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瀧羽麻子「ゆびきり」(『もどかしいほど静かなオルゴール店』所収)

下の子が、読書感想文で、兄が読んでいた『もどかしいほど静かなオルゴール店』の中の一章を選びました。兄への対抗意識から、かなり背伸びをしたものを選びました。人にはその背伸びが必要で、下書きなるものをみると、構成は母に習ったように、典型的ですが、しっかりしたものになっていました。

じゃあ、あとどこを付け加えればいいか、と考えるために、私も読もうと思います。

あらすじ

島で暮らす颯太。

本島からの船から降りて来る見知った顔の中に、武兄ちゃんの姿を探すが見当たらない。がっかりしたところで、見知らぬ親子連れを見つけた。

娘は颯太と同じ小学三年生くらい。都会的な服装をしていた。母親はハイヒール、すれ違いざま香水の匂いに颯太はむせかえった。

武兄ちゃんは「従兄」である。颯太は武を尊敬している。そんな武は本島の高校に進学し、なかなか出会えない。家に向かって帰っていくと、例の都会的な母娘が、自分の家の隣の「高橋のじいちゃん」の家に入っていった。

母は、高橋のじいちゃんの娘であるらしい。マミという名前だそうだ。ただ、一緒に来た孫を置いて、マミはまた本島へいってしまったらしい。マミはシングルマザーだ。

颯太が呼ばれ、マミの娘のユリの相手をおおせつかる。ユリもまた都会的だ。颯太は気後れする。礼儀正しいが、どこか打ち解けない硬さがあった。

武兄ちゃんは、電話で、今年は帰省できないかもしれないと聞いた。急に手持無沙汰になる颯太。昼寝をしていたら、悲鳴が聞こえ、ユリが庭で仁王立ちしていた。ユリがバイオリンの練習をしていて、これまたうつらうつらしていたら、猫が持ち出して、泥の中に入れてしまったのだ。

颯太はユリを「ガジュマルの店」につれていった。けれどもそこにバイオリンの楽譜はなかった。

この「ガジュマルの店」が瀧羽さんの連作のキープレイスになっているオルゴール店だ。

「ガジュマルの店」にはオルゴールしかおいていないが、店員さんによるとネットで買えるという。ユリは、お母さんに頼んでみると眼を輝かせた。ただ、その曲はオルゴールでもあるらしい。「こんな曲だったんだ」と颯太はいい、「なによ、わたしのバイオリン聴いてたの?」とユリはムッとする。ユリのバイオリンはあまりうまくなかったのだ。

ユリがお母さんに電話すると、お母さんは明らかに忙しそうで、バイオリンの練習なんかいいからゆっくりしてなさい、と切られ、意気消沈していた。

翌日、ユリが颯太のところに来て、昨日母親に電話していたことを内緒にしておいてくれと頼む。どうやら、親子関係はあまりうまくいってないようだ。すぐうわさになっちゃうから、とユリはいった。

武兄ちゃんも島のうわさには気を付けていた。颯太に「大学に自分は行きたい」と打ち明け、誰にも言わないでくれと頼まれた。武兄ちゃんのこともあり、ユリとも約束をした。

ユリは、それから毎日颯太の家に来るようになった。他の友達と引き合わせたとき、トラブルにならないかひやひやしたが、ユリはそつなくこなした。ユリはお母さんが悪者にされることを極度に恐れているようだった。

「わたしがいい子にしてないと、ママの育て方が悪いって言われちゃうでしょ?だから、できるだけおとなしくしてようと思って」

p.98

ユリは、他の友達の前にいる時と、颯太の前にいるときでは態度が違う。颯太の前にいるときは、素が出る。お母さんは、売れっ子のスタイリストらしい。今はニューヨークで有名女優のスタイリングを手伝っているらしい。

いつもは分かれた映画監督の元夫のもとに預けられるらしいが、今回ばかりはそちらも多忙で頼れなかったようだ。

ユリから将来の夢をきかれて、颯太は面食らった。ただ、ぼんやりと武兄ちゃんのようになりたいと思った。ユリにはつい武兄ちゃんから内緒にしておけと言われた大学進学して、船を設計したいという夢まで話してしまった。誰にも言わないで、とユリとゆびきりをした。

武兄ちゃんと颯太の指切りは独特だ。ところがユリも同じように親指を立てている。母親からおしえてもらったらしい。なるほど、この指切りは島独特のものだったのかもしれない。

ユリが島を立つ前日に、ガジュマルの店にいった。お土産としてオルゴールをつくるという。颯太もつくれというが、颯太はここに住んでいるのだからお土産なんかいらないととしぶる。一人分で二つ作っていいよ、と店員さんは言う。

完成したオルゴールを明日、午前中にとりにくることにした。

大人たちはみんな最後の晩だということで盛り上がっている。颯太だけが寂しい。武兄ちゃんはお盆休みにも帰ってこないし、ユリも行ってしまう。不機嫌になる。武兄ちゃんが帰ってこないことに対して、励ましてくれるユリに対して、颯太はつい声を荒げてしまう。

場を和ませようとユリが「指切りしよっか」といっても颯太は拒否する。そして、「さっさと東京に帰れよ。言っとくけど、おれはお前のことなんかすぐに忘れるから。明日になったら、もう忘れてる」と言ってしまう。

