第4話「人間が好き。現代の魔法使いの養生学。」
YOJO ZINE第4話 人間が好き。現代の魔法使いの養生学。
臨床家 若林理砂 ×お灸堂 すきから
WHY YOJO? 健康にすごすのが難しい世の中で。
養生(YOJO)とは読んで字のごとく「生(いのち)を養う」ということです。この養生には食事睡眠などの生活習慣の調整だけではなくて「自分の幸せを自分で定義する力」「自分の機嫌をとる」ことなども含まれると思っています。身近であるがゆえに解像度が低く、家族や恋人同士でも全然違う「健康」という概念について「養生人」とすきからが対談し、その知恵を集めることで自分らしい「健康」や「養生」をみつめるきっかけを作りたいという思いでスタートしました。
第4話のゲストは臨床家、若林理砂さん。
今回のゲストは養生界の大先輩、若林理砂先生です。りさ先生は臨床のかたわらに数々の養生本も執筆されているまさに現代の養生人。私も学生の頃から存じ上げている憧れの先輩ですが、とある学会でおみかけしてからのご縁で治療をさせてもったり、Twitterで遊んでもらったりしています。インタビューの内容は「信仰」「カポエラ」「教育」と多岐にわたりました。養生界の巨匠から現代を生き抜くための養生を学びましょう。
【プロフィール】
若林理砂(わかばやしりさ)
1976年生まれ。高校卒業後に鍼灸免許を取得。早稲田大学第二文学部卒(思想宗教系専修)。2004年に東京・目黒にアシル治療室を開院。現在、新規患者の受け付けができないほどの人気治療室となっている。古武術を学び、現在の趣味はカポエイラ。著書に『東洋医学式 女性のカラダとココロの「不調」を治す44の養生訓』(原書房)、『安心のペットボトル温灸』『大人の女におやつはいらない』(夜間飛行)、『その痛みやめまい、お天気のせいです――自分で自律神経を整えて治すカンタン解消法』 (廣済堂出版健康人新書)、など多数。
治療も武術も芸術も。人と学びを愛する、現代の魔法使い
すきから:りさ先生は、臨床家とか治療家という風に名乗ってお仕事をされていると思うんですが、どうして今の道にこられたんですか?
りさ:もともと幼稚園児の頃から、牧野富太郎の薬用植物図鑑とか有用植物図鑑みたいなのを持ち歩いて田んぼのあぜ道で植物観察してるみたいな子どもだったんです。親にも変わってるなぁって言われるような。
すきから:それはまた、子どもの頃からマニアックだったんですね。
りさ:オタクですよね。高校は自由の森学園というところでした。そこで武術に色々触れて、太極拳をやりはじめた時に「気」の話などが出てきた。それで東洋医学、東洋思想の道につながっていくことになります。道教とか、チャイニーズマジックの世界ですからね。ちなみに子どもの頃の夢は魔法使いになることでした。
すきから:魔法使い?!
りさ:良い魔法使いね。人を助けるような仕事がしたいなと思っていました。手先も器用だったので、何かモノを作る側の仕事に就くか、鍼灸の仕事をするか迷いました。ジュエリーデザイナーにも興味があったりして。おばあちゃんに鍼灸師は国家資格だからとったらいい、と言われて今に至ります。
すきから:SNS拝見してると、結構工作とかお子さんのお洋服作られたりしてるイメージありますよね。器用な印象。
りさ:そうそう。自由の森学園では、テキスタイルも学んでいましたね。羊毛から糸を紡いで機織りしたりも、実はできるんですよ。
すきから:すごい。本当になんでもできる。
りさ:まぁでも、テキスタイルで食べていくような才能はないなと感じたのでそれは職業には選ばなかったんですけどね。衣服と人の身体の関係性に興味があって、キャドで服のパターンを書くようなところで2年ほど学んだこともあります。ジャケットくらいなら縫えます。
すきから:学ぶのが好きなんですね。
りさ:知らないことを知ってくっていうのが大好きですねー。「知識は誰にも盗られない」というのはキュリー夫人の伝記の中の言葉だったかと思いますけれど、その言葉に出会ってから、よし!本を読もう、勉強しようって強く思ったのが10歳くらい。治療も武術も教育も芸術もファッションも人の身体から派生することを総合的に扱ってるっていう意味で、私の中ではひと続きなんです。
すきから:まさに、魔法使いとか魔女っておっしゃる意味がわかりました。森の中の知恵者であり、お医者さんであり、芸術家であるみたいな古い時代の本来の魔法使いの現代版ですね。
みんないつかは死んでしまう。寄る辺のなさに寄り添う信仰
すきから:りさ先生は早稲田大学で宗教学を学んでらっしゃったんですよね。
りさ:鍼灸の学校に行ってから、臨床をやりつつ、大学に行って学びました。仏教、キリスト教、神話まで色んな思想宗教が学べるところでした。
すきから:どうして宗教学を?
