転倒に関する心配。伝えるべき?、伝えないべき?
📖 文献情報 と 抄録和訳
保護か有害か?転倒の心配に対する高齢者の認識に関する質的調査
Ellmers, Toby J., et al. "Protective or harmful? A qualitative exploration of older people’s perceptions of worries about falling." Age and ageing 51.4 (2022): afac067.
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar
🔑 Key points
- 我々は、高齢者の転倒に関する心配の経験を調査するために質的なアプローチを採用した。
- 我々の発見は、心配が保護的か不適応的かを決定する重要な要因として、コントロールの認知を強調するものであった。
- コントロールの認知が高いと、心配が保護的な行動適応につながることを意味した。
- 対照的に、コントロールの認識が低いと、心配がパニックの負のスパイラルと役に立たない行動の変化を誘発することを意味した。
- 臨床医は、心配の存在と心配の対象(すなわち、怪我をするような転倒)が制御可能であると認識されているかどうかを評価するべきである。
[背景・目的] 高齢者では転倒に対する不安が一般的である。このような心配は、気が散る二重課題として作用することにより、バランスの安全性を低下させる可能性が示唆されている。しかし、心配事が保護的な目的を果たす可能性もある。本研究では、質的なアプローチを採用し、高齢者の転倒に関する心配の経験について深く掘り下げた調査を行った。
[方法] 転倒の心配を経験していると報告した地域在住の高齢者17名(平均年齢79歳、男性5名/17名)に対して半構造化面接を実施した。データの分析には、再帰的主題分析を用いた。
[結果] 転倒を経験すること、あるいは自分のバランスの限界を認識することは、参加者の加齢という身体的現実を前面に押し出すものであった。その結果、転倒して怪我をする可能性があることを認識し、バランスを崩すような状況での転倒を心配するようになった。心配の対象である転倒を防ぐことが自分のコントロールの範囲内であると認識されている場合、心配は行動への保護的適応につながった。一方、心配の対象がコントロール不能であると認識されている場合、心配はパニック感情を引き起こし、行動に有益でない変化をもたらすことがわかった。
✅ 図. 転倒の心配の起源と結果を記述する概念的枠組み。
😊心配が保護効果につながった人の発言
自分には難しいかどうかを判断して、どうしても降りられそうになかったら、別のルートを探すとか、そういうことはしますが、転ぶような危険は冒しません。
😭心配がパニックにつながった人の発言①
数週間前に散歩に行ったとき、特に急な坂があり、滑ったりはしなかったのですが、とても急で、私は横の壁につかまって降りてきました。そんな風に歩いていると、ただ自由で安全な感じがしないんです。なんとなく前に進まされている感じがするんです。その感覚は、トレッドミルから降りたときの経験によるものだと思うんです。あの時、自分がコントロールできていなかったことを、今でも感じることができるんです。[すべてが終わってしまうような、本当に恐ろしい感覚です。怖くて、本当にパニックになるんです。
😭心配がパニックにつながった人の発言②
パニックになるんです。坂を下っているのが見えると、夫に『行かない。私はあそこには行けないわ」。私はあそこには行かないし、あそこに行くのになぜ苦労しなければならないのか、一歩一歩、一歩一歩進んでいかなければならないのかがわからないのです。だって、それくらいパニックになるんです。一歩踏み出すたびに、転ぶんじゃないかと思うくらい。[完全に前かがみの姿勢になってしまうんです。まっすぐ立っていられないんです。体が硬くて、緊張して、前かがみになってしまうんです。主人は、「立って、立って。そんなことしてたら倒れちゃうよ」と言うんですが、私はまた倒れるんじゃないかと完全にパニックになってしまうんです。
[結論] これらの知見は、高齢者における転倒の心配の発生とその結果について、新たな洞察を与えるものである。転倒の心配を減らすために臨床的に介入する前に、個人のコントロールの認知を考慮することの重要性を強調している。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
リハビリテーションにおいて得た情報をどのように伝えるか、あるいは伝えないか。
そのプロセスは、大きく3つの段階あると思う。
①伝える or 伝えない
②客観的情報を伝える or 主観的情報を伝える
③I messageとして伝える or You messageとして伝える
▶︎①伝える or 伝えない
今回の抄読研究が着眼したポイントである。
そもそも、心配につながるような情報を相手に伝えるか、伝えないか。
その分かれ目の1つが「患者の効力感、自己コントロール感」。
それが高ければ、心配は保護効果につながり、低ければパニックにつながる。
すなわち、相手によって使い分ける必要があるということ。
この研究においては、その見分け方が不明確である点は限界の1つだと思う。
そこは、自身で追求していきたい。
▶︎②客観的情報を伝える or 主観的情報を伝える
たとえば、Belg Balance Scale(BBS)が43点だったとする。
その点数を、患者にどう伝えるか。極端に2例を示す。
📘 客観的に伝える:「バランスのテストを行い、43点でした。なお、合格点(cut-off値)はおおよそ45点程度と言われています。」
📘 主観的に伝える:「バランスのテストを行い、低い結果でした。ヤバいですね、これは。もっと頑張らなくちゃいけませんね」
前者は、ただ客観的な情報のみを伝えていて、そこに価値づけという着色はない。
後者は、客観的情報がなく、セラピストの価値づけという着色のみを伝えている。
▶︎③I messageとして伝える or You messageとして伝える
主観的情報の中でも、大きく2種類に分かれる。
上記の例で考える。
📘 I messageとして伝える:「バランスのテストを行い、43点でした。なお、合格点(cut-off値)はおおよそ45点程度と言われています。〇〇さんは、退院後には屋外を独歩で買い物に行くことを目標にしておりますので、僕としてはこの点数は低いと捉えています。」
📘 You messageとして伝える:「バランスのテストを行い、低い結果でした。〇〇さん、ヤバいですね、これは。もっと頑張らなくちゃいけませんね。」
前者は「セラピストが」という主語、後者は「患者が」という主語を持つ。
前者は、患者に対して威圧感を与えにくい。
なぜなら、相手の主観を操作しようとしたり、タッチしようとしていないから。
後者は、患者に対して威圧感を与えやすい。
相手の主観を無理やり決めつけているし、相手に何かを追求するようなニュアンスがある。
人は、自分自身の主観が脅かされそうになることに、極めて敏感であり、それは成功しにくい。
情報を伝える場合に、客観的情報に基づいたI messageとして伝えることが望ましいと思う。
だが、人によってはYou messageが功を奏する場合があるかもしれない。
「なんでこいつにこんなこと言われなきゃいけないんだ。絶対見え返してやるぜ🔥」のように。
その場合にも、明確な評価方法と適応を知ることが肝要になる。
こういった声かけの工夫の1つ1つが、雨垂れが石を穿つように、患者に影響を与え、治療成果に結びつくと信じる。
徹底的に、こだわりたい。
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