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逢いに来た 守護の熱 第二十三話   第一章 最終話

 こないだの時・・・、初めて、そうなった日は、帰った後、慌ただしかった。誕生日だったから、泰彦が、玄関で待っていて、プレゼントをくれて、一緒に風呂に入った。余計なこと、考える暇もなくて、良かったような気がしたが、布団に入ると、不思議な感覚になった。

 人の家の布団に寝る、・・・というか、あれは、なんだろう。場所を使うっていう感じだから、ちょっと、違ったのかもしれないが・・・。あの晩は、いつもなら、すぐ眠れるのが、やはり、少し時間がかかった。隣に、清乃がいたら、と、つい、考えてしまった。眠ろうとすると、何かと記憶が纏わりついた。「うふふ・・・」という、癖のある笑い方。少し、鼻にかかっている。もう一度、反芻するような・・・。身体だけじゃない。心がギュッと掴まれた感覚が、ずっと、付き纏っていた気がする。

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「雅弥・・・」
「ん?・・・」
「あの日、バレなかった?これ・・・」

 煙草を口元に宛てる仕草をされた。・・・ああ、そっちか。

「大丈夫だった。すぐ、風呂に入ったから」
「そ、良かったね・・・気遣いが増えるから、今日は、吸わないね」
「あ・・・いいの?それで、清乃は?」
「うん、いいの、雅弥が帰ってから、吸うから・・・帰るまでは、こっちね」

 来た。反射的に反応する。・・・ん、・・・長いな、これ・・・

「んふふ、天性ねえ。いい男なんだよねえ。雅弥は」
「・・・え?」
「上手いのよねえ、初めてなのに、煙草の吸い方も、板についてたしねえ」「・・・上手いって・・・なんか、そんなの、あるのか・・・」

 何?どういうこと・・・?・・・煙草が、か?それとも、・・・?

「うふふ、実はね、もう来ないのかなあ、って、ちょっと、寂しかったりもしてたのよ」
「・・・」
「お金、渡したいんだもんね。正義漢だからね」
「・・・違う、・・・ああ、まあ、それもあるけど」
「会いたくて、来てくれたの?」

 そうだ。
 ・・・でも、そんな風に、至近距離で、見上げられて、どうなんだろう。

「あらあ、見つめてくれるのね。嬉しい」

 抱きついてきた。首に齧りつく、というのが、この感じなのか。そのまま、体重をかけてくる。こういうのは、もう、仕方ない。きっと、上手いんだ。これは、職業的な所からも来てるのかもしれない。そして、布団に押し倒された。

「私はねえ、会いたかったよお、雅弥に、うふふ・・・」
「うん」
「もう・・・」

 気になった。

「『青』って、何回もするのか?」
「何回って?ああ、また、別の日にもって?・・・まあねえ、2回目以降はね、ある意味、普通のお客さんと変わんないから。まぁ、聞かれたら、色々と、教えたりはするけどね・・・雅弥は、違うよねえ」
「え?」
「お客じゃないんでしょ?」

 頷いてしまった。また、うふふと笑い返された。

「こないだのこと、憶えてる?」
「え?・・・」
「想い出したりしてくれてた?」
「・・・まあ、そうかな・・・」
「嬉しい」

 清乃は、擦りガラスの窓に鍵をかけた。こないだもそんなことをしてた。終わったら、窓を開けてた。

「おかしいって思われるから、また、逆にカーテン閉めないね。・・・今度、どっかで会おうか?」

 どっかって?

「不思議そうな顔して・・・まあ、でも、それは、だいぶ、先かなあ・・・」

 どういう意味なんだろう?

