御相伴衆～Escorts　第一章　第五十四話　これは『恋物』じゃないよ数馬と三の姫12

「嬉しい、数馬とずっと、ご一緒。数馬はお泊り」
「はっきり、言いますね、三の姫様」

　少し、サンドイッチを食べた。
　その間も、お姫様に、アーンして強要をされる。
　すごい、嬉しそうにしてる。甘いなあ、これ。
　フルーツの風味のアイスティーが救いになった。

「スメラギって、桃って果物ないんだよ」
「え？本当？そう言えば、見たことないな」
「意外みたいなんだけど、ないの」
「東国はあるよ。甘くて美味しいよ。イチゴより甘い。酸っぱい所が、あんまりない果物だよ」
「今度、取り寄せてもらおうかな。そしたら、また、一緒に食べようね」
「姫は、桃が似合うかもね。イチゴでもいいけど」
「ピンクなんだよね？桃って。数馬に言われて、嬉しい」
「きっと、姫の好きな果物だと思うよ」
「あとでまた、これ食べようね。夜中におやつ食べるの、ワクワクする」
「まあ、そうかもね。旅で回ってた時、いろんな土地の、色んなもの食べてきたから、それも面白かったよ」
「旅のお話？聞かせて、面白そう」

　そう言えば、ゆっくり、お互いのこととか、喋ったことがなかったな。
　いつも、皆と一緒で、結構、わちゃわちゃしてて、宿題やったり、忙しかったからな。学校は勉強と部活だし。このぐらい、時間取らないとね。本当に、話も、まともにしてきてなかったことに気づく。

　桐藤が、一の姫の部屋に入り浸りなのは、何もそれだけでなくて、こういう話す時間も、沢山、取ってるのかもしれないな・・・なんとなく、解ってきた気がする。

「数馬は、その・・・」

　また、もじもじしてる。

「ここに来る前に、好きな人いたの？」

　うーん、今、何時だろ。なんやかや、喋ってて、夜の十時ぐらい。少し眠くなってきたな。・・・ン？なんだって？ああ、そういう質問か・・・。

「ふわあ・・・うん、いたと思う？」
「数馬、眠いの？」
「ん、まあね、少しかな」
「ねよっか」
「え？あ・・・ああ、俺の昔の好きな人の話は、聞かなくていい？」

　焦った。簡単に、そんな言い方する？まあ、そうなんだよね。なんというか、そんな感じの意識がないみたいだよね。

　・・・本当に、三の姫様、意味が解ってるのかな？

「聞く、聞くから、ごろんしよ。もう、横になる。姫も疲れたから。えーと・・・、姫、奥に行く」

　そそくさと、ベッドにもぐり込んで、もぞもぞして、居ずまいを決めたらしい。身体をこっちに向けている。

「数馬、外側だから、おトイレ、行きやすいよ」
「それはどうも・・・って、ちょっと、寝てて。このままじゃ、ゴロゴロするから、Tシャツ着るから・・・」

　バスローブ脱いで、・・・ああ、もういいか。普段から、下に重ね履きしないし。いいや。あれ、姫、もぐってる。・・・んー、少しは、解ってんのか。あ、ちょっと、顔出した。

「あのね、Tシャツじゃなくて、柚葉みたいなシャツがいい」
「え？」
「そこにかかってるの、姫からのプレゼント。丈の長い男の人用の御寝間だよ」
「あ、色々あるじゃん。うーん、白、黒、紺、チェック、縦縞・・・」
「今日は、御揃いの白」
「わかった」

　まあ、なんでもいいや。いつの間にか、あの、ハンガーラックに色々とかかってた。ブラウス系だな。俺、似合わない奴だよ。裾のとこ、ボタン要らないな、真ん中、少し、止まってればいいや。

「これでいいか？」
「ボタン、留めなさすぎだよ」
「あんまり、好きじゃないから、こういうの」
「ごめんね。これでいいよ。襟のとこから、ここ、空いてるの、カッコいいから」

　そうなんだ。なんか、柚葉っぽいな、これ、やっぱり。柚葉って、女の子の王子様スタンダードだって聞いたけど、やっぱり、そうなのかな。

「数馬、もういいよね。こっち来て」
「あ、ああ、じゃあ、お邪魔します」
「わあ、嬉しい♡」
「押すな、落ちるって」
「ああ、ごめんね。姫が下がるね。数馬の方が身体大きいから」
「そんなに、遠慮して、離れなくてもいいよ、大丈夫」

　俺、何か、言ってるな。・・・普通のモードで、この状態って、いいのかもしれないけどな。なんか、どうこうなるって、まだ、想像がつかない・・・。

　とか思いつつ、姫の横に滑り込んでみる、ああ、この裾長のやつ、やっぱ苦手だ。ごそごそやって、居ずまいを直す感じになるんだ。

「寝づらそうだね」
「いつも、Tシャツと下着だけだから」
「そうなんだ。数馬らしいのかも。もう少し、寄ってもいい？」
「ああ、さっきみたいに、押さないでね」
「もう、しないよ。うふー」

