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山川方夫『夏の葬列』(集英社文庫 1991)

#ネタバレ

積読を消化しても本がなくなるわけじゃない

今週は、積読消化週間!と書こうとして、ふと考えた。本を読んだところで物理的に本が消えてしまうわけではない。むしろ、読んだことでいい気になって、自分はまた買ってしまうだろう。そうなると地面から生えた積読茸は、天井目指してグングン伸びていく。途中でおそらくは崩れるのだけれども、原理上天井までの伸びしろがあるはずだ。だから、読むことは逆に本を増やすことにつながる、という皮肉な原理を発見して、読むのをやめた。

いや、そういうわけにもいかない。本がある以上読まれないと、それは存在しないも同じことになってしまう。それで、読むことを再開した。積読茸を成長させることになろうとも。では、何を消化するのか。思えば、読んだことのない本と、読んだ記憶のある本の区別がつかなくなってしまった。積読茸の発する胞子のせいだろうか。どの本の背表紙を見ても、読んだことがあるような気がするし、もしかしたら読んでいないような気もしてしまう。

それで、選んだのは山川方夫(1930〜1965)の文庫だ。慶応閥の小説家で、『三田文學』の編集担当をしている際に、坂上弘、江藤淳などを発掘したとされる。日本画家の山川秀峰の息子で、「演技の果て」や「海岸公園」などが芥川賞候補に。国道1号線横断中に、交通事故にて、死去。若くして亡くなった才能が惜しい。山川の作品は、住んでいた相模の二宮周辺の海岸が舞台になっているものも多く、それらは非常に都会的なニュアンスが漂っている。1950年代後半〜1960年代前半に、これだけ都会的な文体を駆使できた作家も少ないのではないか。

今回は、そんな山川方夫の『夏の葬列』(集英社文庫)をチョイスし、いくつかの短編について、感想を記していこうと思う。ネタバレも多数。

「夏の葬列」

表題作。いい話です。重い話ですよ。

ある男が、疎開していた場所を、久しぶりに訪れた。そこでは誰かの葬式が行われていた。葬列だ。

この光景は、疎開中に見たことがある。東京では見ない葬列の風景。あそこにいくとまんじゅうがもらえると聞いて、男は一緒にいた女の子・ヒロ子さんと葬列に近づく。

すると「カンサイキだあ!」という言葉が聞こえた。芋畑に伏せた男とヒロ子は、敵機の機銃掃射であると知る。白い服を着ているヒロ子さんと一緒に逃げたら、機銃掃射の的になってしまう。男を助けに来てくれたヒロ子さんの助けを拒み、彼女を突き飛ばした瞬間、彼女が「ゴムマリのようにはずんで空中に浮くのを」見た。

人々はヒロ子さんをどこかに連れて行った。そのまま男は疎開先から移動した。曖昧なその記憶をたどりながら、葬列の先頭の写真をみると、ヒロ子さんに面影があった。ヒロ子さんは生きていたんだ!自分はあのとき、不可抗力とはいえ、人を殺めたわけじゃなかった!「この人、足が悪かったの?」と葬列に並ぶ人に聞く。

そこで判明する衝撃の真相。

「待っている女」

男が妻と喧嘩した。妻は家から出ていってしまった。手持ち無沙汰になった男は、タバコを買いに行った。すると四つ辻に若い女が突っ立っている。タバコ屋で聞くと、さっきからあそこで誰かを待っている風情だという。一度、男は家に帰った。

家に帰ると男は、四辻にいる女が気になってしかたがなかった。早く帰りなさい。そう言ってやりたかった。いや、もういないかもしれない。もう一度タバコを買いに行った。果して、女はまだいた。

夕刻が近づく。気になって男は、またタバコ屋に向かった。女は、小さなボールをつかって鞠つきをしていた。その鞠をとると男は、早く帰りなさい、という趣旨の話をした。女は「あなたの鞠じゃなければ返してください」みたいなことを言って、らちがあかない。「いま来ます」と言い続ける。

21時を過ぎたが妻は帰ってこない。じりじりしていると妻が帰ってきた。男は、四辻に女がいたか、と聞いた。すると妻は…。

これもなかなか考えさせられる。

「お守り」

「ダイナマイトいらないか?」と友人から持ちかけられた僕。友人・関口二郎の話を聞く。

団地に部屋を買って、新居にした。ある日、関口が帰宅すると、自分の前を、自分に似たような男が歩いているのに気づく。そして、家のある棟の、自分の部屋のある階段を登り、あろうことかウチの扉を開けて、入っていったじゃないか!

関口は、妻の浮気相手と思って、家の中に入ると、二人の声をこっそり聞いた。「二郎さん、二郎さん」と話しかけ、男は相槌を打っている。なんか変だ。それで、部屋に入っていき、その男に相対した。妻はそこでハッと気づき、関口に抱きついた。

その男は、黒瀬次郎。D棟とE棟を間違えて、しかも、同じ305号室だったのだ。この経験いらい、関口は精神をやられ、お守りとしてこの「ダイナマイト」を持っているというのだ。

僕は、関口二郎に、さっき報道されていたニュースを教えてあげた。バスの中で、何かが爆発したらしい。どうも犯人は黒瀬…。

以上が、代表的3短編である。次は、いわゆるショート・ショート。

「十三年」
男は学校に通うために2時間電車に乗らなきゃいけなかった。時々寄る貸本屋のおかみが、ここから通えば、と部屋を提供してくれた。しばらくそこから通っていたが、ある停電の日。一人の女と寝た。おかみかもしれない。13年後、あの「おかみ」と思しき女が、デパートの食堂に現れ、女の子を連れていた。その女の子の肩には、自分にもあるアザのようなものが見えた。男は、「おかみ」に意を決して話しかける…。

「朝のヨット」
恋人だった少年がヨットで遭難した。一緒につれてってくれ、と言ったのに、どうして一人になる時間が必要なんだと言って、一人で逝ってしまったのか・・・

「他人の夏」
「彼」は海辺の街で暮らす高校生。海水浴でいっぱいになった海岸は、他人の家みたいだ。夜に、海水浴を楽しんでいると、そこに女が一人泳いできた…おそらく自殺するつもりなのだろう。「彼」は自分の父の話をした。そうしたら…。

「一人ぼっちのプレゼント」
→長くなったのと、これら以降はややまとめるのに時間がかかりそうなので、今日はこれでアップ。

残りは、

「煙突」

「海岸公園」

の中編が掲載されてあります。

山川方夫、なかなかのストーリーテラーですよ。

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