籠の鳥 C: 確認
♂
問題は、この後、らしい。ここまでだって、簡単じゃなかったのに、大事なのは、ここから先なんだ、と思う。
「もう少し、いいのかな?」
また、腕の中で「なんで?」って顔をする。
💖
♀
そのフレーズ、何回、繰り返すのかな?昨日、お店を出た時、そう言って、夜風に当たりながら、遊歩道で酔い覚ましするって、ちょっと、歩きかけてから、戻ってきて、手を引いた。
黙ってたのは、上手すぎて、驚いてたから。・・・これ、つまり、ロケハン済みだったのかな?・・・なんて、今更、思って見たりする。・・・きっと、大変だったんだね。
てっきり、私は、架空の彼女を想像してたから、馬鹿みたいに、貴方の応援をしてた時だよね。今が、ロケハンみたいな感じかと、勘違いしてたから。で、遊歩道のベンチ、少し、奥まってて・・・「ああ、良い場所じゃない、そういうのに」って、ハッキリ言っちゃったものね。肩、バンバン叩いて、
「頑張って、応援してるから」
って、・・・頑張ったのかな、・・・頑張ったんだよね・・・やだ、なんか、また・・・
💖💜
♂
「泣いてるの?また?」
「ごめん、なさい」
「いいけど、沢山、いくらでも泣いて、はい」
よく泣くね。ティッシュを取ると、手を伸ばしてくる。いいよ、ほら、もう・・・。
💖💜💛
♀
顔が、嬉しそうだよね。もう、自分で拭くから、いいのに。昨日も、色々、世話焼いてきて、「やらせて」とか、「こういうの、したかった」とか・・・すごい、上がってったの、ヤバかった。もう、逃がしてくれなかったよね・・・あああ、別人になった。多分、元の感じに戻るの、難しい・・・
「ごめんなさい、また、泣いて」
「いいよ。これは、儀式みたいなもんだって、解ったから」
「何?・・・どういうこと?」
「いいんだ、嫌がってないなら、何でも」
「え?」
「まあ、同じ所、グルグル回ってるよね、ずっと二人で」
「そうなのかな?」
「そうだよ・・・時間が止まった、わけじゃないけどね」
変なこと、言ってる。似合わないよね、また。今の、なんかの喩えかな?
💛💖💜💓
♂
ずっと、楽しそうに、人のこと、応援してくれて、でも、その話の中に、貴女自身が含まれていることを解らせるまで、随分と時間がかかった。随分な世話焼きは、雄弁になり、少しずつ、手の内を見せ始めた。他人事だと思ったから、軽く披歴してくれたに違いないけど・・・。
「私だったら・・・」
あああ、そうそう、それが、一番聴きたかった、知りたかった情報だからね。さんざっぱら、聴かせてくれた挙句、色々と、ちょっと、聴きたくない過去歴まであったけどね。・・・これで、もしも、こちらを解っていたなら、相当な煽り上手で、惹き上手だ、とも思ってた。
そんなにびっくりするかな、ってぐらいの、驚いた顔してきた。さっきまでの応援振りは、一体、どこへ行ってしまったのか?その時はもう、ダメだった。これを逃したら、と思った。手を取って、引き寄せた。我ながら、よく動いたと思う。昨夜の自分を、今朝は多いに評価したい。そこから、・・・と言ってもいいぐらい、ずっと触れている感じがする。どこか、繋がっていたいから、離せないのだから、仕方がない。
「泣いててもいいから、こっち、見て」
💖💜💓💛💕
♀
あ、来た。多分、そうかな。そうだよ。大切なことは、男の人の方からリードするものだもの。私は、段取りが大事なのは知ってるけど、それをつけるのは、男の人の方だよ。過去の恋人は、そうやって、私を躾けてきたの。だから、私は、それが必要なことは解ってるから。
それ、偶然にも、昨夜、最初に話したことだよね。貴方を応援する為に。
「もしも、お相手が、そうだったら、余計、約束を決めて、きちんと鍵を掛けて、余計な心配を無くしてから、その中で進めないと・・・」
はぁ、でも・・・他人事じゃないんだ、もう・・・。 ―――諦めて、彼の目を見る。
💜💓💕💛💖💗
「気にしてることは、全部、大丈夫だから。解ってるつもりだから。だから」
「・・・うん」
「これで、大丈夫?」
「何が?」
「え?」
「・・・うふふ」
💓💕💗💛💖💜💚
♂
「普通一般の人のアドバイスは、きっと、将来を見据えて、って方をすると思うんだけど・・・、でも、もし、本当に好きな人が現れたら、その時は、多分、ルールは度返しになるのかもね。こんなこと、勧める人はいないと思うよ。でもね、最近思うの。自分の周りの人間関係なんて、高々、数十人じゃないのかな?それでも、それくらいいたら、多い方だと思う。その中に、好きだと思える人が現れるなんて、一生涯の中での確率は低いと思うよ。もしも、そういう人に出会ってるならば、これはダメ元でも、ぶち当たってみないと。いいのよ。結果じゃなくて、そういう想いを抱いてる、ってことが大事で、そういう風に人を好きになった経験を持つのが大事なんだと思う。それすら知らずに、お墓まで行く人もいるらしいから、最近では。本当に、残念な話よ、そういう人見ると、何、やってんのよ、と思うわけ」
