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御相伴衆~Escorts 第一章 第九十一話 特別編「隣国の王女~白百合を摘みに③」

 そして、いよいよ、素国そこく第五王女紫杏シアン姫が、来皇する日がやってきた。
 本日より、三日間の滞在の予定である。
 空港には、数馬を覗く、三名の御相伴衆と、姫を代表して、三の姫女美架メミカが迎えに出ることとなった。

 紫杏姫は、傍付き女官の芙蓉フヨウを連れて、素国専用機から降りてきた。
 小さな身体だが、髪飾りが、大きな古式風の素国結いの髪型と、民族衣装のドレスで現れた。

 この様子に、御相伴衆たちは、少しカルチャーショックに似た驚きを感じていた。

「素国のお姫様って、初めて見た。なんか、すごいね。柚葉の感じと、全然、違うね」
「古めかしい感じがする。同じオールドファッションなら、婉耀エンヨウ皇太后様のような感じの方が、品が良いと思われるが・・・」
「・・・?・・・すみません。ちょっと、遣りすぎの感があります。ご成婚でもないのに」

 その会話を聴いていたのか、逆に、紫杏姫を気遣ってか、三の姫女美架は、三人の御相伴衆に言った。

「でも、まあ、なんて、可愛らしい。羨ましいわ。素敵なドレスですね。私、お出迎えします」

 そんな女美架姫は、アーギュ王子を迎えた時の、気に入りのオレンジのドレスを着ている。この点は、桐藤キリトと一の姫が感心していた。華美になりすぎず、気に入ったものを、大切に、何度か、お召しなるのは、悪いことではないと。

 そんな女美架は、アカツキを伴い、タラップに進み、その後に、柚葉がついて歩く。迎える側一同は、うやうやしく、頭を下げた。

「遠路はるばる、このスメラギまで、よくお越し頂きました。お気をつけて、降りて来られてくださいませ」
「・・・何?随分、派手な女官ね」

 
紫杏姫はタラップを降りながら、女美架姫を見くだすように言葉をかけた。

「え?・・・藍語(ランサム語)?なの・・・なんで、素国語でなくて?」
「退いて頂戴。ああ、紫颯お兄様」

 
急に、異国の言葉で話し出した、従妹の声掛けを他所に、柚葉は、女美架姫に気遣った。

「女美架姫様、申し訳ありません。紫杏姫は、スメラギ語が解らないので」
「なあに?この子、変な髪型、女官の癖に派手にして、・・・どうせ、素語で話せないのでしょう?藍語に致しますから、お兄様、お願いね」
「そんな・・・、それに、彼女は、第三皇女 女美架姫様です」
「まあ、そうだったの?・・・ふーん」

 
この様子に、桐藤キリトも慈朗も、慌てふためいた。

「どうした?急に、藍語で話し始めたが・・・」
「えー、解んないよ、何、言ってるのかな?」
「俺も藍語で対応はできるが、まあ、通訳的にするから」
「ごめんなさい、単語がちょっとしか、聞き取れないや・・・」
「そうだな、慈朗たちも、藍会話ぐらいできるようにしておかないと、ダメだな。三の姫の件もあるし、三の姫様ご自身も・・・紫杏姫様、どうぞ、こちらへお進みください。私どもは、皇宮の側近でございます」

 柚葉が、まず進み、その後に、桐藤が、歩み出た。

「紫颯お兄様、こちらの黒髪の、御付の方は?」
「桐藤と申します」
「じゃあ、桐藤と、お兄様と、この車に乗っていきます」
「紫杏姫、女美架姫様も、ご一緒に、是非」
「・・・狭いわ。無理。桐藤、この国のお話を、聞かせてください」
「あ、・・・はい、承知致しました・・・しかし・・・」

