当て逃げ犯よ、聴きたまえ。
私の知らない君へ。
突然の手紙を許してほしい。
君への溢れる想いを発する場がなく、ここに記すことにしたのだ。
本来このnoteアカウントは、私が日々のよしなしごとを綴り、ヨガレッスンに来てくださる皆さま、noteやインスタグラムをフォローしてくださっている方々、家族や友人知人諸氏が金曜日の暇つぶしにそれを読む、という憩いの場なのである。
しかしもう78週も続いているからして、寛容なる読者諸氏は此度の脱線を許してくださるに違いない。
おっと、失敬。
自己紹介をしよう。
ヨガインストラクターである、
名前はまだない。(アカウント名を見てくれ。)
君は私のことなど知らないだろうが、あの日以来私は君のことを考えない日はなかった。
10月某日、出かけようと駐車場へ出向いたところ、私は愛車のバンパーに傷がついてるのを発見した。元来キズや汚れの目立ちにくい色味だが、はっきりとわかるエグれた傷。しゃがんで確認するとヘコみもあり、バンパーが浮いてライトとの間にスキマも出来ている。
君はこのことについての仔細を、私より遥かによく知っているんだろう。
あのときの高鳴る胸の鼓動を、君に聞かせてやれなかったのが非常に残念だ。
そうそう、君の身体は無事かい?
車体へあれだけのダメージを与えておいて「気づきませんでした。」なんて、そいつァ無理な相談だ。
火事場の馬鹿力って言うのかな。
カーデバイスには全く詳しくないけれど、私は即座に君を探そうと搭載機ドライブレコーダー·ドラ見ちゃんのマイクロSDを抜き取り、再生ソフトをダウンロードして、ここ数日の映像を探してみた。
残念なことに、どうやら運転時とその後の僅かな時間しか録画されないモードになっていたようだ。
確認できたのは私の運転時の独り言の多さと、調子のはずれたサカナクション1人歌唱大会だけで戦慄したよ。
いったい何を聞かされてんだってね。
助手席に置いたヨガマット
君も随分焦ったろう。
誰の車かもわからないし、持ち主は現れる気配もない。
それでも警察に届けることも、家族や知人に相談して何かしらの対応をすることもできたが、君はその場を立ち去った。
そう、何もせずに立ち去ったんだ。
車内をのぞき込むと、私のヨガマットが見えたかもしれないね。
頭のよい君は、それが名もなきヨガインストラクターの車であると気づいたんじゃないのかい?
数千年受け継がれてきた心の叡智を授けるヨガを学ぶ者なら、当て逃げなど些末なこと、許してくれるに違いない。
そう判断したのかもしれないが、ヨガインストラクターもピンキリだ。
確かに私がバリ島でヨガを教えてもらった先生は、講習期間中にマッサージ店でぼったくられた上に、お金もいくらか盗まれても怒らなかった。
「そのお金で誰かが幸せになるといいよね。」と話していたのを聞いて、言葉を失ったよ。
あれから5年、まだまだ道半ば。
警察への届け出や修理見積もりなど終え、ひとしきり思いをめぐらせた私は「そいつを見つけて色んなところから色んなモノを突っ込んで、色んなモノ引きずり出してガタガタいわせたい」くらいの激情に、一瞬いや三瞬くらいは駆られてしまった。
これは君と私だけの秘密だ。
私たちは、行為の結果を受け取る。
せっかくの御縁ゆえ、君にすこしヨガの話をしよう。
ヨガの教えともつながるインド哲学にはカルマ論というものがある。
日本人に馴染んだ言葉にすると因果応報とか、自業自得とかね。
こわがらなくていい、簡単なことなんだ。
善い行いはよい結果を生み、悪い行いはわるい結果を生む。
徳をつむこと(プンニャ)で幸せになり、不徳をつむこと(パーパ)で不幸になる。
プンニャとパーパって、なんだか可愛いよね。
まぁでも今回の当て逃げは、贔屓目にみてもパーパに分類されるんじゃないかな。
今じゃないかもしれない、
けれど君はいつか必ず、
今回の行為の結果を受け取る。
そう覚えておいてくれ。
締めくくりには、祈りを添えて。
カルマ・ヨーガの教えもそうだし、私は母から「他人の不幸を願ってはならない。」と教えを受けて育っている。
車はヘコんで修理に5万(私の稼ぎからすれば大金だ!)もかかるうえに、君の不幸を願ってパーパをつむなんて、まっぴらだ。
どうしようかと迷ったけれど、私は君を呪うのではなく祈りを捧げることにした。
顔も知らない君よ、どうか幸せでいて。
故意でもそうでなくても誰かを傷つけて、責任もとらずに逃げ去る行為は、卑怯で姑息なことだと知っておいてほしい。お金や物理的なことだけじゃなく、相手は心理的にも深く傷つくんだ。
誰がやったんだと疑心暗鬼にとらわれ、人を信じる力が弱ってしまう。
それはお金がなくなるよりも、きっとこわいことだよね。
次があるなら、絶対に間違えないでくれ。
そんなことを繰り返す人生は、さぞかし夢見が悪かろう。
君がぐっすり眠れる日が来るよう、心から祈っている。
ああ、そうだ!
これを読んで気が変わったら、私の愛車を君の任意保険で修理してくれてもいい。
領収証や明細は大切に保管しておくからね。
人は何度だって、やり直せるんだ。
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