　うーん、わかってるのかな？ただの甘えん坊なのかもしれないけど。
　あ、顔、両手で隠してるんだけど。え、もじもじ、今、するの？身体当たってきてるんだけど・・・。
　なんか、まだ、何もしてないのに・・・って、リアクションに感じるけど。俺としては、会話してるのと差がないような、そんな気がする。

　まだ、平気。・・・顔、上げたけど。

「おねだりするの、いい？」
「できることと、できないことがあるかも」
「できる。手握って」
「うん、はい」
「あったかい、大きいね、数馬の手、あのね、指でね、ギュッて押して」
「ああ、マッサージ的な」
「そう、マッサージ的な」
「いいの、これで」
「うん、気持ちい。反対もして」

　これ、字面だとしたら、危ない感じじゃないの。
　姫様は、右手の後、左手を差し出してきた。
　俺は、右手で対応。左は、頭を支えて、横になってる。

「ああ、旅芸人で回ってた時、親爺や兄貴によくやってたから。・・・ちっさい手だね」
「嬉しい。ありがとう」
「・・・んで？」
「ん？」

　どこまで、わかってるのかな？
　ああ、所在ないなあ・・・。聞いてみるか。

「他に何かある？リクエスト」
「うーん・・・ある。・・・でも、恥ずかしい・・・」

　まあ、仕方ない。そんな頃合いなのかもしれないから。
　わかってんなら、まだいいや。
　いきなり、騒がれたり、泣かれても困るし・・・。

「何？・・・言ってご覧よ」
「ギュッてして。ギュウ抱っこ」
「ああ、ああ、はいはい、じゃ、ちょっと、頭上げて、腕、首のとこ通させて、枕から頭落とさない方がお互い楽かも、はい、どう？」
「わあ、あったかい、優しいギュウなの、ありがとう」
「もう、いいの？」
「ううん、でも、少し緩めて、顔見たいの」
「ん、はい・・・」

　って、気が付いちゃったんだけど、姫のこの寝間着っていうの、随分、肩が下がっててさ、気にしてた部位が・・・まあ、手が防御してるから、そんなに見えないけどさ。・・・いい匂いだね。

　普通に、こうやって、誘引されていくんだな。さっきまでは、想像もできなかったけど。

「嬉しい」
「ん、なら、よかった」
「ここ、ボタンきつそう、外していい？」
「え？・・・あああ？・・・ああ」

　いきなり、そんなことするの？
　まあ、いいけど、どうせ、苦しいから、外そうとは思ってたから。
　え？手・・・

「触っちゃった」
「ひょっとして、触りたかったの？」
「うん」

　解ってるんだろうな？・・・微妙。
　手のひらを俺の胸に当てて、そこに頭を凭もたれさせてる。

「あったかい。気持ちいよ、数馬、・・・大好き♡」

　ついぞね、左手で、頭をポンポンする。普通に可愛い。
　右腕を背中まで回して、さっきのしてやる。
　ちょっと、密着感が上がるかな・・・

「あ・・・嬉しい」
「ん」

　まあ、ここまではね、想定で可能な領域かな、と思ってたんで。あ、もぞもぞ、やってる。左手を抜いた。・・・そのまま、俺の背中に回してきた。さっきのビジュアルのとこ、完全に触れてるな。いいのかな。しがみついてきた。押し付けてるよ、完全に。

「数馬、好き好き、大好き」
「うん、知ってる。ずっと、聞いてきたから」
「うん・・・数馬は、姫のこと、好き？」

　そう言えば、本丸の質問、初めてだ。なんか、上手いな。このタイミングって、結構な・・・まあ、偶然だろうな。
　そんな計算できるわけないもんな。
　え？顔見上げてきた、目が潤んでる・・・？

「うん、好きだよ」
「わあっ・・・♡」
「何？大丈夫？」
「嬉しすぎるから。良かった。我儘だから、嫌いかな、って」
「そんなことない。我儘は、最近、おねだりに移行して、頼むことができるようになったから」
「褒めてくれるの？」
「うん」
「ご褒美して」
「何？」
「はむって、して」
「何、それ？」
「ここ」

　やっぱり、ねだり上手なんだ。ゴーサイン出してくれれば、こっちは楽だからな。わかってんだな。・・・多分、わかってない振りしてるんだな。

「わかった」
「・・・♡」

「これでいい？」

　ウットリした顔してる・・・。これは『恋物』じゃないよ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　～数馬と数馬と三の姫13につづく～

---

みとぎやのメンバーシップ特典　第五十四話　これは『恋物』じゃないよ
　　　　　　　　　　　　　　数馬と三の姫編12　御相伴衆Escorts 第一章

　数馬は、大道芸人で、きっと、「大人」としての経験が早い環境に育ったのだと思います。

　相思相愛になりかけていること、数馬も自覚があります。
　でも、彼のお役目は、既に釘を刺されているように、お役目だけの仮のお相手に過ぎない・・・それを、彼自身、理解しているのか、何か、急に押し寄せてきてしまったその感じで、今一つ、よくわかっているような、いないような・・・。

　ラストは、何だったのかな・・・、それなりに三の姫様、おねだり上手に見えますが・・・。

　さて、次回はまた、どこまで・・・かな？

　今回もお読み頂きまして、ありがとうございます。
　次回も、お楽しみになさってくださいね。