 
紫杏姫は、桐藤と柚葉に、両手を取られて進み、渦の運転する公用車に乗った。紫杏姫は、車の中から、慈朗の姿を見つけた。すると、ふん、と一瞥して見せた。
 
 慈朗は、怖いな、と直感で思った。

「桐藤は、黒がお似合いで、アーギュ王子みたいに、髪も黒くて、素敵ですね」

 あ、来た。始まったぞ。紫杏姫は、面食いなんだ。早速、桐藤が気に入ったようだ。

 柚葉は、溜息をついた。

 ああ、彼女が指名したのが、慈朗でなくて、桐藤で良かった。
 三日間、桐藤に頑張って貰えれば、何とかなりそうだな。

 ・・・柚葉は、希望を見出していた。

「あちらは、三人でお乗りになられるみたいですね。女美架姫様と、慈朗様は、こちらに乗ってください」

 もう一台、用意されていた、公用車に、女美架と慈朗は、暁と一緒に乗り込んだ。

 暁は、少し、しょんぼりとした様子の二人に、声をかけた。

「大丈夫ですよ。どうしましたか?お二人とも。他国のお姫様ですからね。仕来たりなども違うのでしょうね。先達のお二人にお任せすれば、いいのではないですか。女美架様も、後で、お茶会で、クッキーを差し上げるのですよね?」
「そうだね。なんか、桐藤を気に入ったみたいだよね。大丈夫なんじゃないかな。桐藤がお相手してくだされば・・・」
「素国のお姫様なのに・・・ネイティブの藍語みたいだった・・・。私、藍国に嫁ぐのに、あんなに話せない。いつも、アーギュ王子が、皇語で合わせてくださってるから・・・」
「まあ、藍語は、国際公用語だからね。できるように、勉強しなきゃね。僕もそう思った。一緒に頑張ろうね」
「慈朗は、成績、どんどん上がってきたから、本当は、頭、良いから、・・・いいけど」
「間もなく、宮に着きますよ。にっこりして下さいね。お二人とも。今回は言葉の方は、桐藤様と柚葉様がおいでだから、通訳して頂けますね。あと、二の姫様も、御出来になりますし」
「そうだ。二のお姉様も、藍語、話せるんだよなあ、いいなあ・・・」

⚔🔑

「柚葉、事前情報が欲しかった所だが、語学に堪能な姫とは良いが・・・」
「いつの間に、藍語を身につけられたか・・・滞在中、君を宛てにすると思うので、よろしくお願いしたい」
「ならば、一の姫には、御下がり頂いた方がいい感じがする」

 紫杏姫は、桐藤の手を繋いで離さない。

🔑

 ・・・桐藤、僕が、二の姫に、どんな目に遭っているか、よく解ると思いますよ。彼女はまだ、子どもですから、この程度で済んでますが、よく知ったスペックの持ち主のようですが・・・

🔑⚔

「そうですね。関係性も伝えない方がよろしいかと」
「やはり、そう思うか?」
「あと、恐ろしい事に、言葉が通じるのは、僕と君と、姫では、二の姫だけ、なんですよね」
「成程・・・言ったことが、ダイレクトに聞こえてしまう同志が・・・」
「似た者同志ですね」

 桐藤と柚葉が、声をひそめて、話していると、紫杏姫は、すかさず、言葉を挟んだ。

「悪巧みは済んだの?そんな感じがするんだけど、私に解らない言葉で」
「そんな、言い方なさらないでください」
「桐藤は、お兄様の恋人?」
「・・・?!」
「そんな、馬鹿な、何を、仰ってるんですか?」
「隠してもダメよ」
「違います。ご安心ください」
「そうです」
「そうよねえ、第二皇女様が、いらっしゃるのだものね」

「・・・」

 
なんで、そうなるんだ?・・・桐藤が恋人なんて?

 柚葉と桐藤は、この紫杏姫の言葉に驚いた。

 しかし・・・二の姫と、この紫杏姫が、二人で共闘を組んで、そのベクトルで動かれたら、それはそれで怖いが・・・、そのようにならなければ、三日間なら、耐えられるだろうが・・・柚葉は、桐藤と目配せをする。・・・ということは、バレたら、危ないのは、慈朗の存在ということになる。今の姫の感じだと、そんな感じだ。一体、何をしに、来られたのか・・・?

「この感じだと・・・できれば、一の姫と、慈朗には、下がってて貰ってた方が、いいと思うのだが・・・」
「そうした方が、いいかもしれませんね・・・」

 皇宮に到着した。第二皇妃が出迎えた。紫杏姫が纏っているのが、昔見た、素国の民族衣装のドレスだということが、一目で判った。

「まあ、可愛らしい。昔話の御本から、飛び出したみたいね。ごゆっくりなさってくださいませね。後は、頼みますよ。桐藤、柚葉」
かしこまりました」

 紫杏姫は、頭を深々と下げた。第二皇妃は、それを一瞥した。

🥀

 既に、社交界デビューをされているようですが、・・・まあ、なんて、大袈裟で、オールドファッション、センスのないこと・・・、恥というものを、知らないのかしらね・・・

 その上、容色と女性としての豊かさにおいては、我が娘、第三皇女 女美架の方が上で、とっくに、アーギュ王子のお手付きだということが、既に、優越感として、皇妃の心積もりとしてある。

 ここで、迎えたとして、何のメリットもない、素国の姫の来皇、無事に過ごして、帰ってもらうに限ると、非公式と、体調不良を理由に、素っ気ない出迎えで、奥殿に戻ってしまった。

