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御相伴衆~Escorts 第一章 完結編  第110話 皇帝暗殺編5~数馬の想い

 そのクーデターから、半年後には、騒ぎがあったのが、嘘のように、皇宮は復興し、穏やかな時を迎え始めた。

 数馬は、当時の事を、思い出していた。
 また、見聞きした、それぞれの人たちの行く末についても、思い巡らせていた。

「柚葉は、素国そこくに無事、帰ったんだね、やっぱり、王族だったんだ・・・、新聞に出ているね。名前、違ったんだ」
「無事なら、何よりだ・・・」
「・・・」
慈朗シロウ、まだ、あまり、前の人達の名前を、口に出さない方がいいかもしれないな」
「解ってるよ、数馬・・・」
「亡くなってしまった人達の分も、頑張って、生きない、とな」
「そうだね・・・」

 第二皇妃の息のかかった貴族や軍族の者たちも、協力者と見なされた。
 特に、第二皇妃に優遇され、金銭の授受のあった者は重罪とされ、公開処刑となった。慈朗の両親も、そこに含まれていたという・・・。

「いいか、慈朗。あの時、柚葉が逃がしてくれたから、今、ここにいられるんだ、と思う。俺たち三人が、新皇帝付きとなる予定だったことが知れたら、きっと、桐藤と一緒に処刑されていたかもしれない。その発布直前に、皇帝暗殺のクーデターが起きた。そして、なんで、柚葉が、そのタイミングで、俺たちを逃がせたか・・・それは、知らなくていい事かもしれない。お前は、民間から、無理やり、連れて来られて、俺も、東国から、拉致されて、第二皇妃の慰みものにされていた。その事実だけが残された。それで、俺たちは命拾いをしたんだ。被害者として」
「でも・・・これからだって、どうなるか、判らない。・・・色々と思い出すと、怖くなって、眠れない時があるんだ」
「今の主の皇后様は、とても、お優しい方だから。皇后様の命で、下働きの者たちは、ここに据え置かれる事が許されたそうだし。月たちも、前の様に務めている。ただ、元の地下の担当に、戻されたらしい。刑罰は、最小限にするようにとも、仰っていたから・・・」

「あ、これ、柚葉じゃない?」

 新聞を見ていた慈朗が、スメラギの復興に寄与した人物の写真の中に、柚葉を見つけた。

 あの紫統シトウという、(柚葉と昵懇の)高官の写真もあった。
 また「隔絶した皇宮」と題して、当時、素国から、スメラギに浚われた拉致被害者として、柚葉が紹介されていた。

 柚葉の立場は、王子と称され、本人が拉致されていたのにも関わらず、スメラギの混乱を収束した功労者と讃えられていた。勲章と褒章が、国家から与えられたとも書いてあった。

 素国王の名代で、その高官の紫統が、皇帝の葬儀に列席し、皇宮の復興の為に、巨額の寄付をしたことも、新聞には、書かれていた。

「なんとなく、柚葉らしいや・・・王子様キャラだったもんな、本当だったんだ」
「やっぱり、柚葉は、大ウソつきなんだ。皆の為に動いて、皆を護る為に、あんな事までして・・・」

 数馬は、慈朗の気持ちを慮って、半分、昔のように、柚葉の事を、茶化して言った心算つもりだったのだが・・・、

 慈朗も、周囲の人達と同じで、柚葉を英雄視しているような所がありながら、何か、含みあるようだ。

 でも、俺は・・・

 数馬は、当時の柚葉のことを思い出す。
 
 その本心が、今なら、解る所もある・・・。

 柚葉は、確かに、全部、黙って、自分の気持を押し殺して、ここで、その時が来るのを待っていたんだと思う。本当は、桐藤のことも、大嫌いだったんだ。

 二の姫には、散々、甘いことを言って、惹きつけておいて、そんなに、好きでもなかった癖に、恋人みたいに振る舞ってたのは、本人の口ぶりで解ったから。こればっかりは、仕方ない。柚葉は、その、本当は、あれ・・・だから。あの時の、あの立場では、役目に徹していたから、選ぶとかの問題じゃなかったのだろうし・・・。

 動きが優雅で、指の先まで、しなやかに動かして、食事だって、大口開けて食べた所は見た事なかった。綺麗で、賢くて、優しくて、穏やかな柚葉は、男女問わず、皆に、人気があった。皆、その雰囲気に、騙されていた。油断していた。

 桐藤の激しさには、皆、怖くて警戒していたけど、その陰で、柚葉は、もっと、策略というか、何か・・・をしていたのかもしれない。数馬は、色々と思い巡らす。

 そして、もう一人、維羅の事も思い出す。

 俺の直感だが、いくら、第二皇妃の一派が台頭してきたとして、あの場を荒らすようなクーデターを起こすだろうか?

