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治療同盟を築く話し方。視点取得と共感的配慮が鍵

📖 文献情報 と 抄録和訳

共感と理学療法士-患者間の治療同盟との関連性。横断的研究

Rodríguez-Nogueira, Óscar, et al. "The association between empathy and the physiotherapy–patient therapeutic alliance: A cross‐sectional study." Musculoskeletal Science and Practice 59 (2022): 102557. https://doi.org/10.1016/j.msksp.2022.102557

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:用語の理解
▶︎ 視点取得(Perspective Taking):相手の立場に立って物事を考えること。 日本語では「視点取得」などと訳される。 ミスコミュニケーションはさまざまな要因によって起こるが、相手が置かれている状況を理解できず、互いに一方向からしか状況を捉えられていないことも要因の一つ。
▶︎ 共感的配慮(empathic concern):共感的配慮とは,他者に対して同情や配慮をしや す い 傾 向 の こ と で あ る 。 Davis , Mark . H .(1999) は 「共感能力をもっている人は,思いやりのある,他 人中心的なスタイルを反映した行動を示すことにな り,よいコミュニケーションができる」と述べてい る(📕川口, 2018 >>> pdf.)。

🔑 Key points
- 視点取得と共感的配慮は、共有の意思決定を成功に導く。
- 個人的な苦痛は、治療同盟の発展を妨げる。
- 職場体験は治療同盟に肯定的な影響を与える可能性がある。

[背景・目的] パーソンセンタードケアの中心的な要素は、治療的な関係性を持つことである。さらに、理学療法士の共感性は治療同盟を成功させるために最も重要な特性の1つである。本研究の目的は、スペイン人理学療法士における共感と治療同盟の構成要素との関連、および社会的・職業的変数がそれらに及ぼす可能性のある影響を明らかにすることであった。

[方法] デザイン:横断的研究。“Working Alliance Inventory-Short Form”(治療同盟の質を測定する尺度である)、“the Interpersonal Reactivity Index”(共感的特徴の多次元尺度)、および473人のスペインの理学療法士による社会人口統計データを含む電子調査。記述的で二変量の単純な線形回帰分析が実行された。

[結果] 仕事の経験は、結合と目的とタスクの合意にプラスの影響を及ぼした(0.04 <B> 0.06; p <0.01)。視点取得と共感的配慮は、治療同盟の質にプラスの影響を及ぼした(0.14 <B> 0.19; p <0.001)。個人的な苦痛は、結合と成果とタスクの合意に逆に影響した(-0.13 <B> -0.09; p <0.01)。

[結論] 治療目的に関して共有された意思決定が成功するためには、視点取得と共感的配慮の次元が重要であるようだ。さらに、理学療法士の個人的な苦痛は、分析した治療同盟の3つの下位構成要素の発展に対する障害として作用している。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

「会話の成功って何ですか?」
そもそも、この問いに真剣に向き合う、ということ自体が少ないと思う。
ただ、目の前の患者の話に、直感的に返答を繰り返している。
それが、多くの人間のコミュニケーションではないだろうか。
だが、セラピストにとって、会話は治療のひとつだ、しかも大きなひとつだ。
その話し方ひとつで、治療同盟が築かれたり、崩壊したり、している。
そして、そのことによって、結果として患者の回復度や転帰に影響を及ぼしている。
治療ならば、根拠を持ちたい。
体系的に話し方を理解し、最善のコミュニケーションを取りたい。
今回、抄読の論文は、いくつかのヒントを与えてくれた。
『視点取得 & 共感的配慮』だ。

「家に帰ったら、とくに何もせず、ゆっくりしたいですよ。」

こう患者が話したときに、みなさんはどのように話すだろうか。

「いや、〇〇さん。それでは廃用が進む一方です。運動しなきゃ」
「いや、介護保険サービスで云々・・・」
「いや、家族が・・・」
・・・。

「いや、〇〇」のような話し方、しがちではないだろうか。
このような話し方を、相手の障壁になり続けることにちなんで、「障壁コミュニケーション」と呼ぼうと思う。
障壁コミュニケーションは、視点取得 & 共感的配慮の真逆をいくコミュニケーションだ。
その話し方の目的は、話し手(この場合セラピスト)の正しさを主張すること、相手に自分の正しさに適合させること、だ。
多くの場合、障壁コミュニケーションになってしまいがちだ。

あらためて、「何のために話すか?会話の成功」について考えていただきたい。
☑︎ 患者と話す目的は、あなたが正しいと思うことを言うためですか?
☑︎ 患者に正しい方向を向いてもらうためですか?

どちらもYesの場合、障壁コミュニケーションになる可能性が非常に高い。

僕たちは、ほんとうは、その逆をいかなければならない。
エンパワーメント、促通。相手にエネルギーを与えること。
それが、会話の成功。
その話によって、患者がより元気になる、より治療に集中できる、・・・。
患者がより良くなる、それだけが会話の成功だ。患者が良くならない会話のすべてが、失敗と定義されて良いと思っている。
だから、正しさの話は、瀬戸際も瀬戸際、真にバイタルな問いに対するもの以外は、余事。その話が正しかろうが、少し間違っていようが、そんなことは大した問題ではないのだ。
大事なことは、相手の置かれている状況や相手の信じる正しさを理解して、それに寄り添うような話をすること(図)。

スライド2

患者:「家に帰ったら、とくに何もせず、ゆっくりしたいですよ。」
セラピスト:「そうですよね。病院では、毎日○時間、これまでそんなにしていなかった筋トレや有酸素運動を頑張っていただきましたもんね。休みたいですよね」
患者:「そうそう、そうなんだよ。そのためにとにかく、いまは頑張ろう🔥!」

この最後の一行を引き出すためだけに、患者との会話はある。
自分にとっての正しさを主張したり、それに適合させるものであってはならない。
それは、多様なはずの精神を、1つの鋳型に嵌め込もうとするようなもので、決して人を元気にするものではないから。
会話の成功。
相手に元気を与えること。翼を授けること。
喜びの贈り主(ドナー)になりたい。

君はマジシャンだ
よろこびの贈り主(ドナー)だ
至るところにお恵みを垂れる神様だ
ひとこと、親切な言葉を、心からの感謝のことばを言ってごらん
冷淡なのろまに対しても親切にしてあげたまえ
君はこの上機嫌の波に乗ってどんな小さな浜辺にも行ける

Alain

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