りさ:臨床の現場で、人って、死ぬじゃないですか。日本人て信じるものを持っていない人が多くて、最後寄る辺がなくなっていく姿をみたりして。よくわからない手かざし治療みたいなものにすがって、かわいそうなことになる人もみてきて。
そんな風になってしまうくらいならば、何千年もの間、人の死に向き合ってきたようなちゃんとした宗教を信じる方が余程いいのではないかと思うようになったんです。仏教でもキリスト教でもイスラム教でも。「この宗教ではこう言ってるよ、神話の世界はこうなってるよ」といえば患者さんも信じるものを選ぶことができるんじゃないかって思いました。どうせみんな死んでしまうんだから、最後に自分の命に向き合う時、何を信じるのかを患者さんが選択できるように、私が学ぼうと思って。
すきから:信じる選択肢を患者さんに提示するために学んだんですか?
りさ:そうです。選択肢を与えるお手伝いができたらいいなと思っています。
すきから:よりよく一生を終えるために、ご本人が信じるものを選択できるって豊かなことですね。
僕、東本願寺さんの近所に住んでいるんですけど、東本願寺さんてお寺の隣に立派な図書館があってよくそこに立ち寄るんです。ある時そこで「もうすぐ亡くなられる方がいらっしゃるんですけどその方に聞かせる法話ってありますか?」と質問しに来られてた方がいらして。すごい質問だな、僕がそんな風に尋ねられても何もできないなって思って。仏教ってすごいなって思いました。
りさ:ね、本当にすごい。宗教って、みんなが考える現世利益みたいなものではないはず。力を抜いて委ねていたら、自ずとなるようになる。そんなものなんだと思います。
ちなみに、うちは実家が日蓮宗で、母は38歳で亡くなったんです。そのあとひいばあちゃんが亡くなって、おじいちゃん、おばあちゃんが死んでも同じお経を聞くわけです。日蓮宗は日蓮聖人のお手紙をお経と一緒に読んだりするんですけどね。
すきから:お手紙ってどんなのですか?
りさ:「三途の川では船となり、針の山では草鞋となり…」みたいなことが書いてあって、最後に、「地獄の扉をノックをした時に、お前は何者だと問われたら”日蓮聖人の弟子である”と答えよ。そしたら俺が必ず迎えに行くから。」って。
すきから:え~なんですかそれ、イケメンすぎる。
りさ:めっちゃイケメン。「何千年後であっても、俺の弟子であれば迎えに行く」これが言えるって、余程のことだろうと思ったんですよ。日蓮聖人って苛烈な人だったらしいし、問題があった人らしいけど、これはすごいなって思ってね。
すきから:ファンになっちゃいますね。
カポエイラは自由だ!動ける身体と自由の精神
すきから:ところで、りさ先生がよくカポエイラ(ブラジルの武術)のお稽古の様子をあげてらっしゃるのが、とても気になってます。
りさ:あ、カポエイラね。3年前に、お世話になってる鍼灸の先生の息子さんにご紹介するために自分で体験にいったカポエイラ教室で体験を受けて、自分がそこに入ってしまってハマったという経緯なんです。元々、中学校で合気道をやってたり、高校で日本中国のいろんな武術に触れていたというのはあったんですが、カポエイラがあまりにも自由でね。
すきから:自由?
りさ:そう。本当に自由なんです、カポエイラって。あ、これは私がやろう!と思ってそこからです。
すきから:自由っていうのは、どういう風に自由なんですか?
