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御相伴衆~Escorts 第一章 第101話 暗躍の行方6~ランサム編
女美架姫を待たせていた時―――
ジェイス、暁と、その弟のパイロットの辛を、隣室に呼び寄せたアーギュ王子は、これからの大切な極秘の流れを、この従者達に話し、理解と協力を求めることにした。
「スメラギの厨房の職員たち、解りますか?暁殿」
「え?・・・あ、はい、気の良い皆様です。各国料理がお上手で、私のレシピの御菓子なども、少しの説明で、再現してくださいます」
「ここだけのお話です。来て早々で、申し訳ないが、皆様に協力して頂きたいのです。よく、聞いてください。これから、暁殿に窓口になって頂きます。この携帯電話をお持ちください」
「・・・はい?」
「ときに、ジェイスと、ああ、貴方が暁殿の・・・」
辛は敬礼の後、脱帽し、立ち上がり、アーギュ王子に、深々と、最敬礼をした。
「お初にお目にかかります。スメラギ空軍少尉、英辛と申します」
「不束乍ら、私の弟でございます」
「そうですか。辛殿、お掛けください。では、ジェイスと辛殿は、その情報を暁殿から、受け取ってください。ジェイスはわかるな?」
「はい。そのまま、王子にご一報を」
暁は、戸惑いながら、王子に尋ねた。
「つまり、私は、その・・・」
「その厨房の職員の四名は、ランサムの諜報員です」
「・・・!!・・・そんな」
驚いた暁と辛は、顔を見合わせた。
「いいでしょうか?これは、悪巧みの為のものではありません。そのことだけは、信じて頂きたい。普段、普通に務めておりますが、有事の時のみ、こちらに隠密で連絡をしてきます。いいでしょうか?これは、足が付いた時に、暁殿であれば、この全てを、何事もなかったことにできます。よく聞いてください」
「はい・・・」
「まず、その携帯電話に、連絡があります。『厨房』と名前が出ます。かかってくるのは、ここからのみです」
「はい・・・」
「その時に、こう聞いてください『ロイヤルベリーは?』と」
「はい、『ロイヤルベリーは?』ですね」
「記憶してください。メモには遺さないで」
「はい・・・」
「聞くと、数通りの答えが帰ってきます。いいですか。順番に言います。『2個足りません』と『在庫切れです』いいですか?恐らく、今、聞くと、『2個足りません』というと思います」
辛が、頷きながら、携帯電話を覗き込んで、王子に尋ねた。
「つまりは、皇帝一族の、皇宮における、ご不在の方の人数ということでしょうか?」
「その通りです。今は、二の姫様、三の姫女美架様がご不在ですから、そうなります。問題は、『在庫切れ』という言葉です」
「・・・それは・・・?」
暁は、手を震わせながら、懸命に尋ねた。
「その他の状況です。有事が発生した証拠です。例えば、『在庫切れにつき、ワイルドベリーで対応します』これは、ある一定の状態のデフォルトに指定されたワードです」
「あああ、・・・『ワイルドベリー』の産地は、素国・・・まさか、」
「姉上、しっかりしてください」
震える暁を、辛が支えた。
それを見て、ジェイスが、王子に進言した。
「・・・王子、暁殿に、このようなことは、無理です」
「三の姫様、二の姫様の為に、やって頂きたいのです。辛殿、暁殿、お父様の英空軍中将殿は、イグル派の中枢で、いらっしゃいますね?」
「・・・私のような新参者のパイロットが、国外へ姫を送り出すなんてことが、やはり・・・、中枢の人間をできるだけ、国内にという意味かもしれませんね・・・ということは・・・?」
暁は、一度、目を閉じ、意を決したように、頷いた。
「・・・わかりました。やってみます」
「携帯がなったら、できれば、5コールの内に出てください」
「はい・・・他にも、ワードが存在するのですか?」
「王子、私が、常に暁殿の側で、立ち合いますので、万が一、以外のワードの時は、対応します」
「わかった。ジェイス、よろしく頼む」
