御相伴衆~Escorts 第一章 第三十一話 お洋服選び 桐藤と一の姫⑦(桐藤視点)
無事、一の姫様の「奥許し」も済み、その後、不思議と、彼女は体調も安定し、身体を動かすことも楽になって来られた。見違えるように、明るい笑顔になったと、皇帝陛下と、第二皇妃が悦ばれた。
「ほら、私の言った通りでしょう?もっと、早く進めれば、良かったかもしれませんね」
そして、御殿医から、お天気の良い、温かい日には、庭を散策するぐらいの軽い運動を進められた。
一の姫が外に出ることを許されたと聞き、ご本人が悦ばれたのは、その通りだが、一番喜んだのが、妹姫の三の姫女美架だった。部屋に、急に押しかけてきて、一緒にお散歩したいと、例の如く、我儘を甘えた調子で繰り出す。
こちらは、昼食の時だったので良かったが、そうでない時間だったら・・・と、肝を冷やしたが・・・。
妹の提案に快諾し、その時にお召しになる、動きやすいワンピースがほしいと、急遽、服屋が呼ばれ、(二の姫なら、よく、こういうことがあったようだが)、立ち合って、服選びをすることになった。服屋のカメリアは、揉み手で、頭を下げる。
「一の姫様は、本当に、お綺麗な方なので、どれも、お似合いでございますね」
一の姫というと、首元まで、レースやリボンをあしらった、上品な設えのものを、これまで、好まれて、お召しになられてきた。服屋の方も、これまでのデータに基づいて、こちらの食指の動きそうなものを用意してくる。皇宮の広間での商売で、皇帝一族の買い物が終わると、女官たちが覗きに来るらしい。
部屋中に、吊るしのハンガーラックが、5つばかり並んだ。そのうちの2つぐらいは、第二皇妃が、好まれるものが並ぶ。まあ、ついでに買って頂けるのを狙ってだろう、そんな用意までしている。商魂逞しいというのか。
「そうでした。この度は、おめでとうございます。これですが、皇帝陛下から、プレゼントということで、仰せつかっております」
内々のことを、服屋まで、知っているのか・・・というか、陛下のお心遣いならば、そうなのだろう。ホールのケーキの箱のようなものが、恭しく持ち込まれた。一の姫がサイドテーブルで、それを開く。
「まあ・・・これは・・・」
「あ・・・」
御真影の婉耀皇太后がおつけになってらした、髪飾りだった。というか、レプリカなのだろう。それは、俺が見ても判るものだった。
「お婆様の、オレンジの大きなお花の髪飾りと同じものだわ。嬉しい・・・」
「少し、オールドファッションですが、皇帝陛下の命を受けまして、この度、作らせました。全く同じものとは言えませんが、結い髪をされて、そこに添えるようにおつけになられるといいでしょう」
「嬉しいわ、お父様にお礼を申し上げなくては・・・、ならば、これに合わせた、お洋服がいいわ。あの・・・」
姫が、こちらを、恥ずかしそうに伺っている。
「どうされました?」
「この髪飾りに似合う、お洋服が好いのだけれど・・・それと、桐藤は、どれがいいと思うかと・・・」
こういうのが、俺は苦手だ。きっと、柚葉ならば、色々と手にとり、見ながら、一緒に選ぶのだろうな。こういうことも、勉強しておいた方が、いいのだろうか?