「皇妃様、解り易すぎましたが・・・」

 桐藤と柚葉は、目配せをした。
 柚葉は、すかさず、紫杏姫を、次の設えのお茶会に誘った。

「紫杏姫、御庭でお茶会と致しましょうか」

 
紫杏姫は、フーッとため息をついた。

「余り、歓迎をされてないようね」
「そんなことは・・・」
「お兄様の恋人は?」
「だから、その、私には、皇女様が・・・」

 
柚葉の言葉に、差し込むように桐藤が加勢する。

「そうですよ。第二皇女様も、御庭におられますから」
「ご紹介致しますから・・・」
「桐藤の恋人は?」
「あ、そのような者は、まだ、・・・」
「そうなのね♡」

「・・・うーん」

 今度は、柚葉がため息をついた。
 桐藤は、なんとか、表情を隠して、紫杏姫をエスコートする。

 一方、この間、女美架と慈朗と暁は、中庭にお茶会の場を準備していた。クッキーを並べ、紅茶の準備をしている。素国風の黒苺(ワイルドベリー)のジャムも用意された。

「頑張りましたものね、クッキー作り、今回も」
「可愛い形のと、味も色々にしたんだってね」
「女美架は甘いものが好きだけど、紫杏姫様は、どうかしら?」
「今回は、お名前にちなんで、杏のケーキもね、作られたんですよ」
「すごいね。・・・僕は、余裕があったら、紫杏姫様の絵を描いて差し上げようかな?」

 その時、前栽せんざいに隠れて、合図するものがいた。数馬である。
 慈朗が、それに気づいた。

「三の姫様、ちょっと、失礼します」

 その様子に、暁は気づき、そっと、見てみぬ振りをする。

「女美架姫様、このハイティースタンドにクッキーを並べると、もっと可愛らしくなりませんか?」
「そうね、いい考えだわ。暁」

 暁が姫の気を引いて、慈朗と数馬のいる方を見ないようにと、気遣った。

「どうしたの?数馬」
「慈朗、いい、よく聞いて。桐藤からなんだけど、これから、一の姫の所に行く。それで、慈朗には、この紫杏姫様の滞在中、一の姫様付きの振りをしてほしいんだそうだ」
「どうして?・・・桐藤がいるのに?」
「今から、二人で、一の姫様の所に行ってから、その事を話すから。あ、二の姫様だ」
「あ、数馬もいるのね、お久しぶり、うーんと・・・ああ、女美架がいるから、隠れてるのね」

 その時、中庭に現れた、美加璃も、流石に、数馬と女美架の件は、気を遣おう、と考えていた。一緒に、前栽の陰に、しゃがんで、隠れた。

「すみません。二の姫様まで、こんな所で・・・この後、俺と慈朗、ここを下がります。三の姫様と暁を、手伝ってください。その内に、桐藤と柚葉が、紫杏姫様をお連れして、ここに来るので、お茶会を始めてほしいそうです」
「あの子、藍語で喋ったんでしょ?これ見よがしに。ウズから聞いたわ」
「そうなんです。藍語が、お上手なんだよね」
「大丈夫、藍語は、私ができるから、女美架を守るからね」
「え?」
「ああ、もしも、何かあったら、その時は、お願いします。でも、きっと、桐藤と柚葉がいるから・・・」
「ああ、ちょっと、ややこしそうだから、二の姫様にも、把握しておいて貰おうかな・・・慈朗も、よく聞いて。紫杏姫様は、まず、えーと、桐藤を気に入ってしまったらしくて・・・」
「何ですって?はあ?」
「しっ・・・、だから、一の姫様は、この三日間、お加減が悪いとのことで、お出ましを控えてもらって、お部屋に居て頂くことにして」
「揉めないようにと、まあ、素国の姫のお相手を桐藤がする、ということね?」
「その通りです。よくお解りで助かります」
「いいわ。一の御姉様の為にも、それがいいと思うわ」
「で・・・あああ、えっと、・・・慈朗に、もしもの時の為に、一の姫様付の振りをしてほしいって」
「え?なんで?」
「あああ、それで、丸く収まるって話なんだけどさ・・・」

 つまり、これ以上、数馬は言えなかった。

 紫杏姫は、来た時から「柚葉の恋人♂」を探している。そして、桐藤をお気に入りにして、離さない。全員が同席するには、厳しい状況ができあがってしまったのである。

 まず、頭から、素国側当局には、柚葉の悪い癖はバレているということなのだろう。しかし、紫杏姫は、そのことを事実としては知らない風だ。つまり「慈朗」はもう、この席から外さなければならない。紫杏姫にバレるのも問題だが、二の姫にバレたら、もっと、大事おおごとになる。しかし、慈朗は、一応、出迎えで、顔を合わせている。