暁は、ジェイスと目配せした。少し、安堵した様子だ。
「・・・きっと、数馬様と慈朗様は、何か掴んでいて、女美架様と、その財産全てを国外に脱出させたのは、その為だったのですね」
「姉上、スメラギの為、より言えば、皇帝陛下と第二皇妃様の為に、お役を果たしてください。アーギュ王子、僭越ですが、つまりは、何か起こった時に、ランサム軍が手を貸してくださる、ということでしょうか?」
まずは、これにはジェイスが答えた。
「辛殿、申し訳ございませんが、そのような話だと断定しているわけではございません。何もないかもしれません。暁殿には、御菓子の材料の話をして頂くに過ぎないのです・・・」
「まだ、隠密での動きにして頂きたい」
アーギュ王子は続けた。
「国王陛下にも、まだ、この話をしておりません。何もなければよいのです。これは、万が一の対処になります。他から情報が入ったのであれば、国際的介入という判断もあります」
🦚👓🌿
その実、王子とジェイスは、この少し前に、ある流れの話を受け取っていた。
それは、ランサム王室御殿医であり、調香師であり、国際特別薬剤師である、アンドラが掴んだ情報だった。
アンドラ「素国の漢方薬キナですが、この数日前、素国の国際薬事局から、紛失した形跡があります。この薬は、国際薬事法で管理されている薬、つまり、劇薬・毒薬に指定されたものです。現存量が、どこに、どのくらいあるかのチェックを、常にされています。正式な薬の持ち出しには、チェックゲートと呼ばれる、特別調剤師を必ず通らなければなりません。つまりは、専門家の手にて、きちんと文書を取り交わし、用途を明確化して、持ち出し、病院内では、どの疾病の、どのような病状の患者に使用し、その結果の報告をしなければならないのです。つまり、それを取り扱えるのは、その法律で認められた、特別調剤師として、認められた医師や、薬剤師でなければなりません」
王子「その紛失した量は?」
アンドラ「0.2グラムの粉末と聞いてます。もしも、癌の治療に使われるとしたら、足りませんが、何かの病を促進させる形としたら、その症状は、多岐に渡ります。つまりは、やり方と、接種した者の病状によれば、死に至る可能性があります」
ジェイス「穏やかじゃありませんね。・・・まさか、毒殺を目的にして・・・とか?」
アンドラ「注射の投与では、0.5マイクログラムで、1日後から3日後で呼吸不全になる可能性がありますが、肺などに疾患がある場合、それが引き鉄で、投与して30分ぐらいで死に至る可能性があります」
王子「問題は、その紛失したキナという薬が、悪意ある、誰かの手に渡ったとしたら、ということだ・・・素国内でも、諸外国にでもだ」
アンドラ「今、調べを進めております。スメラギにも、特別調剤師の資格のある医師が一人、また、素国にも一人・・・当然、我が国には、持ち込まれた形跡はございません」
ジェイス「調剤師がいるならば、必要であれば、そこを通る筈だが」
王子「もし、スメラギ内に持ち込まれたとしたら、スメラギと、素国、二人の調剤師が関わってる可能性があるのだな、何の為に・・・」
ジェイス「スメラギ国内の政情については、以前の報告からでは、利用するとしたら、やはり、軍族の派閥争いの可能性が高いようですね」
王子「今更のことだと推察するのだが、何故に、今。・・・アンドラ、調べることはできないのか?」
アンドラ「その素国の調剤師なのですが、所在が解らなくなっているようです。素国の彩香という者らしいのですが、ここ数年、素国には、その所在がないというのです」
王子「スメラギの方は?」
アンドラ「御殿医の滋庵という高齢の医師のようですが、今は皇宮の御殿医としての仕事に徹しており、特別調剤薬を取り扱った形跡はないというのです。もしも、素国から、スメラギへ薬を移動させるとしたら、正式ルートでいけば、この彩香から滋庵を通り、10日以上かかる手続きですので」
ジェイス「大変なことですよ。これは」
王子「・・・各国は水面下で、このことを捉えているのか」
