見出し画像

ストレスがお腹に来る人へ ~過敏性腸症候群~

緊張したり不安になったりすると、お腹を下してトイレに駆け込む人、いないだろうか。過敏性腸症候群(Irritable bowel syndrome=IBSと呼ばれることが多い。以下、IBSと略)。と呼ばれる病気があり、今回はそのお話。過敏性腸症候群にペパーミントが有効である、という報告があるらしいよ。

過敏性腸症候群になる原因

ストレス

原因として多く挙げられるのがストレスである。IBS患者に心理社会的ストレスを付加すると、大腸内圧で測定した大腸運動ならびに大腸平滑筋電図が亢進する。ストレス負荷時には、脳波が低振幅速波化し、中枢神経興奮の感受性亢進を反映する。消化管刺激に対する中枢反応の増強が見られ、ストレス応答を支配する偏桃体、前帯状回、島の過活動が見られる。このような脳と消化管の機能的な関連を脳腸相関と呼ばれる。

心理的異常

代表的な心理的異常は、うつ病性障害と不安障害である。また、人生早期に虐待等の重大なストレスを受けた場合も発症のリスクとなる。直腸に伸展刺激を加えたとき、脳の帯状回の中部と後部の過活動、膝上部の活性不全があり、疼痛を感じやすい。
他には双極性障害や疲労、睡眠障害とも関連すると言われている。特に双極性障害の場合、抗うつ薬によって病態が増悪あるいは躁転することがあるため、注意が必要である。

腸内細菌

過敏性腸症候群を発症している人とそうでない人の腸内細菌を比較した結果、腸内の常在菌が異なっていることが分かっており、腸内細菌を変えることで症状が改善させようという研究もある。

粘膜炎症

粘膜に微小な炎症を起こしていることがおおく、炎症の原因としては上記の腸内細菌が挙げられる。他にはグルテンや食物アレルギーなど、普段の食事が関係している人もいると報告されている。

神経伝達物質

IBSの病態に関連する神経伝達物質の筆頭はセロトニンである。セロトニンの前駆物質であるトリプトファンを欠乏させると、IBS患者で内臓知覚が過敏となり、不安が惹起される。下痢型のIBS患者に5-HT3拮抗薬を投与すると情動関連部位の活性亢進を低下させることができ、逆に便秘型のIBS患者に5-HT3刺激薬の投与を行うと推進運動につながる大腸運動が惹起される。IBS患者にセロトニン再取り込み阻害作用のある抗うつ薬を投与すると、前帯状回の過活動が抑制され、症状も改善する。

ホルモン

ストレス関連ペプチドであるcorticotropin-releasing hormone(CRH)が関連すると言われている。IBS患者ではCRH負荷に対する大腸運動亢進が見られ、ストレス誘発性大腸運動亢進はCRH拮抗薬で抑制される。CRHと逆の作用をするのがオキシトシンであり、IBS患者の内臓知覚過敏を緩和する。またセロトニンから生合成されるメラトニン投与はIBS患者の腹痛を改善させるとされている。

遺伝

遺伝も関与すると言われている。

過敏性腸症候群の分類

過敏性腸症候群にはいくつかのタイプが存在し、
①便秘になりやすい人(=便秘型)、
②下痢になりやすい人(=下痢型)、
③便秘と下痢を繰り返す人(=混合型 or 交代型)、
④いずれでもない人(=分類不能型)、
の4種類がある。

検査

診断には「RomeⅣ基準」と呼ばれる診断基準がある。このフローチャートに乗っ取り診断が行われる。ただし、他に原因となる異常がないかを確認することが重要。過敏性腸症候群だと決めつけてしまうと、大きな病気を見逃してしまうことになる。例えば潰瘍性大腸炎やクローン病などで腸に炎症が起きている場合や、癌などで腸が狭くなっている場合にも似たような症状が出ることがある。
具体的には血液検査で炎症の数値が上がっていないか確認したり、大腸カメラで腸の中を確認したりする。カメラがどうしても嫌な場合は、大腸CTという検査を受けるのもいいだろう。

