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なぜ「仕組み」が必要なのか

人間に絶対はありません。

病気や退職、プライベートな事情など、何らかの理由で急に仕事ができなくなることは、誰にでもありうる話です。そのとき、その人が現場からいなくなった途端に何もまわらなくなるようでは困ってしまいます。

 「Aさんじゃないとできません」
 「Aさんじゃないとわかりません」

普通に聞こえてきそうなセリフですが、これでは会社とは呼べません。ただの個人事業主の集まりです。

事業/業務で問題となるのは、いつの時代も実務において個人の能力に頼りきりとなっていて、何かがあったときに他の誰かが対応できる「仕組み」をつくっていなかったことです。ルール1つ、手順1つ、判断基準1つ足りていないだけで、何をどうしていいのかわからなくなってしまうことです。

これは、あらゆる企業で同じことが言えます。

安定しているときはいいのですが、そうでない瞬間が来たら、あとは慢性的に自転車操業状態が続き、目の前の仕事にあくせくするばかりで、先のことを考える余裕など皆無となることでしょう。そうなってから後悔しても後の祭りです。

開発などで起きるトラブルも基本的には、そうして起こります。

たしかに仕組み化すると言うことは、「枠」が用意され、判断や行動に制限がかけられることにもなります。プライドが高い人は、自由意思がない状況を好ましくないと思うかもしれません。

しかし、先ほども説明しましたように、会社は組織であって、個人事業主の集合体ではありません。個人の自由意思が、組織的仕組みより重宝されてはならないのです。

そもそも個人と言うのは、組織よりもはるかに限界が小さく、できることも限られています。組織は組織であるからこそ、個人では為しえないような成果を出せるようになっているのです。だから個人に頼ってばかりだと、

 ①できること一つひとつが小さい
 ②組織として、仕事に対する再現性を保証できない

という状況に陥ってしまいます。

さきほど書いたように、事業とするからには「再現性」が無くては話になりません。

 ・社員が入れ替わっても、同じ成果が再現できること
 ・同じ社員であっても、時間を置いて同じ成果が再現できること

これを「再現性がある」「再現性が高い」と言います。事業は中長期的に継続されるものです。企業の柱と言っていいでしょう。それがたった一人の社員におんぶにだっこと言うのはそもそも組織としてあり得ない話ですし、そのたった一人も調子が良かったり悪かったりで成果が大きく異なるようでは、お客さまからお支払いしていただくわけにも行きません。

にもかかわらず、個人に丸投げすることを優先するような思想は、将来、組織にとって必ず毒となっていくことでしょう。

達人がいれば企業が安泰なのではなく、
達人の知見を活かし、達人に頼りきらなくていい仕組みを作ることで、
いざ達人が不在となっても困らない、安泰な企業が出来上がるのです。

そもそも「仕組み」とは、いったいどういうことでしょうか。

「仕組み」とは、

 「誰が、いつ、何度やっても、同じ成果が出せるシステム」

のことです(System とは、直訳すると「仕組み」や「制度」のことです)。そう、再現性が確保されたプロセスのことなのです。


せっかく腕のいい社員がいたにもかかわらず、そのスキルやノウハウを継承する相手がいないまま放置をしていては、いずれその技術は、腕のいい社員だけのもので終わります。彼(彼女)がいなくなったら、企業の売上はたちまち落ち込んでしまうかもしれません。お客さまに失望されて信用を大きく損ねてしまうかもしれません。

一方、マクドナルドのように行動や応対を仕組みとして確立し、再現性の高いマニュアルが用意されると、腕のいい社員と同じ対応、同じ品質のハンバーガーやポテトを、学生アルバイト作成することができるようになります。そうすることで、「個人の味」を「店の味」にすることができたわけです。

これこそが「仕組み化」です。このケースで考えたとき、「仕組み」をつくることのメリットは大きく3つあります。

ひとつは、店の料理の味が良くなること。
次に、同じく料理の味が安定すること。
最後に、腕のいい社員の才能をより活用できるようになることです。

どういうことかというと、「仕組み」をつくらないかぎり、腕のいい社員はメニューのハンバーガーやポテトを毎日延々と繰り返し作り続けなければならず、他のことができません。

しかし、他の誰もが同じ味のハンバーガーやポテトを焼けるようになれば、腕のいい社員は新メニューの考案や、若い学生アルバイトや社員などの育成に力を使うことができるようになります。休暇だってとりやすくなりますから、仕事の集中力だって上がるに違いありません。

