ツルゲーネフの『はつ恋』を真面目に読む 1

みなさん、こんばんわ、積読茸が毎日竹の子のように伸びて行ってる、自称パッパルデッレです。今日は、ツルゲーネフの『はつ恋』を、30年ぶりくらいに読んでみようと思います。

「はつ恋!、ホゲー!」と心の中で奇怪な声を出してしまった、アナタ。アナタに向けて僕は、『はつ恋』を読み直すのですよ。気持ち悪いでしょう?50のオッサンがあなたのためにこともあろうに『はつ恋』を読み直す。戯言はいいから、先に行きましょう。

まず、最初の章です。「はつ恋」というタイトルに目をくらまされて、みなさん、忘れてはいませんか?初期設定は、

40近いオッサン2人と、飲み屋のマスターが、あまりにヒマだったので、じゃあ、はつ恋の話でもしようぜ、と、おっぱじめたわけですよ。で、言い出しっぺのマスターは、うちは妻とラブラブで~、みたいな感じで、話を振ったくせに逃げをうつし、もう一人は、いやあ初恋は実は六歳の時の乳母で~、次の恋のときはもう新鮮でもなんでもなかったので~、とかいうわけです。そして、最後の一人のヴラジーミル・ペトローヴィチに水が向けられるわけなんです。

じゃあ、このペトローヴィチ、どんな風体かというと、「四十がらみの、黒髪に白を交えた」「話が不得手」な男で、今日は話せないから「思い浮かぶだけのことをすっかり手帳に書いて、読んでお聞かせしよう」という奴なんですよ。キモい、キモいでしょ?その場で、酒のつまみに、初恋の話しようぜって言ってるのに、書いて来るから次それ読むよ、っていうんだよ。キモすぎる。

で、そのキモいペトローヴィチ、「二週間ののち」約束を果たすんですよ。

ここから、俺たちの知ってる「はつ恋」がはじまるわけ。

「1」からいこう。

ペトローヴィチ、1833年夏、16歳。話はそこから始まるけど、みんな俺の16歳の物語聞きたいか?貧乏な公立高校の男が、同じ公立の女子高に行って、フォークダンス踊った挙句に、なんだか勇気を出して、撃沈した話、面白いと思うか?それ、俺な。

ペトローヴィチの両親はそもそも金持ちで、由緒正しい貴族っぽくて、「彼らの借り入れた別荘」にペトローヴィチはいて、「大学の入学準備」ができるくらいに、裕福な奴なんですよ。それが普通なのかな1833年。とにかく、「したい放題に振舞っていた」らしいんだよ。

で、その父母、どっちもペトローヴィチを構ってやらなかったんだな。どうも、その辺、雲行き怪しい。この前振り、みんな覚えているか?「はつ恋」に騙されてないか?

で、若き日のペトローヴィチ、散歩しながら詩を高らかに朗読する、今でいうところの、何だな、ナニ、言葉に出来ないな。それだけじゃなく「絶えず何ものかを心待ちにし、絶えず何ものかにびくびくし」とにかく、心が一定に定まらない、なんだろうなあ、思春期の病に侵されていたわけなんですよ。それどころか、自分の当時読んでた本とか、ちょいちょい出してくるわけよ。あ、俺のことか。

で、女っけはないけど、それにたいする「半ば無意識な、はじらいの予感」があったようなんだよね。おお、思春期。スメルズライクティーンスピリット!で、その別荘の隣に、あんま品のよくない貧乏貴族の家族が引っ越してきて、父母はイマイチ、しょうもない家柄だこと!みたいな空気を全開にしてたらしいのね。で、ペトローヴィチもさ、公爵って聞いても「わたしは少し前に、シルレルの『群盗』を読んだところだったのである」と、うそぶいているわけですよ。いるよね、こういう、「その時僕は32回目の村上春樹を読んでいた」みたいなスカシ方する奴。そういう奴だったんだよ、ペトローヴィチ。

「2」だよ。

で、ペトローヴィチのこと、みんなあんまり覚えてないだろ?「はつ恋」に騙されてさ。ペトローヴィチってどういう奴かっていうと、

わたしは毎日、夕方になると、鉄砲を持ってうちの庭をぶらついて、鴉の番人をするのが習慣だった。この油断のない、貪欲で悪賢い鳥に対して、わたしはずっと前から憎悪をいだいていたのである。

1833年に騙されるなよ。庭を鉄砲持ってぶらついてる16歳、どうよ?今だと、そうだな、鴉をヤルためにハンマーとか持ってぶらついてる進学校の男だぜ、もう、ヤバさしかないだろ。鴉に憎悪、あ、それも俺だ。

そんなペトローヴィチが、隣家の垣根越しに、女子を見ちゃうんだよ。そう、みんな、きっとこれがペトローヴィチの「はつ恋」の女子だと思うだろ?でもさ、その女子、そこで何やってたと思う?

わたしからほんの五、六歩離れた所、青々としたエゾ苺の茂みに囲まれた空地に、すらりと背の高い少女が、縞の入ったバラ色の服を着て、白いプラトークを頭にかぶって立っていた。そのまわりには四人の青年がぎっしり寄り合って、そして少女は順ぐりに青年たちのおでこを、小さな灰色の花の束で叩いているのだった。

まてまて、何の象徴、何の引用だよ。ボッティチェリか?それはどうでもよくて、四人の青年に囲まれた女子が、その男たちのおでこを花の束でベチベチ叩いてる風景を目にするんだよ。で、それを「実になんとも言えず魅惑的な、高飛車な、愛撫するような、あざ笑うような、しかも可愛らしい様子」だったらしいんだよ。もう、これペトローヴィチ、ただのマゾ野郎だろ。タイトル変更!『痴人の愛』。あ、パクリか。

それどころか、コイツ、

自分もあの天女のような指で、おでこをはじいてもらえさえしたら、その場で世界じゅうのものを投げ出してもかまわない、とそんな気がした。

いやまて、するのか?しないよ、しないしない。ペトローヴィチ、いや、ツルゲーネフ、お前一体何てこと書いてるんだ。

ところがそこに、変な男が立ってて、「よそのお嬢さんを、そんな風に見つめてもいいものかい?」って急に言って来るの。ここでは、そんなことを急にいう奴の説明は一切なくて。そもそも、いつから、そこに、何のためにいるんだよ。これ、怖いでしょ?

で、ペトローヴィチ、その女子がこっちをみて、笑ったのをみて、一目散に部屋に駆け込んで、親父にも言えずに寝てしまうんだよ。これ、親父、一押し、欲しいでしょ。これやらないところが、先に出てきた無関心、という説明の結果なんだよな。案外、ツルゲーネフ、巧く書いとるわ。そりゃそうだろ、アレクサンドル2世が、ツルゲーネフの『猟人日記』を読んで、農奴解放令を出したとかって、嘘だろ?それくらい、やっぱし、ブンゴー、だったんだな。ゲームに出てないか?ツルゲーネフ。

寝支度をしながらわたしは、どういうつもりだか知らないが、三遍ほど片足でくるくる回って、髪にポマード塗りたくって横になるなり、まるで死人のように、ぐっすり朝まで眠った。夜明け方にちょっと目をさまして、頭をもたげ、感きわまってあたりをぐるぐる見回したが、それなりまた寝入ってしまった。

これ、マンガだよね。凄くない?ほとんど吉田戦車。ツッコミどころが多すぎて、みんな、「はつ恋」にだけ、意識がいって、このペトローヴィチの動き、ちゃんと見てるか?ヤバいぞ、すでに、まだたったの二章しか進んでないのに、この有様。

つづくんかな?

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集