「お好きなもので」というのが、一番良くないと、柚葉が言っていたような気がする。小耳に挟んだ形だから、記憶が朧ではあるが・・・、確か、柚葉と慈朗が、二の妃様の装飾品のことで、話していた気がする。似た状況ではあるみたいなのだが。
やっぱり、狸の柚葉は、こういうことに掛けては、如才なさを発揮する。
「そうですね・・・、今までは、ハイネックのお洋服が多かったでしょう」
「そう、今日も、そうですけれど・・・」
「ハイネックですか?」
服屋が、傍まで駆けつけてきた。
「いや、逆に、・・・、姫は、ご自分のこの辺りが、お美しいのをご存知ですか?」
「あ・・・」
ぼかして言ったつもりだったが・・・、これは、ちょっと、言い過ぎたか、服屋の前で、真っ赤になられて。
「首が長くてらして、とても、綺麗ですから、それを隠さないで、少し、襟元の広いものなど、いかがですか?楽に着られましょうし、貴女の良い所が惹き出される感じがします」
「さすが、桐藤様、・・・ちょっと、襟元の開いたブラウスやワンピースを集めて、お持ちして」
職員たちが、バタバタと、ハンガーラックから、想定の服を集め、中身を入れ変えていく。
「あ・・・、そんなこと」
「普通に思ったことを申し上げたまでで、ダメでしたか?」
「少し、恥ずかしいです。お部屋でも、同じことを言ってたでしょう。だから・・・」
少し、身体を捩って、腕に手を掛けて来られた。思い出されてしまったのですね・・・
あまり、見ないようにしないと・・・。
表情をキープできなくなりそうで。
「ごめんなさい、人前ですね」
「大丈夫、このくらい・・・、可愛いものですよ」
「・・・♡」
大変になるのだな。こういう風になると。柚葉はよく澄ましてるが。二の姫は、もっと、あからさまに、柚葉に甘えてみせるし。上手く往なしたり、躱したりしながら、人の間を抜けて、部屋まで、誘導してたような。いつの間にか、二人がいなくなる理由が解った。
「こちらに、ざっと、手持ちのものを揃えさせて頂きましたが、いかがでしょうか?もし、お気に召さなければ、他の者に言って、持ってこさせますが」
「ありがとう。大丈夫です。この中から、探しますから」
「わかりました。どうぞ、ごゆっくり、お探しくださいませ」
服屋が、スッと、距離をとった。心得ているのか。すると、姫がハンガーラックに手を掛け始めた。
「今までならば、必ず、お母様とご一緒でしたから。一人でお洋服見るなんて、初めてのことなので・・・」
「役に立たないかもしれませんが、今日は、僕が付き添いですから」
「ありがとう。本当に、嬉しいの。桐藤が傍にいてくれて。・・・何色にしましょうか」
「髪飾りがオレンジですから・・・ああ、白でスタンダードですが、この襟の広いのはいかがですか?」
「なんか、すごい、開いてませんか?」
「試着してみれば、いいのではないですか?それで、髪飾りも合わせて」
「・・・はい、着てみます」
服屋の女の職員がすかさず、近寄ってきて、その服と髪飾りを受け取ると簡易の試着室に姫を案内する。その後に、いつの間にか、後ろで控えていたであろう、女官の暁が付き添う。
「ここからは、私が致しますので」
暁に、さっきのやり取りを見られたかもしれないが。まあ、いいか。
10分ぐらい、中で試着をされていて、「早くしないと」という、一の姫の声が、何度も聞こえた。俺を待たせたくないということからなのだろうけど・・・。
「焦らないでいいですから。ごゆっくりなさってください」
少し、大きめの声をかけて差し上げる。
「ありがとうございます。桐藤様」
帰ってきたのは、暁の声だったが。
少し経つと、試着室のカーテンが開かれ、姫は姿を現した。
目についたのは、胸元に光る、宝飾品だったが、裏から、女性の職員が、なにやら、こそこそしていた理由が、これだったらしい。服屋の策略を感じる。
というか、素肌の胸元に、その大きな石が乗るぐらい、襟ぐりの開いたワンピースだったのだな。服を見ただけでは、イメージとは違うということだ。・・・というか、随分、裏切った形で、背中から、そのデコルテという部分なのか、胸元がとても美しい。少し、胸の谷間が覗くぐらいで・・・。ハイネックで隠されていた時とは、全く違う赴きで、しかも、品を損ねていない。第二皇妃ならば、なんというのか、年嵩の女独特の色香が付加し、申しわけないのだが、二の姫には、似合わない服だろう。
あの時の、青いワンピースの中で、窮屈そうにしていた胸元が、解放されたようにも感じられた。変な例えだが、一の姫ご自身のお心持とリンクしているような気がした。
「桐藤様が・・・」
「え?」
「お声もなく、見とれてらっしゃいますよ」
