本屋イトマイさんを訪れた(2024/11/13)
木の扉を開けると、コーヒーの香ばしい香り。階段を登ると、右側が書店、左側が喫茶コーナーになっている。初めて訪れたのに、ずっと求めてきた空想の中のお店が現実に出現したかのように感じた。そう思えるお店は至極居心地がよい。
店主さんは、中央のレジ兼厨房なのであろう場所で静かに作業されていた。店内は温かいオレンジ色の光で包まれている。大型書店の蛍光灯に照らされた店内もパリッとしていて好きだけれど、必要最低限の明るさの方が、安心して自分と向き合いながら本を選ぶことができる。
ゆっくりと、一冊一冊に挨拶するように本棚を回る。自分が読みたいと思っていた本、信頼している人が面白いとすすめていた本、気になっていた作家さんの本、そんな作品ばかりが静かに目配せをしてきて、ああ、ここに来てよかった、と心底思った。
その中で、書棚から一歩出っ張るようにディスプレイされている本が目に止まった。
幸田文『木』
ぶわっと、映画PERFECT DAYSを観た時の、柔らかい安堵の気持ちが蘇ってきた。作中で役所広司さん演じる平山が古書店に立ち寄って購入する一冊。ずっと読みたかったのになぜ忘れていたんだろう、でもここでこうやって出会う運命だったんだ。そう思うと、本の神様が人生の答え合わせをしてくれたような気持ちになって涙さえ込み上げてきた。そしてこうやってディスプレイされているということは、おそらく店主さんもPERFECT DAYSを観て、それからこの本を人にすすめたいと思ったのだろうか、と会話をしていないのに勝手に心の繋がりを感じた。地位や金銭を指標に生きず、ただ自分なりの日々を、目に映る世界を全身に感じながら生きたい。
“自分の人生”を生きたい人に向けて選書されたのだろうなと思うコーナーがあり、全てを購入したいくらいだった。勝手ながら、個人経営の本屋さんがずっと続いて欲しいという祈りを込めて欲しい本はすべて手に取った。
本を読むと、自分と同じことを感じて考えて生きて表現している人がいて安心する。現実世界とはどうにも折り合いが悪くて、文字の世界なら居心地よくいられる。そしてその安心感は、本を愛する人と(直接的ではなくても)「この本良いよね」という気持ちで感情のやりとりをすることでも感じられるんだと思った。
今日は本の購入だけだったけれども、また喫茶を頼みに必ずうかがいたいなと思う。
まだ読めていない本が100冊以上積読されているのだけれど、書店でページをめくって、スッと入ってくる一節がある時は必ず手に入れるようにしている。出会った時に買わないと、本は永遠に逃げていってしまう気がして。
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