 柚葉は、自分たちを逃がす、ギリギリのタイミングまで、解っていた。
 自分を含めて、俺と慈朗の三人が、皇帝付きだと発布される前日にだ。
 こんなことできるのは、「本来の首謀者」しかいないだろう。
 柚葉が・・・、関係していたとは、思いたくないけれども、・・・。

「でも、やっぱり、あの時は、すごく、怖かった。今、何も無かったように、まだ、ここに居られるなんて、不思議だな」
「皇帝のいらしたお部屋には、皇后様と皇子様が住まわれているみたいだな」
「本当の皇子様が現れたんだから、もう、あんな事、起こらないよね」

 慈朗の言葉に、何故か、俺は、首を縦に振ることができなかった。

「そうだ、お前、色々と、大変だったけど、ランサム語の新聞も読めるようになったんだな」
「うん、大体は解るし、解らない言葉は、辞書で引くから。本も、こんなに、面白いものだと、知らなかったし。今度、機会があったら、お給金で、カメラの本や、絵の描き方の本も買おうと思う」
「そうだな。俺より、物知りになったんじゃないの?そういえば、いつの間にか、飯も、きちんと、食べられるようになったし」
「うん、食堂で、他の人達と一緒に、お話しながら、食べられるようになったのが、楽しくて、嬉しい。箸やスプーン、フォークとナイフも使えるようになったし・・・。ゆっくり、味わって食べるから、少しでも、美味しく、お腹いっぱいになるようになったよ」
「本当に、良かったな」


「でも、結局、学校にも、一年も行けないで、終わったね」
「いいよ、俺、ああいう、お仕着せみたいな、きつい服着るの、苦手だし」
「なんか、辛い結果になって、離れ離れになったけど・・・、あの頃、学校に行ったら、皆が、頭下げてきて・・・違うのに、僕まで、桐藤や、柚葉みたいに扱われて」
「いや、違わなかったんだろう。俺たちは、4人1組で『Escorts(皇宮の皇子たち)』と言われて、学校では、特別扱いされていたからな」
「あの頃は、まるで、人気の歌い手とかみたいだったね。桐藤と柚葉は、もう、大人気で、女の子の人気を二分していたね。そうそう、数馬にだって、女の子から、毎日、ラブレターが来てた」
「お前もだろう?・・・何故か、男からが多かったよな・・・」
「わかんないけど・・・多分、そういう子たちが、多かったんじゃないかな。上流階級の子息は、若い時に、それぞれ、男と女の恋人を持つのが、流行りだったみたいだからね」
「そうなのか?」
「ふふふ、やっぱり、そういうのに、疎いんだね。数馬は。僕は、いつも、柚葉と一緒にいたから、そういうのは、柚葉が教えてくれたから・・・」

 そうだった。当時、例の素国の高官接待以来、柚葉と慈朗は、急接近したんだ・・・。

 柚葉は、慈朗に、気を許したというのか、そんな感じだった。慈朗は、何か、柚葉の秘密を知っているらしいが、俺にも、未だ明かさない。多分、そのことで、柚葉は、きっと、大きな信頼を、慈朗に寄せていたのだろう。

 ・・・逆に、慈朗を惹きつけるのは、柚葉にとっては、極、簡単なことだった。日々、慈朗は、柚葉に嵌まり込んでいった。普段、俺たち二人に対して、補習してくれた、その教え導く、優しい様子だけでなく、・・・つまり、柚葉は、殊の他、慈朗を可愛がっていたようだ。

 お妃様の御渡りでない夜は、大概、慈朗は、部屋を抜け出して、柚葉の部屋に行っていた。俺は、夜、一緒に隣で寝て、俺が眠ると、部屋を抜け出し、朝、隣に戻っている、そんな慈朗を、知らんぷりしてやっていた。まあ、その内にバレて、というか、慈朗が自分で、俺にその事を話してきた。

 それを、普通に、俺は受け入れてたし、慈朗は、嬉しそうに、柚葉との事を、まるで、惚気のろけるように、話した。

 ここに来る前、人の優しさに触れることが少なく、愛情に飢えていた慈朗にとっては、きっと、心が安定した時だったんだろう。

 幸せそうで、良かったと思った。
 人それぞれ、何で満たされるかは違う。
 だから、俺は、慈朗をおかしい、とは思わない。

 そんなわけで、この時期、お妃様に母親のように愛され、兄のような柚葉にも満たされていき、心にもゆとりができたお蔭か、慈朗は、短期間で、学問を習得していった。

 特別室での授業から、普通のハイスクールの1学年の教室に、約2か月余りで、俺と同じ時期に戻ることができた。きっと、俺なんかより、頭が良かったに違いない。勘所が良く、俺より成績が上になっていった。知らなかったことを知るのが楽しいのだ、という。

 それでも、やはり、美術の時間が、一番楽しい、と言っていた。好きなだけ、絵が描けると。俺が学校を辞める頃には、成績も、学年トップにまで、上り詰めてたっけ。

 俺は俺で、成績は、そこそこ、上位にはいたが、あんまり、勉強は好きじゃないので、桐藤に怒られない程度の順位を保っていた。

 それより、放課後が忙しかった。
 各運動部から引っ張られて、大会などに出されて、変な言い方だが、良い成績を修めさせられた。宙返りを休み時間に見せてほしいとせがまれたり、なかなか、大変だった。

