御相伴衆~Escorts 第二章 第131話 新天地ランサムへ2~人より誇れるもの
「ふーん、耀、ってお名前なのね?」
「はい、よろしくお願いします」
美亜凛は、腕を組んで、耀のことを、上から下まで、スッと眺めた。
「えーと、ここはね、皇宮と違うの。貴方を、普通の、ランサムの18歳の男の子として扱いますからね。食事は、私と一緒にして、部屋は、先程の通りね。もう、整理したみたいね。ちょっと、見てもいいかしら?・・・あら、案外、質素なのね。好きな事、趣味は何?」
「えーと、特にはない、です」
「・・・へえ?・・・温度低くて、色素薄いタイプね。これでは、オーディションには、受からないわねえ・・・」
「は?」
「うふふ、ごめんなさいね。仕事柄、プロダクションの子、見るみたいになっちゃうのよ。まあ、いいわ。四年間もあるのだから、マイペースに頑張って。こちらからは、特にはないんだけど、国から、言われてることが、あるんじゃないのかしら?」
「まあ、公人なので、弁えるようにと」
「そうねえ、多分、写真は撮られるから、覚悟してね。知る人ぞ知る、スメラギの第一皇子だからね。まあ、Good lookingだから、まあ、何か言われたら、一先ず、うちのタレントってことにするからね。面倒見てる子を住まわせてる、っていうことでね。最初の内は、それで行けそうね。・・・あ、これ。いいんじゃないかしらね?良かったら使って。あげるわ」
美亜凛は、近くのタンスから、何か取り出し、耀に渡した。
「伊達眼鏡?」
「そう、目、気にしてるんでしょ?そもそもが、眼鏡の子だと思わせれば、却って、注目されないんじゃないかしら?」
「成程、良いお考えですね」
「かけてみたら?ああ、やっぱり、べっ甲、似合うわね、うふふ」
虹彩異色のこと、伝わってるんだ。伊達眼鏡か。気づかなかったな。ああ、成程・・・、かけると、少し、守られてる感じがする。
「言葉遣い、皇子っぽいのね・・・ああ、女の子の関係は、気をつけてね。多分、一番、トラブルがありそうで、起きると、面倒臭いからね」
「それは、大丈夫です」
「・・・そう?・・・こんなに綺麗で、可愛いくて、Good lookingなのに?」
「・・・ああ?・・・そうですかね?」
まあ、そういう風に、皇宮の奥で、扱われてはきましたけど・・・。
「真面目そうね・・・多分、学校では、大丈夫ね。あ、私の事は、美亜凛でいいわ。『さん』とか、そういうの、いいから。『社長』でもいいわよ。人前でそう呼ぶと、タレントだと思われていいかも」
「わかりました」
「国に約束してきた、側室候補とか、いないの?」
「え、なんですか?側室・・・、ああ、いません」
そうか、それは普通ならば、ありそうなのか・・・、なるほど。
「ふーん・・・」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ・・・、あ、好き嫌いはない?私、料理苦手だから、出来合い、多くなるけど、後、外食か、出前ね」
「あ、何でも、大丈夫です。外で食事、あまりしたことがないので、新鮮です」
「本当に、皇子様なんだあ、へえ、じゃあ、びっくりしないでよ」
奇しくも、美亜凛としても、母親代わりのポジションであり、息子と同じぐらいの年齢の耀の面倒を見ることになる。
どんな心持なのだろう。
手元においた、お忍びのスメラギの皇子。多くのタレントを抱える、芸能プロダクションの社長である、彼女から見ても、彼の生まれ持った麗質、皇子独特の気品は、とても、好めるものだった。そして、身体特徴としての、金の髪と瞳は、ひょっとすると、並んで歩いたとしたら、親子に見えるかもしれない。美亜凛は、耀を気に入った。欲しかった息子の像に相応しい。
できなかった、息子との追体験ができるかも・・・、
ちょっと、美亜凛は、悪くないと思い始めていた。
その一方で、スメラギに裂かれた、かつての恋人揮埜の、再びの出現と相俟って、スメラギに取り上げられた、我が子の事を思い出す。忘れようとしていたことなのに・・・。
耀の姿、スメラギ独特の細い線の身体、どことなく、若い時の揮埜を思い出す。本当の息子も、もし、手元で育てることができてたとしたら、こんな感じだったのかしら、と、そんな風にも考える。
彼は、大人の中で育っている。多くの若い子を見てきて、その弁えのある態度、受け応えは、なかなか、ないものだと感じた。
大人の機嫌が取れる子。大人の機嫌を取ってきた子。
「ふーん・・・、そういうことなのね・・・」
💫
間もなく、大学が始まった。
希望していた、ランサム王立大学の情報理工学部に在籍することになった。内容は面白い。まずは、考えていることが、PC上で組み込み、動かすことができることが解った。
机にずっと座って、本を読んだり、ずっと譜面を追って、ピアノを弾いてきた習い性で、座ったまま、ずっと、ずっと作業していられる。
・・・我ながら、こんな事が、向いているのだろうと、俺は思った。
「うーん、思うに、何か一つ、人より誇れるもの、それを身に着けるべきだと思いますよ。何でもいいです。皇子も、好きなこと、得意なこと、それを極めて行く。それが身を援けると、俺も、育ててくれた人から、よく言われたんですよ。俺の場合はこういう芸事で・・・」
数馬に言われた事を、思い出した。
