「失敗しない人材が欲しい」は間違い
企業は何故、新卒を採用するのでしょうか。
現場の管理職やリーダーはなぜかいつも「即戦力」を期待しています。もっとわかりやすく、噛み砕いていうと、
上司として(先輩として)一切手のかからない、
指示しておけば、完璧に仕上げるような優秀な人材
を欲しています。そんな新人いるわけがないと何度説明をしても、現場の管理職やリーダーは「優秀な」人材を欲し、そうでない新人が配属されると文句を言い出します。
いつも私は言うのです。
「あなたは自分が新人だった頃
そんなに優秀だったのですか?」
そう、自分のことなんて振り返りもせず、自ら育成する気が一切ないだけなのです。だから、手がかからず、勝手に結果を出してくれて、そうやって部署の売上や利益に貢献し、自らを出世させてくれる有能な駒が欲しいのです。少なくとも、今の私の周りにはそういった管理職ばかりが目につきます。そして、そういう人たちと同じレベルの管理職だと思われるのが苦痛でしかたありませんでした。
学生にとって大学から社会に出るのは、小学校から中学校にあがるのと同じで、今まで学んだことの無いことを大量に学びなおさなければならないことが多く、とても普通の新人が即戦力になれるわけがありません。長期インターンを経験したとしても、即戦力というのは難しいのです。
新卒採用の目的
そもそも、採用活動に莫大なコストをかけてまで、企業が新卒にこだわる理由とはなんなのでしょう。
その問いに対する答えは実にシンプルです。
やはりこれからの事業を支える人材・自社を継いでくれる可能性のある人物を従業員として迎え入れ、長い時間をかけて会社の方針や風土になじみ、育てていきたいと考えているからではないでしょうか。つまり、将来の経営・企業の継続的な発展を見据えているからに他なりません。この考え方自体は終身雇用のそれを継承したものかもしれませんが、おそらく日系企業の多くはそのことを前提に、採用活動をしているはずです(現場の採用担当者はそんなこと考えもせずに、なんとなく会社から言われたから採用活動しているだけかもしれませんが)。
企業も短期的な視点で、目先の失敗をとやかく言うほど暇ではありません。
そもそも本当に失敗しない即戦力となる人材が欲しいならば新卒ではなく、優秀な中途の人材採用にフォーカスし、すべてそちらに力を入れるはずです。
しかし、そんな優秀な人材がゴロゴロ転がっていて、必ずしも自分のいる会社を選んでくれるとは限りません。だからこそ、その可能性を持つ新卒を採用し、育むのです。新卒採用は「採用」して終わりではなく「育成」することが絶対的にセットとなっています。この大前提を理解しようとしない管理職層が多すぎるのです。真っ白なキャンパスな分、何色にも染めやすいので、なにかと望む形に「育成」するなら新卒の方が楽なんですけど、そもそも「育成」を面倒と思っている人たちにとっては、それがわからないようです。
失敗は「おいしい」シチュエーション
本来、人間は不完全な生き物です。
言い換えるなら「失敗する生き物」とも言えます。不完全であるからこそ、生きているうちに一度も失敗しないなんてことはなく、必ずどこかで失敗することを運命づけられている生き物と言ってもいいでしょう。
新卒として採用された方々が、もし働く前から失敗してしまうことを恐れているとしたら、
“そんなものに恐れる必要があってたまるか!”
とまず言っておかなくてはなりません。
もちろん、企業によっては、失敗に対してしつこく叱責する先輩や上司もいるかもしれません。恐らくその人たちは、過去に1度も失敗をしたことがないのでしょう。もしそうであれば、悔しいけれども素直に怒られるしかありません。けれども、過去に一度も失敗したことがない人なんてこの世の中には存在しません。彼らは、自分のことを棚に上げているだけなのです。
そして、人間は失敗しないことには成長すらできない生き物でもあります。
勉強1つ取っても、ただ暗記するだけ、ただ教科書を読むだけでは成長しません。過去問で躓き、小テストで間違い、色々試行錯誤した結果、何度も何度も反復し『理解』することで、人は成長するようになっているのです。本番のテストまでに数え切れない失敗を繰り返したものだけが『成長』を勝ち取っているはずです。
「失敗は成功のもと」
とはよく言ったものですが、残念ながら何でも成功のもとになるわけではありません。成功のもととなるように活かしたからこそ、成功のもとになり得ます。失敗をそのまま活かさず腐らせてしまっていては、成功のもとになることは絶対にありません。
新人も最初のうちは、自身の原価(給料)分も稼いでくることはできないかもしれません。それでも企業は新卒の人材を、大きく手を広げて受け止めようとしています。とは言え、企業は利益を追求していく組織(社団法人)ですから、教育をしていく過程でも何かしらのメリットを得られるように計算されていなくてはなりません。
