【短歌】遠き夏|文語の定型短歌を詠む 3
母のおなかに赤ちゃんができたことを幼稚園の時に知る。
母のおなかが少しずつ大きくなっていったことを覚えている。
私が6歳になった夏、母は臨月を迎えた。
庭にヒマワリの花が咲いていた。
干してある白いシーツの向こう側に、
大きなおなかの母のシルエットが
影絵のように映って見えた。
9月。
赤ちゃんを抱っこして授乳する母の姿を間近でみて、
私も赤ちゃんの時は
こんなふうにおかあさんに抱っこされて、
こんなふうにおかあさんの〈おっぱい〉を飲んでいたのか・・・
と不思議な気持ちで眺めていた。
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遠き夏敷布干しゐし臨月の母の姿は影絵となりぬ
ガラス越しに初めて見たる弟にかなしさと読む愛しさを識る
やはらかく小さく赤く弱き者大声あげて母独り占む
2011年2月詠
初出:『橄欖』2011年5月号