アンドラ「東国の公安は、調べを始めています。世界のどこで使われるか、解らない。要人の周囲は、要注意ですが、ポイントは、経口投与では、あの量では効かないということです。狙うならば、必ず、注射という形になります」
王子「すると、狙われているのは、既に、病床にある人物の可能性があるということだな」
ジェイス「まさか、スメラギの場合は・・・」
王子「・・・皇帝陛下か・・・?しかし、今、そのような必要があるのだろうか?何故、派閥争いで、皇帝陛下を殺める必要がある?わざわざ、皇統を揺るがすようなこと・・・意味のないことだ」
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「解りました。ただ、でも、私は、常に、姫様の側におりますが故」
「いえ、暁、私が姫の側におります。王宮の者に、日常の世話をさせることはできませんか。信頼して頂きたい」
王子は、暁に申し出た。すると、ジェイスが、暁に提案する。
「私と、日程の打ち合わせを中心に動くということで、できれば、そちらの動きを優先すると、姫にもお伝えしたらと思いますが」
「わかりました」
「では、この隣室を使わせて頂きますので、お近くで過ごせますから、大丈夫です。暁殿、参りましょう。私がついています」
「ジェイス、くれぐれも、暁殿と、この件を頼む」
「お任せください」
暁とジェイスは、姫の滞在用のゲストルームの右隣りの、荷物の専用部屋に、打ち合わせと称し、待機することとなった。
辛は、再度、アーギュ王子を呼び止めた。
「僭越ながら、もう一度、お伺いしたいのですが、王子。『在庫切れにつき、ワイルドベリーで』の意味を教えてください」
「こちら側の判断となることです。必要以上に、そちらに、負担を負わせたくありません」
「私も軍人の端くれです。姉とご協力致しますので、その代わり、教えて頂きたいのです。それに、これは、我が国スメラギ国内のことです。他国である、ランサム王国を巻きこんでいることになります」
「今、貴方は、上から、どのような命令を受けておられますか?」
「ランサム王国に待機せよ、と」
「貴方には、場合によっては、然るべきお役目が、国の上層部から、命令として下るかもしれません。貴方の主人は、私ではありません。もしも、このことを聞いて、貴方が国からの命令を聞き入れることができなくなったら、どうしますか?英少尉」
「それは・・・」
「お姉様には、確かに、ご協力頂きますが、私どもを含め、潜入しているランサムの人員、及び、貴方の護ろうとしている、スメラギ皇国の為であります。内容を知らなければ、お姉様は、御菓子の材料の在庫状況を伝えられているだけです。帰国したら、作りたいイチゴのデザートの材料です。女美架姫様の」
「しかし・・・」
「残念ですが、ご協力お願い申し上げます。行きがかり上、このようなことになりましたが、目指すは、スメラギの平和です。もしも、有事の際には、情報と状況を把握し次第、ランサムと致しましても、緊急の対応に入らせて頂きます」
「・・・わかりました。このまま、待機致します」
~暗躍の行方7へつづく
御相伴衆~Escorts 第一章 第101話 暗躍の行方6~ランサム編
お読み頂きまして、ありがとうございます。
柚葉による指示で、数馬と慈朗が、三の姫女美架を、その財産と共に出国させましたが、ランサムでは、王室でも、不穏な動きを捉えていました。
姫付き女官の暁の弟、辛が出てきました。
彼は、スピンオフのこの話の主人公でした。
第三話まであります。よろしかったら、こちらも、お立ち寄りください。
時系列で、このままの世界でいくと、この後の話となります。
さて、お付きの者たちに、緊張するミッションが課せられましたが・・・
次回は、スメラギに舞台を戻します。
どうぞ、お楽しみに。
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