
雪と珊瑚と 梨木香歩 (読書感想)
赤ちゃん、お預かりします。
散歩の途中に見付けた張り紙。20歳で結婚、子供を産み1年で離婚。
働かなければいけないけど保育園は満員。思い切って張り紙の家を訪ねてみる珊瑚。
それがくららさんとの出会い。
パン屋でしか働いたことのない珊瑚がまだ赤ちゃんの雪を抱え、くららさんに手助けされながらも自分のお店を持とうと奮闘していく。
正直、作中に男性が出て来た時に、ありがちな珊瑚とこの人がくっ付いて支えてもらってハッピーエンドでしょう、と予想していた。
予想は大きく裏切られる。
この物語には恋愛話は存在しない。
珊瑚はくららさんでさえ頼り過ぎないように気を付けている。そういう人だった。
元夫が訪ねてきた時でさえも、雪を実家に連れていきたいだなんて、と警戒。元さやになろうとすら考えていない。
頼らないというが出産も早く決まってしまったし、バイトのままだし元夫も就職きちんとしていないしもっとそこはよく考えるべきだったような
母親が行方不明となり高校を中退し、一人で生きてきたからちょっとふわっとしてしまったのもわかる。
子供がいるからもうふわっとはしていられない。
くららさんのところに預けて働いて、パン屋が閉まるとなったら自分に何がやれるか考えて行動して。
そこをすごい、偉いと言う人もいる。
しかし一方で珊瑚みたいな人に苛々する人もいる。
あなたはポーズをとっている。そのポーズをとれば、どんな最低の立場でも、いや、むしろ。そこが最低ラインであればあるほど優位にたてるということを、あなたは知っている。(中略)こんな自分に周りは手を差し伸べて当たり前、という傲慢さ。
珊瑚のことが嫌いで店を開いたというのを知り、わざわざこんな手紙を出してまで傷つけようという執念を持つ人がいる。
自分が幸せならどうでもいいはずなのに行動に出さなければいけないとか不幸でしょう。
たしかに特定の人ばかり偉いね、頑張ってるね、とばかり言われたら、自分も同じことしてるんだけどなと思わなくもないが。
ここまで来るとホラーだよ!
怖過ぎてすごく印象に残った。
すべてのことに解決がつかないまま、けれど生活はそんなことはお構いなしに、次から次へと続いていく。
店が軌道に乗っても不安がなくなったわけでない
悩む間も雪は成長し、人生は続いていく
美味しいねと言えるご飯を食べて生きたい