たとえば、新人を教育するのは先輩社員ですが、彼ら指導をおこなう先輩社員や上司側も新人や若手への指導を通じて成長していくことができます。そして先輩や上司のコストパフォーマンスが向上するわけです。
様々な教育機関や現場でよく言われることですが、
「教える側の人間が、最も成長できる」
というわけです。ですから新人の失敗は、指導係である先輩社員の絶好の「上司」としてのロールプレイの場であり、むしろ歓迎されるものと考えても良いくらいなのです。
何事においても、失敗を恐れて消極的になることはやめましょう。それは新人の「成長機会」だけでなく、指導係の先輩社員にとっても「育成する力」「他人に説明する力」を養う絶好のチャンスを逃してしまいかねません。
失敗は、何度でもやり直せるうちにどんどんしておくべきです。私の場合は、失敗を計画的に起こすことすら考えることがあるほどです。やり直しがきかない状況で失敗した場合は、条件によって大きなダメージを被ることになりかねません。そうなる前に、成功や失敗に対する価値を下げておく必要があるのです。
成功も失敗も、長い人生の一過程にすぎません。そんなことに一喜一憂していても何も得るものは無いので、それらから学んで得た経験や知識をこそ尊びましょう。
ダメな失敗パターンを知ろう
当然ですが、「オギャー!」とこの世に生まれ落ちた赤子は本当に何もわからない状態です。成長していく過程で、何度も何度も驚くような失敗を繰り返します。それを親があるいは大人が受け止め、道を示し、徐々に子どもも自分の失敗について認識できるまでになります。
ですから、「俺は失敗したことがない」なんて言う人がいたら、その人はよほどの大嘘つきと言っても過言ではありません。
しかし、先ほども言いましたように、失敗にも
「成長する失敗」と「成長しない失敗」
「成功する失敗」と「成功しない失敗」
があります。つまりは失敗から何かを学び、成功につなげる、あるいは自己成長につなげることができるか否かが重要になってきます。端的に言えば、KPTができているか、できていないか、の差です。KPTとは、
Keep/Problem/Try
の略で振り返りのためのフレームワークですが、成功や失敗から何かを学び、情報として活かし、次につなげる取り組みができる人だけが成長を勝ち取れます。
KPT自体はいつから存在するものか知りませんが、少なくとも私がまだ最前線でマネージャーをやっていた10年以上前には、既に存在し、私自身も実践していました。
とりわけ、定期的な振り返りができていれば、KPTでなければならない理由もありませんが、振り返らずにプロジェクトとして何度も同じ失敗を繰り返すようでは、当然ながら現場のメンバーが成長することはありません。
たとえば、次のようなケースに陥った場合は、成長するのが難しいでしょう。
例1:失敗を隠す、ごまかす
ビジネスでこれをやってしまうと、個人ではなく企業レベルで大幅に信用を落とします。なぜなら、そんなことも理解できないモラルの人間を要職に就けようとしている企業だ、と認識されるからです。「隠す」「ごまかす」を普段から行う人が、どれだけ要注意かという事がわかるでしょうか。
一方、失敗した後の対応次第では、とても印象が良いばかりか成長の一助になりうるケースもあります。
例2:正直・謙虚・客観的な「失敗の報告」
もう少し、ビジネス的に言えば「再発防止」できるかどうか、ということです。人が失敗から学び成長するのは、この『再発防止』に対するPDCAフレームワークをしっかりと回せているからです。
同じシチュエーションで、まったく同じ行動をとれば、同じ結果(失敗)になるのは当然です。再発防止とは、「同じこと」をしない、「同じ結果」にしないと言うことです。選んだ結果が正しいかどうかは、やってみなければわからないケースもありますが、少なくとも、過去に失敗したことと同じことを繰り返す愚行を起こさないことが「再発」の防止につながるのです。
多少条件が違っても、失敗するプロセスはブレることなく失敗に落ち着きます。ですから、しっかりとした再発防止意識を持たないと、人は意識レベルから成長できなくなってしまいます。
仕事上での失敗でもやはり
1に正直、2に謙虚、3に客観的姿勢
はとても重要になります。普段からこのようなマインドを持って仕事をすることが人を成長させ、周囲からの「信頼」につながると私は考えています。
そして信頼があれば、ピンチの際に周囲から「協力」を得られるはずです。そこに好き嫌いは関係ありません。どんなに仲良く、どんなに飲んでて楽しい人間でも、信頼できなければ一緒に仕事をしたいとは思われません。大きな失敗を呼び込まれる可能性が高いと思われている…もっと極端に言えば実力を疑われているわけですから、当然です。
逆に普段は疎遠でも、一緒に仕事をしたいと思われる人はやはりどこか安心感をくれます。失敗しないために努力しようとする人が信頼されないわけがありません。
いろんな失敗は、いろいろとやり直しができるうちに経験しておくと良いでしょう。いざ「やり直し」できない状況に陥った時に、失敗しなければいいだけなのですから。