きみはだれかのどうでもいい人 伊藤朱里(読書感想)
同じ職場の4人の視点から描いた話。
幼い頃から優秀で今も足元を掬われてるものかと気を張る中沢
求職後は別の課に移った染川
パートで毒舌家の田邊
職場の人達から恐れられている堀
会社勤めしている人が読めば思い当たる感情はどこかに見られるはず。
本書にはスカッとすることなどない。
ちょっと強くなった?くらいのささいな変化。これも現実っぽい。
須藤という仕事が上手く出来ないアルバイトがいることで波立つ感情。
アルバイトとはいえここまでやって、というのをこなせない人がいるのもよくある。何度お願いしても出来ない。
身内や友人がその立場であれば自分のペースで頑張ってやっていけばいいよとたやすく口にするだろう。
しかしそのしわ寄せが来る立場になったとしたら?
寛容に受け入れられるだろうか。
困った人には優しく、弱い者には救いの手を、できることは補い合って。
その美しい言葉によくよく耳を澄ませてみれば、だからよろしく、と無責任にだれかの肩を叩く音が後ろで響いている。
この人は出来ない人だから、だからあなたお願いね。
こう言われたら戸惑い納得出来ないのも事実。
本書はこれらの出来事を生々しく書いている。
ここから重大なネタバレ注意
イノセント、と表現されていた須藤が結局コネで入って来たのにはがっかりした。
コネだからそりゃ休んだら騒ぎになるだろうよと、ちょっと冷めた。
普通のどこにでもいる人だったら問題にもならなかったでしょうと。
須藤自身は世間と折り合いつけていこうという人だったからこそ、なおさらそこにがっかり。
コネがないとアルバイトとして入り込めなかったし、抗議も受けて貰えなかったんだなと、そこも現実っぽいか。
須藤はこの先もコネでどこかにまた勤めが簡単に決まるでしょうし。
仕事出来ない人にそんなに言うことないでしょうという人はしわ寄せが来ても一つも文句言わずにいられるのか。
出来たら自分はそこそこやっていけるように(それでも文句言う人はいるだろうが)過ごしていきたいものだ。