 もう一点として、桐藤を一の姫付きとして、また、同席の状態で紹介したら、どんな反応になるだろうか?柚葉が素国での彼女の我儘ぶりを知っている上で、その状況が炸裂したら、大変なことになる。桐藤は、恋人がいないと、行きの車の中で言ってしまったのだ。

 三日間だけ、体裁を整える為に、万が一の為に、この二つの点をカバーする為に、慈朗を一の姫付きにすることが得策だろうと、桐藤と柚葉が苦肉の策として考えたのだ。

「理由はさ、慈朗、一の姫様の部屋で話す。二の姫様、よろしくお願いします」
『お絵かき君』がお姉様付きになるのね。まあ、桐藤の代わりってことね。わかったわ」

 二の姫が理解してくれて、良かった。・・・「なんで」と言わずに。
 数馬は、胸を撫で下ろした。

「じゃあ、行くぞ、一の姫様の所へ・・・あ、暁にも、ちょっと、言いたいことが・・・」

 機転を利かせた、二の姫が、暁に解るように、合図をした。それを見て、暁は、前栽の傍に行き、さも、そこですれ違うようにした。

暁「・・・はい、ああ、美加璃姫様、どうされました」
女美架「御姉さま?いらしてるの?」
美加璃「はい、はーい、女美架、手伝うわよー」

暁「ああ、先程、御用を頼まれたのを、忘れておりました。ちょっと、行ってまいりますね。すぐ、戻りますから、美加璃様と、クッキーの設えを続けてください。お願いしますね」
女美架「はあい・・・」
美加璃「あらあ、女美架ったら、随分、腕を上げたんじゃない?まぁ、美味しそう、このケーキ♡」

 その間に、数馬は、暁に、今回の件を説明した。

「・・・はい、わかりました。そんな感じはしておりました。大丈夫です。こちらには、上のお二人と、二の姫様が、ご対応ということですね。大丈夫ですよ。三の姫様は、私もお護りしますからね」
「ちょっと、ライバル意識があるみたいなんだ。アーギュ王子の件で」
「承知しました。ご心配なさらないでくださいませ。それよりも、そちらの方、進めてください。なんとなく、渦からの話も聞こえておりましたので、解りますから・・・」
「じゃあ、慈朗と俺は、一の姫様の所に行きますので・・・」
「うん。すみません。二の姫様、失礼します。暁、お願いしますね」

 数馬は、無事伝言の役を果たせ、必要な人間を誘導することが出来そうで嬉しかった。・・・客人への設えをしている三の姫のことは、見ないふりをした。

 そして、数馬と慈朗は頭を下げて、中庭を後にした。すると、丁度、回廊から続く、別のルートから、入れ替わりで、桐藤と柚葉が、紫杏姫を連れて、中庭に入ってきた。それに気づき、慌てて、暁は、テーブルに戻りながら、準備を進めた。

「二のお姉様もいらしてくださって、嬉しい・・・なんか、バタバタしてるみたいだけど、大丈夫なのかな?」
「大丈夫よぉ。私がついてるから、堂々としててね、ああ、このクッキーも可愛いわ。美味しそうじゃないの」
「大丈夫ですよ。さあ、お客様が、お越しですよ。・・・女美架姫様は、このまま、紫杏姫様をお迎えして、お茶会をね。大丈夫ですからね」
「うん・・・」

 その時、暁から、よく知った香りがしていた。

 アーギュ王子、いないのに・・・、
 これって、イランイランだよね・・・?

 女美架は、暁が戻ってきた前栽の辺りを、少しの間、見つめた。
 しかし、間もなく、その視界の中に、紫杏姫の手を取った桐藤と、柚葉の姿が入ってきたので、向き直り、テーブルに気を配った。


隣国の王女~白百合を摘みに③へつづく


御相伴衆~Escorts 第一章 第九十一話 
               特別編「隣国の王女~白百合を摘みに③」

 お読み頂きまして、ありがとうございます。
 ちょっと、ややこしい話になってきたようです。

 紫杏姫は、どうやら、桐藤に一目惚れしてしまったみたいです。
 その為、桐藤は、紫杏姫の滞在中にずっと付き添うことになり、
 その為に、恋人の一の姫は隠れていてもらうことになりました。
 本来の柚葉の恋人「慈朗」は、一の姫の御付きとして、一の姫と控えることになったようです。

 伝言役の数馬は、三の姫に姿を見せることなく、役目を果たしました。
 
 紫杏姫は、ランサム語で話し出し、それが解るのは、桐藤と柚葉、そして、ランサムに留学中の二の姫だけ・・・しかも、二の姫と紫杏姫は、性格がそっくり・・・ということで・・・💦

 次回は、どうなりますやら💦・・・お楽しみになさってください。

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