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社会人一年目の読書感想文#1「秘密」東野圭吾
六月に読了した東野圭吾 秘密について感想を。
ネタバレを含みます。
弟の進学資金を得るため、強盗殺人を犯し服役中の兄。
弟のもとには、獄中から月に一度手紙が届く。
弟の進学、恋愛、就職と、幸せをつかもうとするたびに「強盗殺人半の弟」という
運命が立ちはだかる。
この物語の中で、強盗殺人を犯した兄は本当に弟思いの「いい人」として描かれている。
弟の進学資金のため強盗にはいり、弟に食べさせたい一心で天津甘栗を取りに帰り、そこで住人と鉢合わせ、…殺してしまう。
本当に、(罪を犯したという面以外を見ると)心優しい弟思いの兄なのだ。
月に一度出す手紙では、弟の健康を、生活を、進学をいつも心配している。
獄中の自分がいけないかわりに被害者家族のもとに、線香をあげに行ってほしいと。
異常なくらい「良い人」として描かれている。
反省し、罪を償ってまた新しい人生を頑張って歩んでほしい。今度こそ、幸せになってほしいと思わずにはいられないくらい自己犠牲信徒家族愛のある人なのだ。
そんな兄を、弟は疎ましく思い生きていく。
どうして。兄を受け入れてあげればいいのに…と、思う。
思った。
だけれども、兄のその償いたい、罪を忘れずに、という気持ちも
弟のために行った強盗殺人も
弟を心配し、毎月出す手紙も
すべて、自分勝手な罪と正義感なのだ。
その先には、兄のせいで優秀な成績を収めていた高校を退学せざるを得なくなり、好きな人とは兄が殺人犯だということから別れなければならず、就職先では殺人犯の弟だということで左遷される弟や
何の関係もないのに、他人の自分勝手なやさしさで親を殺された被害者家族がいる。
兄がどんなに罪を忘れなくても、償おうとしても、心配したって何をしたって過去に行った罪は消えないのだ。
どんなに本当はいい人だとしても、どんな理由があっても
罪は罪なのだ。
くしゃくしゃにした紙はなにをしたってまっさらだったつるつるの紙には戻れない。
誰も、何も殺人を起こさなかったら来たかもしれないあの未来とは異なる未来を歩まなければならない。
この物語は、ハッピーエンドなどではない。
最終的に、弟は兄と決別する決心をする。
どんなに自分のことを思ってくれていても、その兄のせいで自分の未来はいつも真っ暗だったから。
それでも、最後に兄の前に向かった気持ちは
それがきっと、兄は本当に弟思いで、その思いは弟に届いていたという絆の証拠なのだろう。
この物語の結論を私は「過去は変わらない」
そんな決定的でわかっていても信じたくないような事実と変わらないあの頃のやさしさを表している。