非薬物療法

食事

まず行われるのは食事指導・食事療法である。
IBS症状を誘発しやすい食品としては、脂質やカフェイン類、香辛料を多く含む食品、ミルク、乳製品などがあり、これらを控えることは有用である。これらは短鎖炭水化物を多く含んでおり、小腸で分解・吸収されにくく、腸内細菌で迅速に発酵・分解させることで水素ガスやメタンガスを発生させ、高浸透圧性により腸管内に水分を引き込む性質を持っている。
逆に食物繊維はIBSの症状改善に有用と報告されている。ただし、食物繊維にはオオバコなどに含まれる「可溶性繊維」と、小麦ふすまなどに含まれる「不溶性繊維」とがあるが、不溶性繊維はIBSによる腹痛を増悪させることもあるので注意が必要だ。

他の生活習慣

次に有用とされているのが運動療法である。ヨガやウォーキング、エアロビクスなどは効果があると報告されている。一方、飲酒や喫煙、睡眠との関連は明らかになっていない。

薬物療法(全てのタイプに使用)

消化管運動機能調整薬:トリメブチンマレイン酸(セレキノン®)

交感神経活性化状態ではアドレナリンの分泌を抑制して消化管運動を更新させ、副交感神経活性化状態ではアセチルコリン分泌を抑制することで消化管運動を抑制させる。この二面性の作用により、下痢と便秘のいずれにも効果を示すとされている。

抗コリン薬:チキジウム(チアトン®)、ブチルスコポラミン(ブスコパン®)など

抗コリン薬は平滑筋弛緩作用を持ち、腹痛などの症状軽減に有効とされている。ただし、日本で使用可能な薬剤は効果が穏やかであり、口渇や便秘、心悸亢進などの副作用があること、緑内障や前立腺肥大を増悪させるため、これらの病気がある人には使えないことに注意が必要である。

整腸剤:ビオフェルミン®、ミヤBM®等

IBSの病態に腸内細菌が関係しており、腸内細菌のバランスを改善させる作用のある整腸剤は、副作用が少なく、コスト的にも負担が少ないことから処方されることが多い。ガイドラインにも使用が推奨されている。

抗うつ薬(三環系抗うつ薬、SSRI)

IBSに合併が多い「うつ」の症状として、内臓知覚過敏がある。この内臓知覚過敏による腹痛の改善に抗うつ薬が有用であるとする報告がある。ただし、副作用も少なくないため、使用は他の薬剤で効果が得られない場合に使われることが多いだろう。

抗不安薬

上記のように、心理的な影響を受けやすいのがこのIBSの特徴である。したがって不安が強い場合には抗不安薬が効くこともあるが、依存性のある薬でもあるため、精神科等でないとなかなか使いにくい。

薬物療法(下痢がメインのタイプに使用)

5-HT3受容体拮抗薬:ラモセトロン(イリボー®)

上に書いたように、下痢型のIBS患者に5-HT3拮抗薬を投与すると情動関連部位の活性亢進を低下させることができる。したがって、下痢が主症状の場合、腹痛や便意切迫感、軟便・下痢を改善することが報告されている。

下痢止め:ロペラミド塩酸塩(ロペミン®)、タンニン酸アルブミン、ベルベリンなど

下痢の回数がひどい場合、症状を抑える目的で処方されることがあり、効果もあるとされているが、使いすぎると心疾患などの有害事象が起きるともされており、定期的に内服することは少ない。

薬物療法(便秘がメインのタイプに使用)

下剤:酸化マグネシウム、ルビプロストン(アミティーザ®)等

便秘なら下剤を使えばいいじゃない?
はい、そうです。
便秘については以前まとめたものがあるので、下剤の詳しい説明を見てみたい場合にはそちらを参照していただきたい。

5-HT4刺激薬:モサプリドクエン酸塩(ガスモチン®)

便秘型のIBS患者に5-HT3刺激薬の投与を行うと推進運動につながる大腸運動が惹起されるため、モサプリドなどの5-HT4刺激薬は有用であるとされている。ただし日本でモサプリドが保険適応となっているのは、商品名のガスモチンの由来となっているGastric Motility(胃の運動)からも分かるように、慢性胃炎のみであり、保険適応外処方となることに注意が必要である。

補完代替医療

瞑想やヨガ、整腸剤、漢方薬などがこれにあたるが、他に効果があるとされているものにペパーミントオイルと鍼灸がある。

ペパーミントオイルの腸溶性カプセルを1日3回食膳に摂取すると、症状が改善したという報告がある。また鍼灸は特に下痢型のIBSに有効であるとされており、標準治療にうまく反応しなかった場合はこれらを試してみることもよい選択肢となる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?