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紡ぐ

8
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2021年1月の記事一覧

耳慣れないチャイムは絶望の音がした。

耳慣れないチャイムは絶望の音がした。

――キーンコーンカーンコーン。

耳慣れたチャイムは絶望を運んだ。
手の先が冷えていき、音は少し遠くに聞こえる。
誰もいない校舎にひとり。
私はあのときの感覚を、きっと一生忘れない。

宮澤賢治の作品に『よだかの星』というものがある。
数か月前に大学の授業で触れたことで開いた記憶の扉。
このまま閉じ込めておくのは悔しいと思うくらいには強くなったので、
小さないじめの話を、今日はしたい。

どこにで

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幸せになりたいーー。そう願ってはいけないような気がして。

幸せになりたいーー。そう願ってはいけないような気がして。

今どきのインタビューは自宅で行われるようで、そこには生活感溢れる背景が映っていた。
記者が家族に問う。

「一家の夢は何ですか?」

家族は声を揃えて答えた。

「幸せになりたい」

思いやりを語った7分間が消え去ったような答えだった。

例えばどこか改まった場で「夢」を聞かれたら何と答えるだろうか。

マイクを向けられ、皆が回答を待っている。

学生なら「就きたい職業」や「志望校合格」を挙げるだ

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文通ってもっと億劫なものだと思ってた。

文通ってもっと億劫なものだと思ってた。

見覚えのないハガキだった。

青い雪景色が描かれていた。
端に黒い二本線が滲んでいて、しばらく見つめてからそれが消印だと気がつく。

「クリスマスカードだろうか」

和紙のちぎり絵で表されたその雪景色はあまりに繊細で、印刷されていると知っていてもその部分に触れるのは憚られた。
ハガキの端を持って裏を返す。
途端、びっしりと敷き詰められた文字たちが目に飛び込んできた。

私はその筆跡を知っていた。

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