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疼痛は運動学習の保持を阻害する
📖 文献情報 と 抄録和訳
急性痛は運動学習の保持を障害する
📕Galgiani, Jessica E., Margaret A. French, and Susanne M. Morton. "Acute pain impairs retention of locomotor learning." Journal of Neurophysiology (2024). https://doi.org/10.1152/jn.00343.2023
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Not applicable
🔑 Key points
🔹痛みは、リハビリテーション実践者がしばしば運動学習に基づく介入を用いて治療する、非常に一般的で負担の大きい経験である。
🔹今回我々は、運動学習中の実験的な急性疼痛(熱刺激ではない)が、新しく学習した歩行パターンの24時間保持を損なうことを示した。
🔹また、学習中の痛みの感じ方と、学習保持力の低下の程度は関連していた。
🔹これらの知見は、痛みと運動学習との間に重要な関連があることを示唆しており、臨床リハビリテーションに重要な示唆を与えるものである。
[背景・目的] 痛みが運動能力を変化させるという証拠はたくさんあるにもかかわらず、痛みが運動学習に及ぼす潜在的影響についてはあまり知られていない。痛みの処理に関与する脳領域のいくつかは、運動学習の特定の側面にも関与しており、この2つの機能が相互作用する可能性があることを示しているが、実際にそうなのかどうかは不明である。
[方法] 実験1では、若い健常者を対象に、学習中にカプサイシンと熱を下腿に加えることで痛みを経験する群と、刺激を与えない群に無作為に割り付け、新しい運動パターンの獲得と保持を比較した。1日目に、参加者は歪んだ視覚的フィードバックを用いて新しい非対称歩行パターンを学習した。24時間後に保持のテストを行った。
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[結果] 1日目の習得に群間差はなかったが、1日目に痛みを経験した人は、2日目の保持が低下した。疼痛群の学習保持における平均歩幅非対称性(3.4%±2.1SD)は、非刺激群の平均歩幅非対称性(5.4%±1.7SD)の約60%に過ぎず、疼痛群では24時間の学習保持が低下していることが示された。さらに、日間の忘却の程度は、学習中の痛みの評価と相関していた。
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✅ 忘却指数とは?
・1日目の終わり(後期練習2エポック)から2日目の初め(保持エポック)までのSLAの変化である忘却指数を計算することで、保持を定量化した。
[結論] このように、明示的で戦略的な運動学習中に経験する痛みは、運動記憶の定着過程を妨害し、それは、注意散漫の影響ではなく、痛みのメカニズムを通じて起こる可能性が高い。これらの知見は、基本的な運動学習過程の理解や、痛みを伴う病態が運動学習に基づく介入によって治療されることの多い臨床リハビリテーションに重要な示唆を与えるものである。
🌱 So What?:何が面白いと感じたか?
人間の身体とは不思議だ。
たった数十分練習しただけで、「動き」が変わってしまうのだから。
そこには、もちろん器質的な筋量増大などは起こっていない。
つまり、材料は変わっていない(はず)なのだ。
それなのに、「動き」というパフォーマンスは大きく変化しうる。
それは、身体構造・機能というハードウェアに対して、独立した操縦者というソフトウェアの存在を思わせる。
車や飛行機などの機体というハードは変わっていないのに、操縦者が変わるだけで運転というパフォーマンスが激変するように。
そして、その操縦者の技術に変化を及ぼす営みこそ、運動学習である。
そこは、理学療法士にとってまさに主戦場である。
患者さんの動作を、どんな風に、どのような方法を使って改善できるか。
そこに無限の可能性があり、個性があり、ドラマがある。
今回の抄読研究は、その運動学習において「疼痛」は禁物かもしれない、と思わせる結果を提示してくれた。
運動学習中に疼痛が併存していると、翌日の運動学習の保持が阻害されるというのだ。
これは、我々理学療法士にとったら、死活問題である。
前日の一生懸命に取り組んだ運動学習の効果が、保持されないというのは!
だからこそ、運動学習に際しては、疼痛をできるだけ引き起こさない課題で行うことが重要かもしれない。
もしくは、運動学習前に疼痛緩和の介入をおこなってから、運動学習に対する介入をすることが望ましいかもしれない。
疼痛が運動学習に及ぼす弊害、よくよく覚えておきたい。
⬇︎ 関連 note & 𝕏での投稿✨
📕疼痛は運動学習の保持を阻害する
— 理学療法士_海津陽一 Ph.D. (@copellist) May 2, 2024
・健常成人25名
・トレッドミルで非対称歩行の運動学習
・1日目:疼痛群, 非刺激群で運動学習→2日目:学習の保持確認
🔹疼痛群は, 運動学習の保持が低下
🔹歩幅非対称性は, 非刺激群の約60%に過ぎなかった
運動学習中に痛みを経験することは避けたいですね😲 pic.twitter.com/ZsqvHeqyNU
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