りさ:動きが自由というのはひとつあります。それからベースとなっている精神が自由。カポエイラはそもそも奴隷の人たちが始めたもので、心の自由を求めるために作り上げられたアートなんですね。戦うための技として、音楽や舞踊を楽しむ術として。技術、儀礼、文化、全部ごちゃごちゃになっているものなんです。
“実際のカポエイラ。昇段式のご様子”
すきから:へー!面白い成り立ち。
りさ:当時奴隷の人たちが買われて来た時って、家主は、奴隷同士で会話して良からぬことを企てたりしないように、別の部族を混ぜて雇っていたそうです。でもそういう中でも、文化と誇りを忘れず、なんとかコミュニケーションしながら団結して戦ってきた人たちの生み出したものなんです。私がカポエイラをはじめた当初、そういう歴史は知らなかったんですけど「これは自由だ!」と感じた感覚は間違ってなかったんだなと思います。
私自身、カポエイラに出会った頃は、子育てとか、仕事とかいろんなことに本当にもがいていた、しんどかった時期でした。当時、家のことでもなんでも、私一人で全部やってるな…って思って、旦那に「私はなんでも自分でやってきたしもっと働きたい。私を前面に出して働かせてほしい」と言ったんですが、「同じだけ稼げるようになれ」と言われました。
「わかった。」って言ってそれを達成して「いい加減、私の番だから、変わってくれ!私が働く!」って旦那を説得して、彼の仕事を減らしてもらいました。そういう風にできるようになったのは、カポエイラはじめてから。自分が強くなったからだと思います。
すきから:心が強くなったんですか?
りさ:うん、強くなったと思いますね。でもメンタルって目には見えないから、強くするのが難しい。自由になるには、メンタルだけでなくて、身体も強くないといけないんです。
すきから:なるほど。動けるって大事ですよね。
りさ:そう。自由な体には自由な精神がやどる。だから 私はカポエイラやってますね。他にも柔術ってパワーの強さだし、競技で勝つというような種類の強さがある。強さには色んな種類があると思うんですけど、色んな強さの種類を知るのってとても面白いことだなって思います。
やりたいを徹底的に伸ばす、若林家の教育論
すきから:我が家は娘が3人いるんですけれど、りさ先生はお子さんたちとはどのように過ごされてますか?教育方針みたいなものとかあったりしますか?
りさ:基本、ご挨拶と生活習慣。それができたらオッケー。という感じですね。
すきから:いいですね。基本が大事。うちもそうしよう。
りさ:最近夜は講座とかがあって忙しいこともあり、子どもたちと接する時間が減ってしまっているのですが、朝は5分一緒に走るようにしてます。
すきから:ランニングですか?
りさ:そうそう。そこでストレッチしたり、身体を診たりもしてます。
子どもたちと接するに当たっては、勉強はいつでもできるから知識をつけることよりも彼、彼女らの一番向いているところを伸ばすというのが一番大切なことだと思っていますね。
すきから:向いてることってどうやって見つけてますか?
りさ:楽しそうにやっていることですかね。見ていたらわかりますよね、子どもって。誰かに合わせてやってることと、本当に好きなこと。
うちの坊ちゃんは、マインクラフトでプログラミングしたいと言っていて、その時は近所に見つからなかったのですが、小学校3年生の時にプログラミングの教室が近くにできたので、ひとりで自転車で通うようになったんですけど、1年で教えるものがなくなったと言われて。もっとしっかりプログラミングを教えてもらえるとこを探し出して、電車で通うようになりました。
将来は某大手ゲーム会社に就職したい!というので、「それなら理系の大学の大学院に行かないといけないね。英語もできないといけないし、コミュニケーション能力も必要。何からやる??」っていう風に相談して、コミュニケーション能力をまずは伸ばそうということにしたので、『あなたの魅力を演出するちょっとしたヒント 』という鴻上 尚史さんの本を渡しました。『発声と身体のレッスン』というのもあるんですけど、自分をいかにプレゼンして相手にどう印象を与えるかという役者さんのメソッドについて書いた本ですね。
すきから:なるほど演劇のメソッドですか。
りさ:そうそう。私自身もコミュニケーションが苦手だったので、この本を読んで勉強したりしたんです。学習して自分の印象を作っていった部分があります。
すきから:りさ先生っていつもすごく通る良い声でお話されるなって思っていたんですけど、トレーニングの賜物だったんですね。
ちなみに娘さんは何がお好きなんですか?
