高齢者における筋トレ効果の“性差”
📖 文献情報 と 抄録和訳
健康な高齢者(60歳以上)における筋力トレーニングによる筋量、筋力、身体能力の変化における性差の評価:系統的レビューとメタ分析
[背景・目的] この系統的レビューとメタアナリシスの目的は、健康な高齢者における筋力トレーニングへの適応に性差があるかどうかを明らかにすることである。
[方法] スクリーニングの後、同じレジスタンス運動トレーニング介入後の骨格筋サイズ、筋力、および/または身体的パフォーマンスの変化について、高齢の男女(男性602例、女性703例、60歳以上)を比較した36の研究からデータを抽出した。
[結果] 研究の質の平均は16/29(修正Downs and Blackチェックリスト)であり、中程度の質と考えられた。
■ 筋力
・上半身の筋力(17の比較アウトカム;男性191人、女性265人)では、絶対的な変化は高齢男性で大きかった(ES = 0.81 [95% CI 0.54, 1.09], P < 0.001; I2 = 40.27%, P < 0.05)。
・対照的に、上半身の筋力の相対的変化は、高齢の女性で大きかった(ES = -0.46 [95% CI -0.77, -0.14], P < 0.01; I2 = 56.81%, P < 0.01)。
・下半身の筋力(39の比較アウトカム;男性508人、女性608人)では、絶対的な変化は高齢男性で大きかった(ES = 0.40 [95% CI 0.24, 0.56], P < 0.001; I2 = 34.85%, P < 0.05)。
・下半身の筋力の相対的変化は、高齢の女性で大きかった(ES = -0.24 [95% CI -0.42, -0.06], P < 0.01; I2 = 46.56%, P < 0.01)。
■ 全身除脂肪体重/除脂肪体重
- 全身除脂肪体重/無脂肪体重(23の比較アウトカム;男性328人、女性444人)では、絶対的な変化は高齢男性で大きかった(ES = 0.18 [95% CI 0.04, 0.33], P < 0.05; I2 = 0%, P > 0.05)。
・しかし、相対的(ES = 0.03 [95% CI -0.12, 0.17], P > 0.05; I2 = 0%, P > 0.05; Fig. = 0%、P>0.05)には差がなかった。
■ 四肢特異的筋肉量
・四肢の筋肉量/サイズの測定(23の比較アウトカム;男性354人、女性436人)では、絶対的変化(ES = 0.10 [95% CI -0.20, 0.41], P > 0.05; I2 = 74.66%, P < 0.001)、相対的変化(ES = -0.06 [95% CI -0.46, 0.35], P > 0.05; I2 = 29.28%)ともに、男性と女性の間に差はなかった。
■ 線維タイプサイズ
・I型線維サイズ(10個の比較結果;男性120人、女性103人)については、絶対的変化(ES = 0.12 [95% CI -0.78, 1.02], P > 0.05; I2 = 89.47%, P < 0.001)、相対的変化(ES = 0.04 [95% CI -0.79, 0.87], P > 0.05; I2 = 87.33%, P < 0.001; 補足図2)ともに、高齢の男性と女性の間に差はなかった。
・IIa型線維サイズ(7つの比較アウトカム;男性69人、女性62人)については、絶対的変化(ES=0.91[95%CI -0.15, 1.98]、P>0.05;I2=86.83%、P<0.001)、相対的変化(ES=0.59[95%CI -0.37, 1.55]、P>0.05;I2=83.77%、P<0.001)ともに、高齢の男性と女性の間に差はなかった。
・IIx型線維サイズ(6つの比較アウトカム;男性56人、女性51人)については、絶対的(ES = 0.53 [95% CI -0.77, 1.83], P > 0.05; I2 = 88.94%, P < 0.001)、相対的(ES = -0.07 [95% CI -1.74, 1.61], P > 0.05; I2 = 92.42%, P < 0.001)ともに差はなかった。
■ 身体能力
・椅子立ち上がりテスト(13の比較結果;男性226名、女性254名)では、高齢の男性と女性の間に絶対的変化(ES = 0.01 [95% CI -0.16, 0.19], P > 0.05; I2 = 0%, P > 0.05)または相対的変化(ES = 0.04 [95% CI -0.14, 0.22], P > 0.05; I2 = 0%, P > 0.05)の差はなかった。
・歩行能力検査(15の比較アウトカム;男性249人、女性356人)については、絶対的変化(ES=0.05[95%CI -0.31、0.41]、P>0.05;I2=74.10%、P<0.001)または相対的変化(ES=0.06[95%CI -0.33、0.45]、P>0.05;I2=77.57%、P<0.001)において、高齢男性と女性の間に差はなかった。
[結論] 今回のシステマティックレビューとメタアナリシスの結果は、60歳以上の健康な高齢者において、レジスタンス運動トレーニングに対する適応反応に性差があることを示している。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
「性差医療」という言葉がある。
男女平等という旗印のもと、社会的には次第に平等に近づいていている印象がある。
しかしながら、外部刺激に対する身体反応においては、やはり違いはあるようだ。
今回抄読した論文は、筋力トレーニング効果の性差を明らかにした。
興味深かったのは、絶対的変化と相対的変化によって、その効果がひっくり返ることだ。
例えば、筋力に関していえば、変化の大きさは男性の方が大きいが、変化率は女性の方が大きくなる。
これはベースラインの違いなどが影響するのかもしれないが、筋トレ効果の説明の際に「女性の場合には男性より小さい」という、これまで僕自身が持っていた常識が一部崩れた。
性差についての理解を進めていきたい。
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