ツルゲーネフの『はつ恋』を真面目に読む 3

ちょっと、別件を真面目に書きすぎたせいで、俺のエナジーはエグゾーステッド。だからもう『はつ恋』なんかどうでもいいかな、と投げ出したくなったけど、元来責任感の塊である俺は、仕方なく筆をとったというわけ。いやいや、もうきっと飽きられているから、やめてもいいぞ。やめたのたくさんあるじゃない。

さすがにツルゲーネフの伝記を読みたいわけではないけれど、それはそれとしてやっぱり文豪、変な人で、二葉亭四迷がハマった人ではあることもあって、多少はフォローしないといかんかな、という気持ちになっているけど、五分後にはどうなっているかわからない。五分後の世界。

「5」。

隣りに引っ越してきた公爵夫人。どうやら、ペトローヴィチの母と会って食事かなんかしたらしいんだけど、悪口ばかり。金の亡者のようである。はあ、現代でもあるキチママ問題に発展しそうな内容で、その点、案外現代的なのかしら、と思われた。

で、そんな悪口を聞いているペトローヴィチ、そうか脈なしか、と思ったら、今度その公爵夫人とその娘さんを呼んだ、って言うじゃない。

それでいながら母は、あの夫人を娘さんと一緒に明日の夕食に招いた、と言い足した(この『娘さんと一緒』という言葉を耳にすると、わたしは鼻を皿の中へ突っ込まんばかりにした)

まだ、ズコーッってな感じの表現出ましたね。そういう意味では、ツルゲーネフ、滑稽な感じになってるね。

で、庭に出ると娘がいて、ちょっとチラチラみて、眼も合うんだけど、若干無視される。で、心が惑う、ペトローヴィチ。

そこに現れた父、あれは娘さんか、とペトローヴィチに聞き、若干興味を持った風情。おっと、これは、三角関係の成立か?わかんないけど、この時代の貴族たち、ホントどいつも好色だな。

「6」。

鬱々とするペトローヴィチ。お前、もう、ふりまわされるフラグ、余裕で立ってるよ…まったく。でも、これが「はつ恋」ってやつなのかもしらんな。やだなあ、はつ恋。まあ、それはそれとして、これは何か、男子じゃないとわかんないのかな。その辺、やっぱり読者を選ぶというか、二葉亭四迷がその辺の煩悶好きだから、まあ、アリはアリかもね。

で、来るわけ、公爵夫人とジナイーダ。つんとすわって、ペトローヴィチの方はみない。でました、ツン、で、帰るときに、

今夜八時に、うちへいらっしゃいね、よくって、きっとよ……

おいおいなんだよ『タッチ』展開かよ、勘弁してくれよと思うも、このツンとデレの組み合わせは、もう1833年からあったってことなのかよ。全然新しくもねーんだな。やっぱり、みなラブコメはツルゲーネフから出てきたってことでいいのかな。

それにしたって、21歳の女子から「今夜八時に」うちに来いって言われたら、どうよ。

「7」。

あのさ、みんなやっぱツルゲーネフ誤解してるよ。いいか、この章、まず、ペトローヴィチが「今夜八時」に、ジナイーダのところにいくわけ。すると、5人の男がいて、キャッキャウフフしてるわけ。

何やってるかっていうと、帽子の中に入った札をとりあってる。で、あの人にも札をあげなきゃ!ってジナイーダが言うから、ペトローヴィチも札をひくのね。

わたしは一番あとから手を帽子に入れて、つかんで、さて札をひろげてみたが……ああ!途端にふらふらっとしてしまった。見よ、その札には、『キス』と書いてあるではないか!

なんだ、この王様ゲーム。サークル飲みの定番の余興は、もう1833年からあったってことなのかよ。日本文化におけるロシア文化の影響。

ここのキャッキャウフフは、もう、描写しきれない。え、二葉亭。こんな文章訳して、日本語の誕生、なんていう栄誉にあずかっていたんですか。ただの王様ゲームの描写だよ。ここ。

罰金ごっこに飽きると、今度は縄まわしが始まった。ああ!わたしがついポカンとして、鬼になった彼女から、したたかピシャリと指をぶたれたとき、なんという法悦をわたしは感じたことだろう!そのあとで、わざとわたしがポカンとした振りをしていると、彼女はわたしをじらそうとして、差し伸べた両手に触れようともしないのだった!

やっぱり、ペトローヴィチはマゾだな。

実際は、そのキャッキャウフフのあと、自分の部屋に帰って、眠れずに外を見ている時の描写が、さすが文豪とされるものなのかもしれないけど、そんなの関係ねえ。それにしたって、もうすでに、ペトローヴィチ、お前は虜だよ。

ちょっと待て、「はつ恋」って、そんなものだったか?

そんなキャッキャウフフがあったか?

ねーよ、無し。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集