りさ:お嬢ちゃんの方は絵を描いたり、フィジカルなことが好きですね。ちなみに彼女は、お金持ちになることが夢なんですよ。「お菓子屋さんになってお金持ちなるの」「絵を描いてお金持ちになるの」って言ってて。「よし、きっとあなたの夢はお金持ちになることだから、それじゃあ経産省のホームページにお金を勉強するページがあるのでそれを一緒にやってみよっか」って言ってます。
すきから:本当にとことんまで得意を伸ばすことに付き合うんですね。得意の伸ばし方も考えつくす感じ。
りさ:はい、付き合います。子どもはいつか手元から離すものですから、万全の状態にちゃんと仕上げてから世間の荒波に送り出すのが親の仕事だなと思ってます。自分の子どもだけど1人の人間として扱うのは大前提。その上で、生き残っていけるようにはしてやりたいなと。
みんながゆっくり寝れたなら。養生活動の未来やいかに?
すきから:いや、本当にりさ先生は、超人的な生活を送ってるというか…。お仕事も子育ても、鉄壁な感じというと少し失礼かもですが…
りさ:壊れない程度に、足を踏み外さないように、全力疾走って感じですね。ははは。
すきから:りさ先生でも、気持ちの浮き沈みとか、ダメな状態になることってありますか?
りさ:そりゃありますよー!人間ですから。
すきから:そういう時ってどうしますか?
りさ:寝る、というのがやっぱり一番なのですよね。寝るの大事。明日辛くない。処理落ちするといろんなことが間に合わないですからね。寝てちゃんと食べてたら、大体何とかなる。気持ちの波はあれども、その波が大きくなり過ぎないっていうことが大事なんです。
すきから:寝るだけなんだけど。それがなかなか浸透しない。
りさ:現代は、ガス欠のまんま走ってる人多いですね。セルフケアしていくって意味では、取り返しつかない状態になる前に、手前で気づく力も必要。身体のことを知っているのは大事なことです。
すきから:養生法とか、僕もtwitterで色々ご紹介したりしてるんですけれど、なかなか自分をケアしたり、意識的にセルフコントロールしていくようになるのって、ハードル高いことなのかなとは思っていて。かく言う自分も、30歳超えるまでは結構めちゃくちゃな生活してましたけど。
りさ:やっぱり30歳過ぎてからじゃないですか。20代ってまだ無理がきくし、気血を使い切ってしまう時期でもある。私自身も自分のペースを自分で掴めるようになって落ち着いたのって、最近で。もう忙し過ぎて死ぬかもしれない…!!!って思いながら臨床もして、大学に通ってた頃もあったりしました。
すきから:本当に大事だなと思っています、養生。小学校の授業で教わってもいいくらいだよなと。りさ先生も本当に幅広くいろんな活動をされてると思うのですが、これから先の目標のようなものってありますか?
りさ:臨床を減らしていこうかなと思っていたりはします。最近講座をやったりすることも増えたんですけれど、教育や著作物の方が圧倒的にリーチできる人が多い。自分が引き受けないといけない役割ってあるなと思っていて、手も頭も動かなくなる前に自分がやってきたことをシステムにして次世代に引き渡していかないといけないと思っています。
すきから:なるほど。教育側に回るということですか。
りさ:臨床は自分にとってフィールドワークだし、本当は実践家、臨床家である方が楽しいんですけどね。これまで自分がやってきたことを、「再現性の高い型」としてまとめていくフェーズにきたなと思ってます。
すきから:ペットボトル温灸とかは再現性が高くて、自分でできるケアですよね。
りさ:そうそう。臨床って実学であるべきだと思っているのですが、人に伝えたり教えたりするのって本当に難しいですよね。「りさ先生の活動、難しくてわからない」とか言われてしまうこともあります。
すきから:なるほど、養生人を増やす活動の一環でこのインタビュー企画をはじめて約半年。本当に色んな養生観があるんだなと思いましたし、まだまだやること沢山あるなと感じます。
今回りさ先生にお話伺えて本当によかったです。「今、養生の活動をしてる人といえばこの人!」って感じですから。本当に、ありがとうございました。
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話し手:若林理砂
聞き手:すきから、篠田栞
編集:篠田栞
イラスト:篠田彩音
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お灸とデザインの人。お灸治療院のお灸堂、お灸と養生のブランドSUERUの代表をしています。みのたけにあった養生ってどうすりゃいいの?という課題に向き合う毎日です。