冷凍車トラック (1分小説)
「一秒でも速く、食品を市場へお届けしなさい。私たちドライバーは、そう叩き込まれているんです。もう、行っていいでしょ?」
私服警官が、停車させた冷凍車トラックを、なめまわすように見ている。
「気持ちは分かるけど。こっちも、何の事件も発生していないのに、ずっと待機し続けていて、退屈なんだ。刺激が欲しいわけよ」
警官は、車体の後ろへまわり、トラックの中を開けさせた。
「8トン車ねぇ。ずいぶん詰まっているけど、過積載ではないんだろうな?」
「あたりまえです」
冷やかし半分に、車を止められることには慣れている。が、今日は、いつもと事情が違う。
「おやおや、車体がへこんでいるぞ。塗料も取れている」
冷たい汗が、背中をつたう。
「車庫から出す時に、ちょっと当ててしまって」
まさか、15分前に、人を跳ねたなんて言えない。
「気をつけて運転してくださいよ。もう行っていいから。さてと、オレも、そろそろ、相方とタッチ交代するか」
私服警官が、スマホをかけた。
リンリンリンリン。
トラックの中から、着信音が聞こえてきた。
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