら、1年生のは、すぐに、慈朗でもできそうだな」

とか、言ってたけどね。

 お風呂に入ったのは、柚葉が、とてもお洒落な人だから、汗かいてたり、悪いかな、と思ったんで。きちんと、カサブランカ・リリィも付けたんだ。歯も磨いた。自分でドライヤーして、ブロウもしたんだ。

「なんか、夜伽の前みたいだな、お前」
「え・・・?」
「なんだよ?何?」
「身だしなみだよ。数馬には、わからないよ」
「とか言って、柚葉の所じゃないんじゃないの?」
「お妃様じゃないよー」
「そっか、そんな筈ないよな」
「何?」
「人知れず、地下のお姉さんとかさ・・・」
「えー、そんなこと、考えたことないよ」
「冗談だよ、俺だって、あそこ行くだけで、やだからな」
「・・・じゃ、行ってくるね。気にせず、寝ててね」
「うん、寝る時、灯り、小さいのにしとくから」

💚

 柚葉の部屋は、桐藤と同じ階にある。でも、ちょっと、目立たない端の方。エレベーターには近いけどね。僕と数馬は、エレベーターは使っちゃいけなくて、偉い人と同乗する時だけ、ご一緒できるんだって。つまり、プライベートでは使っちゃいけない、ということなんだけどね。

 階段も近いから、登ったり、下りたりに、便利な場所だね。柚葉は、自分で、ここがいい、って言ったんだって。陽当たりは、あまり良くないけど、なんか、落ち着くそうで。桐藤きりとの部屋は、陽当たりが良くて、お庭が見える所で、一の姫様のお部屋に、近いらしい。一の姫様とは、先日の御庭遊びで、初めて、直接お会いして、本当に、お綺麗でご聡明・・・っていうんだったかな、頭の良い人のこと・・・、そして、とっても、お優しい。そんな感じだったから。最近、桐藤の意地悪がなくなったのは、もしかしたら、一の姫様のせいかな、と、僕は思う。別に、言いつけないよ。桐藤がどんなことしたか、なんて。最近は、桐藤、政(まつりごと)とかので、軍族の偉い人の所で、勉強してるとかで、頭が良くても、ずっと、勉強しなきゃならないのかな。それは、それで、大変だよなあ・・・。

コンコン。

 なんか、緊張するなあ。柚葉と二人きりで話すのは、かなり、久しぶりで、前の高官接待以来で、改めてっていうのはね。あの柚葉が、僕に話なんて、何かな?絵とか、写真のことかな?全く、心当たりがなくて、思いつかないんだけど・・・。

「いらっしゃい。夜分に、悪かったね。今夜はいいの?忙しくなかったのかな?」
「大丈夫、今夜は、お妃様の御渡りもないし、後は、寝るだけだから」
「そう、なら、よかった。夕食は食べてきた?」
「大丈夫、お行儀良く食べたよ。今度、ランサム料理のコースのお作法、教えてほしいと思って、数馬と一緒に」
「わかった。いいよ。今度、機会を見てね。ここに座る?ああ、御菓子とか、果物とか、好きなものあるから、食べたかったら、どうぞ」
「わあ・・・♡・・・あ、でも、これ、お作法の勉強?」

 綺麗に、お菓子も、果物も並べられてる。柚葉っぽいなあ。

「クスクス・・・さっきから、お作法のことばかりだね。僕に呼ばれたからって、そんなこと、思わなくていいんだよ」
「そうか、・・・あと、数馬に言われて、書き物教わってこい、って」
「ははは、僕は、君たちの先生だね、まるで。いいよ、慈朗がやりたかったら、見てあげてもいいけど」
「うーん、怒るかな?柚葉、こんなこと言ったら、・・・本当は、やりたくない」
「ははは、正直だな、いいんじゃないか。読むのは、一通りできるようになったんだろ?」
「うん」
「筋がいいんじゃないかな。慈朗は。やって来なかっただけで、賢いんだと思うよ」
「本当?そうかなあ・・・でも、気が重いよ」
「学校のこと?」
「うん、ちょっとね」
「大丈夫だよ。俺と桐藤がついてるから」
「そういうこと?」
「・・・って、何が不安なの?」
「うーん、勉強が難しいかも、ついていけないかも」
「だから、最初は、特別室で、数馬と一緒に、小中学校の分をやって、追いついたら、教室に戻っての勉強だよ。だから、心配しないで。俺も見るって言ったじゃない」
「うん・・・わかった。頑張るよ、柚葉。僕なんか、本当だったら、学校になんか、一生行けなかった身分だから、ありがたいと思わなきゃ・・・」

