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「叶」は「葉」なのか問題、あと中国における叶姉妹の表記問題

昨日、ちょっとした中国語の資料を日本語に訳す作業がありまして。最近こう言う作業はもうほとんどChatGPTに任せっきりです。

で、GPTくんに作業をさせると、資料の中の「叶先生」というのを「葉さん」と訳出してきたんですね。

あれ、これっていいんだっけ? と思ったのが今日のマガジンを書くきっかけです。

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中国語を知らない読者の方はなんのこっちゃわからないかと思いますが、「叶先生」というのは人名の部分で、「」というのがいわゆる姓、「先生xiān sheng」はこの場合敬称(男性に使われる)の役割をしています。

だから「先生xiānsheng」が「〜さん」なのはいいのですが、「」が問題です。というのも、日本語では「かなう」としておなじみのこの漢字ですが、これは中国では「葉」という字を簡体字にしたものとして知られています。

じゃあ別にそのまま「葉さん」でいいんじゃないの、とお思いかもしれませんが、簡体字と繁体字(≒日本で使われている漢字)は必ずしも1対1の対応関係になっているとは限りません。「叶」という漢字があるからと言って、それを繁体字にしたものが「葉」になると確定したわけではないのです。

特に字形や意味が大きく異なっているものは注意が必要で、一般的に知られているものとは違う対応関係が存在していたり、簡体字とされているものをそのまま使うのが実は正解だったりと、非常にややこしいのです。

これに関しては、以前にもnoteに書いたことがあります。

この現象は特に人名用漢字に多いのですが、人名という易々と間違えるわけにいかない場合に限ってこのトラップが仕掛けられているので厄介です。

軍人の葉剣英武術家の葉問などすでによく知られた例があるので、基本的には「葉」としておけば間違いはなさそうですが、いまいち確信が持てない。

というわけで、念のために調べてみることにしました。

ウィクショナリーにちょうどこの「叶」の字のページがあったので見てみると、こんな記載がありました。

「葉」は「協」の異体字である。 現在の中国大陸の簡体字では「葉」として借用されているが、「葉」の発音については「簡化字総表」において注釈されている「叶韵」の「叶」の読みはxié(协)のみである。

上掲ページより、翻訳は筆者

ほらやっぱり! 「叶」の字については、「yè」のほかにも「xié」という読み方があり、その元になっているのは「協」の文字だということです。つまり簡体字の「叶」を繁体字に直そうとするときは、必ずしも読みは「yè」にならず、表記も「葉」にならない可能性が出てきました。やっぱりな。怪しいと思ったんだよ。自分の嗅覚を褒めてあげたいです。

ただその後もさらに調べたり、X(Twitter)で教えてもらったりしたのですが、どうやら「叶」が「yè」という読み方である限りそれは基本的に「葉」を指しているのであり、また他の読み方は人名として用いられることはどうやらなさそう、ということがわかりました。

なので結局、「叶先生」の日本語訳は「葉さん」で問題ないという結論に落ち着きました。調べた時間は無駄だったか。でもこうやってマガジンに書けたし、ちょっと知識が増えたからそれでいいのです。

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ちなみに、ここからは本当にどうでもいいことなんですが、先ほどのウィクショナリーのページには、さらに気になることが書いてありました。

日本も「叶」は「協」の異体字(読みは「ぎょう」)に数えられるが、今日では「実現」「適合」の意味として「かなう」などの読みで用いられている。姓に用いられる場合は「かのう」となる

簡体中国語では「叶」を「葉」の簡体字としているため、日本漢字の解読の際には「葉」と「叶」の混乱が見られる。

まさに僕が遭遇したような混乱のことが書いてあるわけですが、つまり中国人から見ても日本の漢字の「叶」という字を「葉」と誤認する可能性が高いということになります。

ということは、日本でおなじみ謎のセレブリティ風姉妹である「叶姉妹」「葉姉妹」と表記されてしまっている例があるんじゃないか? と思ったのです。というわけで、それについても調べてみました。

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