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「キュビスム展」をもっと楽しむ~展示に関連する音楽~

国立西洋美術館で開催中の「キュビスム展 美の革命」。早速足を運んできた方、これから行きたいと思っている方、興味がある方、そんな方々に「キュビスム展」をもっと楽しんでいただくために、美術から少し世界を広げて、本展に関連した「音楽」をご紹介していこうと思います。

キュビスムが誕生したのは第一次世界大戦の前、芸術の都パリには個性的なアーティストたちが集まっていました。中でも異彩を放っていたのがロシア・バレエ団、通称バレエ・リュス。ロシアからやってきた興行師や振付師たちは、革新的なバレエを創ろうと奔走します。ジャン・コクトー、ピカソ、マティス、ミロ、ファッション・デザイナーのシャネル、ドビュッシー、ラヴェル、ストラヴィンスキー、サティなど、今でいうレジェンド級の芸術家を創作陣に選んだのもバレエ・リュスの功績のひとつでしょう。

1917年に彼らが発表したバレエ『パラード』には、キュビスムがちりばめられています。台本はジャン・コクトー、舞台美術・衣装はピカソ、音楽はサティ、振付兼ダンサーはレオニード・マシーンと個性的な面々による『パラード』は、賛否両論を巻き起こした「問題作」でした。

こちらはバレエのダイジェスト版です。

物語がなく、一幕のみ終わるこのバレエ。舞台は見世物小屋の前。ダンサーたちが客寄せのために芸を披露しているという設定です。中国の奇術師、アメリカ人少女、アクロバットのペアが踊るほか、フランス人・アメリカ人・馬に乗った黒人の3人のマネージャーまでが登場します。コクトーはこのバレエに「現実主義的バレエ」という副題をつけています。バレエといえば、という私たちの知るバレエとはまるっきり違うものでした。

パリの大衆演芸で人気だった中国の奇術師や、当時流行していたアメリカ・ブームを反映したアメリカの少女は、当時のパリをデフォルメしつつ抽象化しています。特にピカソが担当した3人のマネージャーの衣装は、厚紙やキャンバスで作られた3メートルもある巨大なもので、いかにキュビスムを感じさせます。

ピカソ 『パラード』のための衣装


さらにサティが作曲した音楽も聴衆の度肝を抜くものでした。

         サティ『パラード』

サティらしいユーモアたっぷりの音作り、ラグタイムのメロディ、さらに面白いのが「楽器ではない」効果音たち。ピストル音、タイプライターをカタカタと打つ音、サイレン、ギリギリと何かを巻いているのは回転式のくじ引き装置の音です。
まるでキュビスムでの象徴的な技法「コラージュ」のように、サティは「アメリカを連想する音」を曲に貼りつけたのです。
すべてにおいて前衛的すぎたこのバレエは、客を大混乱させスキャンダルに。しかし、同時に当時のアーティストたちを大いに刺激しました。

作曲家プーランクも『パラード』に感化された一人。
彼は『画家の仕事』という歌曲で、キュビスムと興味深いつながりを見せます。7曲セットの歌曲集はそれぞれ、
1, パブロ・ピカソ
2, マルク・シャガール
3, ジョルジュ・ブラック
4, フアン・グリス
5, パウル・クレー
6, ジュアン・ミロ
7, ジャック・ヴィヨン
という曲名がついています。キュビスムからシュルレアリスムにかけて活躍した画家をとり上げており、気鋭の詩人エリュアールの詩をもとに音楽が作られました。

うち2曲を聴いてみましょう。

      プーランク『画家の仕事』より 1,パブロ・ピカソ

       プーランク『画家の仕事』より 3,ジョルジュ・ブラック

歌詞も画家たちの絵が思い浮かんで面白いですが、音楽も「プーランクにとってはピカソやブラックはこんなイメージなのかな」と興味深いです。

キュビスムを感じさせる音楽、楽しんでいただけたでしょうか?
「観る」体験を「聴く」体験にまで広げて、もっとアートを楽しんでいただけますように!

角田知香

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