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結局何が「八丁味噌」なのか?


●いきなりクイズ!


 突然ですが、この二つのお味噌、どちらが「八丁味噌」だと思いますか?

八丁味噌vs.名古屋八丁赤だし

A.左(まるや八丁味噌)
 先日の動画で思い切り右側の名古屋八丁赤だしを「八丁味噌」と呼んでしまったが、ここに訂正したい。
 要するに左側が本家本元の八丁味噌であり、右側は「赤だし」なのだが、事態をややこしくしているのは「地理的表示保護制度(通称GI)」という法律の存在である。

●地理的表示保護制度とは

 以前紹介したポーランドのカバノスもそうだったが、EUではバルサミコ酢やシャンパンなどある地域で・特定の製法で生産されているものを知的財産として保護しており、品質的に基準を満たさないものはそうした名前で販売することができない。
 日本でも2015年から導入され、様々な商品が登録されている(私の出身の静岡県では「田子の浦しらす」や「深蒸し菊川茶」などがGI登録産品)。
 しかし、愛知県の「八丁味噌」については、2017年に愛知県味噌溜醤油工業協同組合が提示した製法の「八丁味噌」が先にGI産品として認められたため、江戸時代からの伝統的な製法を守ってきた八丁味噌協同組合(「まるや」「カクキュー」の2社)の作る本家「八丁味噌」が逆に法的には「八丁味噌」と名乗ることができなくなるおそれが出てきた。
 八丁味噌協同組合はこれを不服として国を相手取って裁判を起こしたが、2024年3月に最高裁も上告を棄却し、老舗側の敗訴という形で終結したかに見えた。
 だが今年、2025年に入ってまるやとカクキューも生産者団体として登録され、晴れて八丁味噌協同組合の製造する八丁味噌も法的に問題なく「八丁味噌」と名乗ることができるようになった。
 これでめでたしめでたし……、とは行かない。

●Q.結局どっちが八丁味噌なの?

ここでもう一度同じ質問です。

A.法的にはどちらも八丁味噌を名乗れる?

 まるやとカクキューの2社は戦後、「八丁味噌」に米味噌を混ぜて味をマイルドにした「赤だし」を比較的低価格で売り出した。これが全国的に八丁味噌が広がるきっかけを作りはしたが、本家が認める「八丁味噌」と「赤だし」という名称の使い分けに従う生産者も少なく、やがてたくさんの類似品が作られるようになった。
 だが今回、愛知県味噌溜醤油工業協同組合の「八丁味噌」のGI登録がなくなったわけではないので、今後も前述の老舗2社以外(イチビキ株式会社など)の製造する「八丁味噌」が「八丁味噌」を名乗っても何ら法的な問題はない。

 当然、この「八丁味噌」は八丁味噌の名を冠していても発祥の地である愛知県岡崎市八丁町で作っているわけでもなければ、元のものと比べ熟成期間も短く風味もコクも劣る。愛知県民、特に岡崎市民としてはこれは由々しき事態と言わざるを得ないだろう。

●個人的な結論

 私は愛知県民ではないし、法律的には八丁味噌の類似品も「八丁味噌」に含まれているが、地元民の感情に配慮するならやはり老舗の「まるや」と「カクキュー」の八丁味噌のみを「八丁味噌」と呼んだ方がいいかと思う。

2025年2月3日 補足

 あれから考えたが、結局消費者目線から見ると似たような商品で味が多少違っても値段が安ければ買うだろう、と思う節もある。
 「何が八丁味噌なのか」という問いは各人が自分で答えを出せばいいので、私自身は問題提起することのみに徹して「〜するべきだ」と言うべきではないかもしれない。
 無用な混乱を避けるため、私としてはこれからは八丁味噌に代表される中京地域の味噌文化について話すときはなるべく「(愛知県の)豆味噌」という独自の呼称を用いることにする。

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