 ベッドサイドに座らせて貰ってるんだけど、綺麗なお部屋だな。やっぱり、いい匂いだ。

「アロマオイル、加湿器で炊いてるんだ。肌にもいいし、落ち着くんだよ。俺の香水の香りね」

 そうだった、これ、柚葉の匂いだ。いい匂い、きつすぎなくて、上品で。

「でも、慈朗もいい匂い、ちゃんとつけてきたんだね」
「うん、汗かいたから、お風呂も入ってきたんだ。汚いと悪いと思って」
「・・・そう」

 ん?なんだろ。今の感じ。そうだ。柚葉、話したいことってなんだろ?

「紅茶ぐらいなら、飲むよね。俺が飲みたいから、淹れるけど・・・」
「うん・・・って、なんか、悪いから、お手伝いするよ」
「いいよ、座ってて」

 アールグレーってやつだね。匂いがいいの、お妃様もお好きなんだよね。これ。僕も、最近、紅茶は、これにしてるんだ。柚葉に入れてもらうの、なんだか、申し訳ないなぁ・・・。

「そうそう、話したいことって何かな?ひょっとして、高官接待の時のことかな?」
「違うよ。ああ、あの時の約束、よく守ってくれてるようで、助かるよ」
「ああ、うん、それは大丈夫。絶対、誰にも言わない」
「本当に、ありがとう」

 サイドテーブルに、ティーカップを、ゆっくりと置いて、さっきは、デスクの椅子にかけていた柚葉は、今度は、ベッドサイドの、僕の隣に座った。

「なんか、」
「何?」
「えっと、その、高官接待の時の話じゃないの?」
「違うよ」
「じゃあ、桐藤とか、お姫様のこととか?二の姫がお発ちになって、寂しいとか・・・あああ、そんなこと、僕に言う必要はないよね、・・・」
「慈朗は、面白いね。一人で喋って」

 すると、柚葉は、僕の頭を、ポンポンと叩いた。高官接待の時も、そんな風にしてくれたっけ。

「相談とか、聞いてほしいことがあるとか、そんなんじゃなくて、俺は、慈朗と話がしたいだけだから」
「えー?・・・そうか、息抜きに、雑談したいんだあ」
「まあ、・・・そんなことかなあ」
「じゃあ、それなら、僕でもできるよ。よかったあ。そうだよね。桐藤とじゃ、できないね」

 柚葉、笑ってる。なんか、とっても、嬉しそうで、よかった。

「あ、だったら、数馬も呼んでこよう。他の国の見聞の話とか、面白い話、いっぱいしてくれるんだよ、ちょっと、待ってて、柚葉、数馬を呼んでくるから・・・え?」

 僕が、そう言うなり、柚葉は、ドア前に回りこんだ。・・・何か、慌ててるみたい。

「え、ダメなの?」
「うん」
「・・・なんで?」
「いいから、座りなよ」
「・・・うん・・・」

 元の場所に座り直す。ゆっくりしたいのかな。数馬が来ると、賑やかになりすぎちゃうから、・・・そうだね。二の姫を送ったりして、今日は、柚葉、そんな気分じゃないのかも。

「もっと、リラックスしたら?ベッドに上がって、ゆっくりして」
「うん・・・いいの?」
「いいよ、なんなら、寝っ転がってもいい」
「そんなの、お行儀悪い、って、怒るんじゃなくて?」
「なんで、また」
「だって、柚葉は、当面の教育係だって、月が言ってたから」
「ああ、そういうことね。でも、1日中、そんなじゃ、疲れるでしょ。教わる慈朗も窮屈だし、俺も飽きてしまう」
「ああ、そうだよねえ。柚葉、ごめん。ちょっとだけ、年上で勉強ができて、頼りになるから、お妃様も宛てにしてるんだね。でも、頑張るから・・・今は、息抜きだね」
「そう、夜ぐらい、解放されないとね」

 数馬は、ドリルやってたけどなあ。人それぞれってことだよね。柚葉はお仕事が多いのに、僕たちの勉強まで見てるから、夜はこうやって、アロマ焚いて、リラックスなんだね。きっと。