「え、そうなの・・・?」
なんか、言われているが、
「いやあ、流石、一の姫様です。本当に、お美しい」
服屋が手を叩いて、褒めそやす。まあ、当然だろう。一の姫だ。
「いつものドレスより、裾も膝丈で、明るい感じが致しますね。あああ、こちらのヒールは・・・」
「それは、結構です。お庭歩き用の靴がありますから」
躱してらっしゃる。社交性もお有りなのだな。成程。欲得づくの妄想はしたくないが、皇后の器として、お育ちになられていくのだろうと、ふと感じた。
本当に、今のこの状況と関係ないし、考えるべきでもない筈なのだが、つい思う。先般、スメラギの国庫の話となり、やはり、皇宮は、無駄遣いが多いと。必要なものだけを買えばいいのだと感じている。俺がそのようになったとしたら・・・あああ、止めておこう。
「何か、お考えですか?やはり、政のこと?」
「あああ、すみません。貴女に隠し事はできませんね」
「そんなお顔で、遠くを見られてらっしゃる時には、そのようです」
「桐藤様、柳羅姫様にお声がけを・・・」
解っている。暁が焦れて、どうするんだ。
「とても、お似合いで、やはり、選んで良かった。貴女の為のお洋服のようですね。一の姫」
「あ・・・、ありがとうございます。これに決めます。でも、ネックレスは要りません。・・・以前に、桐藤に頂いたネックレスをつけますから」
えーと・・・、ああ、あれでは、小さくて、その部分が、あからさまになるのだが。以前、贈った時にはつける機会がないのだと、遠慮されて、その時しか、身につけて頂けなかった。正直、忘れていた。・・・申し訳ない。あれは、小さい石だが、希少価値のあるもので、その時も、バランスを考えたのだ、大きければいいってものではない。品があって、皇統を持つ姫に相応しいものでなければならないから。それは決して、無駄遣いではない・・・と思ってはいるが。
「ありがとうございます。一の姫様、では・・・おや」
「ああ、カメリア、来ていたのね」
「これは、第二皇妃様、ご機嫌麗しゅうございます」
皇妃様のお出ましだ。まあ、服屋が来るとなったら、当然、物色しにこられるのだろうな。
「そうそう、桐藤と二人で、お洋服選びと聞いていたので、遅く出てきたのだけれども、まあ、姫、なんて、美しいの。これなら、お婆様のような皇后様になれますよ、ああ、本当、髪を上げられて、皇太后様の髪飾りね。似合ってるわ」
「お母様、桐藤が、このワンピース、選んでくれたのよ」
「・・・桐藤、お前にこんなセンスがあったとは、柚葉に負けてませんよ。そう、そうなのね。ああ、良かったわ。・・・はあ、・・・ちょっと、見せて頂ける?」
「はい、皇妃様、こちらになります・・・」
あああ、多分、これでまた、散財するのだろう。娘の件でホッとしたら、もう、ご自分の番ということですね。
一の姫が、再び、試着室に入る。後ろを向かれた時、結い髪と、うなじから肩のラインが、引き立っているのに気づいた。この感じなら、社交界に出られたら、すぐ他国からも惹きがあるだろう。・・・それは、させてあげるわけにはいかないが。
この感じは、俺だけのものにしておきたい、本当は、人前なら、ハイネックのままでいい。ついぞ、昨夜のことを思い出してしまう。綺麗な首筋や、うなじが見たくて、長絡む金の髪を、何度も払った。そうか、見たいのなら、結い髪にすればいいのか・・・そうじゃない。あれは、あれでいいんだ。だから、惹き上がる・・・。
満足そうに、そのワンピースと、髪飾りを抱えて、一の姫が戻ってきた。第二皇妃に接客していた店主が、目配せをし、手が空いている店員が、恭しく頭を下げた。
柳羅姫様のお洋服選びが終わった。想像に難くないが、二の姫ならば、気に入ったものを片っ端から買い、三の姫ならば、迷いに迷って、これまた、沢山試着室に持ち込みそうだ。
清楚で、慎ましく、賢く、無駄をされない貴女こそ、将来のこの国の皇后陛下となられましょう。そんな貴女を、とても、誇らしく、そして、愛おしく、思っているのですよ。
~桐藤と一の姫⑧に続く~
みとぎやのメンバーシップ特典 第三十一話 「お洋服選び」
桐藤と一の姫⑦ 御相伴衆~Escorts 第一章
無事、2人は「奥許し」を迎え、結ばれました。そのことのお蔭か、心が満たされ、一の姫は、元気になってきました。このお話の件、ちょっと、覚えておいてほしいなあと思います。後で、似たようなお話が出てきます。
次回は、御相伴衆とお姫様が会する回になります。
それぞれの位置関係や距離感が見て取れる会になると思います。
お楽しみになさってください。
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