ユリが出ていく日、颯太は家にいた。見送りに行くつもりはない。そう思っていた。けれども、いてもたってもいられなくなって、「ガジュマルの店」にいった。すると、店員さんが出して来たのは、ユリがつくったもの。

「あの、これ、ユリのじゃ……」
中略
「ええ。交換することにしたんですよね?」

p.111

店員さんが言っていたことを、颯太は思い出したのかもしれない。

「音楽は記憶とつながっていますからね。たとえばこの先、その曲を聴くことがあれば、僕はきっとあなたがたのことを思い出します」

p.104

颯太は駆けだした。もう見送りには間に合わない。武兄ちゃんが教えてくれた島の北端にあたる北ノ岬まで走る。船が見えた。颯太は思い切り手を振り、力を込めて叫ぶ。船が見えなくなるまで叫び続けた。

あらすじの圧縮

私だとつい、幼少期のボーイミーツガールの変奏、とか、幼少期に行ってしまう小さな後悔の話とかでまとめてしまいそうであるが、それではダメだろう。

下の子はユリの立場にたって、あんなことを言われて傷ついたのに、オルゴールを残してあげてすごい。自分にはできない。とまとめていた。そっちの方がいいと思った。

あえて、あらすじを圧縮するなら

島で過ごす颯太は、隣の家に帰省していた東京の子であるユリと仲良くなった。

最初はお互いに意地をはっていたが、お互いの秘密を話すことで打ち解けあい、指切りの仕方が同じだったことで、仲良くなった。

ユリと一緒に記念のオルゴールをつくった颯太だが、ユリが帰る前日に、寂しさをいいだせなくて、逆に邪険にしてしまう。ユリは何かを言いたそうにしていたが、泣くこともなく別れた。

ユリが港を立つ頃に、一緒につくったオルゴールを取りに行った颯太は、自分のものを彼女が持ち帰ったことを知った。店員さんが、音楽は記憶と結びついているから、音を聴けばそれを思い出すと言っていたことを颯太は思い出した。

颯太はすでに港を発ってしまった船を追いかけて、岬に立ち、届くはずもない声で、ユリの名を叫びつづけた。

かな。

336文字なので、1200字からすると、まあ4分の1で、悪くない量だろう。

物語を読んで成長した点

下の子は、知らず知らずのうちに友達に我慢をさせてしまうことに気づいたと書いていた。

別に賞をとりたいわけではないから、それを無理に先生や審査員向けに飾り立てる必要もないだろう。

我が家の状況が見えて、あーあ、と思うくらいである。

知らず知らずのうちに友達に我慢をさせてしまうこと、を具体的なエピソードに落として、例示した方がまとまりがよいと思った。

兄との関わりの中で、具体的なエピソードがないか、学童で何かそういったことで後悔したことはないか、聞いてみることにする。なければ、私がつくる。それって、ナニ・・・?(笑)

優等生的で、面白いかどうかはわからないけれども、友達に我慢をさせてしまう(可能性に世の中は満ちている)、ことに気づき、それで自分がどうするかを最後のまとめとして入れておきたい。

流れとしては、

1.本のタイトル、手に取った理由(タテマエ)200文字
2.あらすじと気になったシーン 400字
3.気づいた点と日常的な例 400字
4.気づいた点を踏まえて、自分がどうしようと思ったか 200字 

で、いいんじゃないか。

解釈

連作なので、この離島にポツッとできたオルゴール屋さんに、それぞれの登場人物が出入りして、特に店員さんが働きかけるわけでもないのに、それぞれが何かに気づいて、次の行為を選んでいく。

颯太の場合は、店員さんが、以前に言っていたことを思い出す。ただ、思い出したというシーンは描かれていない。それとなく私たちがそう解釈するように促している。こういうのはnote小説でもいけるんじゃないか?いや、そういうもの結構あるだろう。

ユリに付随している、親との関係、母と祖父母の関係、シングルマザーの有名スタイリストであるという設定、離れている理由がニューヨークでの撮影であるという説明、これらは全部ユリの説明によってもたらされた情報だが、嫌な大人の見方をすれば、それは全部ウソなんじゃないか、という解釈もできる。ユリが全部ウソをついているとするなら果してどうか・・・?

「さっさと東京に帰れよ。言っとくけど、おれはお前のことなんかすぐに忘れるから。明日になったら、もう忘れてる」と颯太が言ったとき、ユリも本当のことを言えなくなったのではないか。そういう解釈も成り立ちそうだ。

颯太は颯太で、武兄ちゃんの夢(大学に行って、船の設計をしたい、そのために実家には帰ってこれない)を信じている。これもすべてウソだったら……?武兄ちゃんは、本島で遊びに楽しくて旧弊な島の暮らしなんかそっちのけ。それを颯太には告げられない。

そう考えると、幻想を頼りに生きている颯太がなんとも寂しい存在に思えて来る。

颯太は、ユリに将来の夢を尋ねられた時に、戸惑ってしまう。

夢とは何か。外部と接触して、自分が自分でないものに変貌することを熱望することだろう。それは自分を客体視して、自分の限界を知らないと、その向こうがわからない。

外部に触れずにいた颯太は、ユリによって外部と接触して、後悔とともに自分の小ささや限界を知ったのではないか。颯太がユリに頑なになったのも、外部と接触することを無意識に恐れたからである。

颯太は、果して、どのようにして外部にさらされることになるのか。

楽しみである。

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