「はあ、俺も横になるから、慈朗、お前も手足伸ばして、楽になったら」

 そういうと、柚葉が、靴と靴下を脱いだ。綺麗な足。長い指で、つま先が整ってて、綺麗。ちょっと、絵に描いてみたい感じがしたんだけど・・・、失礼だよね。そんなの。

「靴は脱いでね」
「うん、よいしょ。靴下は、履いてないんだ・・・ああ、ちょっと」
「なんで、正座?」
「うん、だって、指、あんまし、綺麗じゃないし。柚葉みたいに。足の裏、未だ、ちょっと、硬いとこあってさ。恥ずかしいんだ」
「そんなのいいよ。気にしないから。脚伸ばしたら?」
「でも、・・・」
「女の子みたいだね、何、そんな、恥ずかしがってるの?」

 うーん、なんかね、恥ずかしいよ。近くでみる、柚葉、綺麗だし。緊張するよ。

「ああ、そうだよねえ。わかった。じゃあ、遠慮なく」
「何?綺麗じゃん、わかんないよ。足の裏なんて。俺より、きちんと、手入れしてるじゃん。爪まで磨いてある。ちゃんと、コートもしてあるし」
「月がね、三日に一度、やってくれるから」
「なるほどね、・・・綺麗で、可愛い足だ」
「・・・柚葉、・・・なんか、恥ずかしいこという」
「そう?褒められるの、慣れない?」
「うん、男の人が、女の子、褒めるみたいだ。三の姫様に、言ってるみたい」

 柚葉は、クスクスと笑う。横になってる姿も、カッコいい。背が高いから、脚も長くて、笑ってるだけなのに、カッコいい。こんなだから、柚葉は評判が良くて、女官の人達のファンが多いんだな。

「数馬と、毎日、一緒に寝てるんだっけ?」
「うん」
「もう、帰って、数馬と寝たいんじゃないの?」
「まだ、眠くないから、それに、数馬、ドリルしてるし、偉いんだよ」
「ふーん」
「何?柚葉、なんで、ニヤニヤしてるの?」
「数馬の隣に、毎日、寝てて、本当に、何もないのかな、と思って」

 あー、そうだ。数馬が来た日に、桐藤と柚葉に虐められかけたのを思い出した。今はもう、そんなことしないけど、あの時、もう、できてるとか、思われてたんだっけ?

「前も言ったんだけどさ、あの時、誤解されてたみたいだけど、そんなのないから、変なこと、言わないで」
「解るよ。数馬はノンケ、普通だからね」
「あ、それ、ストレートっていうやつだよね?」
「よく、知ってるね。どこから、聞いたの?そういうの、」
「あああ、それは、あれ・・・、やだったやつ。高官接待の時に聞かれたやつで、そんな会話だったから」
「成程ね。あんな仕事でも、知識が増えるね」
「こういうの、雑学っていうんでしょ?数馬が言ってた」
「そうかあ、数馬が大好きなんだね、慈朗は」
「うん、だからって、変な意味じゃないから」
「でも、ここへ来て、数馬の話ばかりするから」
「あ、そうかな?・・・でも、桐藤のことは知らないし」

 柚葉はまた、クスクス笑った。

「こっち、おいで」
「え・・・?」
「いいから」
「何?柚葉、なんか、・・・内緒の話?」

 つい、周りを見回してしまう。誰か、聞いてたりするのかな?隣は、確か、本が沢山、しまってある部屋だよね。

「ん、まあ、そんなことかな」
「何々、また、皆に聞かれたら、まずいこととか・・・」

 ベッドの脚元の方から、這って、柚葉の側に行く。

「うん、何々?」
「枕、これ、どうぞ」
「いいの?・・・って、内緒話は」
「ここに来たら、教えてあげるよ」
「うん、・・・」
「枕、抱いててもいいから、横になりなよ」
「話、聞くけど」
「まだ遠い、内緒にできないよ」

 柚葉っぽくないな。そんなに話せないことなのかな?何か、皇宮の秘密、知っちゃったとか?

「耳元に話すから」
「そんなに秘密なんだ、わかったよ、うんと、枕使うね。これで聞けるかな」
「ありがとう。よく来たね」

                    💚忍んでおいで②につづく💚


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           第十九話 忍んでおいで~柚葉と慈朗「いい匂い」
                      御相伴衆~Escorts 第一章

 お読み頂きまして、ありがとうございます。
 四人のうちの、柚葉と慈朗のお話がスタートです。
 さて、柚葉の私室に、慈朗が夜な夜な呼ばれていきましたが・・・。
 どんなことになりましょうか?
 次回も、お楽しみになさってくださいね。
 
 

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