見出し画像

御相伴衆~Escorts 第二章 第121話 青天の霹靂6~「月城歌劇団③」

 数馬が、一通りの芸を見せ終わると、月城は言った。

「さて、まあ、お前の芸も、大事なんだが、俺としては、今のお前の問題、心持、これまでの事をどう考え、そして、これからの事を、どう考えているのか、それが大事だと思っている。話したいことがあれば、気楽に話して貰えれば、いいのだが・・・まあ、室内には、盗聴器があるのだろうな。特に、客人の部屋にはついてるらしい」
「やっぱりね。・・・おとなしくしていて、正解ね」

 艶肌ツヤキが、ベンチに戻り、腰掛けながら言った。

「まあ、俺たちスタッフは、大部屋的に、広間を解放してもらって、却って、気楽にしてるが、時々、なんか、見張られている感じはするね」

 黒東風クロコチは、厳しい表情になった。

「すみません。気を遣わせてしまって」
「まあ、東国語で話す分にはな。・・・できるだけ、話せることは、明かしてほしいと、昨日、伝えておいたのだが、大丈夫か?あまり、リアクションをしないようにしながら、話を聞くから。外を選んだのは、この為だ」
「そこまでして頂いて、本当に、申し訳ないです」
「いいか、俺たちは役者だ、お前も。大丈夫だ。信頼して」
「はい・・・」

 それから、数馬は、ここに来た経緯、旅の一座の仲間が殺された事、御相伴衆として、務めてきた事、まず、それを、月城達一行に話した。そして、一先ず、クーデターに関わる事柄や、皇帝一族や、桐藤キリトや柚葉の事は話さず、クーデター以後に、接待の席にいた慈朗シロウと共に、耀アカル皇子付になった事を伝えた。

 数馬が驚いたのは、艶肌が、顔色一つ変えずに、この話を聞いている事だった。雑談を聞くように、頷いている。少し、艶肌が、一の姫を思わせる感じもしたので、その彼女が、冷静でいる事が、数馬は、すごいと思った。

「だいぶ、端折はしょったみたいだが、かなり、大変だったんだな」
「内乱の話も聞いてるし、宮中の役付きの人間が、殆ど、入れ替わったともね」
「よく、生き残っていてくれた」
「許し難い国ですね」

 黒東風は、木刀を磨きながら、低い声で、さりげなく、発した。

「出立は週末。夜公演を行い、俺たちは、そのまま、つ予定だ。その晩の内に、スメラギを出る。数馬、この機を失ったら、お前は、きっと、スメラギを出ることができない。性格からして、責任感が強いからな。二度と、東国に帰るチャンスはない。自分で判っているだろう?」

 艶肌は、溜息を小さくついた。黒東風は、首をひねった。

「一緒にりたいと思える役者なんて、俺の立場の場合、そうはいない。数馬は、すぐ使える、しかも、万能に近い、アクション俳優だ」
「・・・黒東風さん」
「珍しいのよ、厳しくて、黒さんは、なかなか、褒めないからね」

 艶肌が、数馬に囁く。

「私だって、あんなことしないわよ。踊り子で、くすぶってるなんて。あれは、軽いバージョンでしょ?」
「・・・まあ、」
「あああ、ほら、各プロの皆さんが、君を口説きにかかっているのだが、どうする、数馬?」

 月城が笑いながら、数馬に尋ねた。
 半分冗談めかしたようだが、これが大切な質問だということを、数馬は、瞬時に感じ取っていた。

「あの、あの、・・・いつまでに、お返事をすれば?」
「返事はいいよ。帰国の時、楽屋から、そのまま、俺たちと一緒に、専用機に乗ればいい。大事な、その親父さんたちの肩身の商売道具一つ持って。それが、お前の答えだ」
「期待してるわ、ちなみに、私の婚約者は、座付き脚本家なの。きっと、貴方のこと、すごい、気に入ると思う」
「逸材が、こんな、歪んだ場所で埋もれると思うと・・・俺たちと出会ったことを感謝して欲しい、数馬」