ようやく、俺は、遣りたいことを見つけたような気がする。
藍語ができることが、大学の入学の条件だったが、北の古宮にいた時から、教わっており、受け答えができ、もう、ここでは、藍語で話すしかなくなった。
最近では、夢で、藍語で考えながら、プログラミングしていたりする。当然、美亜凛とも、最初から、藍語で話していた。
そういえば、揮埜大佐は、藍語が上手い。
聞くところによると、一時期、ランサムとの外交時に、通訳として、よく来ていたという。
・・・その時に、美亜凛と恋仲になったのかもしれない・・・。
普通の市井の家に育ち、自宅から、大学に通うというのは、こんな感じなのかもしれない。
勉強が中心だと、念頭に置いているので、サークルとか、飲み会に誘われるが、やることがあると断った。色々と構われるのは、面倒臭いと思った。
何か月か、通った頃には、大学の女の子から告白されたり、デートに誘われたりと、賑やかな感じになりそうだったが、残念ながら、全てスルーした。好い感じになって、オッドアイの件とかも、面倒臭いし、立場上、無責任に、そのような形になるのは、やはり、違うと思っていた。
そう、仕事じゃないのだし・・・。
この機会に、ランサム社交界に、デビューしてはどうかと、志芸乃元帥から、来る時に言われたが、何の事だか解らない。先達がいれば、引っ張って貰えるのだがな、と言っていたが、そんなことしてる暇は、多分ない。着飾って踊ってる(俺もレッスンは受けていたことがあるが)印象しかないので、興味は、一切なかった。
「半年も経つけど、順調、みたいね・・・って、優秀じゃない。これ、学年トップってこと?」
「・・・えーと、あ、そうみたいですね」
「そうみたいって・・・、大したもんだわ。伊達に、皇子様じゃないのね」
「関係ないと思いますよ。向いていただけです」
「そ、なら、尚のこと、いいんじゃない?」
「あ、これ、美味しいですね」
「東国料理のデリバリーね。寿司、っていうの、ひょっとして、初めて、食べてる?」
「ああ、東国の食事は、こちらに来てから、初めて、食べました」
「結構、ヘルシーだなって思って、食べてると、逆に、数を食べちゃうのよね、これ」
「美亜凛は、食べるのが、お好きですね」
「そうよ、今度、デートしようか?仕事に一区切りしたら、飲みに行こうか?18歳なら、ランサムでは、大人扱いだからね」
「えー・・・まあ・・・はい、ありがとうございます」
「素直ねえ、耀は。役者としたら、物足りないぐらいね・・・」
あ、・・・役者で、思い出した。
知ってるかな?美亜凛は。
「あの、若手の役者で、知り合いがいるんですけど、ご存知かなと思って」
「何?役者、どんな子?何に出てる子か、わかる?」
「数馬、っていうんですけど、俺より、3つ年上だから、21歳です」
「うーんと、所属とか解る?東国人よね?名前から行くと・・・」
「あの、なんて、言ったっけ・・・あ、『月城…』」
美亜凛は、目を丸くして、頷いた。
「あーっ、月城さんの所ね。はいはい、うん、何年前かに、アクション俳優っぽい子が入ったって、聞いてるよ」
「え?その方とお知り合いですか?」
「まあ、経営者同士だから、時々、連絡取ってるけど、あ、月城さんとこのHP見た?多分、出てるよ」
あ、毎日、コンピュータ・・・なのに、全然、思いつかなかった。
「あ、この人です。数馬って、いうんです」
スマホで検索して、美亜凛に見せた。
「ああ、知ってるわよ。なんか、すごい新人っていうかね、フライングも教えたら、すぐできる。踊りも殺陣もすぐ覚えて、勿論、台詞もね。運動神経が良くて。でも、彼は舞台向きで、ドラマとか、現代劇は、苦手みたいね。珍しい古典芸能を習得していて、そういう意味でも、そういうものの継承者としても、認められつつあるみたいね。何、この子のファン?」
「えっと・・・」
皇宮で何してた、とか・・・言っちゃいけないよな。
「そう、ファンです。彼の出ている舞台を観たことがあって、いつか、また観てみたいな、と思っていたんです」
「そうねえ、耀にはない要素だもんね。この彼、肉体派だしね。うふふ・・・ちなみにね、私、この子、すっごい、タイプだわ・・・♡」
「え?そうなんですか。・・・ご本人、聞いたら、悦ぶかもしれませんね」
「ん・・・?・・・会ったことあるかな、この子、小さい時に」
「そうなんですか?」
「うん、私、昔ね、ダンサーやってたから、何かの時に、楽屋で一緒になったかも・・・でも、何の時だったか、憶えてないわ・・・あらあ、残念」
この感じだと、知り合いの可能性があるかも。業界って、狭いんだな、案外。
ひょっとしたら、ランサム滞在中に、数馬に会えるかもしれないな・・・。
新天地ランサムへ3~人より誇れるものへつづく
御相伴衆~Escorts 第二章 第131話
新天地ランサムへ2~人より誇れるもの
美亜凛と数馬が繋がった、と、耀は嬉しかったと思います。
ただ、月城歌劇団は、世界各国を渡り鳥のように、渡りながら、芝居をしている劇団で、どうやら、今は、ランサムにはいないようですね。
お読みになって頂きまして、ありがとうございます。
次回は、このお話の中でも、大事な回になると思います。
お楽しみになさってください。
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