夜道の目 (1分小説)
腕時計を見れば、午前0:00。
女は、暗い夜道で、自分を見つめる、いくつもの目を感じた。
小走りしながら、何度もふり返る。
「やっぱり、残業を断ればよかった」
親友にスマホする。
「誰かが、私をジーッと見ているような気がするの」
低い声が返ってきた。
「ストーカー?元カレかもよ」
女は、バッグを胸に抱えなおした。
「違うと思う。たぶん複数の人。さっきまで、何も感じなかったのに」
小走りする。
やがて、女は、一人暮らしのマンションの前までたどりついた。
一階玄関ロビーの、オートロックの暗証番号を、誰にも見られないよう、手で覆いながら押す。
2358。
カチャ。
ドアが開く。
「足音も聞こえないし、姿も見えないけれど、まだ気配がするわ」
女は、自室の207号室まで、階段でかけあがった。
「私、何となく、アンタを追いかけている人たちが分かっちゃった」
スマホから、親友の声。
「誰なの!? 」
女は、泣きながら207号室まで走った。
「彼らは、アンタのマンションの暗証番号も知っているわよ」
女は、震える手でカギを差し込んだ。
ガチャ、ガチャ!!
207号室に入り、急いでカギをロック。
「アンタの部屋が、何号室かも知っているわよ」
女は、金切り声で叫んだ。
「だから、誰なの!?」
親友は、クスクスと笑った。
「毎晩、1分で読める小説を、noteにアップデートしている作者がいるの。今夜は、アンタをターゲットにしたんだわ」
1分小説?ショートショートってこと?
じゃ、私を見ている人たちっていうのは。
カタカタカタ。
暗闇の中、部屋に置いてあったパソコンが、勝手に起動した。
「おかえり」
「お疲れさま」
「おかえりなさい」
いくつもの声が、聞こえたような気がした。