二男に言葉の魔法をかけたつもりが、私まで魔法にかかってた。
「今日、車運転できないから、歩いていこう」
「えーやだ!遠いじゃん!」
「何言ってるの、学校行くより近いよ」
予約した皮膚科へ、二男を連れて行くときのやり取り。私が首を痛めて動かせないため、車の運転ができないのです。
いつもなら車で向かう病院ですが、実は徒歩圏内にあります。
しかし二男は病院嫌い。
しかも、車じゃなく徒歩。
二男の嫌な度合いが高まる要素ばかりです。
それでも、何とかして予約時間通りに病院へ連れて行きたかった私は、思わず口走りました。
「ねえねえ、お母さんと皮膚科までデートしようよ」
我ながら何とナンパな一言。
鼻で笑われてもおかしくない。
「わかったー!いいよー!」
意外なことに、あれだけ嫌がっていた二男がOKしてくれました。
皮膚科へただ行くのは嫌なのに、デートはいいのか!
とにかく、いいよって言ってくれたならいいか。
さっそく2人で家を出ます。
道中、二男に聞いてみました。
「何でデートって言った途端にOKしてくれたの?」
「それはねぇ。気分!」
二男が元気よく教えてくれました。
ますますよくわからない。
でも、何だか二男の機嫌はとても良い。
まあいいか。
二男が気分よく病院に行ってくれるのはいいことだ。
病院嫌いの二男はいつも、何かと理由をつけては病院へ行く前にごねます。私が相手の時はまだいいのですが、夫に連れて行かれるとなると、全力で嫌がるのです。
そんな苦手な病院でも、「デート」って言ったら気分が良くなったらしい。「デート」って言葉にどれだけの力があるんだろう。
考えながら歩いていたら、二男が私を引っ張ります。
「お母さん、よそ見してたら自転車にぶつかるよ」
あら、セリフがまるで彼氏じゃないの。
私が言った「デート」という言葉に、二男はすっかりその気のようです。
まるで魔法がかかっているみたい。
想像以上に、効き目抜群です。
そのまま二男は、私の手を引っ張っていきます。
二男なりに、私をエスコートしている様子。
息子にエスコートしてもらうなんて、この先ないかもしれない。手をつないで歩くのも、これが最後かもしれない。
気付いたら、私も「デート」という言葉の魔法にかかっていました。
ただ病院へ行って帰ってくるだけなのに、2人で歩く時間が特別なものに感じられます。二男の懸命な姿に、思わず私は顔がほころびました。
かわいいな。
私の小さな彼氏は、ちゃんと病院までエスコートしてくれました。
「お母さん、着いたよ」
二男が得意げに教えてくれます。
病院に入ってからも、まだデート気分が続いていたらしく、色々と二男は声をかけてくれました。
「お母さん、あのソファがあいてるから座って」
「この本面白いよ」
夫よりも甲斐甲斐しい。
どこでこんなことを覚えたんだろう。
苦手な診察を終えても、二男のデート気分は続いている様子。
「帰りは暗いから気を付けてね」
私を気遣いながら手を引っ張って歩く二男が、とても頼もしく見えます。
結局、二男は家に帰るまでしっかり私をエスコートしてくれました。
1時間弱の、楽しいデートでした。