 音楽の時間、独唱をさせられたら、上手いと賞讃され、その後、また、周りにせがまれ、歌を歌わされた。まあ、俺の商売でもあったから、得意ではあるけど。

 流行りの曲を歌ってほしいと言われても、解らなかったので、桐藤を除く二人と、三の姫様とで、市井のカラオケというものに行って、流行りの曲を憶えた。振り付けもつけて、と、三の姫様に請われた。簡単なものに見えた。少しやると、すぐ覚えた。これは習い性だったから。

 そして、昼休みに披露すると、その日は、ラブレターのようなものが、カバンに入らない程、来たのだが。

 申し訳ないが、俺だけではなく、『Escort』たちは、それを皆、読むことなく、帰宅すると門前で、召使いが回収し、すぐ焼却されていたのだが・・・。

 三の姫様の守役という役目もあったが、これもまた、柚葉が、かなりカバーしてくれていた。俺と慈朗が、自分の用事で、忙しい時には、三の姫様には、柚葉が付き添ってくれていた。三の姫様は、俺の部活には、いつも見学に来て、それに付き添う、慈朗と柚葉と一緒に、応援してくれていた。なので、当時も、学校では、俺は三の姫様と公認のカップルだということにされていた。柚葉と二の姫様の時と同じだ(この時、二の姫様は、まだ、ランサム大学に短期留学をしていたので、一緒に通学することはなかった)。

 学校はやることが多いのだな。
 ちょっと煩わしいから、俺は、旅芸人の方が、やっぱり、好きだ。

 もしも、俺が、東国の学校に行けていたとしたら、こんなだったのかは、よく解らないが、あの頃が、一番、皆で、楽しい時を過ごせてた、と思う。・・・アーギュ王子の出現で、俺は奥殿務めになったが、あの頃から、なんか、急に、こんな風な事になって行った気がする。

 今、一番心配で、気になるのは、姫様たちのことだ。

 先日、一の姫様が、亡くなられたと聞いた。
 皇后様が国葬を勧めたが、妹姫様たちが、頑なに拒んだという。
 北の古宮の墓所に、第二皇妃様と、桐藤の隣に葬られたと聞いた。

 いつか、北の古宮に行けないだろうか?亡くなった方たちのお参りもしたい。姫様たちにも会えるなら、励ましたい。

 しかし、こちらから陸伝いに行くルートはないそうだ。海から川を遡るか、飛行機で行くしかないらしい。

 幽閉の場所に、一般の人間がいってはいけない、とも聞いた。
 悪い事など、何も姫様たちはしていないのに・・・。

 アーギュ王子が、国を出奔した噂は聞いている。
 姫様たちを助け出す算段なのだろうか?それとも、こんな事態になり、王族の生活に嫌気がさしたんだろうか?

 できれば、女美架姫様のこと、懲りずに、引き受けてほしい。
 そうだ、慈朗に言われてたことがある。

「っていうかさ、女美架様のこと、頼むよ」
「それは、アーギュ王子に、いつか、啖呵切ってほしいぐらいなんだ。僕としては」

 そうだ。きちんと言って、熨斗のしつけてくれてやる心算だったのに・・・。

 こちらから取り上げて、幸せにする、って顔してたんだから、責任は取るべきだ。いつか、言ってやりたい。できるなら、とっつかまえて、北の古宮に連れて行ってやりたいぐらいだ。

 これから、俺は俺なりに、ここで、慈朗とできることを考えて、生きていこうと思う。

 先日、耀アカル皇子を紹介された。
 俺と慈朗は、皇子付きとして『御相伴衆』を復活させると、志芸乃シギノ元帥に命じられた。第二皇妃様の時とは、意味合いが、だいぶ違うし、最も、桐藤や柚葉のように、立ち回りはできないかもしれないが。

 できることを頑張ろうと決めた。
 皆が幸せになれる道が、この先、この皇宮で開かれる事を祈って。


                    御相伴衆~Escorts 第一章 完



御相伴衆~Escorts 第一章 完結編 第110話 
                     皇帝暗殺編5~動乱の中で④


 
皆様、お読み頂きまして、ありがとうございます。
 今回、第110話にて、第一章が完結しました。

 ある意味、このお話は、御相伴衆一人一人の物語でもあるのですが、数馬からスタートしていることで、最後は、数馬に任せました。

 この続きに、確実に数馬と慈朗は関わってくる、はずです。
 そして、スメラギ皇国の大きな秘密が、この後に露呈していきます。

 新キャラクター、耀皇子は、何故、匿われるように、北の古宮にいたのか?既に、その行く末が知らされている、姫姉妹はどうなっていくのか?

 第二章は、また新しいキャラクターたちが登場し、お話は大きく展開していきます。ご期待ください。

 第二章に入る前に、短いですが、おまけのお話を、スピンオフの形で、少し、お送りすると思います。お楽しみになさってください。

 

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