 それぞれが、自分を、強く誘ってくれていることが、数馬には、痛く感じられた。

 数馬は、月城歌劇団が、世界的に認められた、最高級のプロ集団であることは知っている。その実、ランサムのエンタメフェスでも、芝居を見ている。まさか、こんな所で、こんな人達に、自分の芸を見てもらい、認めてもらえるなんて、夢のまた夢なのだ。

「あの、月城先生」
「いいね。研究生」
「あ、・・・嬉しいんですけど、もう少し、お話を聞いて頂けますか?すみません。月城先生とだけで」

 艶肌と黒東風は、顔を見合わせて、それぞれ、頷いた。

「オッケー、だいじょぶよ。じゃあ、私たちは、次の公演の準備にかかります」
「では、数馬君、待ってるぞ」
「任せた、よろしく」

 数馬は、艶肌と黒東風に、深々と、頭を下げた。二人は、頷いて、中庭を後にした。これで、数馬と月城は、二人きりとなった。

「まあ、座れ」
「はい、もう少し、詳しい話をします。かなり、長くなります。いいですか?」
「大歓迎だ・・・」

 数馬は、今の耀皇子の立場、慈朗シロウの事を話す為に、第二皇妃時代の話からすることにした。

 御相伴衆は、元々、四人組で、亡くなった桐藤、素国の王子の柚葉、スメラギの第五層であるスラム出身の慈朗、そして、東国から流れ着いた、数馬自身であり、皇帝一族に関わる仕事をしていた事。皇妃には、三人の姫がいて、それぞれの御相伴衆と、将来のある関係性を持ち、その中でも、自分は三の姫の『ご指南役』であった事。クーデターの後、皇妃と桐藤は処刑され、北の古宮に、三人の姫は移され、その後、間もなく、病の為、長女の一の姫が亡くなった事。そして、それと入れ替わりに、皇后陛下と、第一皇子の耀が、皇宮に戻り、そして、今、その皇子付として、数馬と慈朗が務めている、という、ここまでの経緯を告げる形となった。

「・・・東国だとしたら、少なくとも、これは、何百年も前の、大時代的な話だな。近代、現代の話とは思えない。ここは、まさに、現代の国際社会と隔絶した国なのだな。成程、ここまでの話は、解った。お前の性格から見て、周囲を援け、ここまで、来たのだろう。それもあり、生きながらえてきたとも言えるかもしれないな。で、いよいよ、お前の気にしている、心配事だ。ハッキリ、言ってみろ」
「俺の認識では、上のことは、解りません。でも、クーデターのような事が、また起きるんじゃないか、と心配しています。それは、大きな戦闘とか、そういう意味ではなくて・・・弱い立場の人達が、また、辛い思いをさせられるんじゃないかと・・・」
「悪い。数馬、ハッキリ、言ってくれ。心情でなくて。誰を援けたい?」
「はい、慈朗と、皇后陛下と、耀皇子です」
「・・・政情の事だな。実は、俺たちの今回の招聘は、スメラギからじゃなく、素国からだったんだ。・・・そういうことか・・・」
「月城先生・・・」
「うん、まあ、ここに来る前に、予備知識をね、東国外務省の筋から、入れてきている。文化人だから、入国できる、ということだった。素国ルートからの入国でね。ダイレクトに東国から、スメラギに入ることはできないからな」
「今回は、皇后陛下が、随分、頑張ってくださったのだ、と感じる所があります。だから、東国人である皆さんが、入国できたのだと」