「仕組み」をつくることによって、仕事は、単調な日々の繰り返しから次のステージヘ進むことが可能となるのです。


さて、ここで質問です。

「できるビジネスマン」と聞いたとき、皆さんはどのようなイメージが頭に浮かんできますでしょうか。

 ものすごい量の仕事を、誰の助けも借りずに、
 ストイックにバリバリとこなすような、
 スーパーパワフルなビジネスマン

なんてのを思い浮かべるかもしれません。

それは、半分あっていますが、半分は不正解です

半分あっているというのは、どんな仕事をするにも、当然のことですが、
最低限の能力は必要だということです。そして、もちろん最低限では困るわけで、高ければ高いほどいいのです。できるビジネスマンというくらいですから、その能力も高い方ではあるのでしょう。

ここまでは当たり前ですね。

しかし、ただ個人能力が高いだけでは「できるビジネスマン」とはいえません。それが、半分不正解ということの意味です。

たとえば、3万円の商材を扱っている販売会社で、毎日コンスタントに10件の契約をとってくる営業マンがいるとします。パーソナルな営業スキルの高さと実績だけ見れば、彼はかなり優秀ということができます。

しかし、自分の営業成績を上げるだけではなく、そのノウハウをマニュアル化するなどの「仕組み」づくりを行って、毎日コンスタントに8件の契約をとれる部下を10人育てている営業マンがいるとしたら、どうでしょう。


自分の能力だけで、毎日30万円を売り上げる営業マンと、自分が営業に出る機会が少なくなっても毎日200万円を売り上げ、作った「仕組み」で他のメンバーにも売上をあげさせる営業マン。

どちらが本当に「できる営業マン」でしょうか。

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言うまでもありませんよね?

 ①高い能力を身につけていること
 ②そして、それを「仕組み」にすることができること

この2点を兼ね備えていることが、「できるビジネスマン」の条件なのです。そしてそういうビジネスマンを増やせる組織が、本当に「強い組織」と言えるのです。

こういう発想や思想は、「自分さえよければいい」「自分だけが評価されればいい」「差別化を図って自分だけが出世すればいい」という考え方の人には絶対に根付きません。そういうことを推奨する企業文化では絶対に醸成しません。そしてそういう企業では、出世だけはできるかもしれませんが、自分が現場に出なくなった瞬間、誰も売上をあげることができなくなって、上司は優秀だったはずなのに成績はどんどん落ち込んでいく、負の連鎖が始まるわけです。

自分を取り巻く周囲とバランスを考えようと言う発想が必要なのです。

 自分(達)だけができてもダメ
 誰かに任せきりで放置するのもダメ
 能力不足を補う姿勢が無いとダメ
 できる奴に仕事を集めると言うのもダメ
 できない奴には仕事を任せないと言うのもダメ

相互にフォローアップしながら、仕事の質や量を平準化させていく意識が無いと絶対にできません。仕組み化できる仕事にとって、凸も凹も不要であり、悪なのです。

ただし、仕組み化でできることは、不足したスキルの底上げでしかありません。本当に優れたスキルというのは、個人の経験やセンスの量と質に依存していることが多く、仕組み化できないことが多いのです。

ですから、仕組み化できる範囲というのは「守・破・離」の「守」の部分までだと思っておいてください。すなわち、基礎と呼べるところまでです。たかが基礎と思うかもしれませんが、優れた仕組み化スキルを持ってさえいれば、その辺では太刀打ちできないレベルのスキルやノウハウが身につくはずです。

基礎的な仕組み、ルール、手順、基準などに従った「守」を極めれば、「守」だけにとどまらず、それらを応用して新しいルールや手順、基準などを作ることができるでしょう。それが「破」であり、一人前の証です。そしてそれすらも極め、自分なりに新しい価値、新しい仕組みを作り出すようになると、「守」をベースとした仕組みからの完全卒業「離」となります。

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たとえば、このようなマニュアルがあったらどうでしょう。

会社の中で作成し慣れている社員がごくわずかしかいなかった場合、その人を頼らないと、何か問題を起こしたときにどんな内容のどんなフォーマットで、お客さまに報告していいか?なんて、若い社員ではさっぱりわからないかもしれませんよね。

どんなにスペックの高い社員でも、わからないことがあれば手は止まり、悩み、時にはプライドが邪魔して誰かに聞くことができなかったりする人もいるかもしれません。あげく、できあがったものをお客さまに提出すれば、盛大なダメ出しをもらって数日、一切の生産活動が止まってしまうかもしれません。

それを「仕組み」によってナビゲートされていれば、努力や学習をしなくても成果をあげることが可能になることだってあるのです。

もちろん、仕組み化できない仕事というものもあります。仕組み化できないものを、無理に仕組み化しようとすると、それも事業や業務の破綻要因となりますので、注意しなければなりません。

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Takashi Suda / かんた
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