見出し画像

Protein Paradox in CKD。慢性腎不全患者において、タンパク質摂取量と腎機能は正の相関!?

📖 文献情報 と 抄録和訳

日本人の地域在住高齢者におけるタンパク質摂取量と腎機能の変化の関連性。SONIC研究

Sekiguchi, Toshiaki, et al. "Association between protein intake and changes in renal function among Japanese community‐dwelling older people: The SONIC study." Geriatrics & Gerontology International (2022). Apr;22(4):286-291.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

[背景・目的] 本研究の目的は、日本人高齢者における食事性タンパク質摂取量と推定糸球体濾過量(eGFR)の低下との関連を明らかにすることである。

[方法] 現在進行中の狭年齢層コホート研究であるSeptuagenarians, Octogenarians and Nonagenarians Investigation with Centenarians (SONIC) 研究のデータを使用した。69-71歳、79-81歳、89-91歳を対象とした。アウトカム変数であるeGFRの変化は、ベースラインと3年間のフォローアップで測定した血清クレアチニンから推定し、曝露変数であるタンパク質摂取量は、ベースライン時の簡易型自記式食事歴アンケートを用いて算出した。

[結果] eGFRの変化とタンパク質摂取量との関連は、重回帰分析によって決定された。結果1年あたりの平均eGFR変化は-1.89 mL/min/1.73 m2であった。平均タンパク質摂取量は1.50g/kg/日であった。本研究の結果、超高齢者を含む参加者全体において、タンパク質や動物性タンパク質の摂取量とeGFRの1年あたりの変化との間に有意な関連は認められなかったが、腎機能が慢性腎臓病ステージG3またはG4に該当する人においては、有意な正の関連性が認められた

[結論] 地域在住の高齢者のタンパク質摂取はeGFRの低下と関連せず、高齢の慢性腎臓病患者においては、タンパク質および動物性タンパク質の摂取がeGFR維持に有益であった。この結果は、超高齢者を含む慢性腎臓病高齢者において、タンパク質の摂取を制限すべきではないという根拠を与えている。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

この研究は、やばい。相当やばいことを明らかにし、結論している。
これまで、腎不全(chronic kidney disease: CKD)者は、むしろタンパク質『制限』が推奨されていた(📕Levin, 2013 >>> doi.)。
それは、「タンパク代謝による老廃物の除去が困難となることで腎機能悪化や尿毒症が引き起こされる」という理論的な正しさがあったからだ。

上の理由は、確かに納得できる!
だが、分かりやすく納得できることをもって、正しいとしていいのだろうか?
人間には、単純化本能と呼ばれるバイアスがあって、世界はひとつの切り口で理解できると思い込みやすい。すなわち、理解しやすい、納得しやすい理論 ≒ 正しいと思い込みやすい(📗FACTFULLNESS >>> amazon.)。
だが、あくまでも、1つの理論的な正しさであることに注意が必要だ。
山頂に至る道は、1つのみではない。
現実がそこを通ったということが、どうしていえるだろう?
現実の選択した道を、仕組みを知りたくば、現実そのものに詰問する(実験する)しかない。

今回の研究は、それをやった。
その結果、これまでの常識とは真逆の結果が出た。

CKD者、しかも重度CKD者はタンパク質摂取量が多いほど、腎機能が良い。

この論理構造は、透析者のObesity Paradoxと酷似している(Obesity paradoxについては、以下note参照)。

透析患者も、「老廃物が増えるから、なるべく食べるな」とされた時代があった。
その結果、コロコロ死者が増えた(40年前のことについて当院院長談)という。
そこから、「いっぱい食べて、老廃物は透析でなんとかする!」というパラダイムにシフトした。
CKD者のタンパク質摂取にも、これと類似のことが言えるかもしれないのだ。
これまでの栄養指導、これまでの退院支援、間違っていた可能性がある。
すべてのベクトル方向性に影響を与えうる研究、これはやばい研究だ。
まだ単一の研究で、真実に近い事実かはわからない、だが1つの事実だ。

ぼく、あなたが当たり前だと思っていること。
それは、理論的な正しさですか?
それとも、実験的な正しさですか?
前者なら、頭蓋の外に出て、その身体を動かし、実験することが推奨される。

理論的な正しさと実験的な正しさについては、以下noteも参照いただきたい。
とても、重要なことだと思う。

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

【あり】最後のイラスト

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○

#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集