そうは言っても、なかなか、それができない人もいるんだ。貴女は、モテるらしいから、色々とあったらしいけど。過去の恋人は、とても、素敵だったのだと。それがあるから、もう充分なんだと。・・・でも、ほんとかな?少なくとも、昨夜の貴女の感じは、そうじゃなかったと思うけど・・・なんていうのは、意地悪かもしれないけど。
貴女の最後は、過去じゃない、少なくとも、今の時点においては・・・。
💜💕💗💛💖💙💚💘
♀
「上手く言えないけど、・・・履歴の最後に付け加えてもらえないかな?」
なんか、長ったらしいこと言ってる。本当に、似合わないんだけど、そういうの。
「絶対、このことは秘密で、お互いを護る。表立っての、今までの関係性は変えない」
うわ、言ったね。別人みたいだよ。凄い。・・・どうでしょうか、頑張ってるよ。この人。
「解った?聴いてた?」
「うん・・・伝わってたんだ、昨日の話・・・」
「え?・・・解ってないとでも思ってた?多分、一番、心配してたことだろうから」
「そう、そうだよ・・・持ち崩すのは、焔さんの方だから、場合によっては」
「ああ、それは、昨日、散々、やった話。だから、言った。これでいいかな?・・・大丈夫?」
「・・・うん、多分」
「昨日も、うろうろしないで、ここに連れてきたのも、考えて、思い切ったことで」
「それは、ひょっとしたら、そうかなって、後で思った」
「良かった。誠意だよ、これは」
「・・・うーん?」
「何?」
「そうかあ・・・それは、ちょっと、調子いいかも・・・」
「え?・・・まだ、何かある?引っかかってる?」
「焔さんだったんだ」
「どういう意味?」
「最後は」
「・・・にしてくれるの?だったら、嬉しいよ」
頷いてしまった。嬉しそうな顔して、また、近づいてきた。
「今度は、俺の聴きたかったこと、きちんと答えてもらうから・・・あああ、きちんと、声に出してね」
「言ったよ」
「え?」
「昨日、ちゃんと、・・・聴いてなかったの?」
「あ・・・あれ?」
なんかね。悔しい気がするから、こんなの。不思議な感じもする。こんなこと、初めてだ。
・・・さんとも、あの人とも違う。今までの人とは違う。
考えてみれば、ずっと、反応を見られてて、質問の中にそれが入っていた。本当に、意味が解らなくて、婉曲過ぎて、小さなことを拾い集めているような・・・思い出すと、心当たりの山ができてゆく。
「そう」
「え、ああ、そう・・・まあ、そうなんだ・・・はあ・・・」
うわあ、そんなに、嬉しそうにされても。
「本当に?」
「もう、いいよ・・・何度も言わないで」
ブランケットを引っ張り、潜る。馬鹿みたい。なんか、負けた気がする。なんで?なんでなの?私がこんなの・・・。そうそう、納得がいかないから、こんな感じなんだよね。つまりは、心の中に、全てが降りてきたから、彼らの位置に、この人を置けるのかな・・・、案外、厳しいジャッジしてるんだね、私。
複雑。誠意も解った。・・・でも、気持ちが傾斜していくのに、私自身、自分で納得できてないんだ。素直に、これでよし、と成れてない。そのことに、貴方も気づいてて、一番のやり取りの感じが出ちゃってる。様子伺いされて。大当たりだね。・・・おまけに、きっと、こういうの自体が好きなんだ。・・・あんまし、カッコよくない。でも、素直な人なんだ、とも思うけど・・・。
何が、ひっかかってるんだろう。随分、頑張ってくれてる筈だよね。もう、私の方が、可愛くないんだ。もう、こんな風に扱われることなんて、ないと思ってたから・・・。
そうだ。これまでしてくれたように、今度は、私から言わなければならないね。だからかな?
~つづく~
みとぎやの小説・ラベイユプチ連載中 「籠の鳥 C:確認」
前回から、また時間が経ってしまっていますが、よろしければ、AとBに戻って頂いて、・・・まあ、それでも、状況はあまり変わっていません。
なんか、ずっと、もちょもちょしておりますね💦
お読み頂きまして、実にありがとうございます。
この段は、彼女の迷いがテーマのようですね。
どうやら、彼が、誰かに恋をしているらしいのは、以前からわかっていて、最初は、恋愛相談にでも呼び出された体で、対応していたようですね。いつもは及び腰になる彼が、今回は、そのタイミングを待って、粘り勝ちだったという感じでしょうか? 思いもよらず、彼のターゲットは、自分だった、とは?!
呆気にとられている間に、物事は進んでしまい・・・
本当に、これ、進んでいっていいのか?
最終ジャッジが、次回下されるか?
いつも、劇的な恋愛ばかりではなくてね、微妙なことって沢山あるんだろうなあと思います。多分、そんな感じの方のが、リアルに多いのかなあと。
間が空いてしまいましたので、前のお話、二話分、こちらから、良かったら、読んで頂くと繋がるかなと思います。