 そう言うと、にっこりして、清乃は、服を脱いで、下着姿で、俺の左隣に寄り添って、横たわった。

 そうか、こんなだったっけ・・・。

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 とにかく、最初に支配したのは、人の肌の温みだった。あの時は、清乃の気持ちに寄り添ってやりたいと必死だった。それが、そうなった。ずっと、泣きっぱなしの彼女の顔を、その涙を、手で拭ってやった。しがみついてこられて、しっかりと、抱き留めていた。誘引されていった。清乃は上手く、俺の手を自分の身に寄せて、宛がった。その後、導かれるままに、応えていった気がする。

「そう・・・上手・・・あ・・・」
「・・・」

 必死で、言葉を返すなんて、余裕もなかった。涙の感じが変わっていったのが解った。顔つき、抑え目の声、最後の方は、・・・なんて言ったらいいのか、苦しそうで、それでいて、少し笑ってくれてるような、・・・とにかく、辛さや寂しさが、こんなことで誤魔化されるとは思わなかったが・・・清乃を満たそうと、必死になっていたのは、間違えない。

「なんか、すごいね・・・勘がいいんだ、雅弥は・・・ありがとう」

 後で解ったことだが、それは正しいことだったらしい。それは、清乃の話から、そう感じた。それに、あの後、清乃は、不思議なぐらいに落ち着いて、穏やかな、いつもの通りになっていたから。

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「私も、結構、背がある方なんだけど、こないだよりも、やっぱり、背が伸びたよねえ」
「・・・毎回、言うけど、そんなに違うのか?」
「普通はね、気にしないけどね。でも、雅弥は違うから、解るの」
「そんな感じ?」

 普通の客は、そうじゃないから(大人だから)、なんだろうな。

「うふふ・・・本当にいいわ、雅弥は。これから、どんどん、いい男になるんだろうなあ」

 衣擦れの音が、間近過ぎる。その後、腕に清乃の直肌を感じると、こちらのバスタオルを取られた。すかさず、足元のタオルケットをふわりと掛けられた。

「一応ね、何もないのも、いきなり過ぎるから・・・」

 こないだは、どうだったっけか・・・?

 あまり、憶えていない。最後に、脱ぎ散らかした服を集めて、着ていた気がする。

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 清乃といると、時が停まった気がする。いつも同じ感じになる。
 自分の日常から、切り離された所に居るようだ。
 場所も時間も、ずっと、遠く。意識も・・・。

 全く違う、俺自身がここにいる。

 皆、そうなのか?・・・こんな思いしてるのか?
 想像もつかないが、・・・それでいい。

「ああっ、凄いっ・・・」

 こんな感覚が俺の中にあったんだ。

 間違えなく、この間より、何かが進んでいる。

 清乃を離したくない。ずっと、このまま・・・。

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「んっ・・・はぁ・・・うふふ」


 どのくらい、そうしてたのか、解らない。求めると、拒むことなく、ずっと、応えてくれていた。一頻り、その求めの波が収まると、なんとなく、気が戻ったというか、熱さから解放されたというか、そんな感じになった。やっと、身体を離す。それでも、触れていたくて、自然と肩を抱いた。


「・・・」
「・・・へえ・・・」
「何?」
「今回が、本域だねえ・・・」
「・・・」
「・・・賢者タイムねえ」
「・・・?」
「知らない?」

 ああ、なんか、ふざけて、あいつらが、よく言ってたやつか?


「こうやってね、自然に肩とか抱いてくれるの、さすがよねえ」

 喋るその唇が、起き上がる顔が、こちらに見える。左の指先が、鎖骨に触れてきた。

 それが、全部の感じが、清乃の・・・多分、以降の俺の記憶を支配する。こんな風に、人と触れ合って、人と見つめ合うなんてことなかった。

 説明できない、痛みが胸の辺りに走る。


「愛してるわ、雅弥」


 感じていた感じを、そのまま、清乃が言ってくれた。

                      守護の熱 第一章 ~結~


みとぎやの小説 「逢いに来た」 守護の熱 第二十三話 第一章 結

この話は長いですね。今まで考えていなかったのですが、
ここで第一章として、区切らせて頂くことにしました。
恐らく、大きな転換、つまりは、起承転結の「転」に入っていくと
思われますが・・・。

読んで頂き、ありがとうございました。
次回、第二章のスタートは、新年以降になると思います。
新たな形で、展開する「守護の熱」ご期待ください。
ここまでの第一章は、纏め読みは、こちらのマガジンから、
宜しかったら、お勧めです。

新年あけましたね。
近々、恐らく、今週中に、第二章が再開、雅弥のお話が戻ってきます。
引き続き、読んで頂ければと思います。
宜しくお願い致します。ご期待ください。

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