 月城は、深く頷いた。
 ここに来る前に、皇后素白ソハクに謁見し、この皇宮すめらみやの内情を知るに至っていたのだ。

「人種差別の坩堝か。擦れ違う、素の高官から『川原乞食』という言葉を、何回も投げかけられた。現地語のようだが、残念ながら、俺は、四大大国の言語に関しては、ネイティブ並みだ。解らない振りをして、スルーした。その時、お前の気持ちが、よく解った。異常なくらいの乱れた感覚が、宮中に蔓延している。艶肌を始めとする女優や、女性スタッフは、必ず、黒東風のような、屈強なスタッフと、共に、行動させている」
「やっぱり、そうだったんですね・・・」
「まあ、だから、解ってる心算だ。この国の今の状況を。だからこそ、お前を早く連れ出したい。はっきり言う。俺たち、東国人は、巻き込まれる必要はない」
「でも、・・・」
「今の俺ならば、お前の才能を活かしてやれる。昨日も言ったが、お前に、その気があるなら、スメラギから、お前を買い上げることにする。残念ながら、このただれた国を、お前一人が足掻あがいた所で、何も変えることができない。しかし、ここを出て、俺たちと一緒に来れば、お前の人生は、変えることができる。自由の中、好きな芝居ができる。ここにいたら、才能を埋もれさせるばかりでなく、常に、命の心配をしながら、・・・俺は、政治の評論家ではないから、解らないが、この国の寿命は長くないと思う。いずれ、スメラギは、素国の植民地になるかもしれない。合法的な方法で・・・」

 数馬は、改めて、月城の言葉に、この国の状況を悟った。

「・・・月城先生」
「これは、東国の外務省が、懸念する見解だ。俺の素人的な邪推、ならばいいのだが・・・後は、お前の判断だ。客演は断らないでほしい。その後、俺たちについてくるならば、先程、言った通りだ」

 月城は、数馬の肩を叩き、強く、揺さぶった。

「チャンスは、二度とない。そう思った方がいい」

 月城は、数馬の知り得ない皇宮の秘密までも、少し前に、皇后陛下から聞かされていた。

 数馬の杞憂は、まさにそれなのだと、月城は感じ取っていた。そこに出てくる者たちの人間模様が、皇后と、数馬の双方の立場から語られる中、少なくとも、この淀み、狂った皇宮の中で、この二人の感覚は、毒されず、心ある考え方であることは、確かだった。

 もしも、この国の多くの人間が、この考え方をすることができれば、この国を救う方法はあるのかもしれないが・・・。

 月城は、そう、思いを巡らせていた。


皇后の過ち1につづく


御相伴衆~Escorts 第二章 第121話 青天の霹靂6~「月城歌劇団③」

 お読み頂きまして、ありがとうございます。

 数馬は、月城歌劇団のオファーに、どう答えるのか?
 次のお話は、舞台を移し、皇后素白の話になります。
 お楽しみになさってくださいね。

 そうでした。実は、第一章、第二章ときていますが、章のタイトルがあったんです。でも、長々しくなってしまうので、省略していましたが、裏話として、ご紹介します。

 第一章 「皇妃の愛でた少年たち」
 第二章 「虹彩異色の流転の皇子」

 となっていました。
 この話は、大きく括ると、大道芸人の少年、数馬の物語です。
 そして、後半は、スメラギ皇太子 耀の物語でもあります。
 そして、スメラギの三姉妹の一人、三の姫女美架の物語かもしれません。
 更に、慈朗や、素国に戻った柚葉(紫颯)、志半ばに亡くなってしまった桐藤の物語でもあります。
 それぞれが道すじをエンディングに向かって、進んでいく形となっていきます。スタートの時のように、それぞれの物語に分散し、最後、集約する形に、再び戻ってきます。

 みとぎやの『伽世界』の物語は時空を超えます。転生して、更なる使命を帯び、別の次元で生きる者もいたり、パラレルで別の立場で生き続ける者もいます。

 時系列は関係なくなります。これは、実は、現実世界でもそのようで、最近では、創作と言いながら、真実と合致していく部分を発見するにつけ、辻褄が合わないのではなく、むしろ、当たり前のことなのだと、お腹に落ちています。

 世の中で現実でも起こりうる、弱い者からの支配層の搾取、まだ若い少年ともいえるキャラクターたちは、この世界の変革の臭いを嗅ぎ取りながら、今後を生き抜いていきます。

 重いかもしれませんが、よろしかったら、ラストまで、お付き合いください。
 

ここから先は

0字

高官接待アルバムプラン

¥666 / 月
初月無料
このメンバーシップの詳細

更に、創作の幅を広げていく為に、ご支援いただけましたら、嬉しいです😊✨ 頂いたお金は、スキルアップの勉強の為に使わせて頂きます。 よろしくお願い致します😊✨